スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第四十話 オルファンの真実
第四十話 オルファンの真実
バイタル=ネット作戦中止を伝えられた地上のロンド=ベルは動きを決めかねていた。彼等は次にどうするべきか、確固たる方法を見つけ出せないでいた。
「ミケーネの奴等をぶっ潰しちまうか?」
まずは甲児が言った。
「今のうちによ」
「できれば俺もそうしたいがな」
それに対して鉄也が言葉を返した。
「今奴等は動きを見せない。何処に潜んでいるのすらわからない」
「そこを見つけ出してだな」
「甲児君の言いたいことはわかる」
大介も口を開いた。
「今のうちに敵は叩けるだけ叩きたい」
「それなら」
「だが彼等についてまだ詳しいことはわかってはいない。今彼等に対して迂闊に動くのは危険だ」
「そうか」
「ガイゾックは」
今度は豹馬が言った。
「あいつ等だっているぜ」
「彼等も今姿を見せてはいない」
彼には万丈が応えた。
「そして彼等の調査は兵左衛門さんが進めてくれている。動くのはあの人からの報告があってからでいい」
「ちぇっ、ガイゾックも駄目かよ」
「バームも今は大人しいしな」
健一も口を開いた。
「ティターンズやドレイク軍もこれといって活発化はしていない。それに遠い」
「そうだな」
彼等は今太平洋にいる。それに対してティターンズ達は欧州にいる。距離があったのだ。
「それを考えると今は彼等に向かうのも愚だ」
「じゃどうしろってんだよ」
健一と万丈の落ち着いた会話に豹馬が切れた。
「このまま指くわえて待っていても何にもなりゃしねえぜ」
「いや、それは間違いだ」
だがそこでドモンが立った。
「ドモン、何か考えがあるのか?」
「俺が一人で行く。そしてティターンズも何もかも叩き潰してやる」
「おいおい、そりゃ無理だろ」
「流派東方不敗は王者の風!」
彼は叫んだ。
「敗北は決して有り得ない!」
「もう、またそんなこと言って」
レインがそれを聞いて呆れた声を出した。
「一人で行動するのは駄目よ。そんなことしたら絶交よ」
「レイン」
「今はこっちにいてね。大変なのだから」
「・・・・・・わかった」
「だが我々がこうしている間にも敵が陰で動いているのは事実」
ゼンガーが静かに言った。
「動かなくてはな」
「しかし今は情報が少ない」
「万丈様、それについてですが」
「ギャリソン」
ここでギャリソンが出て来た。
「只今よりロンド=ベルは日本に来て欲しいとのことです」
「日本に」
「はい。三輪長官直々の御命令ですが」
「またあの人か」
万丈はその名を聞いて露骨に嫌悪感を示した。
「今度は一体何の用なんだ」
「どうせロクでもない用件なんだろうな」
「ったく勘弁して欲しいぜ」
健一と豹馬が口々にそう述べた。他の者もおおむねそんな気持ちであった。
「如何されますか」
「行くしかないだろう」
万丈はそう答えた。
「ギャリソン、大文字博士は何と言っておられるんだい?」
「行くべきだと仰っていますが。今シーラ様達とお話中です」
「そうだろうな。では僕達も行くか」
「そうだな。言っても仕方がない」
「行ってからやろう」
こうして彼等は日本に向かうこととなった。そして第二東京市において三輪達と合流することとなった。
「久し振りです、大文字博士」
「お久し振りです、司令」
第二東京市の防衛を担当している冬月が大空魔竜のモニターに姿を現わした。そして大文字と会談に入った。
「三輪長官に呼ばれたですな」
「ええ、まあ」
大文字はそれに答えた。
「何の用件かまではわかりませんが」
「オルファンについてですよ」
「オルファンに」
彼はそれを聞いてその太い眉を動かした。
「彼もその存在は気にかけていましてね。解決策を考えているのです」
「それで我々を」
「はい。そこまで話を進めるのに苦労しましたよ」
「何かあったんですか?司令」
ミサトが彼に尋ねた。
「あの長官またとんでもないことを言い出したとか」
「とんでもないかどうかまではわからないがね」
冬月はそれに言葉を返した。
「オルファンに対して核攻撃を仕掛けようとしたのだ。長官の強権でな」
「な・・・・・・」
ミサトはそれを聞いてあらためて呆れた。
「やっぱり・・・・・・」
「すんでのところでそれは制止されたよ。ミスマル提督も協力してくれてね」
「危ないところでしたね」
「残念かどうかはわからないが長官職はそのままだ。だが核攻撃が回避されたのは事実だ」
「よかったですね」
「というかとんでもない話なんじゃないんですか!?」
マヤがそれを聞いて首を傾げさせた。
「核攻撃だなんて。南極条約違反ですよ」
「それが通用する人ならね」
シゲルがマヤに対してそう言った。
「あの人が条約なんて守ると思う?」
「まさか」
マヤはそれには首を横に振った。
「そんなもの勝手に破るに決まってるじゃない」
「そうだよな」
マコトも同じ意見であった。
「絶対にそうだよな。あの人ならやる」
「それでその三輪長官ですけれど」
ミサトは冬月にまた問うた。
「今そちらにおられるのですか?」
「ああ」
彼はそれに答えた。
「元気にしておられるよ。今日も朝から鰯を頭から食べていたよ」
「そうですか」
「相変わらず無駄に元気ね」
リツコも言った。
「それで今どちらに」
「第二東京市の市庁にいるよ」
彼は答えた。
「大文字博士はすぐに行かれた方がいいです。おそらく貴方の御力が必要でしょう」
「わかりました」
「そしてサコン君、君もだ」
「俺もですか」
「そうだ、君の頭脳もな。頼りにしているよ」
「お任せ下さい」
「赤木博士にも頼めるかな」
「そう言うと思ってました」
リツコはそれを聞いてにこりと微笑んだ。
「ああしたおじさんの相手はお任せ下さい」
「リツコ、貴女まさか」
「嫌ねえ、ミサト。タイプじゃないわよ」
「そ、そうよねえ」
流石にこれはまずいことを言ってしまったと思った。
「あんなとんでもないおじさん」
「とんでもないで済まないわよねえ」
「ああ」
「どう見ても危ないおじさんだよな、あの人」
「こら、そこ」
ミサトは誤魔化しの意味も含めてか三人を注意した。
「ヒソヒソと話をしない」
「わかりましたあ」
「けれど本当のことだよなあ」
「本当のことなら尚更言っちゃいけないことがあるのよ。覚えておきなさい」
「はい」
「それではお願いできますかな」
「はい」
大文字は改めて頷いた。
「アノーア艦長もお連れしますので。それでは市庁で」
「はい」
こうして大文字とサコン、リツコ、ノヴァイス=ノアの面々、そして護衛とオルファンの詳しい説明役として勇が市庁に向かった。広い会議室では既に三輪と冬月が待っていた。
「それでは話を聞かせてもらおうか」
三輪は四人に対して早速そう言った。
「まずは座ってな」
「席なぞいい!」
「いえ、そういうわけにはいきません」
席を不要としようとする三輪に対して冬月はそう答えた。
「長くなる話ですから」
「うむむ」
「司令、有り難うございます」
「礼はいい」
リツコに対してそう答えた。
「では早速説明をお願いしたい。いいかな」
「わかりました。それでは」
まずは大文字が口を開いた。そして皆を代表してオルファンに対して説明をした。
「・・・・・・以上がオルファンの地上離脱に伴うオーガニック=エナジー喪失に関する推論です。これにはアノーア艦長のご協力もあったことを述べさせて頂きます」
「何と」
三輪はそれを聞いて眉間に皺を寄せさせていた。
「この数値は決して悲観的なものではありません」
彼の説明は続いていた。
「結果としてオルファンの地上離脱により生物らしい生物は死滅してしまうでしょう」
「ならば躊躇してはならん!」
三輪はそこまで聞いて叫んだ。
「即刻オルファンを破壊せよ!至急にだ!」
「いえ、それはできません」
だが大文字はそれを制止した。
「何故だっ!?」
「連邦政府がオルファンの安全性を認めたからです」
彼は答えた。だが三輪はそれでも言った。
「そんなものがどうした!」
「連邦政府が認めたことを覆されるのですか?」
「人類が死滅するかも知れんのにそんなことが言っておれるのか!」
「ですがもう認められたことですので」
「そんなことわしが知ったことか!そもそも誰がそれを認めたのだ!」
「私です」
ここで声がした。
「ヌッ!?」
三輪だけでなくそこにいた全ての者が声がした方に顔を向けた。そこは扉の方であった。扉のところに一人の顎鬚を生やした男が立っていた。
「親父!?」
勇はそれを見て驚きの声をあげた。そこにいたのは彼の父伊佐未研作であった。
「何だ、貴様は」
「オルファンの代表伊佐未研作です」
彼は静かにそう名乗った。
「今回はオルファンについての説明に参りました」
「弁解か?それとも詭弁か?」
三輪は最初から彼を疑ってかかっていた。
「言ってみよ。返答次第では即刻銃殺だ」
「御言葉ですが長官」
感情的になっている三輪に対して彼はあくまで冷静であった。
「私は連邦政府から要請を受けてここに来ているのです。貴方にそう言われる覚えはありませんが」
「クッ・・・・・・」
「おわかり頂けたでしょうか。ではお話して宜しいですかな」
「どうぞ」
冬月がそれを勧めた。
「お話下さい」
「わかりました。それでは」
それを受けて彼は説明をはじめた。
「まず最初にお伝えしたいことは」
「はい」
冬月がそれに応えて頷いた。
「オルファンの制御は可能なこと、そして人類の死滅は有り得ないということです」
「何ですと」
「それは本当ですか!?」
大文字とリツコがそれを聞いて驚きの声をあげた。
「はい」
「では博士にさらに御聞きしたい」
大文字は頷いた研作に対してさらに問うた。
「貴方は我々が推測する地球上のオーガニック=エナジーの喪失についてどう御考えですか?」
「それもまた正しいことです」
研作はそう答えた。
「ですがオルファンはその性質について微妙な変化が起こっているようなのです」
「それによりオルファンが無害なものとなると!?」
「その通りです」
彼は頷いた。
「だがそれの何処に証拠がある!?」
三輪は研作を睨みながらそう述べた。
「証拠がないのでは話にはならんぞ」
「それは僕が説明しましょう」
「!?」
扉が左右に開きそこから金髪の少年が入って来た。
「君は」
「はじめまして。カント=ケストナーです」
彼はそう名乗った。
「十歳で博士号をとり、積極的にオーガニック=エナジーの論文を発表している神童か」
研作は彼の姿を見てそう呟いた。
「その神童が何の用だ!?」
三輪は彼に対しても攻撃的であった。
「言ってみろ」
「はい。僕はオルファンの活性化を植物の繁殖と重ね合わせてみました」
「植物の!?」
「ええ、植物もまた生物です」
彼は研作に対しそう答えた。
「オーガニック=エナジーに何らかの影響を受けると考えられます」
「ふむ」
冬月と大文字はそれを聞いて眉を動かさせた。リツコは目を閉じて思索に入った。アノーアは彼から目を離さない。研作もである。勇も彼に注目していた。ただ三輪だけが感情的になっていた。
「結論から述べますとオルファンの繁殖と植物の繁殖には同調が見られます」
「同調が」
「ええ。つまり太平洋とオルファンの活性化により、地球の緑が復活しようとしているのです」
「地球の緑が」
「では地球を活性化させているというの!?」
「そういうことになります。僕はそれを知った時とても感動しました」
「ふん」
三輪はそれを聞いてもまだふてくされていた。
「馬鹿なことを言う」
「人類が汚してきた地球はまだ人類に絶望せずに地球の生態系を救う術を与えてくれたのですから」
「その通りだ」
研作はそれに頷いた。
「私の考えと全く同じだ」
「ですが僕は伊佐未博士の論にはまだ賛成できない部分があります」
「それはどこだね」
「オルファンのエネルギーは太陽のようなものですから人間にはコントロールできないのです」
「それでは何の意味もないではないか」
三輪はそれに反論した。
「聞くだけ無駄だ。下がれ」
「お待ち下さい」
だがそれを冬月が制した。
「まだ彼の話は終わってはいません」
「ふん」
「そこだ」
研作はここでクレームをつけてきた。
「当初は我々もオルファンはその浮上により全地球上のオーガニック=エナジーを使用するだろうと考えていた」
「はい」
「だが今はその考えを訂正しつつある。理由は君の考えと同じだ」
「博士はそれについてどう思われますか」
カントは研作に問うてきた。
「僕にはオルファンがまるで地球をいたわっているように思えるのですが」
「そうだな」
研作はそれに頷いた。
「今はそれに同調せざるを得ないな」
「それが貴方の主張するオルファンの安全性の根拠でしょうか」
リツコが口を開いた。
「そうですな」
そして研作はそれにも頷いた。
「ではまた御聞きしたいことがあります。尋問のようで申し訳ありませんが」
今度は大文字であった。
「何でしょうか」
「オルファンの飛翔は何によって行なわれるのです?オルファン内部だけでたくわえられたオーガニック=エナジーだけでそれをまかなえるのですか?」
「それだけではないと思われます」
「!?どういうことなんだ」
勇はそれを聞いて疑問を感じた。
「親父の奴、まさか」
「勇君、落ち着き給え」
だがそれをゲイブリッジが制止した。
「いいね」
「わかりました」
勇はそれに従った。そして落ち着きを取り戻し研作に顔を戻した。
「ではそのエネルギーとは」
大文字はまた問うた。
「一体何でしょうか」
「そこまではわかりません」
彼はそう答えた。
「ですがオルファンや人類を銀河へと誘うエネルギーであることは確かです」
「銀河に」
「それは一体」
会場がそれを聞いてざわめきはじめた。それが何なのか彼等にはまだわからなかった。
「とにかくオルファンが人類、そして地球にとって有害なものではないのですね」
「それは保証します」
「わかりました。それでは貴方を信じさせてもらいましょう」
「馬鹿な、何を言っておるか!」
大文字がそう言ったのを見て三輪が席を立った。
「敵を信じるなぞ!正気なのか!」
「無論正気です」
彼はそう言葉を返した。
「だからこそここにいるのです。おわかりでしょうか」
「クッ!」
「長官、貴方も落ち着いて下さい」
冬月がそう言って三輪を窘める。
「感情的になっては何もなりませんぞ」
「わかっておる!」
激昂したままでそう答えた。
「だが敵を信用するとどういうことになるのか貴様等はわかってはおらん!」
「それは俺について言っているのですか!?」
勇が三輪に突っかかってきた。
「何!?」
「俺もかってはオルファンにいました!けれど今はロンド=ベルにいます」
「無論そんな輩は銃殺だ!」
三輪は叫んだ。
「何なら今ここでわしがそうしてやる!」
「なっ・・・・・・!」
それを聞いて他の者は絶句してしまった。三輪は本当に拳銃を抜いていたからだ。
「そこになおれ!スパイは生かしては返さん!」
「俺はスパイじゃない!ロンド=ベルの一員だ!」
「黙れ!わしの目は誤魔化されんぞ!」
「五月蝿いニャ!」
「御前こそ黙ればいいんだよ!」
ここでクロとシロが出て来た。
「!?何だこの猫共は」
「ちょっと色々あってね。ここに来たんだニャ」
「細かいことは気にするなよ」
「マサキ君か」
「あの子、また道に迷ったわね」
「まあ悪いがそういうことだ」
ここで今度はマサキが部屋に入って来た。
「ったくよお、馬鹿でかい建物だぜ」
「そういう問題じゃないのじゃないかしら」
リツコがそれに疑問を投げかけた。
「貴方の方向音痴はまた別よ」
「ちぇっ、リツコさんはきついな」
「猫には優しいわよ、ふふふ」
「まあそれはいいとしてだ」
大文字と冬月は三輪を静かにさせてから言った。
「三輪長官、彼はロンド=ベルにとって欠かせないメンバーの一人です。それは理解して頂けますな」
「クッ・・・・・・」
「彼を撃つことは許されません。それはおわかり下さい」
「・・・・・・わかった。ではあの男はいいとしよう」
「はい」
「だがわしはオルファンを完全に信じたわけではないぞ。それを覚えておけ」
「わかりました。では」
「伊佐木博士、お話を続けましょうか」
「わかりました。では」
話が再開されようとした。しかしここで突如として警報が鳴った。
「!?」
「敵襲か!?」
「ガイゾック、いやミケーネか」
「こんな時に!」
ロンド=ベルの面々は口々にそう言いながら席を立つ。そして部屋に軍人達が入って来た。
「長官、敵です!」
「何処にだ!?」
「東京湾上空です。オルファンです!」
「何だと!やはり罠だったか!」
そう言って今度は研作に銃を向けようとする。だが大文字はそれも制した。
「お待ち下さい!」
「またか!今度は利敵行為とみなすぞ!」
「落ち着いて考えて下さい。何故彼がここにいるのにオルファンが来るのですか」
「この男は囮だ!」
「囮ならばわざわざ伊佐木ファミリーを送り込んだりはしません。おそらくこれはオルファン内で何かあるのでしょう。伊佐木博士、違いますかな」
「・・・・・・申し訳ないが私にはよくわかりません」
彼はそう答えた。
「リクレイマーに出撃命令は出しておりません」
「嘘をつくな!」
「長官、貴方は黙っていて下さい!」
大文字は三輪を一喝した。
「今は彼の話を聞かねばなりません」
「おのれ、大文字め。覚えておれよ」
「何か古典的な台詞だニャ」
「そういうことしか言えないんだろうね」
クロとシロがそれを聞いて三輪を馬鹿にしていた。
「リクレイマーに対する出撃命令は私の他には一人しかおりません」
「その一人は」
「姉さんだ」
勇が言った。
「姉さん!?」
「クィンシィ=イッサーだ。オルファンのリクレイマー達のリーダーだ」
「あの赤いリクレイマーの娘かしら」
「ええ、そうです」
リツコの問いに答えた。
「親父の他にリクレイマーに対して出撃命令を出せるのは姉さんしかいません。今度のは多分」
「それでそのリクレイマー達は何処にいるのかね」
「ハッ、東京湾からこちらに向かっております」
「わかった。ではすぐに迎撃に向かおう。それでいいな」
「はい」
勇とマサキがそれに頷いた。
「ロンド=ベル総員出撃、目標は敵リクレイマー部隊」
「了解!」
彼等はそれを受けて一斉に動いた。後には歯軋りするだけの三輪だけがそこに残された。彼は為す術もなく口惜しさに身体を震わせるだけであった。
ロンド=ベルはすぐに東京湾に展開した。それと正対するように既にリクレイマーの部隊がそこにあった。中央には赤いリクレイマーがいた。勇はそれを見て顔を歪ませた。
「姉さん、やはり」
「勇、わかってると思うがよ」
甲児が彼に声をかけてきた。
「わかってるさ、大丈夫だよ」
「ならいいがな」
まだ不安であったがここは勇を信じることにした。甲児も思いきりがあった。
「頼むぜ」
「ああ」
勇は頷いた。その前にいる姉を見据えながら。
クィンシィはそこに悠然と立っていた。狂気に近い笑みすら浮かべていた。
「太陽か・・・・・・あははははははははははははは!」
彼女は笑っていた。
「久し振りに海から出たよ!」
「あれは・・・・・・依衣子か」
大空魔竜の艦橋にいた研作が彼女のリクレイマーを見て頷いた。
「どういうことなんだ、これは」
「娘さんがどうしてこちらに」
「私にもわかりません」
彼は大文字の言葉に首を横に振った。
「ただ一つ言えることはあれがここに戦いに来ているということです」
「左様ですか」
「はい」
「本当に綺麗・・・・・・勇にも見せたいものだよ」
「姉さん、自分の言っていることがわかっているのか」
「ああ、わかってるよ」
彼女はそれに答えた。
「あんたはいつもじっとしないで私に心配ばかりかけているからね」
「まだそんなことを」
「さあ、そこに大人しくしているんだ。そして私に討たれろ」
「勝手なことを」
「勝手なことじゃない。弟の不始末は姉がとるものだ」
彼女は冷徹な声でそう述べた。
「それの何処が間違っている」
「姉さんは間違っている!」
勇は言った。
「間違っているのは姉さんの方だ!」
「私に口ごたえするつもりかい?」
「違う!本当のことを言っているだけだ!外を見るんだ!」
「グランチャーで来てみればすぐにこうして敵対行動をとる!」
クィンシィは叫んだ。
「それがロンド=ベルだ!御前達はオルファンを害するつもりなんだ!」
「それは誤解だ!」
「誤解なものか!私を騙そうとしても無駄だ!」
「まだそんなことを!」
「五月蝿い!それ以上言うと本当に討つぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
勇も負けずと叫んだ。
「俺ももうあの時みたいなガキじゃないんだ!」
「御前はまだ子供だ!」
「なら大人になった証拠を見せてやる!来い!」
「私に対してよくそこまで言ったね」
赤い目が光った。
「覚悟するんだね。ケリをつけてやるよ!」
赤いグランチャーが消えた。そしてユウ=ブレンの前に出た。
「勇!」
「大丈夫だヒメ!」
勇はそう叫んでヒメを安心させた。
「姉さんは俺に任せろ!」
「わかった!じゃあお願いするよ!」
「ああ!」
勇は姉との戦いに入った。それを合図とするかのようにグランチャー達も一斉に行動に移った。そして両軍入り乱れての戦いがはじまったのである。
機動性を駆使して戦おうとするグランチャー達に対してロンド=ベルは守りを固めてそれに対抗した。前面に強固な装甲を誇るマジンガー達を前面に置く。
「そう簡単にはやらせねえぜ!」
甲児がそう宣言する。そしてロケットパンチを放つ。それで敵を一機ずつ撃墜していく。
上空はブレンやオーラバトラーで固め地上からエヴァ等で攻撃を仕掛ける。後方には三隻の戦艦を置き援護射撃を加える。こうして戦いを順調に進めていた。
勇はその中姉との戦いに専念していた。クィンシィは鋭い刃を弟に向ける。
「死ねっ!」
刃が一閃した。だが勇はそれを後ろに退いてかわす。
「まだだっ!」
「ちょこまかと動き回る!」
クィンシィはそれを見て叫んだ。
「鬱陶しい!」
「俺だってやられるわけにはいかないんだ!」
勇もそれに言葉を返した。
「幾ら姉さんでも!」
「私は御前を殺す為にここに来た!」
また叫んだ。
「この手でな!」
「姉さん!」
クィンシィは突撃してきた。その刃で勇をブレンごと切り裂こうとする。しかしそこでバランスを崩していた。勇は咄嗟に剣を振るった。
「なっ!?」
それを受けたクィンシィの動きが止まった。
「今、何をした!」
「攻撃をしたんだ」
勇は言い返した。
「俺だって殺されるわけにはいかないんだ!」
「知ったことを!」
クィンシィはそれを聞いて激昂した。しかしダメージを受けたグランチャーでの動きには無理があった。先程までに比べて鈍く、そして隙もあった。勇は後ろに退き狙いを定めた。
「これなら・・・・・・!」
剣からエネルギーを放った。ソード=エクステンションである。これで仕留めるつもりであった。
クィンシィはそれでも突撃を止めない。そのまま特攻してくる。だがそこに勇のソード=エクステンションの光の帯が迫っていた。
直撃であった。それを受けてクィンシィのグランチャーが動きを完全に止めた。そして地上に落ちる。
「くっ、コントロールが!」
「やったか」
勇は姉のグランチャーを見下ろしてそう呟いた。
「けれどまだ動ける筈だ」
油断はしていなかった。彼女から目を離さない。
「また来るのなら!」
しかしここで思わぬことに気がついた。クィンシィのグランチャーの側に誰かがいるのだ。子供だった。
「あれは・・・・・・」
それはカントであった。彼はそれを確認して驚いて彼の側に降り立ってきた。
「そんなところにいるな!危ないぞ!」
「確かめたいことがあるんです」
カントは勇に対してそう言った。
「気にしなくていいですから」
「馬鹿な!グランチャーだぞ!」
そう言ってまた止めようとする。
「大切なことなんです」
だが彼は勇の言葉を聞き入れようとしなかった。
「黙って見ていて下さい」
「・・・・・・一体何をする気なんだ」
勇はそれを見守ることにした。黙って彼を見ていた。
彼は懐から何かを取り出した。それは花であった。しなびた一輪の花であった。
「さあ、この花に力を分けて下さい」
そう言ってクィンシィのグランチャーに花を近づけた。すると花が光った。
「花が光った・・・・・・!?」
それだけではなかった。それまでしなびていた花が急に元気を取り戻していたのだ。
「これがオーガニック=エナジーの力なのか!?」
「勇」
グランチャーの中から声がした。
「姉さん」
「覚えているかい?私に花をくれたことを」
それを聞いて幼い日のことが脳裏に浮かぶ。かって自分が摘んだ一輪の花を姉にプレゼントしたあの日のことを。
「いつも二人だけで・・・・・・お婆ちゃんが働きに出ていた時」
「ああ」
勇は姉の話に頷いた。
「あの時は嬉しかったよ」
「有り難う」
「私の誕生日にね」
「誕生日・・・・・・」
だがそれを聞いた勇の顔が強張った。
「そうだったのか!?」
「!?どういうことなんだ」
それを聞いたクィンシィの顔も強張った。
「覚えていないのか、私の誕生日だったことを」
「・・・・・・御免、覚えてない」
彼は素直にそう答えた。
「昔のことだから」
「そうかい・・・・・・そうだろうね」
一瞬悲しい顔になった。だがすぐにそれは険のあるものに一変した。
「だからあんたはオルファンを出たんだ!」
そしてこう叫んだ。
「両親を裏切り、家族の絆を捨てて!」
「違う!」
勇はそれを否定した。
「姉さんもわかる筈だ!」
「何をだ!」
「オルファンを離れれば俺の言っていることが!」
「戯れ言だ!」
だが彼女は弟のその言葉を完全に否定した。
「御前はオルファンを傷つける!それだけだ!」
「違う!」
「もう御前とこれ以上話すつもりはない」
そう言うとグランチャーを立たせた。カントは慌ててそこから退く。
「今度会った時こそ始末してやる!」
「姉さん!」
クィンシィはその場から去った。瞬く間にその姿を消してしまっていた。
それに従い他のグランチャー達も姿を消す。こうして彼等は東京湾から姿を消した。
「姉さん」
勇は姉が去った方を見て呟いた。
「完全に抗体になってしまっている。どうして」
「勇・・・・・・」
ヒメがそこに来た。そして彼を慰めようとするがそれはできなかった。
「何が不満なんだ、この世界に!」
「それは彼女もわかっていないんじゃないかな」
万丈が勇に対してそう言った。
「姉さんも」
「そうさ、人間ってのは複雑なものでね」
彼は語った。
「自分で自分がわかっているつもりでもそうじゃない時があるものさ」
「そうなの」
「ああ」
ヒメの問いにも頷いた。
「君の姉さんもそうじゃないかな。自分ではわかっているつもりでもね」
「・・・・・・・・・」
「何時かわかるかも知れないさ。今はそれよりも目先のことを考えた方が君の為だ」
「わかりました」
「わかってくれればいいさ。丁度次の敵のおでましみたいだしね」
「次の」
「レーダーに反応です」
そこでミドリが言った。
「左に敵接近、ガイゾックです」
「ほらね」
「よりによってこんな時に」
「敵は待ってはくれないものさ。じゃあ行こうか」
「わかりました」
「ヒョッヒョッヒョ、どうやらあの忌々しいザンボットとやらはいないようじゃの」
「御意、ブッチャー」
側にいる不恰好な形のロボットが彼にそう応えた。
「まずはここを廃墟にしてしまおうか。メカブースト発進じゃ」
「御意、ブッチャー」
そのロボットはまた言う。そしてバンドックから次々とロボット達が姿を現わしてきた。
「やれやれ、今度はガイゾックかよ」
「勝平達がいれば面白かったんだがな」
サンシローとリーが口々にそう言う。
「彼等は何といってもガイゾック退治の専門家ですからね」
「俺には劣るけれどな」
「ヤマガタケ、それはちょっと自信過剰だぞ」
サコンがそう言って彼を窘める。
「だが思う存分やってくれ。いいな」
「そんなの御前に言われなくてもわかってらあ」
「ふふふ」
実はサコンはそう言ってヤマガタケを乗せるつもりだったのだ。そして彼は上手くそれに乗ってくれた。会心の笑みであった。
「だが一つ気になるな」
「何がだ」
疑問の声を呈するピートに顔を向けた。
「神ファミリーの人達は今何処にいるのかと思ってな」
「あの人達は今ダカールにいる」
「ダカールに」
「そうだ。そこで連邦政府と今後のガイゾックの行動に関して意見を述べてくれている。同時にダカールの防衛もしてもらっているよ」
「そうだったんですか」
ピートは大文字にそう説明され意外そうな顔をした。
「日本にいると思ってだんですけれどね」
「三輪長官と衝突してな」
大文字はそう説明した。
「それでダカールへ向かったのだ。色々と言われたらしい」
「やはりな」
「それでも今はよくやって下さっている。大事の前の小事ということだ」
「あの人達が分別のある人達でよかったですね」
「そもそもあの人が異常なのだが」
「けれどそれにより大体のことはわかってきた。どうやらガイゾックもまた銀河規模の組織らしい」
「そうなのですか」
「文明を発見次第破壊に向かう。かってはバルマーやゼントラーディの前にも姿を現わしたらしい」
「バルマーにも」
「彼等はそれを退けたがな。だがかなりのダメージを負ったようだ。当時のバルマーは今程強くはなかった」
「そうだったのですか」
「それかららしい。バルマーがあなったのは。そして宇宙怪獣との戦いもあった」
「話を聞く限り宇宙怪獣とガイゾックは行動が似ていますね」
「どういうことだ、サコン」
「いや。文明を狙うと聞いてな。若しかするとガイゾックも宇宙怪獣と似たような存在なのかも知れないと思ってな」
「そうなのか」
「俺はそう思う。他の者がどう思うかまではわからないが」
「サコン君の言う通りかもな」
だが大文字はそれに同意した。
「詳しいことはまだよくわからないが彼等と宇宙怪獣は似ている可能性がある。それを考えて対処するといいかもしれない」
「ではザンボットはライディーンのようなものか、奴等にとって」
「そういうことかもな。いないのが残念だ」
「まああいつ等がいたらいたら五月蝿いけれどな」
「サンシロー、それは勝平だけじゃないのか」
「リー、御前は恵子と話したことないのかよ?」
「?勿論あるぞ」
「じゃあわかるだろ。あの三人は五月蝿いぜ、かなりな」
「まあそれがロンド=ベルの長所ですけれどね」
「そうなのか?ブンタ」
「黙って戦争やるよりは楽しく戦争した方がいいですよ。そういうことです」
「そんなものかな。まあいいや、今はガイゾックに向かおう」
「おうよ」
「フォッフォッフォッ、わしをみくびってもらっては困るのう」
「おいおい、その顔で言っても説得力がないぜ」
サンシローはブッチャーにそう言い返した。
「まだヤマガタケの方が迫力があるぞ」
「サンシロー、何でそこで俺を出すんだよ」
「まあ気にするな。で、ここには何しに来たんだ、ブッチャーさんよ」
「知れたこと。御前達を殺す為じゃ」
彼はその巨体を揺すりながらそう答えた。
「覚悟はよいか、虫ケラ共よ」
「生憎俺達は虫ケラじゃねえんだよ」
マサキはそう言ってブッチャーを睨み返した。
「御前が俺達を殺すつもりならやってやるぜ。覚悟しな!」
「マサキまた熱くなっちゃって」
「まあいつものことだけれど」
「クロ、シロ、行け!」
「ニャッ!?」
二匹のファミリアはいきなり主にそう言われ驚きの声をあげた。
「ハイ=ファミリアだ!用意はいいな!」
「いきなりニャ!?」
「おいら達だって準備があるんだぞ!」
「うるせえ!そんな悠長なこと言ってる場合か!戦争なんだぞ!」
「それはわかってるニャ!」
「けれどファミリアに入る時間位くれよ!」
「チッ、仕方ねえな。じゃあ今すぐ行け」
「わかったニャ」
「じゃあ行って来るよ」
「おう、早くな」
「あれってシロちゃんとクロちゃんが入っていたのね。驚いたわ」
「リツコも知らなかったのね。私もよ」
「で、ミサトさん、僕達もガイゾックに向かうんですよね」
「モチよ」
通信を入れてきたシンジにそう答える。
「容赦はいらないからね。どんどんやっちゃって」
「はい」
「ったく、あの偉大なレスラーの名前冠してる割にぶっさいくよね」
「?アスカ、ブッチャーのファンやったんか?」
「そうよ。悪い!?」
「いや、意外や思てな」
「アスカって何かホーガンとかが好きなんじゃないかって思ってたけど」
「あたしはね、馬場のファンだったのよ。けれどね、ブッチャーも大好きなのよ」
アドタブラ=ブッチャーはジャイアント馬場と数多くの死闘を展開してきたことで知られている。全日本プロレスの看板レスラーである馬場と悪役レスラーの代表であるブッチャーの戦いは今尚語り草になっている程であった。
「本当はすっごくいい人だったんだから」
「そうらしいわね」
レイがそれに頷いた。
「少年院で励ましの言葉を贈ったりとか。素顔は素晴らしい人だったと聞いているわ」
「へえ、意外」
「まあ男は外見じゃわからへんっちゅうこっちゃ」
「一目で悪だってわかるのもいるけどな」
甲児が目の前のブッチャーを指差しながらそう言った。
「やいブッチャー!おめえは今からその偉大なレスラーの名を捨てな!」
「ん~~~~、何を言っとるのかのう?」
「おめえはこれから青ブタだ!そう名乗りやがれ!」
「ってまんまじゃないの。ちょっとは捻りなさいよ」
「兜、アスカの言う通りだぜ」
「いいんだよ。どうせあいつが聞く筈ねえんだしよ」
「ヒョヒョヒョ、わかっておるようじゃな。猿なりに」
「な、猿だと!」
「わしをブタと言ったお返しじゃ。悔しかったらかかって来い」
「ああ、今からそっちに行ってやらあ!」
頭に血が登った甲児はすぐにマジンガーを飛ばした。
「覚悟しやがれ!」
しかしそこにメカブースト達が来る。瞬く間にマジンガーは取り囲まれた。
「邪魔だっ!」
だが甲児はメカブースト達を意に介さなかった。スクランダーカッターを構えて飛ぶ。
そしてそれで敵を切り裂いていった。マジンガーのその攻撃にメカブースト達は次々に爆発四散していった。
それに続く形でロンド=ベルは攻撃をガイゾックに向けてきた。忽ちのうちにガイゾックのメカブースト達はその数を減らしていった。
「ぬうう、やりおるなあ!」
「おめえ等がトロいだけなんだよ!」
甲児の言葉が返ってくる。
「とっととやられちまいな!」
「御前等にわしがやられはせんわ!」
「悪役ってのはヒーローに倒されるのが決まりなんだよ!」
「フン、ヒーローか」
だがブッチャーは甲児のその言葉を鼻で笑った。
「それが自分だけの正義だとは思っておらんらしいな」
「何っ、どういうことだ」
「貴様等にはわからんわ。フォフォフォ」
「馬鹿なこと言ってねえでそこになおりやがれ!」
甲児は感情的になってそう叫んだ。
「手前が正義な筈ねえだろうが!」
「待て、甲児君」
「鉄也さん」
いきり立つ甲児を鉄也が制止した。
「今はバンドックよりもメカブーストを倒す方が先だ」
「けれど」
「鉄也君の言う通りだ。今僕達は敵の真っ只中にいるのだからな」
大介も言った。
「ここは落ち着いてくれ。いいね」
「ちぇっ、わかったよ」
兄の様な存在である二人に言われては甲児も納得するしかなかった。
「じゃあ今は他の奴に任せるよ」
「そうだな。また機会があれば狙えばいい」
「では僕達はメカブーストに専念しよう」
「了解、行くぞ甲児君」
「おう、鉄也さん、大介さん」
彼はダイザーとグレートに続く形でメカブースト達に再度切り込んでいった。ダイアナンエース、やヴィーナスエース、ひかると
マリアの乗る二機のスペイザー、そしてボスも一緒である。マジンガーチームはゲッターやジーグのフォローも受けながらガイゾックのメカブーストを倒していっていた。
無論彼等だけでなく他のロンド=ベルの面々もガイゾックのメカブースト達と戦っていた。バンドックにはゼンガーとクスハ、そしてブリットが向かっていた。
「行くぞ二人共」
「はい」
「了解」
クスハとブリットは先を進むゼンガーに対して頷いた。グルンガストは剣を構えそのままバンドックに向かう。
「久し振りだな。キラー=ザ=ブッチャー」
「ん~~~~お主はあの時の」
ムートロンでの戦いのことが二人の脳裏に思い浮かぶ。
「あの時は逃してしまったが今度はそうはいかぬ」
「ほう、わしを倒すとでもいうのか」
「そうだ。この斬艦刀、受けてみよ」
そう言いながら巨大な刀を取り出す。
「そして地獄に落ちるのだ」
「地獄なんぞそいじょそこらにあるわ。今更言うつもりはないぞ」
「戯れ言を」
「戯れ言?フォフォフォ、果たしてそうかのう」
彼はセンガーを嘲笑うようにしてそう言った。
「お主もそれはわかっているのではないのか?今までの戦いでのう」
「・・・・・・俺の戦いは地獄にある戦いではない」
ゼンガーはブッチャーの言葉に対してそう返した。
「我が戦いは悪を断つ戦い、貴様の様な輩を斬る戦いだ!」
「面白い、ではこのバンドックを倒すというのか!?」
「無論、覚悟せよ!」
「ミサイルを撃て」
「御意、ブッチャー」
それに従いギッザーが頷く。するとバンドックから夥しい数のミサイルがグルンガストに向けて放たれた。
「ゼンガーさん!」
「危ない、よけるんだ!」
「よける必要はない」
それを見て驚きの声をあげるクスハとブリットに対してそう言葉を返した。
「この程度、これで充分!」
刀を一閃させた。それだけでバンドックのミサイルを全て叩き落してしまった。
「ほほう」
「覚悟はできたか」
「生憎わしは往生際が悪くてのう」
しかしそれでもブッチャーの態度は変わらなかった。
「その程度では驚きはせぬぞ」
「では今度はこちらから行こう」
グルンガストがズイ、と前に出た。
「成敗!」
「フォフォフォ」
だがバンドックは退いた。そしてグルンガストとの間を開けていく。
「逃げるか!?」
「逃げるのではない。撤退じゃ」
ブッチャーは笑いながらそう反論した。
「これ以上遊んでいては怒られるからのう。さらばじゃ」
「怒られる!?」
それを聞いたサコンの眉がピクリと動いた。
「ガイゾックの指揮官はブッチャーではないのか」
「それではさらばじゃ」
だが彼に考える時間を奪うようにブッチャーはこう言った。
「また会おう、猿共よ」
「あの野郎、また猿だと!」
メカブースト達をあらかた倒し終えた甲児はそれを聞いて怒りの声をあげた。
「待ちやがれ!やっぱり生かしておけねえ!」
「落ち着け、甲児君」
だがそんな彼を鉄也がまた制止した。
「もう間に合わない」
「ちぇっ」
「まあ今はガイゾックを退けたところでよしとしよう」
大介が最後にこう言った。
「全機集結だな。戦いは終わった」
「そうですね」
徹夜がそれに頷く。戦いは確かに終わった。だが色々と謎を残した勝利であった。
「研作さん」
戦いが終わると研作はノヴァイス=ノアの艦橋に入った。すると直子が彼に声をかけてきた。
「義母さん」
「翠は元気ですか」
「ええ、まあ」
彼は妻の母に対して形式的な挨拶を返した。
「元気ですよ。翠も依衣子も」
「それならいいですけれど」
「家族は皆元気です。それは安心して下さい」
「オルファンにいるのですね」
「はい」
「・・・・・・考え直す気はないのですか」
彼女はあらためて研作に対してそう尋ねた。
「・・・・・・・・・」
「どうなのですか」
「我々は人類の脅威になる為にオルファンを復活させたのではないのです」
「では何故」
「妻にも娘にもそんなことはさせません」
彼は強い声でそう答えた。
「それは本当です。だからこそ今日の会議でも私の意見が通りました」
「そうですか。じゃあ問題はありませんね」
「はい」
「何処がだよ」
しかしそれに対して異論を差し挟む者がいた。
「こんなの詭弁に決まってるじゃないか!」
「勇」
それは研作の息子であった。彼はそれを聞いて息子に目をやった。
「親父!一体何を考えている!」
「人類の救済だ」
「嘘だ!」
「嘘じゃない。だから私は今ここにいる」
「皆を騙す為に!」
「違う。落ち着くんだ」
「俺は落ち着いている!」
「まあ聞くんだ。オルファンが人類にとって有害な存在でないのは御前もわかっているだろう」
「・・・・・・・・・」
「だからだ。御前にも協力して欲しいんだ」
「協力!?」
「オルファンに戻る気はないか?母さんが心配しているぞ」
「誰が!」
勇はそれを断った。
「誰があんな所に!戻るものか!」
「そうか。では今はいい」
研作は今息子を説得するのを諦めた。
「後でな。ゆっくり考えるといい」
「幾ら考えても同じだ!俺は・・・・・・」
「さらばだ、勇」
だが研作はここで別れを告げた。
「また会おう」
踵を返した。そしてそのままノヴァイス=ノアを発った。ヘリコプターでオルファンに向かっていた。
「行ったか・・・・・・」
「御父さん、行っちゃったね」
ヒメが艦橋で父の乗るヘリを見送る勇に対して言った。
「あんな奴親父でも何でもないさ」
勇は俯いてそれに応えた。
「どうなってもいいさ」
「そうなの」
「ところでだ」
ゲイブリッジはヘリが姿を消すのを見計らったように口を開いた。
「カント君の理論の研究も進めなければならないな」
「そうですね」
同じく艦橋にいたリツコがそれに頷く。
「何かと興味深い理論です」
「ただ、一つ気になることがある」
「何でしょうか」
「オルファンを飛翔させる謎のエネルギーの存在だ。これは一体何なのだろうか」
「私もそこまでは」
「これについての研究もはじめよう。そしてオルファンに対する認識を改めなくてはな」
「はい」
「あと一つ問題があります?」
「?」
ゲイブリッジとリツコは同時にコモドに顔を向けさせた。
「アノーア艦長が戦闘中に行方不明になられたのですが」
「戦死!?」
「いや、どうも違うらしい」
ゲイブリッジが勇に対して答えた。
「どうも思い詰めておられたようだからな」
「ジョナサンのことで・・・・・・」
「そこまで詳しいことはわからないが姿を消されたのは事実です」
「そうだな。だが艦長の代理が必要だ」
そう言いながらコモドに顔を向ける。
「頼めるか」
「私ですか」
「そうだ。君以外には見当たらない」
「艦長が見つかるまでは・・・・・・」
「残念だが今はそんなことを言っている状況ではない。我々は今は彼女一人の為に足踏みをする状況ではないのだ」
「わかりました。それでは」
「うむ、頼むぞ。そしてだ」
ゲイブリッジは言葉を続けた。
「私は艦を降り、連邦政府にオルファンの件を直接上奏しよう」
「連邦政府に直接ですか」
「問題は政治的になりつつある。私は直接彼等に働きかけ、ロンド=ベルの後ろ楯となろう」
「わかりました。それではお願いします」
「うむ。こちらのことは任せておいてくれ。直子さん」
「はい」
今度は直子にも声をかけてきた。
「申し訳ありませんが貴女の御力も必要です」
「わかりました。それでは」
直子はそれに頷いた。こうしてゲイブリッジと直子が共に動くこととなった。
「婆ちゃん」
勇は祖母に声をかける。直子はそんな孫に対して優しい笑みを返して言った。
「背中のことは任せておいて」
「うん」
孫はその言葉に頷いた。それで全ては決まった。オルファンに関することも大きく動いていた。
第四十話 完
2005・8・20
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