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カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
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第一部
  バカンスの行き先

 それは、やはりというか何というか・・・何時もの如く鈴蘭の一言が原因だった。

「さあ!バカンスに行こう!」

 突然叫びだした彼女を冷ややかな目で見つめているのがリップルラップル。バカンス=美味いもの食い放題という考えが根底にあるみーこは鈴蘭の考えに賛成なようだ。お祭り好きのカッコことヴィゼータも喜んでいる。フェリオールは既に諦めの境地にあるようだ。

「・・・キミが唐突に言い出すのはいつものことだから良いとして。何処に行くつもりなんだ?リゾート地でも行くのか?それとも、無人島でも買ってゆっくり遊ぶのか?」

 貴瀬も彼女の奇行には慣れたもので、冷静にバカンス先を決めようとしていたのだが・・・

「チッチッチ。ご主人様。ご主人様にしては考えが小さいじゃないですか。」

 若干呆れたような顔をしながら首を振る鈴蘭。いや、無人島を買い取るという答えが速攻で出るあたり、結構凄いと思うのだが・・・

「キミ・・・今日は一段とテンションが高いな。何かいい事でもあったのか?」

「よくぞ聞いてくれましたぁ!!!」

 テンションが振り切れた鈴蘭は、叫ぶと同時に指をパチンと鳴らし・・・

「ドクター!カモン!!」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン!!皆のアイドル登場なのさ~~~!!!」

 突然の爆発と共にそこに現れるドクター。機嫌の良い鈴蘭とドクターが並ぶときは、大抵トンデモナイことをやらかすので警戒しだす全員。

「さぁ、これを見よ!!!」

 丸めた大きな紙を手の中に召喚し、それをテーブルの上に叩きつける鈴蘭。

「これが、私とドクター、そして百人の覆面連中で一週間かけて作り出した、その名も【SaintSatan(聖なる魔王)号】だ!!!」

 そこにあったのは、超巨大な豪華客船。現在世界最大の豪華客船である、アメリカのオアシス・オブ・ザ・シーズ号にすら劣らない巨大さ。全長約340m、幅約60m、高さ約70m。しかも、それだけの巨大さでありながら、総重量はオアシス・オブ・ザ・シーズ号の約半分である11万2000トン。

「は、はぁああああああああ!?」

 彼女たちの奇行には慣れていたつもりの貴瀬でも、流石にコレは予想していなかった。

「き、聞きたい事は山ほどあるが・・・何故これだけの大きさでこれだけ軽い!?手抜きとかじゃないだろうな!?タイタニック号の5倍近い大きさなんだぞ!?この資料の通りなら、各種レジャー施設すらも完備してこれじゃ可笑しいだろ!?これだけの軽さで、ちゃんとした航行ができるんだろうな!?っていうか一週間でこれだけの物を、俺たちに内緒で創ったのか!?」

 尤もな意見を言う貴瀬だが、この場においてはそれは悪手だった。

「ククククク・・・。ご主人様。頭が固いですねぇ・・・。ここに居るのを誰だと思っているんですか?」

 その言葉に、一瞬だけ考え込み・・・『あっ・・・』という声が全員から発せられた。

「材質はほぼ全部にオリハルコン!動力部などにはヒヒイロカネを使用し、主砲にはオリハルコンとミスリルの合金を使用したドクター謹製の超電磁砲(レールガン)を採用しています!更に、ドクターが新しく考え出した、効率的に浮力を得られると同時に、ほぼ全ての衝撃を逃がす構造をしているんです!」

 そこで鈴蘭が一旦言葉を切り・・・

「キャッチコピーは、『これで神が襲ってきても大丈夫!世界初の耐神構造(たいしんこうぞう)!』です!!!」

 ドクターと共にキャッチコピーを叫んだ。

 これ以上ない位のドヤ顔で胸を張る二人。あまりの出来事について行けずに固まる周囲。彼らの温度差は、南極と太陽くらいの差があった。

「ぜ、全部にオリハルコン?」

「そう。」

 フェリオール思考停止。

「オリハルコンとミスリルの合金?」

「そう!ドクターの新技術!!神代(しんだい)ですら存在しない、正真正銘世界初の全く新しい金属なんだよ!!!」

 リップルラップルとみーこの思考も停止。

耐神構造(たいしんこうぞう)なの~?」

「其のとおりなのさぁ!!流石に、【剣の王】みたいな概念付加系は無理だけど、大抵の攻撃なら、例え上級神の攻撃でも完全に防ぎきるよぉおおおおおおおお!?こんな無茶な構造に出来たのも、最強最高の金属であるオリハルコンが無尽蔵にあったからなのさ!!間違いなく今は、歴史上最大の、『希少物飽和時代』なのさぁあああああああ!?」

 今まで作りたくても材料が希少すぎて作れなかった代物。アイデアだけは沢山あったそれらを、好きなだけ創れるようになったドクターのテンションは最高潮だ。・・・というか、オリハルコンやらミスリルやらは、科学社会に出したらそれだけで科学技術が十歩も二十歩も進むような、人類にとって夢の金属なのだが、今のところは表の世に出す気は鈴蘭にはない。

 自然界からは絶対に産出しない物質なので、一度表に出してしまうと、鈴蘭はそれを作り続けないといけなくなる。それ自体は別に構わない。金さえ払ってくれるのなら、無限に作り続けるだろう。・・・しかし、問題は彼女が何らかの問題でこの世にいなくなった時だ。材料を作れるのはこの世で彼女ただ一人なのだから、彼女が消えれば当然衰退する。急激に進化しすぎた物は衰退するのもまた早いので、やっぱり段階を踏んで進歩していくのが良いと思っているからだ。

「そ、それで、結局どこに行くつもりなのだ?・・・こんな無茶な物まで創って・・・・・・。」

 その空気を払拭しようと、最初の話題に戻る貴瀬。

「どこ?だから、全部ですよ全部。」

『はぁ?』

 流石に意味が分からなかったようで、リップルラップルですら首をかしげている。

「知り合いを全員誘って、世界一周旅行しましょう!好きなところに行って、好きなように遊んで、好きなように食べるんです!休みが取れない?そんなもの、カンピオーネの権限使えば楽勝ですよ!っていうか、嫌って言っても強制です!」

 これ以上ないほど楽しそうな鈴蘭に、貴瀬は突っ込む。

「いやいやいや、一体それは何ヶ月かかる旅行なんだ!?それはバカンスと言っていいのか!?っていうか、その間に日本にまつろわぬ神が来たらどうするつもりなんだ!?」

「はぁ?」

 今度は、鈴蘭が不思議そうな顔をした。

「何言ってるんですかご主人様?世界中何処に居ようが、私なら一瞬でしょうが。」

『あ・・・成程。』

 皆揃って納得した。

 普通、空間転移という魔術は飛んだ距離の分だけ呪力を消費する。それは、たった数kmの転移でも膨大な量を持っていかれるほどで、この魔術が超高難易度魔術と言われる理由の一つだ。・・・が、鈴蘭にはその常識が通用しない。それこそ、商品の配達を空間転移でするほどなのだから。

「これで問題は解決!つまり、私さえ居れば、何年どこにいようと何の問題も無し!魔殺商会の社員連中も全員連れて、いざ!バカンスへ!!」

 こうして、【魔界(日本)】に住む四人の魔王は【魔界(日本)】を離れ、ほかの土地に騒動を引き起こしに旅立ったのだ。

 
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