自由気ままにリリカル記
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十話~行き詰ったら、休憩です。~3月24日修正
「……これも駄目、か」
足元には半径50センチの円があり、その中に○がいくつか描かれてあり、更にそこには日本語でない謎の文字がミミズ文字のように書かれてある。
まあ、これは俺が描いた簡易的な物でない呪いを作る時の魔法陣なのだが、そのついさっき描いた魔法陣の下には俺が異世界で手に入れたそれなりに名剣だった物がある。
それなりに強い戦士を実力で倒してかっぱらった物だ。特になんの未練もない。
今俺は呪いのブツを作るための魔法陣に魔力を注ぎ込んでいた。
魔力量はこの前ジュエルシードを手に入れて家に持ち帰ったため、全く問題は無い。
だが、媒体である布にジュエルシードから魔力を流し込んでいくとどうだ?
灰になるのではなくて破裂したじゃないか。
それはつまり布があまりもの魔力の多さに耐えきれなかったということを示している。
これは予想外だ。まさか呪いのブツを作るのに、依代の質もよくしなければならないとは。
さて、これは困った。今まで物にはこだわってこなかったから失敗品をいくらでも作る事が出来たのだが、レアな物が必要となると少し厄介だ。
一応異世界では親友とともに手に入れ得る限りの武器を買い、拾い……時には奪い、などしながら魔王討伐に向かったため、武器は大量にある。
だから一番物の出し入れが簡単な俺が空間魔法を使い大体の武器を保管していたため、レアな装備やアイテムを多く持っているのだ。
まあ、人を蘇生出来るようなものは持っていないが……レアな装備やアイテムだけでざっと、200はあるだろう。
……なら、異世界での希少性を基準にして段階的にレア度を上げていくか。
まずは媒体に魔力を流し込んでも破裂しないような名剣にすればどうだろうか?
その結果がこれだ。
最初はただのミスリル製の長剣。魔力伝導性が高いそれならいけるかと思ったが、30分程流し続けても呪いが成立する兆しは見せず、むしろ媒体の方が負けて粉々に弾け飛んだ。
それからはアダマンティウム製の籠手、切った場所から発火する魔法剣、幻獣の毛で編まれたマント……等々、少しずつ媒体としての価値が高いものに替えていったのだが、どれも上手くいかず一つ残らず使い物にならなくなってしまった。あのマントは異世界で売れば軽く三年は遊んで暮らせる代物だったんだが……。
そして今砕け散ったのが、かつて――俺達が倒す前の――魔王を単身で殺したと言われる英雄の怨念が宿った大剣。
真っ赤な血管のようなものが刀身に浮き出ており、まるで生きているかのようにビクンビクンと脈動している。
また、何故怨念なのかと言われれば、実はバトルジャンキーだった英雄が長旅の末に魔王を己の腕一つで斬り殺し、それでも英雄は満足せず、まだ暴れたいがためにどうやってしたのかは分からないが、謎の方法で自らの愛剣に魂を刻み込んだため、この大剣は最早英雄の意志―――戦いたいという意志のみ―――が宿っている。
だから、これを不運にも手にした者は一瞬で意識を英雄に乗っ取られ、周りを皆殺しし始め、ふと目が覚めた時には周りは血の海という傍迷惑この上ない呪いの効果が付いてるからだという冗談のような本当の話があったりするからである。
勿論、呪いの武器にカテゴライズされている。
では、何故俺は何の問題も無く扱えているのだという話になるが、元々この剣と俺は一度も直接触れ合っていないのだから意識を奪われなくて当然だ。
手袋である左手で常に触れば実際に大丈夫だったのだから仕様が無い。
これは俺の持っている武器の中でも突出して異質で、レアな武器だったため、他の武器に比べ、流し込まれる膨大な魔力に耐えて後少しで呪いが成立するとでもいうかのように薄紫色の光を放ち始めた段階で、バン、だ。
爆発する寸前に歴戦の猛者のような顔の男がかなり恨めしそうな顔が見えた気がする。
その瞬間に隣で興味深げに俺の実験の様子をアリシアが見ていたなら一瞬で俺の中に逃げ帰る程ビビっただろうが、残念ながら現在アリシアはリニスに憑いて移動している。
最近はよくリニスに憑いてどこかに行くことが多いが何をしているのかは教えてくれない。
「しかし…………。ふむ……」
正直に言おう。詰まった。
今まで数十回の実験から見るに呪いの媒体としては呪いの武器を使えばかなり相性が良いことが分かったが、残念ながらあの大剣が俺が唯一保存している呪いのブツにして、あの世界で五本の指に入るレベルのヤバい武器だった。
つまり、俺の持ち物であれ以上の結果を出せる媒体は無いし、あれ以上にレアな武器を持っていないことも無いが、どれも五十歩百歩。と言ったところだ。
「さて、どうしよう。これはまじでヤバいんじゃないか? 管理局が地球に来る前に呪いを完成させないとジュエルシードを持っている言い訳が出来ねえぞ?」
いや、本当まじでどうしよう。
さっきの大剣の時に適当に俺の体にも制約を付ければ成功したのかもしれないが、今となってはそれも無理だ。
それ以前にどうやって管制人格に渡すんだよ。これ持ってると人間になれるから持ってて? 持った瞬間に意識が乗っ取られるわこの野郎。
こうなったら神頼みならぬ、転生者頼み? 誰かが気まぐれに助けてくれるかもしれない結果をただ博打のように待つのか?
いや、それも駄目だ。そんな成功するかどうかも分からない事なんてしたくない。
『あの、マスター』
あれも駄目。これも駄目。と、俺がうんうん唸っているとさっきまで黙っていたルナが急に話しかけてきた。
「なんだ? ルナ。今は少し考えるのに忙しいんだけど」
『いえ、先ほどの質量兵器で今日の実験は既に37個です。もう今日は休まれてはどうでしょうか? マスターも少しは休憩しないと成功出来るものも出来ないかもしれませんよ』
「いや、でも時間があまりないし……」
『それならこうしましょう。ずっと同じ場所にいても気が滅入るだけですし、新しい考えも思いつきません。明日、温泉に行きましょう』
「温泉、かあ。そういえば月村も明日から温泉に行くって言ってたな」
『それです! 丁度良いからそこに行きましょう! 偶には温泉に入ってみたいです!』
ルナの言葉に賛同する素振りを見せた途端に点滅がいつもより激しく、より明るくし始める。どうやら相当喜んでいるようだが、その欲望を隠す気が微塵もないその姿に思わず溜め息が出てしまう。
それが本音か。
まあいいか。確か……温泉に行ったその場所で高町とフェイト・テスタロッサが二度目の戦いをしたよな。一度目は見る機会が無かったから知らないが、多くの転生者達が介入しているんだ。下手したら殺人沙汰が出ても可笑しくない。現に高町が初めて魔法少女となったその日、津神は他の転生者を狙っていたからな。それも転生者目掛けて射出された武器一つだけで家が全壊になるのだから。それ程にキラキラ転生者達の攻撃は実力に見合わず危険だし、津神以外の転生者達が何を信条に行動しているのか分からない。
だから一応フェイト陣営と高町陣営の戦力差と戦い方を見に行くと同時に転生者達の行動も逐一観察しておいた方がいいかもしれない。
「ああ、そうだな。それじゃあ明日行こうか」
幸いなことに無駄遣いを出来るだけ避けたお蔭でお金は十分にある。
……後の問題はどうやって月村達に会わないようにするかだな。
もし出会った時に、一旦断ったくせに何来てんだよ。みたいな目で見られた時の気まずさはねえよ。と思う。
そうだな……いつの間にか制服に取り付けられていた発信機は破壊したし、後は見つからないように全力で影を薄くしてれば問題はないか。多分夜遅くにでも風呂に入れば問題無いよな?
『(嗚呼……。マスターが今フラグを建てた気がする。……ですが、マスターの場合フラグを木端微塵にへし折るからあまり役に立たないんですよね。こういうのも)』
「ん? 何か言ったかルナ?」
『いえ、何も言っていませんよ?』
「? そうか……」
翌日、ネットで調べた温泉にバスと電車を経由して辿り着くと、高町家で見たような気がする車が駐車場にある。
既に宿の方には入っている、と。
そこで俺も一泊二日で宿に泊まるが、泊まる際にこの年齢の所為で受け付けの人とちょっとしたトラブルがあったのはしょうがないと思う。せめて青年の姿にでも変体してくれば良かっただろうか。
魔力を大量に使うからあまり変体はしたくないんだが……。
『マスター! 早く温泉に入りましょう!』
「別にそれは良いけどさ。ルナって温泉に入れるの? っていうかルナって性別上女になるんだがそれでも男湯に入るのか?」
『むぐ……。その問題がありましたか……、いえ! 問題ありません! むしろ楽園です!』
「何が楽園だ。そんな事を言ってると温泉には入れねえぞ?」
『そんな理不尽なあー』
「しっかし、今考えればリニスに見た目上親代わりしてくれと頼めば何とかなったと思うんだけど。……最近のリニスは妙に忙しそうだからそれも無理だったか」
『……そうですね。今日の温泉にも用事があるので行けませんと申し訳なさそうに言っていましたが、一体何をしているのでしょうか。随分と肩が重そうにしていましたし……っは! まさか……エステ!? 日頃の疲れを癒すために一人でエステですか!? 私を置き去りにして!』
「んー……まあ、特に考え過ぎだろ。とりあえず温泉に行こうか」
『はい!』
脱衣所にて浴衣を脱ぎ、そして思う。
手袋は外すべきなのだろうか。
温泉、というか入浴のモラルで言えば衣服を着て入るべきではないだろうが、この手袋を外しても大丈夫なのだろうか。深夜なら躊躇なく外しただろうが今は昼。そこまで人はいないだろうが、それでも何人かは温泉にいる気がする。
数分間マッパで考える。好い加減にしろとばかりにチカチカと胸元に掛けているルナが
光るが、無視して考える。俺のこの左手はある意味ではポリシーのようなものである。……まあ、吹けばどこかに飛んでいってしまいそうな程度のポリシーだが、それ以外の理由でもにこの左手の手袋は外したくないものなのだが……。
っま、どうにでもなれ。
そう思い俺は左腕の布を抜き取った。
その時、やっとか……。とでも言いたげなように一度だけルナが淡く光った。
後書き
ぶっちゃけここは加筆修正しなくても良かったかな。と思ったり。ほとんど物語上変える要素は無くてアリシアの行動と辻褄合わせくらいしかしませんでしたし。
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