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髑髏天使

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第五十九話 精神その五


 無論他の魔神達もだ。彼等も言うのだった。
「心が溶ける、いや」
「何かに飲み込まれていく」
「これは。混沌か」
「心が混沌の中に飲み込まれていっているわね」
「その原初の中に」
「今こうして」
「混沌の中に摂理のある者が浸ればだ」
 どうなるか。神の今の話はそうしたものだった。
「そうなればどうなるか」
「それにより壊れるな」
 ヤクシャは神の言葉の続きを言ってみせた。
「そうなるな」
「狂気に陥るのだ」
 秩序から見ればそうなるとだ。神は彼等に話した。
「完全に破壊され。何もかもができなくなる」
「廃人だね」
 クマゾッツはその破壊されたものをこれだと言ってみせた。
「そうなるんだね」
「魔神といえどそうなる」
 その廃人と呼ばれるものになるというのだ。
「そうなるのだ」
「そして身体はあるがだ」
「心がなくなるかな」
「同じになるのだ。死ぬのだ」
 身体的な死でなくだ。精神的な死だというのだ。
「そうなるのだ」
「混沌。これがか」
 髑髏天使の精神はだ。既にだ。 
 得体の知れないものの中に浸っていた。そこは水だった。
 しかし普通の水ではない。何かが違う。
 触れるだけでおぞましさ、生理的な嫌悪を感じだ。冷たくもあり熱くもある。
 しかも水だけでなかった。他にもあった。
 火もある。風も土も。あらゆる元素、混沌の中のそれが彼の精神を覆いだ。そのうえで無限の渦の中に引き込みだ。心を侵してきていた。
 その中でだ。彼は言うのだった。
「この中に暫くいれば」
「普通は瞬く間にだ」
 心の中にもだ。神の声がしてきた。
「壊れてしまうのだ」
「そうなるか」
「そうだ。我の声を聞いてもだ」
 それだけでもというのである。神はだ。
「通常の者なら狂気に陥るのだがな」
「生憎そこまで弱くはない」
 こう返す髑髏天使だった。
「俺はな」
「そうなのか。だが、だ」
「このまま耐えられるか、か」
「最後までな。そしてだ」
「そしてか」
「我をどうして攻める」
 神は自分に対してどうするかも問うのだった。
「この我をだ」
「貴様をか」
「我に実体はない」
 神が言うのはこのことだった。
「その我をどう攻めるか」
「どうして攻めるかか」
「そうだ。実体のない我をだ」
 どう攻めるのか。神はさらに問うた。
「できるのか、それは」
「できると言えばどうする」
 髑髏天使はそのだ。混沌に覆われていく心の中で神に告げた。
 今彼の精神はその混沌の侵略を受けている。それでもだった。 
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