髑髏天使
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第十三話 衝突その四
「ここにな」
「それは紙ではないな」
「パピルスじゃよ」
「エジプトのあれか」
「そうじゃ。エジプトの知人から送ってもらったものじゃ」
博士は言う。
「これはな」
「エジプトに知人がいるのか」
「何人かな。他の国にも色々とおるがのう」
「顔が広いのだな」
「生きていればそれだけ顔が広くなる」
牧村に素っ気無く話す。
「それだけな」
「それでそのパピルスにあの死神のことが書かれているのか」
「その通りじゃ。やはり身体を分けてそのうえで相手の命を刈る」
あの死神の行動そのままであった。
「はっきりと書いておる」
見ればその文字は神聖文字である。この当時のエジプトの神官達が書き残したものであるらしい。博士は今その文字を読んでいるのだった。
「ここにな」
「それは書いてあったのか」
「じゃが宙を舞うだの氷を使うだのは書いてはおらぬ」
やはりそれはないというのだった。
「そういったことはな」
「文献に書かれていることが全てではないか」
「知られていないことはそれこそ山より高く海より深くあるぞ」
博士は言う。
「人間が知っているこの世のことなぞそれこそあれじゃ」
「大海の中の小匙一杯か」
牧村も今の言葉の続きはわかった。コーヒーをそのまま壁に背をもたれかけさせた姿勢のまま飲みながらその言葉を続けたのだった。
「そうだったな」
「今は精々それが二杯になった程度じゃ」
博士はこれでも増えたのだとは言っていた。
「その折角知ったことも失われたり忘れられたりする」
「だからあの死神のことも碌に知られてはいないのか」
「そういうことじゃ。じゃが一つだけはっきりしていることがある」
「それは何だ?」
「あれが死神であるということじゃ」
牧村の目を見て言ってきた。
「それははっきりとしておるぞ」
「死神が死神であることはか」
「それは確かじゃ」
また言った。
「死神であることはな」
「命を刈る存在」
牧村もまた死神について言及した。
「だからこそ魔物を刈る」
「そういうことじゃ。髑髏天使としての君が前に現われる魔物と闘うのと同じじゃ」
「それとか」
「そうじゃ。しかしそれで刃を交えることになるとはな」
「本意ではない」
そのことは言う。
「しかし。俺は退くつもりもない」
「あくまで魔物を倒すのを選ぶか」
「今回は向こうが退いたがな」
少なくともそういう形にはなった。彼にとっても幸運なことに。
「だが。また退かなければ」
「やり合うのじゃな」
「それだけだ。だが」
「だが?」
「死神は活動を活発化させた魔物を倒す為に出て来たな」
話が魔物が現われた理由にも及んだ。
「そうだったな」
「そうじゃ。そして今この世にいる」
「俺とはまた違う理由でだな」
牧村は言った。
「闘うか」
「死神とは基本的に闘わなくともよい」
このことは博士はむしろ牧村よりよくわかっていた。
「むしろわしが思うはじゃ」
「何だ?」
「今魔神も出て来ておる」
彼が気にかけているのは彼等についてであった。
「今は三柱じゃ」
「残るは九柱か」
「少なくとも一人は誰かわかった」
博士は言う。
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