フリージングとイレギュラー
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狼は飼い馴らすことが出来ない
~真紅狼side~
うぃ、おはようさん。
隣ではスースーと寝息を立てながらアーネットが寝ている。
マジで可愛いんだって。
起こさないようにベッドから抜け出し、朝食の準備をした。
窓を開けると、小鳥が縁のところに居るので、パン屑を多少置いておきながら朝食を作る。
10分後・・・・
「おはよう~」
「おう。おはよう、アーネット」
「………な、なんで、真紅狼がいるのよ!?」
「ここ、俺の家ってのを忘れたか?」
「………あ」
「忘れてたんかい。朝食が出来てるが、食うか? それとも食堂で食うか?」
「………ここで食べる」
「はいよ。飲み物は?」
「紅茶」
「はい。他に必要なものはあるか?」
「大丈夫~」
アーネットは朝食を食べ始めたので、俺も飲み物を入れて食べることにした。
黙って食べているアーネットに味の方を聞いてみた。
「口に合うか?」
「………うん。食堂とは違った味がする………。なんというか、素朴なんだけど自然と食が進むってカンジがする」
「口に合ってくれて、なによりだ」
「真紅狼の手作りだよね?」
「まぁな。これでも料理出来るんだぜ?」
「食べてるから分かる♪」
そんな新婚夫婦みたいな会話をしていると、時間が迫っていた。
「む、そろそろ時間が迫ってるぞ、アーネット」
「あら、ホントね。色々と準備しないと………」
アーネットはベッドの部屋に戻り、着替えなど準備しているうちに、俺は使った食器を洗ったり、戸締りなどをしていく。
その後、アーネットが制服に着替えて出てきた。
「お待たせ~」
「なら、俺も着替えてくるか」
「私、先に行くわ。遅刻はマズイからね」
「ああ。いってらっしゃい」
アーネットは誰にも気づかれずに自然に通路を歩いていった。
俺も着替えることにした。
訓練教官になった為、戦闘用の服に着替えておく。
戦闘用の服だが、着こなせれば普通に街で歩けるような姿なので意外と便利である。
上を脱ぐと、背中には三本の筋が入った傷があった。
アーネットにはあまり見せたくないモノだ、心配かけたくないしな。
上も戦闘用の服に着替えた後、何時も着ている黒のコートを羽織り、右腰にはホルスターを付け“真紅の執行者”を収めて、戸締りした後、学園に向かった。
校長に『二限目から来てください』と言われたのでのんびりと向かう事にした。そして学園に着き、職員室に向かうまでの間、生徒、教師達に尊敬と恐怖の眼差しを受けたんだが、何故だ?
~真紅狼side out~
~マーガレットside~
蒼騎先生が一人で対応した“第10次ノヴァクラッシュ”の記録映像がようやく届いた。
全ゼネティックスが今回の詳細を知りたい為に、シュバリエに情報開示を求め、ようやく全ゼネティックスに一本ずつ記録映像を送られてきたのであった。
学園の皆さんに見てもらうために、最初の一限目をお借りさせていただいた。
「皆さん、おはようございます。マーガレットです。今日は皆さんが知りたがっている“第10次ノヴァクラッシュ”の記録映像をお見せします。ただ、外部の者に漏洩させた場合、厳しい処分がありますので気を付けてください。………では、映像を流します」
そこから流れた映像は、想像を絶するものだった。
蒼騎先生、これがあなたの言っていた“鬼”なんですね………。
こんなの、確かに人じゃ出来ないですよ。
~マーガレットside out~
~アーネットside~
席に着いた私は、朝のHRで校長先生のアナウンスが流れて驚いたが、さらに驚いたのは真紅狼が一人で対処した“第10次ノヴァクラッシュ”の映像を見れることだった。
「………アーネット。貴女は真紅狼さんからどんな内容だったか、聞きましたか?」
「いや~、真紅狼はそんなこと一言も喋らなかったよ」
その後、流された映像は目を疑う光景だった。
真紅狼が空中に浮かび、その後、弾丸のようにノヴァに突撃し、コアを貫通した後、地面から炎が噴き上がっていた。
そして、ノヴァが倒れ業火で燃やし尽くされている最中、ゆらりと紅い髪の男が立ち上がり、何もなかったように歩きだしている映像だった。
「これが………あの真紅狼?」
「すでに“人間”という枠を真紅狼さんは超えてます」
皆は一言も喋れなくなっていた。
当り前だ、先輩達が多大な犠牲を出してノヴァを倒しているのに、真紅狼はたった一人で一瞬でタイプSを屠っている。
しかも、大きな怪我を受けることなく、無傷の状態で。
映像の再生が終わった後、沈黙がクラスを支配していた。
その時、映像をみてどう思ったのか知らないが、一人の男子が呟いた。
「………化物みたいな強さじゃないか」
「………いや、本当に化物なのかもしれないぞ?」
「………でも、化物ならなんでノヴァを倒したの?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その疑問に皆黙る。
………真紅狼、これが貴方の言っていた喋っていない真実なの?
~アーネットside out~
~???side~
全ゼネティックスの流されている映像を見て私は、驚愕した。
彼が、シュバリエに来た時は目に掛けず、そのまま出て行ったが、この映像を見て改めて彼の脅威さが分かる。
これは、世界を動かすには十分な力の持ち主だ。
確か、彼は今ウェストゼネティックスで所属していたな………
「………どうにか彼の遺伝子を貰えないだろうか」
彼のクローンを大量生産出来れば、これからの少年少女たちを戦場に送らなくて済む。
それに今、極秘で進めている彼女(・・)のプロジェクトと並行して進めてもらえればいい。
見通しが作れれば、それだけでも活路が開ける。
だが、問題が一つだけある………。
それは、彼自身が遺伝子の提供だった。
「………彼はそう言う事に関しては嫌悪していた。まず、協力なんかしてもらえないだろうな」
そう思っていた時、シュバリエのパンドラ達が数名ウェストゼネティックスに旅立っていくのを耳にした。
「………何をしている?」
「スペンサー次官。先日、蒼騎に銃をつけられた政治家が先程の映像を見た後、シュバリエを勝手に動かして討伐命令を出したみたいです。表向きは“討伐命令”ですが、本当は報復でしょう」
そう話す私の部下。
私はチャンスだと思い、誰にも気づかれぬのようにパンドラ達に通信を開始した。
「………聞こえるかね? 私はスペンサー次官だ」
『はい。聞こえてます。なんの御用でしょうか?』
「これからキミたちが討伐する蒼騎の血液を秘かに採取してきて欲しい」
『血液ですか?』
「そうだ。将来の為に必要なのだよ」
『分かりました。採取して持ち帰ります』
「………頼んだよ」
『はい。失礼します』
ピッ!!
未来の人類の為にも私は立ち止まれない!
~スペンサーside out~
~真紅狼side~
俺が学園内を歩いている間、注がれている視線がようやく理解できた。
あの映像が流れたのか………
前からキムが来て、エリズが居る部屋に連れてかれた。
「蒼騎!」
「なんだ、キム?」
「今、お前が戦った映像を見たんだがアレは事実なのか!?」
「大いに事実だ。なんだ、俺が怖くなったか?」
「いや、前もってお前の正体を知っていたから、怖くは無いが………不味いことになったぞ」
キムとエリズは顔を見合わせて、俺の方に向く。
一体何が不味いんだよ?
「言ってる意味がよく分からねぇな」
「あのね、真紅狼。今まで私達はたくさんの犠牲を出しながらもノヴァを倒してきたの。だけど、今回貴方という存在が出て来てしまったせいで、大きな衝撃を全てのゼネティックスやシュバリエに与えたわ」
「ふーん? で?」
「『ふーん』って、蒼騎。これは非常事態なんだぞ? いいか? これを見たシュバリエの連中はこう思うだろう。『彼を上手く自分たちの手でコントロール出来れば、人類は救われる』とそう思うだろう。もっと最悪な考えでは『彼の遺伝子を手に入れてクローンを大量生産すればいい』ってな」
ほぅ?
俺のクローンねぇ。
乖離剣 エアの使用が早まるんじゃないかな、これは。
ノヴァよりも被害がデカくなるけどいいのかねぇ?
「つまり、シュバリエは俺を飼い馴らしたいのか?」
「そういうことになるわね」
「………くく」
「どうした、蒼騎?」
「………く、はははははははは!!」
二人は俺がいきなり嗤っていることに驚いている。
「なんで笑っているんだ?」
「いや、俺を飼い馴らすことが出来るという幻想を抱いているなんて、シュバリエも頭がおめでたい奴らなんだなと思ったら、ついおかしくてな………くくっ!」
「世界中が貴方の敵になると言ってるのと同義よ? これは………」
「狼を飼い馴らすことなんか出来ねぇよ」
逆に喰らってやるよ。
俺を飼い馴らすってことがどれだけ愚かで傲慢なのかをな………
そんな時だった。
校庭の方からヘリが一機降りてきた。
「………どうやら、シュバリエの行動は早いらしいな」
「「えっ!?」」
「俺を確保しに来たか、討伐しに来たかのどっちかだが、まぁ前者だろう。この場合」
二人は窓を開けて、校庭の方を見てみるとヘリから次々とシュバリエのパンドラ達が出て来ているのが見える。
総計10人か。
よくもまぁ、ぞろぞろと来たもんだ。
『蒼騎 真紅狼! 出て来い!! 私達はシュバリエのパンドラだ!! 貴様を拘束する!!』
いやはや、あちらから誘ってくれるなんてここは応えないと彼女達に失礼だな。
「俺は“ダンス”の申し込みが来たのでそのお誘いを受けてくるよ」
「蒼騎、お前、まさか………?」
「彼女達が態々舞台を作ってくれたんだ、誘いに応じるのが紳士と言うモノだろう?」
俺は立ち上がり右手には『七ツ夜』を持ち出し、部屋を出て行き校庭に向かった。
「貴様が蒼騎 真紅狼だな?」
「ああ。俺が蒼騎 真紅狼だ」
「貴様を拘束する」
「やってみろ」
そこから、お互いに得物を持ち………………ぶつかり合った。
~真紅狼side out~
さぁ――――――――――――――――殺し合おう。
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