カンピオーネ!5人”の”神殺し
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一部
プレゼント
【SaintSatan号】。日本に生まれた四人の羅刹の君―――カンピオーネ―――の中心的存在である、名護屋河鈴蘭王が、自身の権能【無限なるもの】を最大限に駆使して創った、豪華客船である。
・・・この船は、一見普通の豪華客船に見えるが、その実態はトンデモナイ代物である。
何しろ、まずその素材が有り得ない。
ミスリルにホーリーミスリル、ヒヒイロカネにダスマスカス鋼、エオル鋼にオリハルコン、果ては、それらの合金や世界樹まで。この世に現存するかしないかすら関係なく、思いつく限りの希少物を材料にし。
更には、それを独自の理論で設計し、組み立てたのは伊織魔殺商会が世界に誇る最凶最悪のマッドサイエンティスト、ドクターである。
例え上級神の攻撃を受けたとしても、ほぼ完全に衝撃を受け流すその防御力に、神獣にすら十分通用する主砲である超電磁砲の攻撃力。そして、創った当事者である鈴蘭ですら知らない秘密の兵器や装備が、暴走したドクターの手により至るところに隠されていた。
その総スペックたるや、世界全土を敵に回してもなお互角かそれ以上と言ってもいい程で・・・・・・現代に生まれた、『宝具』であると言っても過言ではない代物であった。
☆☆☆
さて、そんな船の先頭で、満天の星々に包まれながら、ワイングラスを片手に潮風に当たっている美女がいた。
一目で最高級品だと分かる真っ赤なドレスは、しかしその美女の引き立て役にしかなっていなかった。サラサラとした長い金髪は、彼女の後ろで開かれている盛大なパーティーの光を受けてキラキラと輝き、その美貌を更に美しく見せている。その優雅な立ち姿は、どこかの王侯貴族であると言われても十分納得出来る姿であった。
その女性に、背後から近づく影があった。
その影は、ゆったりとした動きでその女性に近づき、その肩にカーディガンを掛けた。
「姫様、あまりお体を冷やされないように。」
「有難うミス・エリクソン。・・・でもね、こんな素敵な日くらい、幸福の余韻に浸らせてくれてもいいんじゃないかしら?」
美しいプラチナブロンドのその女性は、アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァール。『プリンセス・アリス』、『白き巫女姫』などと呼ばれる女性である。賢人議会の前議長であり、現在は特別顧問を勤めている、『天』の位を極めた世界最高レベルの魔女である。しかし、その強大な能力の副作用なのか、生まれつき体も弱く・・・数年前に起きたある事件で致命的に体を壊し、動くことさえ困難な体の筈であった。普段は、幽体離脱を使用して外に遊びに出ていたりしていたが、その際には念動力さえ駆使して普通の女性に見えるように振舞っているという、変な方向に器用な女性である。
彼女は、ミス・エリクソンのお小言によって害した気分を立て直そうと、その手に持ったワインを一口口に含んだ。
そう、飲んだのである。以前までならば霊体が故に飲食が出来なかった筈なのに!つまり、飲食が出来るということは、この身は実体ということになる。
「・・・本当に、素敵な夜です。私、こんな日が来るとは夢にも思っていませんでした。鈴蘭ちゃんには、感謝してもしきれないですね。」
「姫様・・・。」
事は、鈴蘭が賢人議会に直接乗り込んだその日に起こった。彼女との交渉役に選ばれた男性を、容赦なく泣かせて自身の権能の情報の代金を奪い去った鈴蘭は、その足で観光をし始めた。―――余談だが、鈴蘭来訪の報告を聞いて、戦おうとしたカンピオーネが二人ほど存在したそうだが、何分突然だった事で準備が遅れ、準備が整ったときには既に鈴蘭は日本へと帰ったあとだった。
さて、気の赴くままに観光をしていた鈴蘭は、そこで少し違和感を感じた。まるで、そこに居るのに居ないような。存在感が特殊なのだ。
興味を惹かれた彼女がその気配を探すと、そこにはプリンセス・アリスの姿があった。彼女は、持ち前の好奇心に突き動かされて、鈴蘭のことを見に来ていたのだった。―――後々ミス・エリクソンには大層叱られたそうだ。いくら彼女の魔女としての霊視と直感で、鈴蘭は悪い人間ではないと確信していたとしても、カンピオーネと不用意に接触するなど言語道断。しばらくの間は、幽体離脱すらさせてくれなかったとか。
さてさて、元々フットワークの軽く、好奇心が旺盛な二人だ。鈴蘭は自身が尾行されていたことにも怒らず、アリスとの会話を楽しんだ。アリスも鈴蘭も、お互いに相性の良さを感じ取ったらしく、出会って一時間もしないうちに親友とまで呼べる関係になっていた。
そこで鈴蘭は聞いてしまったのだ。アリスの秘密を。彼女の体は既にボロボロで、動くことすらマトモには出来ないと。
それを聞いて黙っていられるような彼女では無かった。直ぐに魔殺商会へと転移して、ドクターとリッチを力づくで連れ出した彼女は、アリスの本体が眠る賢人議会へととんぼ返りしたのだ。
・・・まぁ、賢人議会は阿鼻叫喚の騒ぎになったのだが。何しろ、鈴蘭と共に、神にすら匹敵する骸骨が目の前に現れたのだから。同時にそれは、『【聖魔王】鈴蘭には神々に匹敵する仲間が複数存在する』という噂を完全に裏付ける自体となった。
この三人が合わさって不可能なことなど存在しない。何しろ、ドクターとリッチは既に『死者の蘇生』などという奇跡を成功させている。そこに、『何でも創れる』鈴蘭が加わっているのだから、文字道理不可能など存在しない。たったの数時間で、この三人は『神の雫』を完成させてしまった。
神話の中にしか存在しないと思われていた最高の霊薬。流石に不老不死の効果までは付けなかったが、その効果は絶大であった。
弱りきっていたアリスの体は見る見るうちに活性化し、どこから見ても完全な健康体へと変化していったのだ。
この事に泣きながら感謝したアリスに、鈴蘭は告げた。
「本当に感謝しているなら、私のことは鈴蘭って呼んで欲しいな。もしくは鈴蘭ちゃんとか、鈴ちゃんでも可。親友から他人行儀に呼ばれるのって、結構辛いんだからね?」
そして、彼女は言ったのだ。
「アリスが健康になったお祝いに、最高のプレゼントを用意してあげる。だから、その時になったら、一緒に行こうね。」
こうして、彼女たちの短い出会いは終わった。そのあと彼女は、自身の能力をフルに使って、この豪華客船を作り上げる事になる。・・・そう、この船旅は、彼女からアリスへのプレゼント。親友が元気になった、ただのお祝いだったのだ。
「本当に、不思議な人ですね彼女は。ふふっ・・・!彼女といると、どんなに辛い時でも一瞬にして楽しくなってきちゃうんだから!」
「・・・そうですね。」
そんな彼女と、彼女の隣で苦笑するミス・エリクソン。二人の視線の先には、沢山の人間やそれ以外の魔人などに囲まれて笑う、鈴蘭の姿があった・・・。
後書き
アリス好きなんですよ。鈴蘭と同じくらいに好きです。好きなので登場させたかったんですが、苦しんでいる姿を書くのは嫌だ。だったら健康にしちゃえばいいじゃない!という発想でした。
そういえば、感想で書いてくれた方もいましたが、この世界の鈴蘭は十五の負位置の魔導力を失っていません。だって、アペイロンの権能があるもん。無限の呪力、魔力を供給可能なこの権能で、マリアクレセルに代償を支払っています。・・・まぁ、だからどうしたって話しなんですけどね。無限の力と無限の力が合わさり最強に見える・・・。
ページ上へ戻る