スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第三十六話 宇宙へ
会議の結果ロンド=ベルは二手に分かれ宇宙と地上にそれぞれ向かうこととなった。彼等はまずはマクロスと合流する為南アタリアに入った。
「諸君、よく来てくれた」
アタリアに到着すると浅黒い肌に口髭を生やした男がモニターに姿を現わした。マクロスの艦長であるグローバル准将であった。
「お久し振りです、閣下」
「うむ」
ブライトの敬礼に対して返礼する。
「お元気そうで何よりです」
「君もな。少し老けたようだが」
「それは止めて下さいよ」
ブライトはその言葉に苦笑した。
「まだそんな歳ではないですから」
「ははは、そうだったかな。まあそれはいい」
「はい」
「話は聞いているよ。では早速発進に取り掛かろう」
「はい」
こうして三隻の戦艦が打ち上げに入った。それを三隻の戦艦とマシンが護衛に回っていた。
「いいか」
ブライトは宇宙に出る予定のマシン達に対して通信を入れていた。
「何時敵が来るかわからない。だが宇宙に行く者は敵が来ても時間になったら艦に入れ。いいな」
「了解」
「それまでは護衛を頼む。健闘を祈る」
「わかりました」
「ところで諸君」
今度はグローバルが声をかけてきた。
「何でしょうか」
「新入りのパイロットを紹介したいのだが」
ここでマクロスから五機のバルキリーが姿を現わした。そのうちの二機は金龍が乗っているのと同じ機種であった。
「VFー19か」
金龍がその黒い、三角の機影を見て言った。
「まさかまた参加してくるとはな」
「お久し振りです、大尉」
ここで彼のところにも通信が入ってきた。
「ん!?おお」
「どうも、ガムリンです」
かなり額の広い男が出て来た。
「フィジカです」
もう一人いた。
「御前達か」
「はい、これでダイアモンド=フォース復活ですね」
「また三人でやりましょう」
「おう」
金龍はそれに頷いた。
「また三人で暴れようぜ」
「はい」
「ダイアモンド=フォース!?」
それを聞いたウッソが首を傾げた。
「おう、前に俺が組んでいた小隊だ。マクロスの精鋭だったんだ」
「へえ、そうだったんですか」
「頼りにしていろ、敵の十機や二十機」
「頼りにしてるわよ、大尉」
「任せとけ」
ジュンコにも答えた。彼はかなり上機嫌であった。やはりかっての部下であり戦友と再会できたのがかなり嬉しいようであった。
「あとの三機は」
「霧生隼人さ」
若いアジア系の男が出て来た」
「霧生?あのテストパイロットか」
「はい、少佐」
彼はフォッカーに答えた。
「今回マクロスに配属になりました。宜しくお願いします」
「そうか、あの小僧がな。大きくなったものだ」
「小僧は止めて下さいよ」
「止めてもらいたければ早く一人前になるんだな」
「ちぇっ、少佐は厳しいなあ」
「おいおい、俺みたいに優しい男を捕まえて何てこと言うんだ、なあ輝」
「ふふふ」
輝はそれを見て笑っていた。
「だが御前の参加は歓迎するぞ。これから宜しくな」
「はい」
「そして後の二人は」
「私です」
赤い髪の少女がモニターに出て来た。
「御前は」
「レトラーデ=エレンディルです。少佐、お久し振りです」
「ああ。それにしても何か霧生と似たようなこと言うな」
「隼人とは一緒でしたからね、研修中もずっと」
「おい、それは関係ないだろ」
霧生がそれを聞いて不平を申し出る。
「研修中のことは」
「あら、そうかしら」
「あの時は俺だってまだ慣れてなかったし。少佐にも迷惑をかけたけどな」
「ははは、今ではいい思い出だ」
フォッカーはそれを聞いて大声で笑った。
「あの時のことは俺にとってはいい思い出だ」
「だったらいいですけれど」
「まあ二人共実戦に慣れるまでは大変だろうがな。頑張れ」
「わかりました。それじゃ」
「隼人、油断しないでね」
「わかってるよ」
「おう、霧生」
フォッカーはまた彼に声をかけてきた。
「何でしょうか」
「隼人っていうのは止めておけよ。こっちにはもう隼人がいるからな。混乱のもとだ」
「隼人ってまさか」
「そうだ、神隼人だ。知ってるだろう」
「勿論ですよ。ゲッターライガーのパイロットですね」
「その通りだ」
隼人のことはかなり有名になっていた。ゲッターのパイロットの一人として伝説的な存在とも言える程であった。
「あっちが先輩だしな。だから御前は霧生で統一しろ」
「わかりました」
「後は・・・・・・もう一人いたか」
「はい」
紫の長い髪の美人が姿を現わした。
「ミスティ=クラウスです。宜しくお願いします」
「あら、ミスティ」
ミリアが彼女の姿を認めて微笑んだ。
「暫く振りね」
「ミリア」
彼女もミリアの姿を認めて微笑んだ。
「また一緒になれたのね」
「ええ。宜しくね」
「わかったわ。また二人で戦いましょ」
「なあ、ミリア」
柿崎がミリアに問うてきた。
「何かしら」
「そのミスティって娘と御前知り合いなのか?」
「ええ、一緒に戦ったことがあるわ。ゼントラーディでね」
「へえ、ゼントラーディ出身だったのか」
「そうよ。腕利きのね。覚悟しておいてね」
「敵だったらな。味方で感謝してるよ」
「ふふふ」
「それでだ」
フォッカーがまた言った。
「御前さん達にはそれぞれ小隊に入ってもらうぞ。期待しているからな」
「はい」
「これでバルキリーもかなりの数になったな。戦力としては申し分ないか」
「ロイ、安心するのは早いわよ」
黒人の美女がモニターに出て来た。左目をウィンクさせている。
「クローディア、マクロスに戻っていたのか」
「ロイがいるからね。私がいないと何するかわからないから」
「おいおい、信用がないな」
「人徳ってやつね。けれど大丈夫みたいね」
「俺には勝利の女神がついているからな」
「バルキリーのことかしら」
バルキリーとは北欧神話に出て来るワルキューレの英語読みである。嵐の神ヴォータンの娘として天を駆る戦場の女神達である。
「違うさ」
「じゃあ誰?」
「御前だよ。俺にとっちゃ御前が勝利の女神なんだよ」
「もう、そんなこと言って」
クローディアはそれを聞いて頬を赤らめさせた。
「褒めたって何も出ないわよ」
「ははは」
「それでクローディアさん」
イサムがフォッカーに代わって尋ねてきた。
「何かしら」
冷静な彼女はもう表情を元に戻していた。
「それでその安心するのは早いってのは何ですか」
「新兵器よ」
クローディアはそう答えた。
「新兵器!?」
「というか追加のマシンだけれどね。デストロイドよ」
「ああ、あれですか」
イサムはそれを聞いて頷いた。
「そういえばデストロイド部隊は殆どマクロスから降りてコロニーの防衛に回されたんですね」
「パイロットはね。けれどマシンは少し残ったの」
「へえ」
「トマホーク、ディフェンダー、スパルタン、そしてファランクス。一体ずつあるわよ」
「それはいいですね」
「あとモンスターも。これだけあればいざという時に楽でしょ」
「ええ、まあ」
「アーマードバルキリーも残ってるし。多少無茶しても大丈夫だからね」
「無茶はスカル小隊のお家芸だからな」
「ロイ、貴方が一番心配なのよ」
クローディアはそう言って口を尖らせた。
「何かあったら許さないんだから」
「俺には御前がいるからな。その心配はないさ」
「・・・・・・馬鹿」
「後でそっちに行くからな。上等のステーキとブランデーを用意しておいてくれ」
「わかったわ。レアでね」
「おう、分厚いのを頼むぞ」
「ステーキか、いいな」
「中尉はミンメイちゃんがいるじゃないですか」
マックスがそう突っ込みを入れる。
「柿崎なんか誰もいないんですよ」
「うるせえ」
「いや、俺が言っているのはステーキなんだけど」
「あ、そうだったんですか」
「じゃあ宇宙に出たらどーーーんとでっかいの食べましょうよ」
「柿崎、御前はまた食い過ぎるんだよ」
「いいじゃねえか、食えるってのは健康な証拠だぜ」
「全く・・・・・・。中尉、それでいいですか」
「中尉のおごりで」
「おい、勝手に話を進めるなよ」
「御前等、何なら俺が作ってやろうか」
フォッカーが言った。
「俺の焼いた肉は特別だぞ」
「そうなんですか!?」
「おう、バルキリー乗ってる奴は全員来い。俺がどんどん食わせてやる」
「ひゅう、さっすが少佐」
「イサム、よかったな」
「ガルド、御前はもっと嬉しそうな顔しろ」
「嬉しいが」
「その岩みたいな顔で言っても説得力ないんだよ」
「何かやけに騒がしいな」
他の者達ははしゃぐバルキリーチームを見てそう呟いた。
「それはそうだろうな。昔のメンバーが揃ったんだし」
隼人が言った。
「俺も自分と同じ名前が出て来て少し驚いているがな」
「前から思っていたが御前の名前って何か変身しそうだな」
「それはどういう意味だ」
武蔵の突っ込みに苦笑する。
「いや、何となくな。そう思ったんだ」
「前から言われるな、それは。どういうわけかわからんが」
「格好いいってことじゃないのか?俺も言われるぞ」
宙が言った。
「何かどっかの作家みたいな名前だってな」
「そうなのか」
「もっとも俺は小説なんて書くどころか読むこともあまりないがな」
「漫画ばかりだな、そういえば」
「そうだな。特に野球ものか。妙に懐かしいんだ」
「じゃあ今度俺とバッテリー組むか」
弁慶がそれを聞いて申し出てきた。
「一緒に魔球を開発しようぜ」
「よし、それでメジャーを目指すか」
「おう」
「宙さん、それじゃあロンド=ベルはどうなるのよ」
「ミッチー」
「野球もいいけれどまずはこっちを優先させてよね」
「わかってるさ、それは」
「どうかしら。宙さんって勝手だから」
「おいおい」
まるですねた恋人を宥めるようであった。だが宙と弁慶は妙に馬が合っていた。ミッチーはそれを見て嫉妬を感じたのかも知れない。
彼等がそんなやりとりをしている間に三隻の戦艦は打ち上げ準備に入った。マクロスも一緒である。
「それでは行くか」
「はい」
ブライトがグローバルの言葉に頷いた。
「打ち上げまであと三十分」
「あと三十分」
「こうした時にいつも出て来るのよね」
ルーが少し嫌そうな顔をして言った。
「今度は何処のどいつが出て来るのやら」
「ここらにいたっけ」
エルがそれを聞いて尋ねる。
「ミケーネでも何でもいるんじゃない?連中神出鬼没だから」
「そんなこと言ってたら出るぜ、おい」
ビーチャが茶々を入れてきた。
「呼ばれて飛び出てってやつでな」
「ビーチャがそう言うとろくなことにならないんだよな」
「モンド、そりゃどういう意味だ」
「けれど実際にさあ。いつもこうした場面で出て来るし」
「そうなんだよね。あと地球に降下する時。何故かいつも出るよね」
「動けないからな、母艦が」
ジュドーが言った。
「だから仕方ないさ。大気圏にそのまま突入できる機体ならともかく」
「ドラグナーはいけるぜ」
「それいいよな」
「へっへっへ、まあそれがドラグナーの自慢の一つ」
「ただ機体はかなり傷むけれどな。それは気にしない気にしない」
「しますぞ」
おちゃらけた三人にベンの怖い声が入ってきた。
「ゲッ、軍曹」
「少しは整備班のことも考えて欲しいものですな、全く」
「そ、それはまあ」
「ほんの少しは」
「もっと真剣に、です。よいですな」
「はい」
流石の三人も彼だけは苦手であった。皆それを見て笑っていた。
「あのやんちゃ坊主共も軍曹だけは苦手のようだな」
「あと大尉も」
「俺もか」
バニングはヘイトにそう言われ意外といった顔をした。
「俺はあの三人にはあまり言ってはいないぞ」
「無言の圧力ってやつですよ」
「ふむ」
「まあうちには大尉みたいな人も必要だってことですよ」
「そういうものか」
「もっと凄いのがこれから現われるかもしれませんね」
モンシアが面白そうに言った。
「もっと凄いのってどんなのですか」
「藤原達よりとんでもないのだったら勘弁願いたいな」
「ちぇっ、また俺達かよ」
「まあ忍がいるからね」
「そういう御前だって相当なもんだろうが」
「何だってえ!?」
「これだからな」
「俺達はそういう役割だけれど」
亮と雅人はダンクーガの中で喧嘩をはじめた二人に対して呆れていた。そうこうしている間に打ち上げまで二十分程となった。
「あと二十分か」
「今回は大丈夫ですかね」
トーレスがブライトに対してそう声をかけてきた。
「ここいらにはこれといった敵もいないし」
「いや、それはわからないぞ」
しかしブライトはそれには懐疑的であった。
「我々の敵は多いからな。こうした時にこそ出る」
「けれど今はどんな敵が」
「ティターンズとドレイク軍はヨーロッパですしネオ=ジオンとギガノスは宇宙、他の勢力は殆ど日本近辺に集まっていますけれど」
サエグサもトーレスと同じ意見であった。
「バルマーもいるだろう。中央アジアではポセイダルと遭遇した」
「あっ」
「彼等は宇宙に戻ったようだがな。それにマスターアジアがまた動くかもしれない」
「あんなのが急に出て来たら使徒どころじゃないわよ」
アスカが彼の名を聞いて露骨に嫌そうな顔をした。
「一人で世界征服できるんじゃないの、あれって」
「御前ホンマにあの人が嫌いやねんな」
「そういうトウジは・・・・・・って十三さんじゃない」
「あまり人を嫌うのはどうかと思うで。敵やっちゅうてもな」
「じゃああれ人間!?」
「そう言われると困るな」
「ちょっと十三」
それを聞いてちずるは困った顔をした。
「それを言ったら何にもならないじゃない」
「けどあれはマジで人間の動きちゃうしな」
「一応可能なことは可能ですけれどね、ああした動きは」
「小介、それは本当か!?」
「はい、人間の持つ潜在能力を全て使った場合ですけれど」
豹馬にそう答えた。
「可能なことは可能ですよ」
「聖戦士やニュータイプみたいなものか」
「おいおい、俺はあんな真似はできねえぞ」
トッドがそれに反論した。
「俺はこれに乗ることだけだぜ」
「まあそうだけれどね」
「巨大化とかはできないの?」
「オーラバトラーにはそうした機能はないわね」
マーベルが真面目に答えた。
「至って普通よ、確かに硬いけれど」
「そうなの」
「だからそれは安心してね」
「ええ」
「んっ」
ここでルリが声を出した。
「どうしたの、ルリちゃん」
ハルカがそれに気付いて彼女に声をかけた。
「敵・・・・・・来ます」
「やっぱりねえ」
「それで何処からですか!?」
ハーリーが慌てた様子でそれに尋ねる。
「前からですか!?それとも後ろから」
「ハーリー君、落ち着いて下さい」
それに対してルリは静かな声でそう言った。
「全方向からですよ」
「ええっ!?」
「何時の間にいっ!?」
「木星トカゲです」
ルリの金色の瞳が光っていた。
「かなりの数です」
それを言い終わらぬうちに木星トカゲの兵器達が姿を現わした。そしてロンド=ベルを取り囲んだ。
「出ましたよ」
「ゲッ」
「それだけではないです」
「まだいるの!?」
「はい、今度は見たこともない兵器です」
杖を手にした足のないマシンもそこに数機いた。
「あれは・・・・・・」
「我等は北辰衆」
その中のリーダーと思しき吊り上がった目に白いスーツの男が言った。
「北辰衆」
「そうだ、我々は火星の後継者の部隊の一つ、故あってネオ=ジオンの協力している」
「火星の後継者!?」
ブライトはそれを聞いて眉を顰めさせた。
「ユリカ君、知っているか」
「知らないです」
「そうか」
あっけらかんと答えたユリカに対して頷いた。
「新しい敵か、よりによって」
「けれど使っている兵器は木星トカゲと同じです、ですから戦い方は変わらないかと」
「そうか」
今度はルリの言葉に頷いた。
「では木星トカゲとの戦いの要領でいくか。いいか
そしてパイロット達に対して言った。
「二十分だ。宇宙組はそれまでに戦いを収めろ」
「了解」
「地上組はそれ以上の戦闘も可能だ。だが決して無理はするな」
「はい」
「以上だ。では頼むぞ」
「よし、聞いたな」
フォッカーが他の者に対して問う。
「暴れる時間は二十分、思いきりやるぞ」
「はい」
「スカル小隊発進!かかるぞ!」
まずはバルキリー達が動いた。先頭にいるのはフォッカーのロイ=フォッカースペシャルであった。
「数だけ多くてもなあ」
目の前に群がる木星トカゲ達のマシンに対して言う。
「それだけじゃ相手にはならねえなっ!」
次々にミサイルを放つ。それで瞬く間に数機撃墜した。
「どうだっ!」
「少しはやるようだな」
ここで不気味な声がした。
「ムッ!?」
「この北辰衆の力、見せてくれよう」
後ろに先程の足のないマシンがいた。そのコクピットには北辰に似た服装、雰囲気の男がいた。
「死ね」
彼は一言そう言うと杖を振るってきた。そしてフォッカーのバルキリーを撃墜せんとしてきた。
しかし動きはフォッカーの方が速かった。彼はそれをいとも簡単にかわしてみせた。
「少しは出来るみたいだな」
「ロイ!」
「クローディアか」
彼は恋人の姿がモニターに入ったのを見て不敵に笑った。
「勝利の女神のおでましってわけだ」
「もう、ふざけていていいの?」
「ははは、手厳しいな」
「そんなのだから心配するのよ」
「そうだな。勝利の女神を悲しませるわけにはいかない」
「じゃあ真面目にやってよね」
「ああ、そうするか」
彼はそう言うと目の色を変えた。そしてガゥオークに変形させた。
「そこの赤いの、容赦はしないぜ!」
「何っ!?」
「ロイ=フォッカーの腕前、見せてやる!」
フォッカーが本気になった。そしてガンポッドを連射する。
「ヌヌッ!」
北辰はそれをかわすので必死であった。フォッカーの攻撃は止まるところを知らない。
「これで終わりだあっ!」
「グオオオッ!」
そして撃墜した。瞬く間であった。
「フン、逃げたか」
だがパイロットは脱出に成功していた。そして何処かに姿を消していた。
「まあこれで厄介なのが一機消えた」
「ロイ、油断しては駄目よ」
「おいおい、またか」
「敵はまだいるってことよ。けれど新しく参加したメンバーも頑張っているわね」
「そうだな」
見れば金龍はダイアモンド=フォースを率いて戦場を駆っていた。ガムリンとフィジカが一緒である。
「フォーメーションを崩すな!」
「はい!」
「了解!」
二人はそれに頷く。そして木星トカゲに三機一組で襲い掛かる。
「行くぞ!」
金龍の言葉に従い突撃する。そしてミサイルのこうげきにより小隊単位で倒していく。彼等もまた歴戦の勇者であった。
「ひゅう、あの旦那達は放っておいても大丈夫みたいだな」
「心配なのは貴方よ」
「げ、早瀬大尉」
モニターに美人だが気の強そうな女性が姿を現わした。茶色の長い髪に軍服をしっかりと着こなしていた。
「霧生君、実戦ははじめてでしょ。油断しては駄目よ」
「わかってますよ」
「わかってますよって言っていつもわかっていないから。だから言うのよ」
「ちぇっ、大尉は厳しいなあ」
「厳しくて結構、だから変な真似はしないでね」
「はい」
霧生は渋い顔でそれに頷いた。
「それじゃあ行って来ます」
「しっかりね」
「ちぇっ、本当に何時まで経っても子供扱いなんだからな」
「霧生って実際に子供だから」
霧生のバルキリーの右横にミスティのバルキリーがやって来た。
「だから心配になって言うのよ」
「何だよ、ミスティまでそう言うのかよ」
「ミスティさんだけじゃないわよ」
今度は左横にまたバルキリーがやって来た。
「レトラ」
「私も同じなんだから」
「何か俺って女の人にそう思われ易いのかね」
「無鉄砲だからね」
レトラはそれに対してそう答えた。
「だから心配になるっていえばなるわね」
「これでもバルキリーは満足に操れるぜ」
「それでももしもがあるでしょ」
今度はミスティが言った。
「だからよ。それが嫌なら頑張りなさい」
「ちぇっ、わかったよ。じゃあ遅れるなよ」
「ええ」
「わかったわ」
二人はそれに頷いた。そして霧生の後について行く。
「行くぜ!バルキリー!」
霧生のバルキリーが敵の小隊の中に飛び込んだ。そして一気に襲い掛かる。
「片っ端から撃ち落とせ!」
ミサイルを乱射する。そして木星トカゲの一団を次々と撃墜していった。
「元気の分だけは頑張ってるみたいね」
早瀬はそれを見てマクロスの艦橋で微笑んだ。
「何時までもそうした元気が続けばいいけれど」
「一条中尉みたいにかね」
グローバルが彼女にそう声をかけてきた。
「艦長」
「おっと、これは失言だったかな」
「いえ」
だが彼女はそれは否定はしなかった。
「彼とはまた違った意味で」
「そうなのか」
「霧生少尉は何か弟のような感じがします」
「弟か」
「はい」
彼女は答えた。
「ですから一条中尉とはまた違います」
「だが君にとっては一条中尉も弟みたいなものではないかな」
「彼もですか」
「おっとと、これは失言だったか」
「艦長」
クローディアが口を尖らせる。
「人のことにあれこれ言うのはよくありませんわよ」
「ははは、クローディア君は厳しいな。だが早瀬君、気をつけたまえよ」
「何をでしょうか」
「霧生少尉のコントロールをだ。彼は確かにパイロットとしての素質に恵まれている」
「はい」
「だが名馬は扱いづらいものだ。それを上手くコントロールしないと大変なことになるからな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
「霧生少尉」
「今度は何ですか?」
「すぐにマクロスの近くに戻って。エレンディス少尉とクラウス少尉も」
「私達もですか?」
「小隊を組んでいるからね。マクロスの護衛に回って」
「デストロイドと乗り換えでもするんですか?」
「君がそうしたいというのならね。モンスターなんてどうかしら」
「ちょっとそれは待って下さいよ」
「どうしてかしら」
早瀬は霧生が自分のジョークに乗ってきてくれたので微かに微笑んだ。
「俺にはあんなでかいの乗れませんよ。あれはちょっと」
「じゃあバルキリーで真面目にやってね。いいわね」
「了解。そっちにはエステバリス隊もいますね」
「ええ」
「彼等に負けないようにしますよ」
「ほう、面白いことを言う」
「あ、ヤマダさん」
「ダイゴウジだああっ!」
ダイゴウジは霧生に本名を言われてすぐにそれを否定した。
「間違えるなっ!俺の名はダイゴウジ=ガイだ!覚えておけ!」
「けれどデータにはヤマダとありますけれど」
ミスティがクールな様子でそれに突っ込む。
「データが間違えているんですか?」
「それはないでしょ」
レトラがそれを否定する。
「クローディアさんと早瀬大尉の作られたデータがそうそう間違っているとは」
「その通りです」
「貴女は」
「ホシノ=ルリです。階級は少佐、ナデシコのクルーの一人です」
「えっ、貴女が!?」
霧生はモニターに出て来たルリの姿を認めて驚きの声をあげた。
「あのナデシコの名参謀が」
「意外でしたか?」
「ま、まあ。それでホシノ少佐」
「はい」
「ダイゴウジさんって本名じゃないんですね」
「そういうことになています。本人は必死に否定していますけれど」
「俺には心の名前がある!」
ダイゴウジはそれに対してもクレームをつけた。
「それがこのダイゴウジ=ガイなのだ!」
「そういうことですので」
「わかりました」
事情を理解した三人はルリの言葉に頷いた。
「あまり気にしないで下さいね」
「はい」
「それよりもダイゴウジさん」
「ムッ!?」
「操縦上手いわね」
「こら」
ポツリと呟いたレトラをミスティが窘める。
「敵が来ています。気をつけて下さい」
「木星トカゲか?楽勝楽勝」
「それだけではありません。あの怪しい人達も来ています」
「北辰衆か」
「はい」
アキトに答えた。
「かなり手強いことが予想されます。皆さんお気をつけて」
「了解」
「そんな奴等の一匹や二匹!」
ダイゴウジがまず飛び出た。
「俺が粉砕してくれる!」
だがここで木星トカゲの集中攻撃を受けた。飛び出た為だ。
「おわっ!」
「言わんこっちゃない」
サブロウタがそれを見て呆れた声を出した。
「ダイゴウジさん、あまり前に出ると危険だぜ」
「我々がフォローする。だからここは下がってくれ」
「チッ、わかたよ」
ナガレにも言われ渋々ながら後ろに下がる。だが敵の攻撃を一撃も受けていないのは流石といったところか。
「とにかく踏ん張るぜ、皆」
八人揃ったところでリョーコが言う。
「こんな雑魚共に手こずっていちゃあコロニー落としを防ぐなんて夢のまた夢だからな」
「コロニーが落ちたら大事ですからね」
「コロニーが落ちてコロ、と死ぬ」
「イズミ、おめえはそのつまらねえギャグを止めろ!気が抜けるだろうが!」
「それもマヤさんと同じ声ですし」
「えっ、私も!?」
ジュンの声に反応してマヤも出て来た。
「そんなに声似てるかなあ」
「僕だってアキト君に似てるって言われるし」
「俺も。けれどライトニングカウントだからいいか」
「そうかしら」
三人共話に入ってきた。
「よく言われるけれど。そんなにイズミさんと似てるかなあ」
「姿形は違えど声は同じ、うふふ」
「何か変な気分」
イズミ自身に言われ余計変な気持ちになった。マヤは複雑な心境であった。だがそうこうしている間にも戦いは続いているのである。
「マヤさん」
「あっ、何!?」
ルリに言われ戦場に心が還った。
「来ていますよ、そっちに」
「あっ」
見ればエヴァの方にも木星トカゲが大挙してやって来ていた。
「すぐに指示を下した方がいいです」
「そうね。エヴァ各機に伝えます」
すぐにミサトが動いた。
「小隊を崩さずに迎撃をするように。良いわね」
「了解」
「わかりました」
彼等は口々に頷く。そして木星トカゲへの迎撃に入った。
「危ないところだったわね。ありがと、ルリちゃん」
「いえ」
ミサトの感謝の言葉にこくりと頷くだけであった。
「気がついただけですから」
「そうなの。あとそっちに連中のボスが来ているわよ」
「はい」
どうやら既に察していたようである。
「アキトさん、対処お願いできますか」
「俺!?」
「はい、お願いします」
「何か唐突だなあ」
「アキト対敵のエースってわけ!?」
ここでユリカが出て来た。
「あ、艦長」
「いいわ。どんどんやっちゃって。私が応援するから」
「艦長は今まで通り艦の指揮をお願いします」
「わかってるわよ。男と男の勝負に入るような野暮な真似はしないわよ」
「いや、そうじゃなくて」
アキトはいつもの様子のユリカにこれまたいつも通り戸惑っていた。
「ナデシコを宜しく頼むよ、ユリカ」
「ノープロブレムよ、アキト」
ユリカはそれに対して自信に満ちた声を返した。
「私が艦長なんだから。絶対に沈んだりしないわ」
「いや、そうじゃなくてね」
「アキトさん、来ましたよ」
それを言うより早くルリの指示が来た。
「上です」
「上!?」
見上げた。するとそこにあの赤いマシンがいた。
「フン、貴様がエステバリスのエーステンカワ=アキトか」
北辰の一人はアキトを見下ろして笑った。
「見たところ普通の若者のようだな。コックでもしている方が似合うような」
「へえ、鋭いねえ」
サブロウタはそれを聞いて面白そうに笑った。
「わかってるじゃねえか、アキトをよ」
「おいおい」
それをナガレが嗜めた。
「悠長なことを言っている場合か」
「おっと、そうだった」
「だが人は外見では判断はできない。テンカワ=アキトよ」
「何だ!?」
「貴様と一勝負したい。いいか」
「断っても来るつもりだろう」
「確かにな」
彼はそれを否定しなかった。
「行くぞ。覚悟はいいか」
「俺だってエステバリスに乗ってる時はやってやるんだ!」
アキトは叫んだ。
「行くぞ!やってやる!」
「さあ来い」
男は冷静なままであった。その吊り上がった目が冷たく光る。
「思う存分相手をしてやる」
「行ってやる!」
二機はすぐに戦いに入った。まずはアキトnエステバリスが攻撃に入る。
「これならっ!」
ラビットライフルを放つ。しかしそれは北辰に呆気なくかわされてしまった。
「造作もないこと」
「クッ!」
「この程度では私は倒せはしないぞ」
「ならこれでっ!」
今度は大型レールカノンを放った。しkしそれもかわされてしまった。
「甘いな」
「レールカノンも!」
「どうやら貴様の腕自体は悪くはないようだな」
北辰は冷静にアキトのエステバリスを見ながらそう言った。
「だがエステバリスではな。私の相手となり難い」
「エステバリスを舐めるなあっ!」
アキトはそれを聞いて叫んだ。
「エステバリスを馬鹿にできるというのか!」
「できるな」
しかし北辰はそれにも冷徹に言葉を返した。
「来い。今それを見せてやる」
「何を!」
アキトは突っ込んだ。そこで北辰の杖が微かに動いた。
「ふん」
「なっ!」
それだけでエステバリスのレールカノンが弾き飛ばされた。アキトはそれを受けてすぐにラビットライフルを出そうとする。だがそれは間に合わなかった。
「こういうことだ」
「クッ・・・・・・!」
秋とのエステバリスの喉元に杖が突き付けられていた。これでは動くことができなかった。
「エステバリスは接近戦に弱い。ならばそれを突いていけばいいだけのことだ」
「アキトッ!」
ユリカが出ようとする。しかしルリがそれを制止した。
「ルリちゃん」
「大丈夫です」
ルリはそう言ってユリカを宥めた。
「アキトさんは死にませんよ」
「けど」
「殺すつもりなら杖を突き付けたりしませんから」
ルリの言う通りであった。北辰はアキトの動きを封じただけでここではそれ以上何もしようとはしなかった。
「さて、負けを認めるか」
「クッ・・・・・・」
「認めざるを得ないな。だが認めるわけにはいかない。貴様にもプライドがあるだろう」
彼はアキトの心境を見越してそう言った。
「今は勝負を預けておこう。どのみちまた会う」
「また」
「そうだ。その時にはエステバリスでは相手にはならないぞ。私も本気を出させてもらう」
「あれで本気じゃねえのかよ」
「とんでもねえ野郎だ」
ダイゴウジとリョーコがそれぞれ言う。しかし北辰はそれに構わずに戦場を離脱しにかかった。
「敵機の反応、レーダーから消えました」
ルリがクールにそう報告した。
「他の木星トカゲの機体も撤退していきます」
「去ったということか」
ブライトはそれを聞いて一言そう呟いた。
「今回は様子見ということか」
「おそらくは」
ルリがそれに答える。
「ただ、今回の大規模な攻撃で一つわかったことがあります」
「それは?」
「ネオ=ジオンにあるのはモビルスーツだけではないということです。そして彼等と結託している可能性のある勢力が存在しています」
「それは」
「それが何かまではまだわかりませんが。ただ強大な勢力であることだけは間違いないでしょう」
「またかよ」
甲児がそれを聞いて顔を顰めさせた。
「もう新しい敵は勘弁して欲しいぜ」
「あら、そうかしら」
だがさやかはそこにからかい半分に言葉を入れた。
「甲児君は戦えればいいんじゃないの?」
「ちぇっ、まあそうだけれどよ」
「地上にも敵は山程いるんだから。頼むわよ」
「何だかんだ言って甲児君はうちのエースだからな」
大介も言った。
「期待しているよ」
「いやあ、大介さんにそう言われると」
かなりあからさまなお世辞ではあったがまんざらではないようだ。
「俺も張り切らなくちゃな」
「張り切っていつもみたいに失敗しなければいいがな」
「甲児君ってそそっかしいから」
「鉄也さん、ひかるさん」
甲児はそれを聞いて渋い顔をした。
「ちょっとは俺を信用してくれよ」
「ははは、済まない」
「けれど頼りにしてるわよ」
「もう遅いよ」
「さてと」
ブライトは時計を見ながら言った。
「そろそろ時間だ。各機母艦に入れ」
「了解」
「わかりました」
宇宙に行く者達はそれに従い次々と母艦に入った。それを確認した後でグローバルがブライト、シナプス、そしてユリカに対して声をかけてきた。
「ではいいかね」
「はい」
三人の艦長はそれに頷いた。グローバルはそれを確認した後で言った。
「では行くぞ、宇宙へ」
まずはマクロスが飛び立った。そしてそれに続いて三隻の戦艦が。彼等は悠久の銀河に向けて飛び立ったのであった。
「行ったか」
「ああ」
上を見て呟くピートに対してサコンが頷いた。
「これからが大変だろうがな」
「そうだな。ところでさっきの連中だが」
「木星トカゲか」
「そうだ。奴等は宇宙で一度出ていたそうだな」
「ホシノ少佐の話ではな。その時は前の戦いで残っていたのをバームが使っていたそうだが」
「では今回もバームがか!?」
そこにサンシローが入ってきた。
「だとしたら厄介だぞ。ネオ=ジオンとバームが手を結んだとしたら」
「いや、それはないだろう」
それはリーが否定した。
「リヒテルはどうもそうした男じゃないようだ」
「そうだな」
ピートがリーの言葉に頷いた。
「あのリヒテルという男は敵ながらかなりの潔癖症で己の倫理に五月蝿い。地球人とは間違っても手を組んだりはしないだろう」
「そうですね」
ブンタもそれに頷いた。
「彼はそんなことはしないと思います」
「そうか」
「それよりもっと危険かも知れないぞ」
「そりゃどういう意味だ?」
ヤマガタケがサコンに問うた。
「これは俺の仮説だがな」
「ああ」
他の者もピートの言葉に耳を傾けた。
「木星か何処かの勢力とネオ=ジオンが結びついているのかもしれん。木星トカゲを持っている勢力がな」
「木星か」
彼等はそれを聞いて考えを巡らせた。
「それは有り得るな」
「そうですね。前の戦いでシロッコはティターンズに戻りましたけれどまだ木星にいる勢力があるかも」
「その可能性はあるな。そして火星も」
「博士」
大文字もやって来ていた。
「火星はあの戦いの後連邦軍の軍政下に置かれていたな」
「はい」
「草壁中将が指揮するな」
「あの人だったら問題はないと思いますが」
彼は連邦軍では温厚で真面目な人物として知られている。将としても有能だと評判であった。
「だが最近連絡がとれないようなのだ」
「何っ」
「まさか」
「ギルトール将軍の例もある。まさかとは思うがな」
「まさか中将はネオ=ジオンと手を結んだとか」
「あの人が」
「可能性は否定できない」
それが大文字の返答であった。
「まだ確証は得られないがな」
「そうですか」
「だがそうだとすると我々はまた一人強敵を向こうに回したことになる」
「宇宙に行った奴等、大丈夫かな」
「それは彼等で何とかするしかないな、残念ながら」
「ああ。だが俺達のところに来たら遠慮なくやらせてもらうぜ」
「当然だ」
サンシローの言葉に頷いた。彼等もまた戦いに思いを馳せるのであった。
地上に残った者達は南アタリアから太平洋上のオルファンに向かった。そしてそこでオルファンの調査及び警戒にあたることとした。
ロンド=ベルの三隻の戦艦とマクロスが宇宙に出たのはネオ=ジオンにも伝わっていた。ハマーンはそれをアクシズにおいて聞いていた。
「やはりな。予想通りと言うべきか」
「如何なされますか」
彼女の前にイリアがいた。そしてハマーンに問うていた。
「マクロスまでいます。厄介かと思いますが」
「構わん。予定を変更することはない」
それがハマーンの答えであった。
「デラーズ中将に伝えよ。このままコロニー落としを続けるようにとな」
「わかりました」
「だが護衛部隊の増援は必要だな。火星の後継者達は先程アタリアに攻撃を仕掛けていたな」
「はい」
「彼等にも回ってもらうか。だが北辰衆はこちらに戻ってもらう」
「何故でしょうか」
「あの者達は信用できん」
そう答えるハマーンの顔が険しくなった。
「腹の中に何かあるかも知れぬ。油断するな」
「はい」
「彼等にはティターンズに向かってもらおう。シロッコへ向ける」
「シロッコにですか」
「毒を以って毒を制すということだ」
ハマーンの目がさらに険しくなった。
「よいな。彼等は毒だ」
「はい」
「毒は毒の使い方がある。もう一つの毒もな」
「もう一つの毒!?」
「あ、いや」
だがハマーンはここで言葉を濁した。
「何でもない。気にするな」
「わかりました」
「それでゼクスにはコロニーの方へ回ってもらいたい」
「ライトニングカウントもですか」
「ヒイロ=ユイもいる。おあつらえ向きだろう」
「ですが彼もまた」
「少なくともあの男は毒ではない」
イリアの言葉を遮るようにしてそう述べた。
「我等にとってはな。そして彼等にとっても」
「彼等にとってもですか」
「そうだ。毒ではない。それはわかるな」
「はい」
しかしこの時イリアはハマーンの言葉の意味を少し取り違えていた。彼等とは何であるのかを。あえてはぐらかせたハマーンの話術であった。
「この作戦に我等の第一段階がかかっている」
「はい」
「その次に地球に降下するぞ。目標はアフリカだ」
「了解しました。中央アジアにいるギガノス、ヨーロッパにいるティターンズに対抗する為にも」
「頼むぞ。御前にも行ってもらうからな」
「マシュマー殿やキャラ殿もでしょうか」
「無論だ。そしてグレミーやラカンにも行ってもらう」
「了解しました」
彼女は己の手勢を全て地球に送り込むつもりであった。
「後で私も行くことになるだろうからな」
「ハマーン様も」
「ミネバ様と共にな。連邦の腐った屍達に我等の正当性を見せつけるのだ」
「ですがそれは」
「私が今まで過ちを犯したことはあるか?」
諫めようとするイリアを見て自信に満ちた笑みを浮かべた。
「あれば遠慮なく申し出てみよ」
「いえ」
イリアはそれに対して首を横に振った。
「ハマーン様に限ってそれはありません」
「ふふふ」
彼女の待っていた答えであった。彼女は自信に満ちた笑みをたたえ続けた。
「私の手でザビ家は復活するだろう。ミネバ様を頂点とするな」
「はい」
「その時は近い。イリア、御前にも思う存分働いてもらうぞ」
「御意」
イリアは彼女に対して敬礼した。そしてその場を後にした。ハマーンが一人広い部屋に残る形となった。
「デラーズ、そしてガトーに任せておけば問題はないか」
彼女は星の大海を見ていた。そしてその彼方にある遥かな戦いを見据えていた。
「失敗すればそれはそれでやり方がある。どう転んでもネオ=ジオンに損はない」
アクシズからも無限の星達が見える。それはまるで無数の戦士達の魂のようであった。
「シャア」
だが彼女は突如として別の名を呟いた。
「私と共にいればいいものを。ザビ家を理解できる愚か者よ」
どういうわけかその声には苦いものが混ざっていた。
「だがよい。どのみち私にとって男は不要。セラーナ」
別の名を呼んだ。今度は女のものであった。
「御前にかって言われたことか。ふふふ」
ハマーンもまた戦いに身を置こうとしていた。また一人巨大な人物が歴史において動こうとしていた。人の世界は彼等によって大きく揺れ動こうとしていた。
第三十六話 完
2005・8・1
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