SAO─戦士達の物語
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SAO編
六話 依頼
第一層攻略から大体、一年半。
その間にもプレイヤーたちはゆっくりと、しかし確実に攻略を進め、現在の最前線は 層まで来ていた。
今の俺のレベルは83。
軽く、仲間内では「馬鹿か」とか、「やりすぎだろ」とかからかわれているが、無視することにしている。
ちなみに、未だにソロだ。
そんな俺だが、その日もその日で主街区で偶然会ったキリトと最前線55層のフィールドへのゲートへと向かっていた。その時だ。
「お願いです!誰か力を貸してください!!仲間の無念を晴らしてください!!」
ゲートの前で、通り抜ける攻略組プレイヤーに何かを頼みこむ一人のプレイヤーを見つけた。
「あれは……」
「なんだ?」
キリトと俺は同時に声を発する。
通り抜ける攻略プレイヤーたちは、無視するか、憐れむような視線を向けて足早に男の前を通り抜ける。だが俺とキリトは、遠目からその姿を見ていた。
「……」
訂正しよう、キリトがどうにもその男から目を離そうとしなかった。
あの男の言ってる「仲間」とはおそらく、ギルドの仲間の事だろう。
その仇、と言う事は……大体予想は付く。
そして俺もキリトも、ギルドという組織にはある事件以来ちょっとした因縁の様なものがある。
まぁ、あの男は哀れだがしかし、彼の叫びを無視している攻略組の面々が薄情と言う訳でもない。
あの男は言っていることから察するに、最前線の攻略組である者たちの高いレベル、つまりは戦闘能力を必要としてあそこまで来たのだろうが、残念ながら俺を含めた攻略組が必死にレベルを上げているのは人助けのためではない。
あくまでも、自分の生き残りの確立を上げるためだ。
したがって、彼らがあの男を助けなければならない理由も存在しない。
それに最前線では、少し参加の間を開けるだけでも他とレベルや経験値の差が開いてしまったりする。
そしてそれらはギルドなどでは、戦闘するべき相手への対応の仕方が変わったり、全体のレベル上げ等に支障をきたすなど、協力したくなくなる理由が満載だ。
故に彼らは実に合理的だ。
個人的な情だけで、全体にデメリットがある事をしてそれを無視できるほど、この世界は甘くは出来ていないのだから。
「……」
「はぁ、まったく……ん?」
いつまでも視線をそらさない従兄弟に軽くため息をついた、その時、俺は地面に跪いてでも頼みこんでいる男に、妙な感覚を覚えた。
どこかで会った、ような……
「……っ!!」
「兄貴?」
俺はダッシュで跪いている男に近寄りその側へと向かう。
近付くほど、疑念は確信に変わった。そして。
「ロレント!」
おれは自分の知り合いに声をかける。
こいつの名は「ロレント」。ギルド[シルバーフラグス]のリーダーで、他のMMOでの俺の知り合いでもある男だ。
こいつのギルドは、結構こんな状況でもゲームをじっくり楽しんでいる感じの雰囲気の中間層ギルドで、モットーは過剰ほど安全マージンを取った楽観プレイ。
少しだったが、この世界でも俺はこいつと付き合いがあった。
こいつが何故ここに?
俺の中にはその疑問が立ったが、そんなことは問うまでも無かったし、むしろ俺の持つこの疑問こそがおかしいのだ。
先程までの俺は、ちゃんとそれを冷静に分析していたじゃないか……。
こちらに気付いたらしいロレントは立ち上がり、呆けたような顔をしてこちらを見ている。
「リョウ……か?」
「ああ、俺だ」
「リョウ、リョオォォォォォ」
俺の名前を叫びながらロレントはその場に崩れ落ちる。
予想した事態が現実になった事を知りショックだったが、俺は勤めて平静を維持した声でロレントに尋ねる。
「何があったんだ?」
話によると、ロレント達は犯罪者≪オレンジ≫ギルドの襲撃に有ったらしい。
38層で狩りをしていたロレント達のもとに、数週間前新しくギルドに入りたいので体験させてほしいと言う女が現れた。メンバーは快く彼女を迎え入れ、数日間共にパーティーを組んで狩りを続けた。
だが、それが間違いだった。
これが終わったら正式にギルメンになるという約束を交わしてその日ロレント達は狩場に出た日。
最初は、些細な違和感だった。
なんとなく、その女に狩場のルートを誘導されている様な気がしたのだ。そしてその違和感が確信に変わった時には、もうすべてが遅かった。
いつの間にか袋小路に誘い込まれたロレント達の周りには、既に女の部下達が展開しており、逃げ場などどこにもなかった。
襲いかかって来る奴らを前に、ロレントは必死に結晶アイテムによる緊急脱出転移をするように叫んだが、転移中のわずかな時間に攻撃を受けると、転移が中断されると言う特性のせいで殆どの物は転移出来ず、結局逃げられたのはロレントだけ。
彼が転移する直前最後に見たのは、凶刃に貫かれる四人の仲間達の背中だったそうだ。
「…………」
「うっ、くぅ……ふぐぅぅ」
話し終わり、跪いて尚も泣き続けるロレントを見ながら、俺はおかしな感覚がするのを自覚した。
怒りの様な、哀しみの様な。
憐れみの様な、恐怖の様な。
そんな感情が、胸の中で複雑に混ざり合い、どれか一つが突出するわけでもなく、しかし逆に消えるわけでもなく。
自分の感情なのに、正確な判断が下せないでいた。
彼らと付き合いがあったのはそこまで長い期間では無い。当然、ロレントのように大仰な感情を持つ事も出来ないのだが、それでもその感情を無視することなど到底できそうになかった。
ただ、妙な冷静も頭の中にはしっかりと残っていて、思考もいつもどうりに働いている。
そして……
「その女の情報を教えろ」
「え?」
その思考の結果として、俺は言葉を紡ぐ。
二度目は聴こえるようにゆっくり、はっきりと。
「その女の情報を教えろ。キャラ名、出会った階層、そいつから聞いた話、使う武器、癖、性格、何でもいい」
「じゃあ……」
間の抜けた顔をするロレントに導き出した結論を告げる。
別に、正義感に目覚めたとかじゃないし、仇討ちとか、そんなことはあまり考えていない。
ただ、彼らと関わり合いになった中で、最も確実にその仕事をこなせるのが自分だったと言うだけだ。
「その依頼、俺が引き受けた」
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