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髑髏天使

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第五十一話 解放その十七


「本当にあれね」
「無愛想か」
「接客は絶対に無理ね」
「それはか」
「若奈さんもご両親もわかってるわ」
 未久はしみじみとした顔で兄に話した。
「お兄ちゃんを接客にはしないっていうのはね」
「またその話か」
「うん。お菓子を作ったりコーヒーを淹れたり」
 そうしたことはというのだ。
「お皿を洗ったりはいいけれど」
「接客はか」
「絶対に無理よ。その無愛想さじゃ」
「愛想よくするのは苦手だ」
「得意になるつもりはないでしょ」
「ない」
 実際にその通りだった。最初から努力するつもりもなかった。
「別にだ」
「まあカウンターでは後ろにいてね」
「あの店に入るのは最初から決まっているのか」
「お兄ちゃんはもう就職先も決まってるのよ」
 また話す彼女だった。
「言っておくけれど」
「そのマジックにだな」
「だから。事故とか病気にだけは気をつけてね」
 兄にだ。ここでは真剣な顔で話した。
「長生きしてね」
「長生きか」
「そうよ。何かあったら許さないからね」
「そうだな。それはな」
「わかってるわよね」
「当然だ。わかっている」
 そしてだ。彼は言った。強い言葉になって。
「俺は死なない」
「死なないの」
「絶対にだ」
 こう言うのだった。その強い言葉でだ。
「何があってもな」
「そうしてよ。本当にね」
「そうさせてもらう」
 そうしたやり取りの後でだ。台所に向かう。ここで未久はまた言ってきた。
「ああ、台所にね」
「何かあるのか」
「アイスキャンデーは全部食べたけれど」
 相変わらずそれが好きな妹である。
「それでもね。アイスクリームはあるから」
「それはか」
「置いといてあげたから」
「随分とぞんざいな口調だな」
「だって。私アイス好きだから」
 それが理由というのだ。
「アイスクリームもね」
「それは理由か」
「食べようと思ったけれど食べなかったのよ」
「しかしアイスキャンデーは全部食べたな」
「それはね」
 否定せずにだ。胸を張っての言葉だった。
「けれどアイスクリームはね」
「置いているのか」
「そう、それ食べて」
「それはいいのだな」
「だから。アイスキャンデーは別だけれど」
 それにはかなりのこだわりと執着を見せている。
「けれどアイスクリームはね」
「アイスキャンデー程好きではないんだな」
「アイスクリームは大好きよ」
 それは言う未久だった。
「けれどアイスキャンデーはね」
「そちらはどうなのだ」
「超好きよ」
 そうだというのであった。
「もうね。あれがないとよ」
「生きていけないか」
「そう。私はまずアイスキャンデー」
 とにかくそれだという口調である。
「それがあってこそよ」
「本当に好きなんだな」
「だから超好きなの」
 この主張は変えない。変えることはなかった。
「だから悪いわね」
「わかった。それではな」
「ええ、アイスどうぞ」
 こうしてだった。牧村はそのアイスを食べるのだった。これからの死闘のことは今は忘れてだ。そのうえで今はアイスを食べていた。


第五十一話   完


                  2011・1・13 
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