SAO─戦士達の物語
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SAO編
五話 生物式暴走特急
衝撃的な初日から一カ月と少し。
俺とキリト、そして現時点でフロアを攻略しようとしている前線メンバーの多くは、第一層の迷宮区画にいた。
あのゲーム開始から此処までの一カ月で、約二千人が死んだ。
死因は色々だ、主なのとしては、自殺とかモンスターとの戦闘とか。
開始後二日後の始まりの町は、泣く物や叫ぶ者たちでごった返していたし(少々買い物でのぞいた)、全プレイヤーの方針が決まるまでは、さらに数日間を要したそうだ。
そんな混乱を極めた一カ月を生き抜き、なおかつ自分達で命がけ攻略を進めてこの世界から脱出しようとする少数派の者たちが、今ここに募っている。
「さてさて、ボスってのはどんな奴なのかねぇ。」
のんびりとしゃべるのは、赤みがかった髪を、バンダナで逆立てた野武士のような面の男。
ひと月前、俺とキリトの話に出てきた男、クラインである。
こいつは、俺の勘の通りと言うか、友人達ことギルド「風林火山」のメンバーを守りきりながら此処まで生き残っており、一週間前再会した時には、キリトに「本当にリョウ兄の勘は当るよな。」と、呆れられた。無論、喜ばしい事なのだが。
「余裕だなクライン。油断して死ぬようなことだけは避けろよ。」
軽口をたたくクラインに注意を飛ばすはキリトだ。
再会した折、俺はキリトにもう一度クライン達とフィールドに出るよう勧めた。
キリトは渋っていたが、クラインにもまだ慣れきっていないメンバーの指導のために来てほしいと言われ、断り切れずに陥落。
俺も付いて行き、まぁ、こちらもおおむね俺の勘どうり。レクチャーが終わるころには、キリトもギルドのメンバーと、『クラスメイト』位の仲になっていた。(まぁ要は普通に話せるくらいってことだ)
その後、クラインにギルドに入らないかと誘われたが、俺もキリトも断った。
俺達は、ソロで進むのを基本方針にするつもりだった。
原則、ソロで進むにはベータテスターのような連中の持つ圧倒的な情報量の差によるスタートダッシュが必要だが、そこは俺はキリトと行動を共にすることで切り抜けていた。
正直、キリトに寄生≪パラサイト≫する様なこの方法は良心がとがめたのだが、この世界でそんなことも言ってられないと思ったし、キリト自身も「お礼だから気にするな」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。……何のお礼だ?
大体、ベータテストの到達点である第六層まで行くと、その時点でベータテスター達の情報量の差は殆ど意味を成さなくなる。
つまり、その到達するまでにどこまでレベル等で他と差をつけられるかが勝負だ。
ちなみに俺とキリトは、攻略が第7層に到達した時点で分かれて進むつもりだった。(無論しょっちゅう会うだろうし協力もするだろうが。)
さて、そんな俺とキリトはだが、実は血縁と言う事もあってか既に少し特殊な関係性を持っていた。(変な意味じゃない)
簡単に言うと、俺とキリトは義兄弟になっていたのだ。
[義兄弟システム]
ゲーム内の人間関係を示す関係性の一つで、結婚やフレンド登録とは違う、少し特殊な関係性だ。
まぁ、今説明すると長いのでその内説明しよう。
ただ、これを結んだ時から、何故かキリトの俺の呼び方が「リョウ兄」から「兄貴」に変わった事だけ追記しておく。
「別に油断してるわけじゃねぇけどよう。なんつうか、なあ?」
「なあ?って……俺はテレパスじゃないからな。わかんねぇよ。」
「見たこと無い奴と今から戦うからテンションあがって来たんだろ?」
クラインの曖昧な説明に戸惑っていたキリトに俺がクラインの言いたいであろう事を告げる(勘だが)
「そうそう、それだぜリョウ!なんつーか、ワクワクっつーかよう、こう、俺は今高ぶって来てんだよ!!」
「うむ、気持ちは分かるぞクライン」
そう言ってうなずくクラインと俺にキリトは呆れ顔をしている。
「兄貴まで……あのなぁ、遊びじゃないんだから、もっと気を引き締めろよ。」
「まぁ、元々ここはゲームの中なんだ。少しはそういうワクワクがあっても、悪くはないだろう?」
それに恐らく、クラインとてそれだけではないのだろう。恐らく怖いだろうし、不安もあるはずだ。
だが、彼の後ろには自分が守るべきギルドのメンバー達がいる。
リーダーが不安を見せれば、チームメンバーも不安になる。それが分かっているからこそ、多少無理にでもテンションをあげているのだと思う。
俺から見てもキリトから見ても、クラインは良いリーダーだ。
「まぁ、良いけどさ。……そろそろ付くぞ。」
俺もクライン&風林火山メンバーも。キリトの言葉を待っていたように聴こえて来た闘いの音。
即ち、剣戟の音、怒号、地響き、そして悲鳴に、気を引き締める。
通路の奥にある巨大な鉄の門。
そこは各フロアに有る、次の階層へと続く階段を守護するボスの部屋であり、あの中にいるボスを倒さなければ次の階層には進めない。
その門は大きく開かれていた。既に先発隊のメンバーが、ボス(情報によると、大型のイノシシ型モンスター)と、戦闘しているのだ。報告が無いという事は、どうやらまだ倒せていないらしい。
そう、今日は第一層のボス攻略の日なのだ。
先発隊は、大規模ギルドなどで構成され、後発隊はソロや小規模ギルドなどで構成された保険の様な物で、戦闘せずに終わるかもしれない簡単お仕事。と、出発前大規模ギルドの攻略リーダーは言っていたのだが……
「いきなり予定狂ってんじゃんか……」
と、部屋の中を見た俺は嘆く。
大規模ギルドで構成された連中は、いつものモンスター達に挑むのと同じように、盾持ち等を前衛にして、その後ろから、長槍や槌≪メイス≫等で攻めるつもりだったようなのだが……
「ブヒャア!!」
「ひいいいいいい!!」
「うわぁ!」
力強い突進を執拗に繰り返す茶色の巨大なイノシシ(おっこ○ぬし位あるだろうか)に見事に前衛の盾持ちが崩されてしまい、戦線は各自がバラバラに戦う羽目になってしまっていた。
イノシシの頭上に表示されている名称は《The Wild boar》イノシシ……ってまんまだな。
「被害は!?」
後発隊のリーダーが怒鳴って聞くと、結構最悪の答えが返ってきた
「既に二人死んだ!何とかしてくれ!」
泣きそうな顔で叫び返してくる。
「くそっ!」
「ったく、いきなりかよ。」
悔しそうな顔をするキリトの横で俺も悪態をつく。
とんだ簡単お仕事が合ったものだ。
「とにかく、戦線を立て直すぞ!無理はするなよ!」
「おう!」「うっし!」
キリトの声を合図に俺達はイノシシに挑みかかった。
────
「ブヒャヒャア!」
「うおっ!」
「くっ!」
「ぬぐげっ!」
さて、勇んで挑みかかったは良い物の、正面に立てば強烈な突進、かといって横や後ろに付くと、巨大な身体を振り回してまとわりつく奴らを吹き飛ばそうとするイノシシに、俺達も苦戦する。
それでも、ギルド連中の平均レベルが5~7なのに対して、クライン達は6~9、俺達に至っては、キリトは14、俺は15なので、先程までよりはよっぽどましだが。
『決定打が欲しいな……』
そんな事を思っているとまたイノシシが突進。左右に二本ずつ(長く太いのとその下に細く小さいの)付いた牙で、次々に立ちふさがる連中をを吹き飛ばしていく。
そんな様子を見て、俺はふとある事に気がついた。
「やってみるか。」
多少博打だが、決まればでかい。やってみる価値はあるだろうと、俺は動きだす。
先ず、体力をポーションで全快。そして、
「おいコラ豚ぁ!こっち来い!」
イノシシに思い切り呼び掛ける。ただし、殆ど部屋の端から端に呼びかける感じだが。
「ちょ、兄貴!?」
キリトが驚いているが今は無視!
「ブヒ?……ブヒャア!!」
言葉が分かったわけでは無いだろうが、声に反応したイノシシは狙いどうり、真っ直ぐに俺に突っ込んでくる。
その姿はまさしく暴走特急だ。ただし動力は生物式だが。
そして、その勢いが、ある一定の距離を通過した所で少しだけ「緩んだ」。
さっきなんとなく「見えた」のだ。だから気付けた。
そして、正面から突っ込んできたイノシシに向かって、俺は槍の矛先を向けるのではなく、地面に水平に、真横に構える。
緩んだとはいえ、確かに早い。だが、
「慣れたぜ、その速さ」
言うと同時に、突進してきたイノシシの上下の牙の間に槍が挟み込まれ、突進を受け止める。受け止めた余波で体力が一割ほど減ったが、なんとか武器防御出来たようだ。
内心、うまくいってガッツポーズ。
「なぁ!?」
「はぁ!?」
キリトとクラインが素っ頓狂な声をあげてるけど今は無視!
今俺の身体は、左右の牙の間。
鼻の目の前の位置にいるので、突進その物の威力は受けない。そのまま、俺は思いっきり踏ん張ってイノシシの突進を無理矢理押し止める。
「ぬおおおおおおおおおお……!!」
靴が火花をあげてるけど今は無視!!
そして何とか、壁で押しつぶされる前にイノシシの巨体が停止。
それでもなお押してこようとするイノシシを、何とか抑えつける。筋力値上げといてよかったよ。
さて、しかしこのままではジリ貧である。
俺も攻撃できないのだから、どちらかが力尽きるまでこの体制を続けなければならない。そして力尽きるとすれば、十中八九俺だろう。まぁそれは俺一人ならの話なのだが。
「キリトぉ!!」
「……はっ!」
まるで俺が叫ぶタイミングを狙っていたかのように見事なタイミングでキリトが背中から切りかかる。
イノシシが怯んで牙を振り上げるが、ギリギリで俺は槍を抜いているので、槍が持っていかれることも無い。そして憤って振り向こうとするイノシシに、
「ちょいと待ちな!」
そういって今度は俺が「クロス」をぶち込むそれに怯んだイノシシが今度は俺に反応すれば今度は硬直から回復したキリトが、次は俺が、という風に、互いに互いの硬直時間をカバーしながらイノシシのHPを削っていく。
その内に他のプレイヤー達も互いをカバーしながら戦い始め、途中何度か抜け出されながらも、またその方法を繰り返し、(一応学習していたようだったが、やはりイノシシなだけに突進を封じられた事は痛かったのだろう)
そして……
「……とりあえず消えとけ!!」
重両手槍 初級連発刺突技「トライアングル」
三角形を描くように繰り出される俺の突きが決まった瞬間、巨大イノシシはその身を大きく硬直させ、絶叫と共に巨大なプログラムの破片となって、その身を散らした。
「おおおおおおお!!!」
「やった!やったぞ!!」
「イャッホオオオオ!!」
そんな歓声がボス部屋を包み、戦闘は終わった。
「ふぅ……」
「超疲れたな。」
槍と剣を杖に座り込みそうな状態で立っている俺達に、近くにいたクラインが話しかけて来る。
「だなぁ、にしてもお前らは特にだろ?特にリョウなんかよ。初めは何する気かと思ったぜ?」
「それはそうだよな、いきなりあんなことするとは思わなかったぞ?兄貴。」
軽くジト目で睨んで来るキリトとクラインに俺は苦笑を返す。
「すまんすまん。伝えてる暇なんか無かったからなぁ。」
「まぁ、あの方法のおかげで被害が少なくなったのも事実だしな。今回は不問にするけど、次はやめてくれよ?」
厳しく注意してくる我が義弟に笑いながら返事。
「はいはい」
「ほんとに分かってんのかよ?」
多少怪しむような目で見られたが、まぁ信用してくれたようだ。それ以上は何も言われなかった。
「さて、んじゃあ二階層ってのがどんな所なのか見つつ今夜の宿を取るかね?」
「だな、流石に今日は疲れたぜ―」
伸びをするクラインを見つつキリトに。
「では、主街区の案内は頼むぞ?義弟≪おとうと≫よ。」
「え、ちょと、」
「そうだな、おいキリト、お前は情報多いんだから俺達に安い店、教えてくれよ?」
「厚かましすぎだろ!?……まぁ、わかったよ。その代わりなんか奢れよ?」
要求してくるキリト、何故俺の方を向く?
「……フランクッポイ(フランクフルトっぽい屋台の食べ物)でいいか?」
「「「「「「「OK」」」」」」」
キリトとクライン、そして何故か風林火山のメンバー全員が返事を返してきた
「おい!?ちょっとまて!!何でお前らまで俺が奢らにゃいかんのだ!こら!無視して進むんじゃない!」
最後には緊張感のかけらもない会話になったが何にせよ、
こうして、アインクラッド第一層は突破され、プレイヤー側の反撃とも言える攻略が、ゆっくりとした速度で始まったのだった。
First story 《始まってしまった世界》 完
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