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髑髏天使

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第十三話 衝突その五


「中南米の魔神クマゾッツじゃな」
「前に話していたな、俺に」
「蝙蝠の姿をした魔神じゃ」
 こう彼にまた告げた。
「その魔神はわかった」
「残るは八柱か」
「それについては今調べているところじゃ」
 と述べてから机の端にある今度はとりあえず普通の紙の書を手に取った。紙は紙であるがそれでも随分古いものではある。
「今な。とりあえず日本と東アジア、北米に中南米にはいた」
「他の地域にもいるか」
「これがアラビアの書じゃが」
 見ればかなり個性的な字のアラビア語がそこにあった。
「しかし。これは」
「その書に何かあるのか」
「字がのう」
 困った顔になる博士であった。
「あまりにも個性的で。それを解読するだけでも大変じゃ」
「そこまで下手なのか」
「それを言ったらおしまいじゃよ」
 こう言うがまさにその通りだった。字には個人の個性がある。中にはとても読めたものではない、本人が後から読んでもわからない文字もある。
「それはな。じゃが」
「それでもわからないか」
「わかりにくい」
 実に率直に牧村に述べた。
「この文字は」
「書の解読には時間がかかるか」
「普段より遥かに進むのは遅い」 
 やはり困った顔になっている。
「普段はただ何が書かれているのかそれを解読するだけでよいのじゃが」
「今回は文字を解読してからか」
「そうなのじゃよ。しかし本当に」
 挙句には腕を組んで首を捻りだした。
「ここまで汚い字はわしもはじめて見るのう」
「博士でもか」
「うむ。こんなのは百年生きてもはじめてじゃ」
 博士の実際の年齢もかなり不明ではあるがそれでもだった。
「アラビア語なのかも怪しく思えてきたのう」
「その中でわかったことはあるか」
「まだない」
 これが返事だった。
「本当にここまで汚い字じゃとのう。わかったものではない」
「では暫くしてから頼む」
 彼はこう博士に言った。
「書を解読し終えてから教えてくれ」
「わかった。それではその話は後でな」
「頼む。しかしこのコーヒーは」
「美味いじゃろ」
「ブルーマウンテンか」
 そのコーヒーの豆が何であるか彼は舌で見抜いた。
「そうだな。これは」
「私が淹れてみました」
 ここでろく子が首を伸ばしてきて彼の前に顔を出してきた。その知的な顔を明るくさせて彼に問うてきた。
「如何でしょうか」
「そうか。貴様が淹れたのか」
「美味しいですよね」
「美味い」
 その淹れた本人に対してはっきりと述べた。
「豆がいいだけではない。淹れ方もな」
「有り難うございます。私最近コーヒーに凝ってるんですよ」
「それでブルーマウンテンを淹れたのか」
「その通りです。他にも豆揃えてみました」
「本当に凝ってるのだな」
 牧村は他の豆の話も聞いて述べた。
「本気か」
「紅茶も凝ってるんですよ」
 ろく子は牧村に褒められたせいか機嫌をよくさせてさらに聞かれてはいないことも話しだした。
「実は」
「なおいいな。コーヒーにはコーヒーの、紅茶には紅茶の味わいがある」
「そして深さも」
「そうだ。どちらも深い」
 牧村はそのことがよくわかっていた。 
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