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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第四話 聖戦士

                      第四話 聖戦士
 王都ラングランを解放したラングラン軍はまずそこで戦力を再編成した後軍の主力を東に向けることとなった。当然ながらその基幹戦力は魔装機であった。
「また出番か」
 タダナオは上機嫌でジェイファーを見上げていた。
「嬉しそうね」
 隣にいるリューネが問う。
「何かピクニックに行くみたいじゃない」
「そういうわけでもないさ」
 彼はそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「ただこの機体に乗るのが楽しくてな」
「楽しいの?」
「ああ」
 彼は答えた。
「やっぱりロボットに乗るのはいい。昔からな」
「連邦軍にいた時から」
「そうだな。あの時からその時が一番楽しかった」
 語るその目がにこやかなものとなっていた。
「いつも張り合っていたしな」
「張り合った?」
 リューネはその言葉に反応した。
「連れがいてな」
 タダナオはそれに答えた。
「ガキの頃からの。そいつとは士官学校でも連邦軍でも一緒だった」
「そうだったんだ」
「そいつとは部隊も同じだった。それでいつも競争していたんだ」
「つまりライバルね」
「そういうことになるな。だが決して仲は悪くなかった。喧嘩はよくしたがな」
「親友ってところかあ」
「そうだな。そうかも知れない」
 語るタダナオの目が温かいものとなっていた。
「今連邦軍にいるだろうな。どうしているやら」
「案外ここにいたりして」
「まさか」
 それを聞いて苦笑いに戻らざるを得なかった。
「それはないさ、絶対にな。今も俺が帰るのを待っているだろうな」
「ふうん」
「何せ俺には借りがあるからな、あいつは」
「借り!?」
「ああ。喧嘩で勝ったんだ。ここに来る前の日にな。それだ。次の日俺をぶちのめしてやるって言っていたんだ」
「喧嘩の理由は!?」
「大したことはないさ」
 そう前置きした。
「アイドルのことでな」
「アイドル!?」
「そう、リン=ミンメイとミレーヌ=ジーナスどっちが可愛いかってな」
「・・・・・・何か下らない理由で喧嘩してるね」
 いささか呆れた声であった。
「あんた達」
「馬鹿を言え」
 タダナオは語気を少し荒わげた。
「俺にとっては重要なことだ。ミンメイの方が可愛いに決まっている」
「まあミンメイのことは知らないわけじゃないけれど」
「そうなのか」
「マクロスにもいたことがあるからね」
「先の戦争でか」
「ああ。確かに可愛いね」
「そうだろう。だがあいつはミンメイを年増だと言ったんだ。ミレーヌの方がいいと」
「ミレーヌのことは知らないけれど」
「そうか。けれどまだ小さな女の子でな。あいつは若い方がいいと言うんだ」
「好みだからね」
「それで俺は言ってやった。女は大人になってからだ。それでこそ本当の素晴らしさが醸し出されるってな」
「あんた年上が好みなんだ」
「そうかもな。あいつは全く逆だ」
 いささか憮然としていた。
「それから口論になり殴り合いになった。最後は俺の拳が奴の顎を撃った。それで決まりだった」
「で、次の日に雪辱を晴らすってことになったのね」
「ああ。だけどそれは伸びちまっているがな」
 彼は残念そうにそう答えた。
「それだけは何とかしたいな」
「あ、二人共ここにいたんだ」
 後ろから二人を呼ぶ声がした。
「ん!?」
 タダナオはそちらに顔を向けた。すると急に身体が硬直した。
 そこにいたのは紫の短い髪と同じく紫のミニの袖のないワンピースに身を包んだ女性であった。顔立ちは整い、その紫の瞳が印象的であった。
「あ、セニア」
 リューネは彼女の名を呼んだ。
「セニア・・・・・・」
 タダナオはその名を繰り返した。
「一体どうしたの?」 
 だがリューネは彼に目を向けずセニアに声をかけた。
「お呼びよ、兄さんから」
「殿下から」
「ええ、次の作戦のことでね。すぐに王宮に向かって」
「了解」
 リューネは答えた。
「タダナオ、じゃあ行きましょう」
 ここでタダナオに顔を向けた。だがそこで異変に気付いた。
「タダナオ!?」
 彼は完全に硬直していた。そして顔も紅潮したものとなっていた。
「どうしたのよ」
「あ、ああ」
 リューネに問われてようやく我に返った。
「何でもないよ、ちょっとな」
「何か変だよ、今のあんた」
「気にしないでくれ、何でもないから」
「だったらいいけど」
「二人共送るね」
 セニアは二人に対して言った。
「乗るでしょ」
 そして後ろにある車を指差した。二十世紀初頭にあったような古風な車である。
「頼める?」
「勿論」
 セニアは答えた。
「すぐに行きましょうよ、さあ早く乗って乗って」
「了解」
 リューネは答えた。そしてタダナオに声をかけた。
「さ、あんたも」
「ああ」
 彼は頷いた。そして車に乗る。
 二人は後ろに席に乗った。セニアはそれを確かめると車のエンジンを入れた。そして車は出発した。
「ねえ」
 セニアは車を運転しながら後ろに話し掛けてきた。
「何!?」
 リューネがそれに応えた。
「御免、リューネじゃなくて」
「俺ですか!?」
「ええ、そうよ」
 セニアはそれに頷いた。
「貴方日本から来たのよね」
「は、はい」
 彼は紅潮した声で答えた。
「連邦軍におりました」
「そうだったんだ。マサキと同じ国だから気になっていたけれど」
「マサキの」
「感じは違うわね。日本人って皆ああいったのだと思ってたけど」
「はあ」
「けれど貴方は違うわね。方向音痴でもないし無闇に熱くならないし」
「そうでしょうか」
「少なくともあたしはそう見ているけど」
 セニアは彼にそう答えた。
「そ、そうですか」
「ええ」
 彼女はまた答えた。
「それにプラーナもかなり高いみたいね」
「プラーナ」
「気のことよ」
 そう説明した。
「気ですか」
「ええ。誰でも持っている気よ。普通地上人はそれがここの人間より高いのだけれどね」
「そうなんですか」
「そうなのよ。だから召還されるのよ」
「はあ」
「それが今の魔装機のパイロット達なの。ファングとプレセア以外は皆そうよ」
「あたしも地上生まれなのよ」
 ここでリューネが言った。
「リューネもか」
「そうよ。アメリカ生まれなんだ」
「そういえばそういう外見だな」
 彼女の髪と服装を見てそう言った。
「何か変!?」
「いや」
 少しムッとした彼女に答えた。
「ところでセニアさん」
 話題を変えようとする。セニアに話を振った。
「何!?」
「魔装機はそのプラーナで動いているのですよね」
「そうよ」
 彼女は答えた。
「じゃあオーラバトラーと一緒か」
「そういうことになるわね」
 リューネもそれに同意した。
「オーラバトラーってバイストンウェルのやつよね」
「はい」
 セニアの問いに答えた。
「私は一度見ただけですがかなりの戦闘能力を持っています」
「それはマサキ達から聞いてるわ。何か面白そうね」
「面白い」
「ええ」
 セニアは笑って答えた。
「実はね」
 ここでリューネがタダナオに説明した。
「セニアは魔装機の設計者の一人なのよ。整備も担当しているの」
「そうだったのか」
 女性の兵士は珍しくはない。タダナオは無機質に声をあげた。
「しかも王女」
「えっ!?」
 だがこれには驚きの声をあげた。
「本当ですか!?」
「継承権はないけれどね」
 セニアは笑ってそう答えた。
「それでも・・・・・・」
「ははは、大したことないよ」
 畏まるタダナオに笑ってそう言った。
「あたしは只のメカニックだからね」
「そうなのですか」
「そうよ。だから特に気にすることはないわよ」
「はい」
 しかし彼は畏まったままであった。
「固くならないでね」
「わかっております」
 だがやはり固くなっていた。リューネはそれを不思議そうに見ている。
(どうしたんだろ、こいつ)
 だがそう考えている間に王宮に着いた。そして三人はその中に入った。
「これが王宮か」
 タダナオは王宮の外と中を見ながら声をあげた。
「どう、結構凄いでしょ」
「確かにな」
 リューネにそう答えた。
「ただ思ったより質素だな。意外だ」
「そうなの」
「いや、ここで一番の大国だろ。もっと凄い宮殿かと思ったんだけれど」
「そうしたものよ」
 セニアが答えた。
「変に飾り立てても意味がないから。だから質素な造りにしてるのよ」
「そうだったんですか」
「けれどこの王宮も戦争でかなり傷んじゃったしねえ。まずいかなあ」
「建て直しですか」
「落ち着いたらね。けれど今は駄目」
「はい」
 戦争をしている以上王宮の再建は二の次であった。その程度の分別のないフェイルでもセニアでもなかった。
「これは兄さんが考える話だけれどね。あたしにはあまり関係ないけれど」
「その割にセニアって結構色々やってるよね」
「仕方ないじゃない」
 リューネに返した。
「モニカは今行方不明だし。テリアスも」
「そうだったね」
 リューネはそれを聞いて少し暗い顔になった。
「何か色々とあったみたいだな」
 タダナオはそれを聞いて思った。だが口には出さなかった。
「着いたわよ」
 セニアは大きな木の扉の前で二人に言った。
 そしてその扉を開ける。それから二人を扉の向こうに入れた。
「兄さん、二人を連れて来たわよ」
「おお、済まないな」
 そこには円卓があった。フェイルはその中央に座っていた。立ち上がり三人を出迎えた。
「じゃあ三人共空いているところに座ってくれ。すぐはじめよう」
「了解。ところでマサキは?」
「もういるぜ」
 ここでマサキの声がした。見ればもう座っていた。
「あら、珍しいじゃない。もういるなんて」
「私が一緒に来たからな」
 フェイルが妹にそう説明した。
「そうだったんだ。保護者同伴だったんだ」
「うるせえ」
 マサキはセニアの言葉にふてくされた顔をした。
「どうせ俺は方向音痴だよ」
「まあそれは置いておいてだ」
 フェイルは話を先に進める為に半ば強引にその話を終わらせた。
「すぐに今回の作戦会議に入ろう」
「わかったわ」
 セニアは頷いた。そして三人はそれぞれ空いている席に座った。見れば魔装機のパイロットは全員揃っている。
「今の戦局だが」
 フェイルは一同に説明をはじめた。その後ろにはラングランの地図がある。彼はそれに振り向いた。
「我々は王都を奪還した。そして今国土の大部分を奪還した」
「はい」
「だがシュテドニアス軍はまだかなりの占領地と戦力を維持している。そしてその戦力を王都の東方に再集結させている」
「まだ戦うつもりのようですね」 
 ヤンロンがそれを聞いて言った。
「そのようだな。魔装機だけでかなりの数に及んでいる」
「どれ位ですか?」
 テュッティが問うた。
「八十機程か。他にも戦車や移動要塞等が存在している。王都に駐屯していた戦力とほぼ同じ程度だ」
「そうですか」
「それだけではない。どうやら本国から援軍が来ているようだ」
「援軍!?」
「詳しいことは不明だがかなりの戦力らしい。それが今東方のシュテドニアス軍と合流しようとしているようだ」
「そうなのですか」
「まだ戦力があったのか」
 今回の戦争でシュテドニアスもかなりの戦力を消耗していた。元々この戦争はラングランとの衝突を望まない議会の多数派に対して大統領であるゾラウシャルドが強引に推し進めたものである。彼は強硬派で軍需産業を主な権力基盤としている。その彼がシュテドニアスの戦力をほぼ全て投入して侵攻が行われたのである。だが今までのラングランとの戦いでその戦力は大幅に消耗しているのである。それはシュテドニアスの国力を考えると到底無視出来ない程である筈だった。
「しかも軍の上層部とも衝突している筈だし、の大統領」
 シモーヌがここでさらに付け加えた。これは事実であった。
 シュテドニアス軍の内部でも今回の侵攻には懐疑的な者が多かった。最終的には負けるのではにか、無闇にラングランと衝突するのはどうか、という声が多かった。その先頭にいるのが統合作戦本部長であるロボトニー元帥であった。彼はシュテドニアス軍きっての良識派として知られ今回の戦争に対してもゾラウシャルドを批判していた。その為彼からは疎まれていた。
「軍は言う事を聞くしかないけれどそれでもよく出せたものね」
「そうだな」
 ゲンナジーがベッキーの言葉に頷いた。
「だが戦力を送って来ていることは事実だ」
 アハマドの声は冷静であった。
「問題はそれをどうするかにある」
「アハマドの言う通りだな」
 フェイルは彼の言葉をよしとした。
「今はその援軍も含めて彼等とどう戦うかを考えよう」
「はい」
 皆それに異論はなかった。一様に頷く。
「今彼等はここにいる」 
 フェイルは王都のすぐ東を棒で指し示した。
「そしてそこから王都を狙っている。我々はこれを迎撃したい」
「その戦力が俺達か」
「そうだ」
 マサキの言葉を認めた。
「君達は精鋭部隊と共に彼等を迎撃してくれ。魔装機全機でな」
「了解」
「出撃は明朝とする。各自それに備えてくれ」
「わかりました」
 一同それに頷いた。
「明日か。じゃあ帰ったら用意しておくか」
「お兄ちゃん、迷わないでね」
 ここでプレセアはマサキに対して言った。
「わかってるさ」
 彼はそれに不機嫌そうな顔で応えた。
「だからっていつも言うんじゃねえよ」
「けれどいつも道に迷ってるじゃない」
「気のせいだよ」
「違うもん」
 そんなやり取りを周りの者はクスクスと笑いながら見ていた。だがここで思わぬ報告が入って来た。
「殿下、大変です!」
 ラングランの軍服を着た男が一人入って来た。
「どうした!?」
「戦闘がはじまりました」
「何っ!?」
 フェイルだけではなかった。そこにいる全ての者がそれに顔を集中させた。
「何処でだ」
「東方です。シュテドニアス軍と交戦を開始しております」
「どの部隊だ」
「それが・・・・・・」
 だがそこで彼は口篭もった。
「見たこともない部隊でして」
「地上のか?」
「それがその」
 だがそれでも口篭もっていた。
「実は城が空を飛んでいるらしいのです」
「城!?」
 それを聞いたマサキとリューネが声をあげた。
「城がか!?」
「はい」
 男は答えた。
「かなり大きな青い城が空を飛んで戦っているそうです。そしてもう一隻戦艦が。それは緑だとか」
「間違いねえな」
「ええ」
 二人はそこまで聞いて顔を見合わせた。
「そして小さな空を飛ぶロボットがいるだろう」
「はい」
 彼はまた答えた。
「かなり強いそうです。特に赤いロボットが」
「それだ」
 マサキはここまで聞いてそう言った。
「殿下、それは俺達の知っている連中だ」
「本当か!?」
「ああ、オーラバトラーとオーラシップだ。この前バイストンウェルの話はしたよな」
「ああ」
「そこの兵器なんだよ。それもそこにいるのは俺達と地上で一緒に戦った連中だ」
「本当なのか、それは」
「嘘なんか言わねえよ。すぐに助けに行かなきゃいけねえ。仲間だからな」
「そうか」
 フェイルはそこまで聞いて頷いた。
「ではすぐに救援に向かってくれ。マサキの言うことが本当ならな。どのみちシュテドニアス軍とは戦わなくてはならない」
「了解」
 魔装機のパイロット達が一斉にそれに答えた。
「では出撃だ。予定よりかなり早いが頼むぞ」
「任せときなって」
 マサキが一同を代表してフェイルに言った。
「行くからには勝つからよ」
「そうそう」
 リューネもそれに合わせた。
「どんな奴がいても負けないよ。あたしのヴァルシオーネがいる限りね」
「そう調子に乗るな」
 ここでヤンロンが二人を嗜めた。
「油断大敵だ。侮るとろくなことにはならないぞ」
「ヤンロンの言う通りよ、二人共」
 テュッティも彼に同意した。
「敵を馬鹿にしてると何時かとんでもない目に遭うわよ」
「それはわかってるよ」
 リューネはそれを聞いてバツの悪そうな顔をした。
「けれど少し心配性じゃない?」
「僕はそうは思わないが」
 ヤンロンはまた釘をさした。
「まあ待て」
 話が長くなりそうだと見たフェイルが仲裁に入った。
「とにかく今は一刻も早く戦場に向かってくれ。いいな」
「わかりました」
 彼の言葉を聞き皆口論を止めた。そしてそれぞれの乗機に向かって行った。
 その中には当然タダナオもいた。彼は兵士の車に乗せられジェイファーに向かった。そしてそれに搭乗し、戦場に向かうのであった。
「行くか」
「ああ」
 皆魔装機に乗り込んだ。そしてそこから出撃した。戦場では既に戦闘がはじまっていた。

「はあああああああああっ!」
 赤いロボットから声が轟く。そして目の前にいるシュテドニアスの魔装機を両断する。倍近い大きさがあるがそれは問題とはなっていなかった。
 前にいる魔装機を倒すと隣にいる敵機をすぐに撃墜した。そして返す刀でもう一機。鬼神の如き強さであった。
「ショウ!」
 その後ろにいる青い甲虫に似たシルエットのロボットの中から声がした。
「無理はしないで!」
「わかってる!」
 赤いロボットから声がした。中にはアジア系の顔立ちの少年がいた。彼の名をショウ=ザマという。
 日本人である。裕福だが家庭を顧みない両親に反発して空手やモトクロスバイクに熱中していた。だがある日バイストンウェルに召還された。そして紆余曲折の末この赤いロボット、オーラバトラービルバインに乗る聖戦士となったのである。戦士としてはずば抜けた力を持っていると言われている。
「マーベル」
 ショウは青いオーラバトラーダンバインに乗る茶色の髪の白人の女性に声をかけた。
「何!?」
 彼女はそれに応えた。彼女も地上から召還された者である。アメリカテキサスの出身だ。
「ニー達はどうしてる」
「我々はここにいる」
 見ればビルバインの後ろに数機の同じタイプのオーラバトラーがいた。そしてその後ろには青い巨大な城の様な戦艦と緑の戦艦があった。どれも激しい攻撃を繰り返している。
「ニー、キーン、無事か」
「ああ」
「何とかね」
 その赤いオーラバトラー、ボチューンに乗るパイロット、ピンクの髪をした青年ニー=ギブンと黒髪の少女キーン=キッスが答えた。二人はバイストンウェルの人間である。だが戦士としての能力、オーラ力が強い為二人も聖戦士と称されている。これはマーベルも同じである。
「リムルは!?」
「ここにいるわ」
 瑠璃色の髪の美しい少女が答えた。彼女が乗っているのはボチューンではなかった。黒っぽく、その手に斧や鎌を持っている。やや禍々しい感じがするのは否めない。
 彼女はリムル=リフトという。バイストンウェルの戦乱の元凶とされるアの国の領主ドレイク=ルフトとその妻ルーザ=ルフトの娘である。彼女はニーを慕い、そして父の野心に反発してショウ達と共にいるのだ。
「そうか、ならいい」
 ショウは皆がいるのを確かめてそう言った。
「だが戦局は危ういな」
 ニーがここで言った。
「まあな」
 それはショウにもわかっていた。
「このままじゃグランガランもゴラオンも持たない」
 見れば敵を追い払うのだけで必死であった。
「シーラ様とエレ様は?」
「御無事だ」
 ここで各機に通信が入った。そして映像が映る。白髪の老人と黒い髪の痩せた中年の男である。白髪の老人はエイブ=タマリ、ゴラオンの艦長である。黒髪の中年はカワッセ=グー、グランガランの艦長である。それぞれの女王達の側近でもある。
「こちらに来る敵は任せろ。いいな」
「宜しいのですか?」
 ニーが問うた。
「構わん」
 カワッセが答えた。
「シーラ様は我々が御守りする」
「エレ様もだ」
 エイブも言った。
「だからお主達は目の前の敵に対処せよ。よいな」
「わかりました」
「それに敵の援軍が迫って来ている。注意しろ」
「援軍!?」
「はい」
 ここで水色の髪に赤い目の気品のある少女とピンクの髪の美しい少女がモニターに姿を現わした。ナの国の女王シーラ=ラパーナとラウの国の女王エレ=ハンムであった。
「邪悪なオーラ力を感じます。それもかなりの数の」
「オーラ力」
 それを聞いてショウの顔が曇った。
「まさかそれは」
「そこまではわかりませんが」
 シーラが答えた。
「ですが敵が近付いていることは事実です」
「はい」
 エレの言葉に頷いた。
「ですからお気をつけ下さい」
「わかりました」
 ショウ達はそれに頷いた。
「ではやってみせましょう。まずは今ここにいる奴等を」
「待って下さい」
 だがここでシーラが言った。
「どうしたんですか!?」
「味方です」
「味方」
「はい。もうすぐここに来ます。これは・・・・・・」
「ええ、彼です」
 エレも感じているようであった。
「来ます、ここに」
「風が。そして新たな聖なる戦士が」
「聖なる戦士」
 ショウがその言葉を呟いた時であった。戦場に風の戦士がやって来た。
「ショウ、久し振りだな!」
 サイバードであった。サイバスターが鳥の形に変形した巡航型である。
「サイバード、マサキか!」
「おう、まさかラ=ギアスに来ているとは思わなかったな。どうしたんだ!?」
「またバイストンウェルから出されたんだ。ジャコバ=アオンにな」
「そうか、やっぱりな」
「ここが前御前が言っていたラ=ギアスだったとはな」
「どうだ」
「バイストンウェルに似ているな。だが話は後にしよう」
「そうだな」
 マサキはそれに頷いた。
「まずはこの連中を何とかしないと」
「敵の援軍も来ているらしいしな。協力するぜ」
「頼む」
 こうしてマサキ達はショウ達の援護に回った。魔装機達は次々にやって来てシュテドニアスの機を撃墜していく。タダナオも戦場に来ていた。
 戦局はマサキとショウ達に有利となりつつあった。シュテドニアスの機はその数を大きく減らし撤退に向かおうとしていた。だがその時であった。
「来ました!」
 エレが叫んだ。ショウもそこに何かを感じた。
「これは・・・・・・!」
「御父様!」
 リムルが叫んだ。すると前に黒っぽい巨大な戦艦が姿を現わした。
「やはりな」
 エイブはその巨体を見て腕を組みながら呟いた。
「ここに来ていると思ったが」
「ええ」
 エレが頷く。青い顔をしていた。

「ドレイク=ルフト。やはりいましたね」
「チッ、見たくねえ奴が来たな」
 マサキはその巨艦ウィル=ウィプスを見て舌打ち混じりに言った。
「他にもいるね」
 リューネが前に出て来た。変形していたサイバスターの他の三機の魔装機神もやって来た。
「あれがウィル=ウィプスか」
 ヤンロンが巨体を見て呟いた。
「ああ」
「話には聞いていたが大きいな」
「大きいだけじゃない、あいつは」
 ショウは巨艦を見据えて言った。
「あの中にいるのは・・・・・・」
 言葉を続ける。
「怪物だ。皆注意するんだ」
 その時ウィル=ウィプスの艦橋に一人のスキンヘッドの大柄な男が立っていた。
 威風堂々たる姿であった。彫の深い顔立ちがそのスキンヘッドと長身によく合っている。そしてその服にも合っていた。将に覇王といったいで立ちであった。
「ビルバインがいるな」
 その男、ドレイク=ルフトは前を見据えながら左右の者に問うた。
「ハッ、グランガランやゴラオンもおります」
 側近の一人がそう答えた。
「そうか」
 ドレイクはそれを受けて呟いた。この男をバイストンウェルにおいて知らぬ者はいない。
 かってはアの国の地方領主であった。だが地上人ショット=ウェポンが召還され、オーラバトラーが開発されたのを機にその野心を開花させ、アの国を掌握し、覇道を歩みはじめた。そして地上においてもショウ達と死闘を繰り返し、バイストンウェルに戻っても戦っていた。そして今ラ=ギアスにも姿を現わしたのであった。
「バーンとガラリアはいるか」
「既に出撃準備に入っております」
「他の者は」
「同じく」
 側近達が次々に答える。
「ならばよい」
 ドレイクは報告を全て聞き終えて呟いた。
「全機出撃させよ。よいな」
「ハッ」
「ところでガラリアはどうした」
「今だ行方が知れません」
「ビショットとショットは」
「ビショット様はゲア=ガリングの調子が思わしくないようです。ショット様は御身体が」
「いつも通りか」
 ドレイクはそれを聞いて微かに舌打ちした。
「やはりな」
 だがそれは側近達には聞こえないように小さく出した。
「だがよい。ではオーラバトラー隊をすぐに出せ」
「ハッ」
 彼の命令に従いオーラバトラー達が出撃する。赤いテントウムシに似たシルエットのオーラバトラー達だ。
「ドラムロか」
 ショウ達がそれを見て言った。
「気をつけろ、オーラバトラーにはビーム兵器が聞きにくい」
「そうなのかい」
「ああ」
 タダナオがシモーヌに答えた。
「俺も一度戦ったことがあるがな。弾き返された」
「へえ」
「おまけに運動性能もいいしな。厄介な相手だよ」
「小さいしね。けれど運動性ならこっちも負けちゃいないよ」
「そういうことだ」
「うむ」
 ソルガディとジャオームが前に出て来た。
「風の魔装機の力、見せてやろう」
「行くぞ」
 そう言うとそのまま突撃をはじめた。かなりの速さであった。
「へええ」
 タダナオはそれを見送りながら感心したような声を出した。
「どうしたんだい?」
「いや、ゲンナジーだけれどな」
「ゲンナジーがどうしたんだい?」
「風の魔装機のパイロットだったんだなあ、って」
「意外そうだね」 
 これは実はシモーヌも同じ考えであった。
「あの外見だからな。ミスマッチと言えばミスマッチだよな」
「好き勝手言ってくれるな」
 ここで二人のコクピットにゲンナジーのモニターが入って来た。
「あ、聞いてたの?」
「ああ。まあそれは否定しないが」
「あらら」
「悪いね」
「本来俺は水の魔装機が合っていたのかも知れないがな」
「だろね、あんたは」
 シモーヌはそれを聞いて納得したように頷いた。
「何でだい?」
「実はね」
 タダナオの質問に答える。
「ゲンナジーは水泳の金メダリストなんだよ」
「えっ、マジ!?」
 それを聞いて思わず声をあげずにはいられなかった。
「ええ、本当よ。こう見えてもかなり動きは速いんだよ。力も強いしね」
「フッ」
 そうシモーヌに説明されて何処か得意気なゲンナジーであった。
「これでもう少し存在感があればねえ」
「・・・・・・大きなお世話だ」
 これにはムッとした。
「まあいい。御前達も来てくれ。そろそろ敵が出て来た」
 見ればウィル=ウィプスから次々と敵が出て来ていた。
「了解」
 それを見て二人は答えた。
「すぐに行くよ。任せときな」
「頼むぞ」
 ゲンナジーはそれに答えた。シモーヌはそれに答えるかわりにザインを前に出した。
「行くよ、タダナオ」
「ああ」
 タダナオに声をかける。彼もそれに従う。
 そして彼もオーラバトラーに向かって行く。リニアレールガンのボタンに手をかける。
「リニアレールガンはビーム兵器じゃなかったよな」
「ああ」
 シモーヌが答える。
「じゃあ問題はないな。どんどん行くぜ」
「頼むぜ。後ろは任せた」
 マサキの声がした。
「じゃあ任された。思う存分戦いな」
「了解」
 マサキはニヤリと笑った。同時にミオの通信も入る。
「あたしも頼むね。ゲンちゃんも」
「ゲンちゃん!?」
「ゲンナジーのことさ」
 ここでシモーヌが言った。
「ミオはそう呼んでるの。本人は嫌みたいだけれど」
「だろうな」
 それを聞いて妙に納得するタダナオであった。戦闘は新たな局面に入っていた。
 ビルバインと魔装機神達を中心として戦いが繰り広げられる。特にショウの強さは群を抜いていた。
「やるかよっ!」
 群がる敵を断ち切っていく。まさに鬼神の如くであった。
 戦局はショウ達に傾こうとしていた。しかしそれでもドレイクには余裕があった。
「行け」
 彼は呟いた。するとショウのビルバインの前に二機のオーラバトラーが姿を現わした。淡い赤のオーラバトラーと、
それとはまた違った形のオレンジのオーラバトラーであった。
「バストールとレプラカーン、まさか」
「その通りさ」
 バストールから声がした。
「ここでも会ったね、ショウ!」
「ガラリアか!」
 ショウはその声を聞いてバストールの中の女の名を呼んだ。その中には青い髪の美しい女がいた。
「そうさ、どうやらあたし達は何処までも縁があるようだね」
 その女、ガラリア=ニャムヒーはショウを嘲笑いながら答えた。
「だがそれもここで終わりにさせてもらうよ」
「どういうことだ!?」
「貴様がここで死ぬってことさ」
 彼はショウに対してそう言った。
「待て」
 だがここでレプラカーンから声がした。
「ショウ=ザマを倒すのは私だ」
「バーン=バニングス」
 ガラリアは彼の名を呼んだ。灰色の長い髪をした端整な顔立ちの男がそこにいた。
「それはわかっている筈だ。その為に私は今ここでいるのだからな」
「嫌だと言えば?」
「わかっていると思うが」
 彼は殺気に満ちた声でそう返した。
「クッ、わかったよ」
 ガラリアは引いた。
「じゃああたしはダンバインの相手でもしようかね」
「貴様の相手は別にいる」
「何!?」 
 ガラリアはその声に反応した。
「誰だい!?あの銀色のやつかい!?」
 サイバスターを指差した。
「違うな」
 だがバーンはそれを否定した。
「いらつかせるねえ。誰なんだよ」
「感じないか、この気を」
「気!?」
「そうだ」
 バーンは答えた。そこに一機新たなオーラバトラーがやって来た。青い、インディゴブルーのダンバインであった。
「ダンバインがもう一機!?」
「あれの相手をしてもらおうか」
 バーンは落ち着いた声でガラリアに言う。
「面白い」
 ガラリアはそのダンバインを見て笑った。
「あたしの相手には充分だよ。裏切り者が」
「裏切り者とはまた結構な言葉だな」
 インディゴのダンバインから声がした。
「俺にも色々と都合ってやつがあるんだがな」
 金髪の若い白人の男であった。トッド=ギネス。アメリカボストン出身の聖戦士である。ショウと共にバイストンウェルに召還され、紆余曲折の末にショウ達と共に戦うことになった男である。
「トッド、何処に行っていたんだ!?」
 ショウは彼の姿を認めて問うた。
「出た場所が俺だけ違ってな。これも日頃の行いってやつか」
 それに対してトッドはややシニカルに答えた。
「急いでここまで来たんだ。生憎乗っていたのがこれだがな」
 どうやらダンバインはあまり好きではないようである。
「だがそんなこと言ってる場合じゃねえな。ここは半分は俺が引き受けるぜ」
「頼めるか」
「その為に来たんだ。任せときな」
「頼むぞ」
 こうしてトッドが参戦した。彼はガラリアに向かった。
「さあて、俺は女でも容赦はしねえぜ」
「フン、この軽薄男が」
 ガラリアは彼に対しても臆することがなかった。
「あたしに勝てると思っているのかい。真っ二つにしてやるよ」
「できるものならな」
 トッドのダンバインは剣を抜いた。そして対峙する。
 戦いがはじまった。それはショウの方でも同じであった。
「行くぞ、ショウ=ザマ」
 バーンは既に剣を抜いていた。
「バイストンウェル、そして地上での雪辱、ここで晴らしてくれる」
「バーン、退くつもりはないな」
「無論、私は武門の家の者。そして貴様に受けた屈辱を忘れたことはない」
「わかった」
 ショウも引き下がらなかった。両者は互いに剣を構えた。
「ならばここで終わらせる、俺達の戦いをな」
「それはこちらの言葉だ」
 バーンはレプラカーンを突進させた。
「ショウ=ザマ、覚悟」
 剣を大きく振り被る。そして一気に振り下ろした。
「死ねっ!」
「何のっ!」
 ショウのビルバインはその剣を受け止めた。そしてその衝撃を引いて殺す。それから反撃に転ずる。
「これならどうだっ!」
 突きにかかる。だがレプラカーンはそれをかわした。
「甘いぞっ!」
 両者互角であった。二人は一騎打ちに入っていた。
 その間にマーベル達と魔装機が他のオーラバトラーを撃ち落していた。その数はかなり減っていた。
 やがてウィル=ウィプスにも迫った。だがその周りを護衛のオーラバトラーが固めている。それでも彼等は迫った。
「こいつ等は僕達に任せてもらおう!」
 ヤンロン達が前に出た。
「メギドフレイム!」
「レゾナンスクエイクッ!」
 それぞれ攻撃を放つ。それで護衛を一掃した。
「さあて、後は」
 サイバスターが前に出た。
「あのデカブツをやるぜ!」
「了解!」
 各機散開する。そしてそれぞれ攻撃に移る。その中にはタダナオもいた。
「よし」
 彼はハイパーリニアレールガンのボタンの覆いを取った。
「これを使うのははじめてだな」
 そして照準を合わせる。当然ウィル=ウィプスに狙いを定める。
 そして放つ。巨大な光が戦艦に向けて放たれた。
「行けっ!」
 それは戦艦の側面を直撃した。一撃で船が揺れ動いた。
「何事だっ!」
 ドレイクは揺れる艦内で仁王立ちしながら周りの者に問うた。声は大きいが動揺はなかった。
「敵の攻撃です、かなりの威力です!」
「損害は」
 彼はなおも問うた。
「右側面が中破しました」
「そうか。まだ戦えるか!?」
「これ以上は難しいかと」
 部下は畏まってそう答えた。
「わかった」
 ドレイクはそれを聞いて頷いた。
「撤退だ。オーラバトラー部隊にもそう伝えよ」
「ハッ」
「バーンにもだ。殿軍を受け持つように伝えよ」
「わかりました」
 命令が次々と下される。それに従いウィル=ウィプスは戦場を退いていく。
「逃がすか!」
 マサキとショウはそれを追おうとする。だがそれをバーンのレプラカーンが阻む。
「ここは行かせぬ!」
「クッ!」
 ガラリアも来た。彼等は二人でショウ達の追撃を阻んだ。
 その間にドレイク達は戦場を離脱する。それを見届けたバーンとガラリアも動いた。
「よし」
 彼等も戦場を離脱しにかかった。全速力でショウ達を引き離そうとする。
 バーンはそれに成功した。だがガラリアのバストールは一瞬遅れた。そしてその遅れが命取りとなった。
「甘いんだよ、そこがっ!」
 トッドはそれを見逃さなかった。オーラショットを放った。
「グッ!」
 それはバストールの腹を直撃した。それを受けて地面に落ちていく。
「やったか!?」
 だが爆発はなかった。バストールはそのまま大地に沈んでいた。
「ガラリア、しくじったな」
 バーンはそれを冷淡に見ているだけであった。彼は既に戦場を離脱し、ウィル=ウィプスに帰還しようとしていた。
「だがいい。私にとってはどうでもいいことだ」
 彼にとってガラリアは出世のライバルであった。しかもショウを狙ううえでも同じであり、そこでもライバルであったのだ。言うならば同じ陣営に属する敵同士であった。
 彼は何もなかったように着艦した。そして羽を休めに入った。
 戦いはラングラン軍の勝利に終わった。マサキ達は戦いが終わるとその場に着陸し、ショウ達と話し合いの場を持つことにした。
「何はともあれ久し振りだな」
「ああ」
 マサキとショウは気軽にそう挨拶を交わした。
「あんた等が来るとは思わなかったぜ。どうやらあっちもかなり複雑な事情のようだな」
「恥ずかしながらな。それでまた出されたわけだ」
「あっちは何かと排他的みたいだな」
「仕方ないさ。バイストンウェルは本来戦いのない世界だったんだ。それが」
「戦いをしているということ自体が問題なのです」
 シーラがここで言った。
「全てはドレイクのせいだ」
 ショウはそれに応える形で吐き捨てるようにしてこう言った。
「ちょっとそれは待って」
 だがここでマーベルが口を挟んだ。
「今までは私もそう思っていたけれど」
「違うのか!?」
「ええ。確かにドレイクも問題よ。けれど」
「けれど!?」
「あのルーザ=ルフトの方が問題じゃないかしら。最近そう思うようになってきたのだけれど」
「それはあるな」
 ニーが彼女の言葉に頷いた。
「あの女の気は普通じゃない」
「はい」
 ここでリムルが頷いた。
「母は恐ろしい女です。父が変わったのも母のせいだったのです」
「そうだったのかよ」
 マサキはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「前の戦いではそれ程気にはかからなかったけどよ」
「あまり姿を見せないからな」
 ニーが答えた。
「何処にいるかはわからないが」
 彼等はルーザが今もゲア=ガリングにいることを知らないのだ。
「おそらくここにも召還されているだろう」
「だとしたら厄介だな」
 ショウの顔が引き締まった。
「あの女までいるとなると」
「問題は何処にるか、だがな。それがわからないうちはどうしようもない」
「ああ」
 結局ルーザについては結論は出なかった。ここで戦いに敗れ捕虜となったシュテドニアスやドレイク軍のパイロット達が連れて来られてきた。その中にはガラリアもいた。
「ガラリア」
「フン」
 ショウの言葉に悪態をついた。
「笑いたきゃ笑いな。気持ちいいだろ、あたしのこんな姿を見られてさ」
「何を言っているんだ」
「おためごかしはいいよ」
 だが彼女は悪態を続ける。
「どうせあたしは負けたんだ。大人しく罰を受けるとするよ」
「そんなつもりはありません」
 そんな彼女に対してエレが言葉をかけてきた。
「ガラリア=ニャムヒー」
 そして彼女のフルネームを呼んだ。
「何だい」
「貴女はわかっておられません」
「何を言っているかさっぱりわからないね」
「いえ、言葉をかえましょう」
 エレは言葉を変えてきた。
「貴女はわかっていないふりをされているだけです」
「言うねえ。じゃああたしは何に対してわかっていないふりをしているんだい?」
「御自身のことについてです」
「自分の」
「はい」 
 エレは答えた。
「貴女は以前東京に出たことがありましたね」
「ああ」
 ショウと戦っている時に出たあの時のことだ。
「その時でわかっている筈です。自分が一体何であるかを」
「あたしが」
「はい。貴女はドレイクの下で戦う運命ではありません。貴女は」
 エレは言葉を続けた。
「ショウ=ザマと共に戦う運命なのです」
 そして大胆にこう結論付けた。
「あたしが!?馬鹿を言うねえ」
 ガラリアはそれを聞いて思わず笑った。
「何であたしがこいつと一緒に戦わなくちゃいけないんだよ」
「それもわかっておられる筈ですが。東京で」
「ウッ」
 それを聞いて言葉を詰まらせた。あの時彼女はショウと共にバイストンウェルに帰った。協力してである。
「あの時にショウ=ザマについて知ったと思いますが」
「確かにね」
 渋々ながらもそれは認めた。
「けれどこいつと一緒にいたのはたまたまさ。それを知らないわけじゃないだろうね」
「それが運命なのです」
 エレはまた言った。
「あの時ショウ=ザマと共に地上に出、そして帰ったのも運命だったのです」
「そんなもんかい」
「そう、そして今貴女が私の前にいるのも運命なのです」
「そしてショウと一緒に戦うこともかい」
「そうです」
 エレはまた答えた。
「そして今貴女は運命に従われる時なのです」
「嫌だと言ったら?」
「それは有り得ません」
 エレの声が強くなった。
「それは貴女御自身が最もよくおわかりでしょう」
「ふん」
 それを聞くと今度は微笑んだ。
「わかったよ。じゃああんた達に協力するよ」
「はい」
「ただし条件があるよ」
「条件!?」
「そうさ」
 彼女は答えた。
「バストールの修理は頼むよ。あれはあたしの分身なんだからね」
「了解」
 ショウ達は微笑んでそれに応えた。
「じゃあ頼んだよ。あとショウ」
「何だ?」
「今度勝負しないかい?二人でね」
 そう言って妖艶に笑った。
「?」
 だがまだ若いショウにはよくわからなかった。こうしてガラリアが仲間に入った。
 その後フェイルの決裁でショウ達はラングランの客分となった。そして彼等もラングラン軍に協力することとなった。双方にとって大きなプラスとなることであった。これはシュテドニアスにも伝わっていた。
「また負けたそうだな」
 絹の豪奢な服を着たダークブラウンの髪をした六十近い男が重層な執務室で不機嫌な顔をしていた。彼はシュテドニアスの大統領ゾラウシャルドである。
「元より予想されたことですが」
 その傍らに立つ軍服姿の禿げ上がった頭を持つ老人が答えた。シュテドニアス軍統合作戦本部長のノボトニー元帥である。
「言ってくれるな」
 ゾラウシャルドはこう言って彼を見据えた。
「それを何とかするのが諸君等軍人の仕事だろう」
「御言葉ですが」
 ノボトニーはそれに食い下がった。
「戦争を止めるのもまた軍人なのです」
「ではどうするつもりだ」
 ゾラウシャルドは一言発する度に不機嫌さを増していく。
「だからといって今すぐの撤退は危険です。暫くは戦いながら戦線を縮小していくべきかと」
「そうするしかないか」
「はい」
 彼は答えた。
「ではそれは貴官に任せる。ラセツ=ノバステ大佐」
「ハッ」
 控えて立っていた赤い軍服の男が答える。青い髪をした彫の深い顔立ちの男だ。
「貴官はバイラヴァで以って出撃しろ。よいな」
「わかりました」
「バイラヴァを!?」
 それを聞いたノボトニーの顔色が急変した。
「あれを実戦投入するのは危険です」
「おかしなことを言うな」
 だがゾラウシャルドは彼のそうした言葉を笑った。
「撤退するといったのは貴官ではないか」
「はい」
「ならばそれを援護する者も必要だ。だからこそバイラヴァを出撃させるのだ」
「しかしあれは」
「本部長」
 ゾラウシャルドはここで強い声を出した。
「私は一体何だ」
「ハッ」
 そう問われて姿勢を正して答えた。
「シュテドニアス共和国大統領であります」
「そうだろう」
 それを聞いて満足そうに答えた。
「軍の最高司令官は誰だ」
「大統領であります」
 これは至極当然のことであった。ラングランにおいては国王が、共和制であるシュテドニアスにおいては大統領が軍の最高司令官とそれぞれ定められている。ラングランは多分に形式的であるがシュテドニアスではこれはかなり明確に定められている。
「そして軍人の責務もわかっているな」
「はい」
「ならばいい」
 ゾラウシャルドは言葉を続けた。
「それではシュテドニアス共和国大統領の名において命じる」
「ハッ」
 ロボトニーだけでなくラセツも姿勢を正した。
「戦線をトロイアまで後退させる。その指揮は本部長がとれ」
「わかりました」
「その撤退の援護にバイラヴァを派遣する。その指揮官はラセツ大佐とする」
「ハッ」
 ラセツはそれを受けて敬礼した。
「そしてトロイアで敵を迎え撃つ。戦局を挽回にかかるぞ」
「了解」
「わかりました」
 ラセツの方が先に答えた。階級はロボトニーの方が遥かに上であるにも関わらず、だ。そしてゾラウシャルドはそれをあえて咎めようとしなかった。ここに三者の関係が露骨に表われていた。しかしロボトニーはそれについては何も言おうとしなかった。口をつぐんだ。
 そして三人は別れた。ロボトニーは自室に戻るとすぐに電話を手にとった。
「おう、わいや」
 いきなりなまりの強い言葉で返事が返ってきた。
「ジェスハ准将」
 ロボトニーはそれを聞いて叱るような声を出した。
「士官学校の時から言っている筈だが」
「その声は」
 電話の声の主はそれを聞いて急に慌てだした。
「ロボトニー閣下でっか」
「私以外に誰がいる」
 彼は憮然とした声でそう答えた。
「ざっくばらんもいいがもう少し将軍としての態度を保ち給え」
「そんなもんどうでもええと思いますけれど」
「だからいかんのだ、君は」
 ロボトニーはまた彼を叱った。
「そんなところは本当に変わらないな」
「おかげさまで。まあまた降格しましたし」
「聞いているよ。だがそれはいい」
「はあ」
「また昇格すればいいだけだからな」
 彼はそれについては特に何も言わなかった。話は別のところにあった。
「そちらの状況だが」
「はい」
 電話の主も態度をあらためた。
「かなり深刻な状況のようだな」
「ええ。また負けましたわ」
「やはりな。最早王都の奪回は不可能だろう」
「それどころかあちらさんにもあれがつきましたわ」
「オーラバトラーか」
「はい」
 彼はロボトニーに答えた。
「それもこっちのよりずっと強そうでしたわ」
「そんなにか」
「はい」
 彼は答えた。
「少なくともこっちにいる連中よりは信用できそうですわ」
「それは言うな」
 ロボトニーは顔を顰めた。彼もドレイク達は信用していなかった。
「だが厄介なことになったな」
「ええ」
「今までの敗戦でこちらの戦力は著しく低下している。そのうえこちらのオーラバトラーよりも強力な者達があちらについたとなれば」
「どうしようもないかも知れませんな」
「それでだ」
 彼はここで言った。
「トロイアまで戦線を後退させることになった」
「やっぱりそうなりますか」
「その指揮は私が執る。すぐにそちらに向かう」
「はい」
「撤退の援護は特殊部隊が行なう。ラセツ大佐が」
「あの男がでっか!?」
 電話の声の主はそれを聞いてあからさまに不機嫌な声を出した。
「嘘でっしゃろ」
「嘘ではない」
 ロボトニーは残念そうな声でそう答えた。
「しかもまだある」
「何でっしゃろ」
「バイラヴァを投入するらしい」
「・・・・・・お言葉ですが」
 彼はあらたまってロボトニーに言った。
「あれは危険でっせ。今出したら何が起こるか」
「それは私も大統領にそう申し上げた」
「けどあかんかったということですな」
「そういうことだ。大統領とラセツ大佐の関係はわかっているな」
「はい」
「ならばこれ以上は何を言っても無駄だ。今は我々に出来ることをしよう」
「わかりました。後一つ気になる話があるんですが」
「?何だね」
「いや、まああまりあてにならん話ですけど」
「噂でもいい。軍事に関することだな」
「はい。何でもクリストフがこっちにおるらしいですわ」
「馬鹿な」
 それを聞いたロボトニーの顔が一気に蒼白となった。バイラヴァの話を出しても表情を変えなかった彼が今その顔を白くさせたのである。
「確か死んだ筈だが」
「わいもそう聞いてましたけど」
 彼は電話の向こうで首を傾げていた。
「北の方で展開していた部隊が一つ壊滅しまして。その生き残りが言うてるんですわ。たった一機の魔装機にやられたて」
「魔装機」
「けどそれだけの力のあるラングランの魔装機は全部王都の方に来てます」
「うむ」
「それにその魔装機はやけにゴツい形で青かったらしいですから。そんなんいうたら」
「あれしかないな」
「はい。どうしますか?」
「それは北の方に出たのだな」
「ええ」
「では北の方に展開している部隊はすみやかに後退させよ。私が来る前にな」
「わかりました」
「あれが出たとなると事情は変わってくる」
 その表情は深刻さを増してきていた。
「彼以外の者もいたのか」
「それはないそうです」
「そうか。だが必ずいる筈だ」
「はい」
「紅蓮のサフィーネに魔神官ルオゾール。特にルオゾールには注意が必要だぞ」
「わかってますがな」
「ならばいい。では私が行くまでの指揮を頼む」
「了解」
 ここで電話が切れた。ロボトニーは受話器を置くとその深刻な顔のまま考え込んだ。
「クリストフ、まさか生きているとはな」
 シュテドニアスにおいてもその名は忌むべきものであるのだ。
「今度は何を考えている。そして」
 表情がさらに暗くなる。
「何をするつもりなのだ」
 彼はそう思いながらも戦場に向かう用意に入った。彼自身もまた祖国のことを憂えていた。そしてそれを救う為に動くのであった。

聖戦士   完



                                   2005・1・30


 
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