髑髏天使
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第二十一話 人狼その五
「完全にね。元から身体能力は高かったけれど今はそれどころじゃないわ」
「それだけ違うのか」
「だって今だってあれよ」
その自転車をこぎながらの言葉である。
「私全速力で自転車こいでるのよ」
「全力でか」
「そうよ。それでやっと追いついてるのよ」
しかもやっと、というのである。
「それだけ持久力も凄くなってるし」
「長距離を走ることもか」
「テニスでも上下左右の動きが物凄く速くなってるし」
それもであるというのだ。テニスは瞬発力でありとりわけ脚のフットワークが重要だ。それもかなりあがっているというのである。
「フェシングだって」
「剣捌きがか」
「もう段違いよ。どっちも部の誰よりも上になってるじゃない」
「誰よりもか」
「本当に凄いわよ」
あらためて感嘆の言葉を出す若奈だった。
「部活やこうしたランニングもして筋力トレーニングもして」
「ああ」
「それで家でもやってるのよね」
それについても牧村本人に対して尋ねるのであった。
「素振りとか」
「左右両方の手でな」
そうだというのである。
「それぞれしている。フットワークも入れてだ」
「凄くなる筈よ」
若奈はそれは努力だと認識した。
「そこまでやったらね」
「そんなにか」
「何でそこまでやるのかわからないけれど」
「生きる為だ」
つい髑髏天使としての言葉を出してしまった。
「これは生きる為だ」
「健康の為にしてもよ」
だが若奈はその生きる為ということを健康だと解釈した。ここに彼と彼女の認識の違い、生きている世界の違いが出てしまっていた。もっとも若奈には全く気付かないことであったが。
「こんなのスポーツ選手並よ」
「そこまでか」
「後はアフターケアもしっかりして」
動かした後のことである。
「疲れが溜まったり乳酸には気をつけることね」
「乳酸か」
「そうよ。過度な運動をすると乳酸が溜まりやすいから」
そこまで勉強しているのであった。実は彼女は牧村のトレーナーのような立場になってからそうしたことも勉強しているのである。
「それには気をつけてね」
「つまり痛風にか」
「そう、それよ」
まさにそれだというのである。
「痛風にも注意してね。若くてもなるものだから」
「痛風か」
「まず水分をたっぷりと摂ること」
痛風に関して最初に言ったことはこれであった。
「それでお野菜や大豆をしっかりと食べて」
「そうして乳酸が溜まるのを防ぐのか」
「要するに血を奇麗に保っておくのよ」
それだというのだ。
「そうすれば痛風にはならないから」
「わかった。それではそうする」
「だからね。私だって」
ここでさらに言う若奈であった。
「牧村君に出すドリンク考えているのよ」
「いつもの野菜ジュースに豆乳か」
「そう、それよ」
まさにそれだというのである。
「スポーツドリンクの他にね。そういったのがね」
「いいのか」
「かなりいいのよ。栄養もあるし」
それについても考慮しているのだった。野菜ジュースや豆乳が身体にいいものであることは最早言うまでもないことであった。
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