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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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決戦

「サザンクロスが敗れたそうだな」
「ハッ」
 暗黒の部屋の中で怪人達が人としての姿で跪いていた。そして前に蠢く何かに対して答えていた。
「ゼクロスの特攻を受けまして」
 その中央にいるヤマアラシロイドがそう報告した。
「そうか。そして暗闇大使はどうしておるか」
「只今手術を受けられております。どうやらかなりのダメージであったようで」
「そうだろうな。本来ならば死んでもおかしくはないのだからな。サザンクロスはあの男の分身なのだからな」
「そうだったのですか」
 これにはヤマアラシロイド以外の怪人達も驚いた顔をした。
「そうだ。サザンクロスは暗闇大使の脳波による完全なコントロールを受けていた。その動きもあの男の身体と連動していたのだ」
 首領はそれに対しそう答えた。
「感覚も直結していた。だからダメージもそのまま受けるのだ」
「そうだったのですか。だからダメージを」
「そうだ。そしてその傷は如何程か」
「思わしくありませぬ。ですが御命に別状はないかと。手術の後ですぐ復帰できるものと思われます」
「それは何よりだ」
 首領はそれを聞いて安心したような声を出した。
「やはりライダー達との戦いにおいてはあの男の力が必要だからな」
「ハッ」
 皆その言葉に対して頭を垂れた。
「そしてゼクロスは今どうしているか」
 彼はそこでゼクロスについて尋ねてきた。
「あの男がそう簡単に死んだとは思えぬのだが」
「その通りです」
 ヤマアラシロイドがそう答えた。
「重傷を負いましたが生きているようです。あの特攻でも死ななかったようです」
「そうであろうな。ライダーはそう簡単に死んだりはせぬ。だからこそ油断してはならんのだ」
「ハッ」
「だがそうそう動けはしまい。かあんりのダメージを受けているのは事実であろうからな」
「仰せの通りでございます」
 ヤマアラシロイドはそう返した。
「暫くは休ませておきたいが。そうも言っていられぬ状況だ。回復を急がせよ」
「わかりました。科学班にはそう厳命しておきます」
「頼むぞ。そして」
 首領はここで言葉をかける相手を変えた。
「タイガーロイドよ」
「ハッ」
 ヤマアラシロイドの横に控えていた三影がそれに応える。
「・・・・・・・・・」
 ヤマアラシロイドは横目でそれを見ていた。心中何か思うところがあったようだがそれは一切出さない。
「ここの守りは万全であろうな」
「無論です」
 彼はそれに答えた。
「既に各所に戦闘員達を配しております。そしてその連携も整えました」
「そうか、ならば良い」
 首領はそれを聞いて満足そうに言った。
「やはり貴様にここを任せたのは正解だったようだな」
「有り難き幸せ」
 褒め言葉を受けてそう答えた。
「何時でもライダー達を迎え撃つ準備はできております」
「今すぐにでもか」
 首領は問うた。
「今すぐにでも」
 三影はすぐに返した。迷いはなかった。
「よし。全ては整ったということだ」
 そして首領は他の怪人達にも声をかけた。
「バダンの誇る戦士達よ」
「ハッ」
 彼等はそれを受けて跪いたまま姿勢を正した。
「行くがいい。最後の戦いの時が来たのだ」
「ライダー達との」
「そうだ。為すべきことはわかっているな」
「無論」
 そしてそれがわからぬ筈もなかった。
「ではよい。さあ、行け。そしてライダー達を倒してくるがいい」
「わかりました」
 彼等は一斉に席を立った。
「ではこれで」
「うむ」
 首領は鷹揚に答えた。
 怪人達は姿を消した。そして後には首領の気配だけが残っていた。
 しかしそれも消えた。何も残りはしなかった。

 その頃ライダー達も出撃しようとしていた。
「頼みます」
 村雨は他のライダー達や立花達に対して見送りの言葉を述べていた。
「俺も行けたらよかったんですが」
「無理はするな」
 彼に対して伊藤博士が言った。
「君はあのサザンクロスを倒した。それだけで充分だ」
「そうでしょうか」
「ああ。だから今度は我々に任せてくれ。いいな」
「・・・・・・はい」
 見れば村雨は松葉杖をついている。その右足にはギプスをしている。
 左手にも包帯を巻いている。頭にもだ。それが戦いの結果であることは言うまでもない。
「心配するな」
 本郷も言った。
「俺達は負けはしない。絶対にな」
「そうですか」
「何時だってそうだった。そして今度もな。だから御前は心配しなくていい」
「わかりました」
 彼はそれに頷くしかなかった。
「では健闘を祈ります。吉報を待っていますよ」
「おお」
「任せとけ」
 ライダー達はそれを受けてそれぞれ頷いた。そしてエンジンに足をかけた。
「ではな」
 ライダー達は発進した。爆音が轟きはじめ発進した。
 それに立花達の乗る車が続く。そして彼等は戦場に向かって姿を消した。
「行きましたね」
 村雨の横にいる役がそれを見て呟いた。
「はい」
 村雨はそれに応えた。
「こんな身体じゃなかったら俺も行けたのに」
「行きたいですか」
 役はここで彼にこう尋ねてきた。
「勿論ですよ」
 彼はここで本音を返した。
「俺だってライダーですから。わかるでしょう」
「ええ」
 役はその言葉に対して頷いた。
「役さん」
 村雨の声は少し強いものになった。
「役さんはカナダでの戦いの時のことを覚えていますか」
「トロントでの戦いでしたね。勿論」
 役はそう答えた。
「あの時俺に言ってくれましたね。ライダーだって」
「はい」
 忘れる筈もなかった。彼はあの時本心から村雨を認めたのだから。
「ではわかってくれている筈です。今の俺の考えが」
「わかっていますよ」
 役は答えた。
「行きたいのでしょう、戦いに。ほかのライダーや立花さん達と共に」
「ええ」
「そしてバダンを倒したい。世界の平和を取り戻す為に」
「そうです、勿論です。怪我なんか関係ないですよ」
「それだけの怪我を負っていてもですか」
「ライダーはどれだけ傷ついても戦ってきた。そして勝ってきた。違いますか」
「その通りです」
「先輩達だってそうだった。そして俺も」
 村雨の顔はさらに苦渋に満ちたものになっていった。役はその顔を黙って見ていた。
「村雨さん」
 そして彼の名を呼んだ。
「はい」
 村雨はそれを受けて俯きかけていた顔を上げた。
「今のままではライダー達は敗れます。バダンの力はあまりに強大です」
「ではやはり」
「はい、貴方の力が必要です。しかし今の状態の貴方だと戦力にはなりません」
「ではどうすれば」
 彼は役の言葉に戸惑った。
「一つだけ方法があります。しかしそれは」
「それは・・・・・・!?」
 役の言葉が止まったのを受けて問うた。
「可能性は極めて薄いものです。そして失敗すれば貴方の命はありません」
 彼は村雨の心を試すようにして語り掛けてきた。
「それでもいいですか。命をかけても」
「はい」
 迷うことはなかった。村雨は即答した。
「言いましたよね、俺はライダーだと」
「はい」
「ライダーになったからには命をかけます。可能性が僅かでもあればそれにかけます。それがライダーなのですから」
「その言葉、偽りはありませんね」
「ライダーの言葉に嘘はありません」
 彼は強い声でそう返した。
「わかりました」
 役はその言葉を受け取った。そして頷いた。
「では行きますか」
「はい」
 二人は何処かへ向かった。そしてその場から立ち去ったのであった。

 ライダー達は伊勢に入った。それはバダンからも確認されていた。
「遂に来ましたね」
 ヤマアラシロイドは指令室のモニターからそれを見ていた。ライダー達は今伊勢に入ったところであった。
「で、どうするつもりだ」
 隣に立つ三影が彼に問うた。
「俺は貴様が指揮を執りたいというから任せたのだが」
「はい」
 ヤマアラシロイドは何かを楽しむような顔でそれに頷いた。
「思う存分やらせてもらいますよ。貴方にはこの基地の防衛に専念してもらいます」
「そうか。美味しい場所は独り占めというわけか」
「そうなりますね」
 彼はそれを否定しなかった。
「ですがそれは貴方も同じでしょう」
「どういう意味だ」
「ゼクロスとの勝負、それだけが貴方の望みなのですから。彼が出て来ないとなれば貴方もやる気は起こらないでしょう」
「ふん」
 彼はそれに答えなかった。そのかわりにモニターに目を移した。
「その通りだがな。俺の望みはあいつを倒すことだけだ」
 モニターにはライダー達が移っていた。しかしそこに村雨の姿はなかった。
「あいつがいないと出る意味がないからな」
「わかりました」
 ヤマアラシロイドがそれを聞いて満足したように笑った。
「では彼が出て来るその時までここの守りをお願いしますよ」
「わかった」
「あと暗闇大使はどうされていますか」
 彼はここで暗闇大使のことを問うてきた。
「手術は無事終わった後回復に努めておられるようですが」
「順調らしいぞ」
 三影はそう答えた。
「暫くしたら復帰できるらしい。何の心配もいらないそうだ」
「それは何より。ゼクロスの方はそうはいかなかったようですが」
 ややシニカルにそう言った。それは三影に向けられているのは言うまでもない。
 だが三影はそれを無視した。かわりに彼に対してこう言った。
「行った方がいいのではないか」
「戦場にですか」
「そうだ。そろそろ戦闘がはじまるぞ」
「ええ、わかっていますよ」
 別のモニターには戦闘員達が映っていた。彼等はライダー達に接近しようとしていた。
「それではそろそろ行きますか」
「そうした方がいいな」
 三影はヤマアラシロイドを一瞥もすることなくそう言った。感情のこもっていない声であった。
「ここは俺に任せろ。安心して行って来い」
「わかりましたよ」
 彼はすっと笑った。そして足を出口に向けた。
「ここは頼みましたよ、三影英介。いや」
 ここで言葉を変えた。
「タイガーロイド。虹のゼクロスと御呼びした方がいいですかね」
「勝手にしろ」
 だが彼はそれに答えようとしなかった。早く出て行けと言わんばかりの態度であった。
「わかりましたよ」
 ヤマアラシロイドはまた笑った。そして出口をくぐった。
「では邪魔者は退散するとしましょう。潔くね」
「フン」
 ヤマアラシロイドは最後に顔を三影に向けると姿を消した。彼はやはりそちらに顔を向けはしなかった。
「何がヤマアラシだ」
 彼はそのかわりに吐き捨てるようにしてそう呟いた。
「狐が。精々その戦いを見せてもらうぞ」
 そして後ろにある椅子に座った。そのまま指揮を執りはじめた。

 ライダー達は伊勢に入り暫くして早速歓待を受けていた。
「来たな」
 彼等は迫り来る戦闘員達を前にして不敵に笑った。
「おっと」
 だがその前に姿を現わす男がいた。
「ここは私に任せてもらいますか」
「竜さん」
「ええ」
 竜は彼等のほうを振り向いてにんまりと笑った。
「最近運動不足でしてね。ここはやらせてもらいますよ」
「しかし」
「大丈夫ですよ。戦闘員なんて相手じゃありませんから」
 彼はそう言うと懐から拳銃を取り出した。
「これもありますからね」
「どうしてもここに」
「勿論ですよ」
 深刻な口調であるライダー達に対してあくまで明るく返した。
「だから何も心配しないで。わかりましたね」
「・・・・・・はい」
 彼等は頷くしかなかった。そして後ろを竜に任せ先に向かった。佐久間もそこに残った。
「俺もここに」
「ケン」
 風見がそれを止めようとするが彼はそれを振り払った。そしてそこに残った。
「先輩、後で何か食べましょう。それとも小樽でまた寿司でも食べますか」
「悪くないな」
 風見は微笑んでそれに応えた。
「この戦いが終わったら行くか。二人でな」
「はい」
 風見はそこで前に向き直った。そして二度と振り返りはしなかった。
 暫く進むとまた戦闘員達が姿を現わした。今度はモグラ獣人とチョロが残った。
「アマゾン、俺らここで待ってるぜ」
「モグラ」
「俺も」
「チョロも」
 四人はそれぞれ全く異なった表情で互いを見やった。
「アマゾンで何食う?また魚で一杯やろうな」
「仙台で何か食べ残したものあrましたっけ?」
 二人は深刻な素振りなぞかいまも見せることなく二人に逆に尋ねた。
「うん、そうしよう」
 アマゾンは意を決してそれに同意した。
「そうだな。きりたんぽがいいな」
「おっと、きりたんぽは秋田ですよ」
「いいじゃないか。遠くに出て食べよう。ついでにわんこそばも食べないか」
「いいですね。そうしましょう」
「じゃあな、頼んだぞ」
「ええ」
「モグラ、魚食べよう」
「ああ」
 そして二人はそこに残った。ライダー達はさらに進む。
 またしても戦闘員達が姿を現わした。今度は三人の博士達が残った。
「おっと、わし等も」
「博士達だけじゃ数が多過ぎますさかいな」
 谷とがんがんじいが立ち止まった。
「おやっさん、がんがんじい」
「浩、帰ったら何か食うか」
「大阪に行きまへんか?お好み焼きでも」
「お好み焼きか。そういえばがんがんじいの好物だったな」
「ええ。たんまりとおごりまっせ」
「そうか、じゃあ頼むよ」
「任せといて下さい。それじゃあ」
「ああ」
 そして彼等も残った。ライダー達はさらに先に進んだ。
 また戦闘員達が前から出て来た。今度ばかりは戦いは避けられそうにもなかった。
「行くぞ」
 先頭を進む本郷が他のライダー達に対して言った。
「おお」
「はい」
「わかりました」
 ライダー達はそれに頷いた。そして前に出ようとする。その時だった。
 立花と滝が前に出た。そして戦闘員達の中に飛び込んだ。
「おやっさん、滝!」
 本郷と一文字は彼等の姿を見て思わず叫んだ。
「危ないですよ、ここは俺達に任せて」
「そうですよ、無理をしちゃいけません」
 風見と神も二人に対してそう言った。だが二人はそれに対してにかっと笑ってこう答えた。
「何言ってやがる、無理しているのは御前等だってそうだろ」
「そういうことだ、俺達にも無理をさせてくれ」
「しかし・・・・・・」
「いや」
 それでも言おうとする結城に立花は顔を引き締めさせた。
「御前達にはバダンの本拠地に乗り込んでもらわなくちゃいかん。こんなところで無駄な体力を消耗してもらっちゃ困るんだ」
「そういうことだ、だからここは俺達に任せろ」
「わかりました」
 最初に答えたのは城であった。
「皆、ここはおやっさんと滝さんに任せよう」
「しかし」
 それでも他のライダー達、とりわけ結城は不安そうであったが皆頷いた。今の状況を最もよくわかっているのは他ならぬ彼等であるからだ。
「じゃあ行こう。おやっさん、滝」
 本郷が彼等に対して言った。
「あとは頼みますよ。そしてアミーゴでコーヒーを入れて下さい」
 一文字も続いた。立花はそれを聞いてにこやかな笑みを浮かべた。
「おう、任せとけ。ただ滝のコーヒーはまずいから気をつけろよ」
「ちょっとおやっさん、何言ってるんですか。俺は元々紅茶派じゃないですか」
「アメリカにいた癖にミルクティーなんて飲むな」
「そんなの人の勝手じゃないですか」
 ライダー達は二人のやりとりを暖かい目で見た。そして前を振り向くとそのまま走り出した。
「・・・・・・行って来い。そして帰って来い」
 立花は消えていく彼等の背中を見てそう呟いた。そして戦闘員達に向き直った。
「行くぞ、滝」
「はい」
 滝もであった。二人は迫り来る戦闘員達を前にして身構えた。
 そして戦いをはじめた。後ろから聞こえるライダー達の走る音はもう聞こえなくなっていた。

 ライダー達は海沿いの岩場に来た。村雨と役から聞いた情報ではここに入口があるという。
「あいつの情報が正しければ」
「そろそろ来るな」
 ライダー達は辺りを警戒しつつ前に進んでいく。そして周囲を岩に囲まれた広い場所に出た。
「ここなら戦いに持って来いだな」
「ああ」
 そう話をしていた。その時であった。
「その通り」
 岩の上に一斉に影が現われた。
「来たか!」
 ライダー達はそれを見てすぐに身構えた。
「よくぞ来られました、ライダー達よ」
 彼等の正面に立つヤマアラシロイドが慇懃な声でそう言った。
「我がバダンの招待に応じてくれて心より感謝致します」
 そして心にもないことを述べた。
「何が感謝だ」
 それはライダー達にもよくわかっていた。
「それに貴様等に呼ばれてここに来たわけではない。貴様等を倒す為に来たのだ」
「おやおや」
 ヤマアラシロイドはそれを聞きながらにこやかに笑った。
「何と余裕のない方達でしょう。折角の宴の前です。もう少し落ち着かれてはどうでしょうか」
「戯れ言を」
 だがライダー達はその言葉をはねつけた。
「貴様とてそのようなことは望んではいないだろう」
「貴様等の考えはもうわかっている。さあ来い、決着をつけてやる」
「フフフ」
 ヤマアラシロイドだけではなかった。他の者もそれを聞いて無気味に笑った。
「ここで貴方達を倒せば我がバダンの覇業は成ったも同じ」
「一人残らず倒してやろうぞ」
「それはこちらの台詞だ」
 ライダー達は臆することなくそう返した。
「行くぞ」
「これが最後の戦いだ」
 彼等はそれぞれ変身の構えに入った。腰からベルトが姿を現わした。
 そして変身に入った。九つの光が輝きそこに九人のライダー達が姿を現わした。
「変身しましたね」
 ヤマアラシロイドはそれを見てやはり笑っていた。
「では我々も変身しなくてはなりませんね」
 そして他の者達に顔を向けた。

「同志達よ。準備はよろしいですか」
「無論」
「今すぐにでも」
 彼等は答えた。それを受けてヤマアラシロイドはまた笑った。
「ではお見せしましょう。我等ももう一つの姿を」
 そう言うと黒い光が彼等を包んだ。
「ムッ!」
 ライダー達はそれを見て思わず目を見張った。世界が一瞬闇に包まれたかに見えた。
 だがその光が去ると別の者達がそこに立っていた。何とゼクロスがそこにいたのだ。
「いや、違う」
 彼等はすぐにそれを見破った。
「貴様達はゼクロスではないな」
「フフフ、確かに」
 銀色のゼクロスがそれに応えた。その声はヤマアラシロイドのものであった。
「私達はゼクロスの力を移植されたもの。暗黒の力を以ってして」
「さっきの黒い光か」
「その通り」
 紫のゼクロスがストロンガーに答える。タカロイドの声であった。
「私達は暗闇大使よりこの力を授けられたのよ」
「そして同時に残っていたゼクロスの力をもとに改造手術を受けたのだ」
 バラロイドの声で紫のゼクロスが、そしてアメンバロイドの声で灰色のゼクロスが語る。
「では貴様等はゼクロスの力をそのまま持っているとでもいうのか」
「ええ」
 Ⅹに黄色のゼクロス、ドクガロイドが返答した。
「何なら証拠を見せてやろうか」
「ここにあるぞ」
 ジゴクロイドの声で黒いゼクロスが、カメレオロイドの声で緑のゼクロスが言う。
「証拠だと」
 Ⅴ3がその言葉にすぐに反応した。
「面白い、そんなものがあるのか」
 二号はここであえて挑発するようにして言った。
「では見せてあげるわ」
 白いゼクロスは女の声であった。バラロイドのものであった。
「これを見るがいい」
 橙色のゼクロスがカニロイドの声で言うとその手に手裏剣が現われた。
「たっぷりとな」
 青いゼクロスもそれに続き爆弾を取り出す。トカゲロイドの声で語りながら。
「受けてみる?」
 茶色のゼクロスもそれに続く。女の声、そうカマキロイドの声で。
「容赦はせぬぞ」
 最後に金色のゼクロスが言った。クモロイドであった。
「望むところだ」
 ライダー達はそれに臆することなく返した。その目の光は強く、輝いていた。
「ゼクロスと同じ姿か、面白い」
「もっともそれで能力まで同じとは限らないがな」
「何!?」
 これには全てのゼクロス達が声の色を変えた。
「それはどういう意味だ」
「そのままだ」
 これにスーパー1が言葉を返した。
「ゼクロスは村雨良が変身してはじめてゼクロスとなる、そう言ったのだ」
「では我々はゼクロスではないというのか」
「そう表現する以外にどう言えばいいのか俺にはわからんな」
 Ⅹもここでそう言った。
「姿は同じでも中身が違えばその力も違うということだ」
「では我々がゼクロスより劣っているとでも言うのか」
「聞こえなかったようだな」
 ストロンガーが言った。
「その通りだ。少なくとも貴様等は心でゼクロスに負けている」
「戯れ言を」
 それを聞いたゼクロス達の声が怒りに満ちていく。
「裏切り者と我々を比べるだけでも許せぬというのに劣っているとさえ言うのだ」
「フン」
 Ⅴ3がその声を鼻で笑った。
「貴様等は他のどの者にもそれは負けている。何故なら貴様等の心は腐り果てているからだ」
「それ以上言うと容赦はせぬぞ」
「容赦!?何を今更」
 スーパー1も続いた。
「これから戦うつもりなのだろう。そしてその心は貴様等の身体から発せられるドス黒い気ですぐにわかることだ」
「そう、御前達の気も心も醜い。アマゾンそれ感じる」
「醜いだと」
「そう。御前達の気邪念そのもの。権力や力のことだけ考えている。自分達のことしか考えていない」
「クッ・・・・・・」
 これには反論できなかった。
「アマゾンの言う通りだな。これは何時になっても変わらん」
 ライダーマンの言葉は彼がかってデストロンにいたことがある為重みがあった。
「自分達の欲望の為なら例えどのようなことでもする。それが貴様等だ」
「まだ言うか」
「ああ、何度でも言ってやる」
 スカイライダーまで言った。
「貴様等のその心がこの世を脅かす限りな。そして我々は何度でも戦う」
「おのれ」
「どうした、それで終わりか」
 二号が彼等を挑発するようにして言う。
「それならばそろそろはじめさせてもらおうか」
「こちらは何時でもいいぞ」
 それに合わせて一号も口を開いた。
「さあ来い。ここで貴様等を完全に討ち滅ぼしてやる」
「それはこちらの台詞」
 しかしそれでもゼクロス達は気負ってはいなかった。それどころか怒りによりその力を増大させているようにさえ見えた。
「今の言葉、地獄で後悔させてやろう」
「地獄か」
 だがライダー達はその言葉を冷笑した。
「地獄とは貴様等の為にこそあるものだ。それを教えてやろう」
「来い!」
「面白い、ではどちらが地獄に相応しいか確かめようぞ!」
「ライダー達よ、覚悟しろ!」
 ゼクロス達は一斉に跳んだ。そして空中で回転する。
「来るぞ」
「ああ」
 ライダー達は互いに背中を合わせ円陣を組んでいる。
「覚悟はいいな」
「無論」
 怖れている者は誰もいなかった。その彼等の周りにゼクロス達が同時に着地した。
「行くか」
「うむ!」
 そしてライダー達は一斉に散った。そしてそれぞれの敵へ向かって言った。
 ゼクロス達もそれを迎え撃つ。遂に最後の戦いがはじまった。
 拳が唸り脚が舞う。ライダー達もゼクロス達もその力と技の全てを出して戦いを開始した。
 戦いは五分と五分であった。だが数にやや勝るゼクロス達は特定の相手を持たない者を後方に置き他の者を援護させた。それで戦いを少しでも有利にしようとしていた。
「そう来るか」
 ライダー達はその後方からの攻撃を受けて舌打ちした。
「まずいな、今はあいつ等にまで手が回らない」
「フフフ」
 それがバダンの狙いであった。そしてそれにより互角の状況となっているこの戦いを少しでも有利にしようとしていた。
 だがライダー達には考えている余裕もなかった。どちらにしろこの戦いは負けるわけにはいかなかったからだ。
「やるしかない、どの様な状況でも」
 その通りであった。どれ程劣勢であっても勝たなければならなかったのだ。
 それでも数は如何ともし難い。彼等はそれにより互角の状況に追い込まれて、それを覆す余力もなかった。
「クッ・・・・・・」
 思わず歯噛みする。しかし焦ってはならない。彼等はそのジレンマに苦しささえ感じていた。その時であった。
「先輩達、遅れてすいません!」
 その声と共に何者かが戦場に入って来た。それは赤い風であった。
「まさかっ!」
 ゼクロス達はその風を見て思わず叫んだ。そこにいるのは彼等自身であった。
「ゼクロス、来たのか!」86
 ライダー達は彼の姿を認めてやはり叫んだ。
「ええ、何とか間に合いましたね」
「しかし大丈夫なのか」
「大丈夫!?何がですか!?」
 他のライダー達の心配そうな言葉にもしれっとしたものであった。
「御前はあの戦いでのダメージが」
「それなら大丈夫ですよ」
 彼はそれに対して笑ってそう答えた。
「役さんのおかげでね」
「役君の!?それは一体」
「フフフ、それは秘密ですよ」
 だが彼はそれには笑って答えようとしなかった。
「それよりもこの連中を何とかしましょう。ここを突破しないと首領のところへは行けませんよ」
「あ、ああそうだったな」
 彼等はその言葉で戦場に心を戻した。
「では行くぞ。あらためてな。御前は後方に回っている奴等を頼む」
「はい」
「二体だがいけるな。攻撃を止めるだけでいいからな」
 そこにいるのはクモロイドとヤマアラシロイドが変身した金のゼクロスと銀のゼクロスであった。
「大丈夫ですよ。それどころか」
「それどころか!?」
「あの二体も俺が倒しますよ」
 彼は不敵な声でそう答えた。
「馬鹿な。無茶をするな」
「心配御無用、無茶がライダーでしょう」
「しかし」
 それでも彼等はゼクロスのことが心配でならなかった。それだけ彼のダメージは深刻な筈であるからだ。
「では行きましょう」
「いいのか」
「勿論ですよ。その為にここまで来たんですから」
「そうか。ならわかった」
 もう彼等はそれを止めることはしなかった。
「では行くがいい。そして勝て!」
「はい!」
 ゼクロスは頷くと自分自身に向かって言った。金色と銀色の姿をした二人の自分に。
「フン」
 金のゼクロスはそれを見て鼻で笑った。
「聞いたか、同志よ」
 そして隣にいる銀のゼクロスに対して言葉をかけた。
「ええ」
 銀のゼクロスはそれに頷いた。
「どうやらきついお仕置きが必要ですね」
「うむ」
 彼はそれに頷いた。そして身体を屈めた。
「どちらが先に行く?」
「それは決まっています」
 彼はその問いに余裕を以って答えた。
「早い者勝ちです。それ以外にありますか?」
「フフフ、バダンの掟だな」
「その通り。獲物はより強い者が手に入れる、それだけです」
「ならばそうしよう。私としても異存はない」
「そうこなくては。では行きますか」
「うむ」
 彼等はそれぞれ跳んだ。そしてゼクロスに向かって来た。
「来たな」
 ゼクロスはそれを見ながら呟いた。
「こちらとて望むところ」
 そしてナイフを取り出す。敵も取り出してきた。
「来い!必ず勝ってやる!」
 そう叫ぶと切り込んだ。忽ち激しい戦いがはじまった。
 ライダー達はそれぞれのゼクロスと戦いを続けていた。一号は青のゼクロスと、二号は黒のゼクロスと、Ⅴ3は白のゼクロスと、ライダーマンは緑のゼクロスと、Ⅹは橙のゼクロスと、アマゾンは茶のゼクロスと、ストロンガーは黄のゼクロスと、スカイライダーは紫のゼクロスと、そしてスーパー1は灰のゼクロスとそれぞれ戦っていた。どれも互いに譲らぬ状況であった。
 だが次第に形勢が明らかになってきた。ライダー達がゼクロス達を押してきていたのだ。
「ぬうう」
 ゼクロス達は自分達が劣勢になってきたのに対して次第に焦りを覚えていた。だがそれはライダー達にとっては有り難い
ことであった。
 そこに隙ができる。そしてライダー達にそれを見せることは死を意味していた。
「ムッ」
「今だ!」
 ライダー達はすぐに動いた。ゼクロス達に攻撃を仕掛け、態勢を崩させると一斉に跳んだ。
「トォッ!」
 空中で一回転する。そして止めの攻撃に移った。
「食らえ・・・・・・」
 十の光が天に輝く。そしてそこから蹴りに入った。
「ライダァーーーーー月面キィーーーーーーック!」
「ライダァーーーーー卍キィーーーーーーーック!」
「Ⅴ3スクリューーーーーキィーーーーーーック!」
「ライダーーーーマンキィーーーーーーーーック!」
「Ⅹ必殺キィーーーーーーーック!」
「アマゾンスピンキィーーーーーーック!
「超電子ドリルキィーーーーーーーーック!」
「ライダァーーーーーームーンサルトキィーーーーーーーック!」
「スーーパーーーライダァーーーーーー閃光キィーーーーーーーーック!」
 そしてゼクロスも跳んでいた。全身に赤い光を纏わせそこから回転する。そこから蹴りを放つ。
「ゼクロスダブルキィーーーーーーッ!」
 まずは金のゼクロスに対して蹴りを放つ。その反動を利用して後ろに跳びそこからまた蹴りを放つ。今度は銀のゼクロスに対してだ。
 銀のゼクロスも撃った。それからようやく着地した。
 ゼクロス達は弾き飛ばされた。そして大きな音を立て大地に崩れる。
「グオオオオオ・・・・・・」
 呻きながら起き上がる。起き上がりながら徐々に人間の姿に戻っていく。
「ま、まだまだ・・・・・・」
 それでもなお戦いを続けようとする。しかしそれができないことは彼等自身が最もよくわかっていた。
「止めておけ」
 ここで何者かが姿を現わした。
「最早貴様等にこれ以上の戦いは無理だ。安らかに死ぬがいい」
 彼は同志達に前に立ってそう言った。
「三影」
 彼等はその男を見上げてその名を呼んだ。
「後はこの俺に任せるのだ。いいな」
「しかし」
「同志達よ」
 だが彼はゼクロス達に対して強い声を返した。
「貴様等はよくやった。後は俺に任せるのだ。ゼクロス、そしてライダー達を倒すことをな」
「フ・・・・・・」
 彼等を代表するようにヤマアラシロイドが笑った。

「最後の最後までずるい人です。いつもそうやって美味しいところをさらう。しかし」
「最早俺達はこれ以上は無理だ。貴様の言う通りな」
「忌々しいけれどね」
 彼等は口々にそう言った。
「後は任せたぞ、三影」
「ライダー達、そしてゼクロスの首、見事挙げよ」
「地獄でバダンの覇業を見てやる故な」
「先に待っていますよ」
「フン、こんなところで死ぬのは不本意だがな」
「また貴様に出て来られるのもそうだがな」
「だが任せた、同志よ」
「仕方ないわね」
「ゼクロスの首」
 彼等は立ち上がった。そして最後にこう言った。
「見事挙げてみよ!」
 そう言うと前から倒れ伏した。そして爆発の中に消えていった。
「安らかに眠れ」
 三影はその爆発を背で受けながらそう呟いた。それからゼクロスとライダー達に顔を向けた。
「さて、と。わかってるな」
「ああ」
 ゼクロスはそれを受けて頷いた。
「多くは言わん。行くぞ」
「来い」
 ゼクロスは身構えた。三影はそれを受けるかのようにサングラスをゆっくりと外した。
 すると黒い光が全身を覆った。その光が消えた時そこには七色に輝くゼクロスがいた。
 彼は無言で前に出た。そしてゼクロスに向かって来た。
「ウオオオオッ!」
 叫びながら拳を繰り出す。そしてそれでゼクロスの顔を潰さんとする。
 だがゼクロスはそれをかわした。そして逆に彼のその腕を掴んだ。
「甘いっ!」
 しかし虹のゼクロスはそれよりも前にその腕を引いた。そして態勢を崩したゼクロスに対して体当たりを仕掛ける。
 これでさらにバランスを崩したゼクロスにさらに攻撃を仕掛ける。畳み込む様にパンチを仕掛ける。
 ゼクロスはそれを両手をクロスさせ、そこに赤い光を纏わせて防ぐ。ライダー達は思わずそれに加勢しようとする。だがゼクロスはそれを拒んだ。
「手出しは無用です!」
「しかし・・・・・・」
 それでも彼等は今にも動かんとしていた。だがゼクロスはそれを拒む。
「こいつは俺一人でやります。だから安心して下さい」
「・・・・・・わかった」
 ライダー達もそれに頷いた。
「ではやってみろ。その男、御前一人で倒してみろ」
「はい」
 ゼクロスは他のライダー達に言葉に応えた。
「見ていて下さい、先輩達」
 彼は攻撃を受けながらその態勢を整えていた。
「これが俺の戦い方、仮面ライダーゼクロスの戦い方だ!」
 そう叫ぶと跳んだ。そしてその両手に手裏剣を出した。
「食らえっ!」
 手裏剣を投げる。それにも赤い光を宿らせている。
 虹のゼクロスはそれをナイフで弾き返した。そして自らは爆弾を取り出す。
「これならどうだ」
 そしてそれを投げる。ゼクロスはそれに対して空中で姿を消した。
「ムッ!?」
 これには虹のゼクロスだけでなく他のライダー達も思わず目を見張った。ゼクロスは何処なに消えた。
「何処に行った!?」
 虹のゼクロスは辺りを見回す。その時後ろから声がした。
「ここだ」
 その声と共に背中に彼がいた。そして虹のゼクロスの腰を掴んだ。
「ムッ!?」
 彼が気付いた時にはもう遅かった。ゼクロスは彼を頭から地面に叩きつけようとしていた。
「これでどうだっ!」
 プロレスでいうバックドロップだ。これ以上はないという程綺麗な形で決まった。そう、そのまま決まると、であった。
 虹のゼクロスの姿が消えた。そして今度はゼクロスが捜す番となった。しかし彼は焦らなかった。
「そう来るか」
 彼はあくまで冷静であった。そして辺りを見回すことなくその場にしゃがみ込んだ。
「何っ!?」
「どういうつもりだ」
 ライダー達はそれを見て思わず声をあげた。だがゼクロスはやはり冷静なままであった。
「どうするつもりだ」
 彼等はそれを見てかえって不安になった。彼等の方が不安な程であった。
 それでもゼクロスは冷静なままであった。そして落ち着いた様子で両肩から煙幕を出した。
「フフフ、そう来るか」
 虹のゼクロスの声がした。
「考えているな。そうでなくては面白くない」
 彼等はその煙の中に姿を消した。
「こちらの姿だけ見えていては不都合なのでな」
 ゼクロスはそれに対して普段と全く変わらない声でそう返した。
「さあ三影よ、どうするのだ」
 彼は煙の中で彼に問うた。
「決まっている」
「ほう」
 その声は笑っていた。
「最初からな。貴様を倒す。それ以外に何があるというのだ」
「確かにな」
 ゼクロスはその言葉に対して声で頷いた。
「ではこちらも仕掛けてやろう。貴様もそれが望みであろう」
「・・・・・・・・・」38
 しかしゼクロスはそれには答えなかった。そのかわりに攻撃が放たれた。
「ムッ!」
 虹のゼクロスの声がした。何かが弾かれる音がした。
「この中で手裏剣を放ってくるか。しかも俺の位置を掴んで」
 彼の声が再びした。
「俺の声から場所を探ったか」
「違う」
 だがゼクロスはそれに対してこう言った。
「貴様の気は目立つ。まるで抜き身の刃のようだ」
「ほお」
「それでわからない筈がない。今貴様が何をしているのか俺には手にとるようにわかる」
「そうか」
 虹のゼクロスはその言葉を聞き楽しそうに声をあげた。
「では俺がこれから何をするつもりなのかわかっているな」
「当然だ」
 ゼクロスはそれに答えた。
「来い。もうすぐ煙も消える」
「ふむ。では煙が消えてから見せよう」
 虹のゼクロスはあくまで楽しむ声であった。そして煙が消えた。
 ゼクロスは今までと大して変わらない場所に立っていた。そして虹のゼクロスはその正面に立っていた。だが彼は一人ではなかった。
「フフフ」
 彼は笑っていた。複数の声が聞こえてきた。
「さて、ゼクロスよ」
 五人の虹のゼクロスが彼に問うてきた。
「これもわかっていたというのかな」
「そうだ」
 だが彼の言葉は変わらなかった。
「言った筈だ、貴様の考えはわかるとな」
「フン」
 虹のゼクロスはその言葉に鼻白んでみせた。
「結構なことだ。では貴様はこれに対してどうするつもりだ。五人の俺を前にして」
「どうするかか」
「そうだ。何も考えがないとは言わせぬぞ」
 彼はそう挑発してきた。
「言っておくがこれは脅しではない」
「それはわかっている」
 だが彼は身構えるだけでこれといった動きはしてこない。まうれ無防備である。
「待っているのか」
 虹のゼクロスはそれを見てふと思った。だがそれは口には出さない。
「ゼクロス」
 彼はこの時自分が焦りはじめていることに気付かなかった。
「来ないのならこちらから行くぞ」
「勝手にすればいい」
 そしてその焦りはこの言葉で火が点いた。
「・・・・・・そうか」
 彼は冷静に返したつもりであった。だがそれが為に自分が今焦っていることにまで気がつかなかった。
「では容赦する必要はないな」
 これは自分に落ち着けと言い聞かせているようであった。
「死ね」
 彼は動いた。そしてゼクロスを取り囲んだ。
 その五体のゼクロスが彼自身を取り囲む。だがそれでも彼は動くことはなかった。
 三影はさらに焦った。その無意識下の焦りを消す為には最早動くしかなかった。そして彼は動いた。
 無言のまま五体の虹のゼクロスが同時に動く。一斉にゼクロスに向かって来た。
 ゼクロスはこの時地面を見ていた。今大地には太陽がある。
 光が大地を照らす。そしてそれと共に影も映し出す。そう、影であった。
 彼は影を見ていたのだ。その五つの虹のゼクロスの影を見ていた。本来ならその影は五つの筈である。
 だがそこにある影は一つであった。そう、一つしかなかったのだ。
 その影を見た。それからすぐに跳んだ。
「そこだっ!」
 天高く跳んだ。そして空中で激しく回転する。
「ムッ!」
 五体に虹のゼクロスは思わず天を見上げた。そして空中でいるゼクロスを見やった。
 ゼクロスは激しく前転しながら急降下して来る。回転しながらその目は影を見ていた。
「行くぞ・・・・・・」
 ゼクロスはその影を持つ男に向かっていた。そしてその回転をさらに速めた。
「ゼクロス回転キィーーーーーーック!」
 全身に赤い光を宿らせた。そして蹴りを放った。
 その蹴りが影を持つ虹のゼクロスを撃った。足が胸にめり込む。
「グググ・・・・・・」
 それが本体であった。影を持つ者が撃たれると他の虹のゼクロスは全て消え去った。
 足はそのままめり込んでいく。だが虹のゼクロスはその足を掴んだ。
「舐めるな・・・・・・」
 彼は言った。
「この三影英介を舐めるなよ!」
 そしてこう叫んだ。渾身の力を込めてゼクロスの足を抜こうとする。
「何ッ!」
 これにはゼクロスだけでなく他のライダー達も驚かずにいられなかった。虹のゼクロスはそのまま足を引き抜いた。
 その足を掴んだまま振り回す。そして後ろに大きく投げた。
「ウオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーッ!」
 投げた。だがやはりダメージが大き過ぎた。その力は全力ではなくゼクロスは何なく受け身をとり着地することができた。膝を折り衝撃を殺す。
 顔を上げ虹のゼクロスを見る。彼はまだ立っていた。
「さて」
 胸には激しい傷跡があった。それでも彼は崩れることなく立っていた。
「まずは見事だと褒めておくか。あの技を破るとはな」
「見事か」
「そうだ。何故俺の実体がわかったのは知りたいのだが」
「影だ」
 ゼクロスはここでこう答えた。
「影」
「そうだ。俺は貴様の姿を見ずに影を見ていたのだ。太陽に映る貴様の影をな」
「影があるのが俺の実体だとわかっていたな」
「分身は俺も使う。それを忘れていたな」
「フッ、確かに」
 虹のゼクロスはそれを聞いて笑った。だがそれは澄んだ笑みであった。
「どうやら俺は所詮貴様のコピーに過ぎなかったようだな。少なくともこのゼクロスの身体は」
 ここで彼の変身が解けた。そして三影の姿に戻った。
「誤ったか。タイガーロイドならば。いや」
 しかしここで言葉を変えた。
「以前はそれでも負けた。結局俺は貴様に勝てない運命だったということだな」
 変身を解いた三影の胸はやはり大きな傷を受けていた。そこから血がとめどなく流れている。だが彼はその傷を押さえようともしなかった。
「村雨、いやゼクロス」
 彼はここで言った。
「どうやら貴様には時を司る者もついているな。神は貴様を選んだということだ。そしてライダー達をな」
「そうだ」
 彼はそれに対してこう答えた。
「だが選ばれたのではない。俺達は自分の力でそれを掴んだのだ。平和を守る為にな」
「フッ、平和か」
 三影はそれには鼻で笑った。
「貴様等のいう平和と俺の言う理想世界、どちらが正しいかはわかっている。人間とは所詮愚かな生物だからな」
「それはどうでしょうね」
 だがここで別の者の声がした。
「その声は」
「来たか」
 ゼクロスと三影はその声がした方に同時に振り向いた。ライダー達もである。
「三影英介、暫くぶりですね」
 役は彼に対してそう言いながら前に出て来た。
「どうやら貴方は全く変わってはおられないようですね」
「戯れ言を」
 しかし三影は役に対しても臆することがなかった。すぐにそう言い返した。
「俺は貴様のことはわかっている。そしてその考えもな」
「そうですか」
 役も臆してはいなかった。それをさらりと受けた。
「それは何よりです。それにしても貴方は愚かな方です」
「?何故俺が愚かなのだ」
「御自身では気付いておられないようですが貴方は所詮御自身の選民思想や権力欲を理論武装しているだけなのです。人を一方的に悪と決め付けることによってね」
「俺が?馬鹿を言え。俺はそんな考えは持ってはいない」
「いえ、それを気付いておられないだけです」
 役の言葉は口調こそ穏やかであったがその中身は辛辣なものが含まれていた。そして彼はそれを緩めることがなかった。
「だからこそ貴方は愚かなのです」
「俺を面と向かって愚かと言うとはな。見上げたものだ」
 三影は役を睨み据えていた。
「だがその罪はあがらう覚悟はできているのだろうな」
「罪・・・・・・。それも貴方は考えておられますね。人はその存在自体が罪なのだと」
「そうだ。何か間違いがあるか!?」
「確かに人には罪があります。そしてそれは生きている限り重ねられていくものです」
「そうした汚らわしい人間共を抹殺することこそ我がバダンの宿願の一つだ」
「しかしそれは人の一面だけを見ているに過ぎません」
 役はそう反論した。
「それは何故か。自分だけを高みに立って他者を見下したいからです」
 含まれている辛辣なものがさらに強くなった。
「そしてバダンに選ばれ、粛清する立場にあることを感謝する。それ等が選民思想、そして権力欲でなくて何と言うのですか。貴方はそうやってでしか自分を立たせることができない弱い者なのです」
「今度は弱いというか」
「ええ。少なくともあの方達よりは」
 役はここでライダー達に顔を向けた。
「御覧なさい」
 そこには立花達がやって来ていた。
「おい、無事だったか!」
「心配したぞ!」
 滝もいた。博士達もがんがんじいも。竜もチョロもがんがんじいもモグラ獣人もいた。皆無事であったのだ。
「おやっさん」
「無事だったんですね」
 彼等はそれぞれ細かい傷を少なからず受けていた。頭から血を流している者もいる。この戦いの激しさを何よりも物語るものであった。
 それでも彼等はその傷を置きライダー達の方にやって来た。そして彼等を気遣うのであった。
「皆無事だったんだな。よくやった」
「勝ったんですな、みなはん」
 そして温かい声をかける。その目は誰よりも優しいものであった。
「あの目を見なさい」
 役は三影に対して言った。
「あれが人間の本当の力です。人にはああした一面もあるのです」
「あれの何処が力だ」
 それでも三影は頑なにそれを見ようとはしなかった。
「甘い、単なる馴れ合いだろうが。あんなものが力だとは断じて認めん」
「貴方はそう考えるでしょうね。そしてそれを拒む」
「フン」
 彼は首を逸らした。
「だからこそ敗れたのです。それを最後まで理解されないのですね」
「敗れたのは俺の力が足りなかっただけだ。他に何がある」
「その力、よく考えられればおわかり頂けたのですがね」
「そうして昔から貴様は人に干渉してきたのだな」
「干渉?とんでもない」
 役はそれを口の端だけで笑い飛ばした。
「私は守護者なのですよ。人の世のね。それだけです」
「だからこそゼクロスに協力したのだな」
「ええ。そういうことです」
 役はゼクロスに顔を向けた。
「そういうことだったのですよ。先程のお話は」
「そうだったのですか」
 ゼクロスはここに来る前のことを思い出していた。その時役は彼にあるものを渡していたのだ。それは『王の石』と呼ばれる光輝く石であった。
 その石をベルトに埋め込むと傷が忽ち回復した。そしてそこで役は彼に自分の正体を話したのだ。その石のことと共に。
「あの石は神の石なのです。私があの方々に授けられたものです」
「賢者の石だけではなく、か」
 三影はそれを聞いてそう言った。
「貴様はもう一つ石を持っていたということだな」
「ええ、そういうことです」
 役はその言葉に対してそう返した。
「全てはこの世を守る為にです」
「そして貴様はライダー達に協力したのか。かってあの男を排除した時のように」
「あのコルシカ生まれの小柄な皇帝ですね」
「あの男をあれ以上置いておいては危険だからか。そしてナチスもソ連も」
「そうですね。そういうこともありました」
「バダンもか。フン、そうして人間共を守ってどうするつもりだ。愚か者共をのさばらせておくつもりか」
「少なくとも貴方達よりは愚かではありませんよ。先程も申し上げたように」
「三影」
 ここでゼクロスが口を開いた。
「何だ」
 三影はそれを受けて彼に顔を向けた。
「貴様はもうわかっている筈だ、自分が敗れたことに」
「フン、貴様にか」
「いや、違う」
 ゼクロスはそれに対して首を横に振った。
「信念においてだ。貴様は間違っていたのだ」
「間違っていた!?俺がか」
「そうだ。何故それを認めようとしない。それは貴様が弱いからではないのか」
「弱いだと。また戯れ言を」
「戯れ言ではないと言っているのだ」
 しかしゼクロスの言葉はやはり辛辣なものであった。
「それは貴様自身が最もよくわかっている筈だが」
「フン」
 やはり彼はそれを認めようとはしなかった。首を横に振りながら否定した。
「そうして俺を馬鹿にしたいようだな」
「違う、それもわからないのか」
「わかる!?何をだ」
 それでも彼は変わらなかった。
「バダンの真理がわからぬ貴様等に何がわかるというのだ」
 そして逆にそう問うてきた。ゼクロスはそれに対しても冷静に返した。
「あくまでバダンこそが正しいというのか」
「無論」
 そう言い切った。
「それ以外にどう言えというのだ」
「そうか」
 ゼクロスはそれを聞いてそれ以上言うのを止めた。
「ではそれに殉じるのだな」
「当然だ。だがな、ゼクロスよ」
「何だ」
「最後に勝つのはバダンだ。それだけは覚えておけ。貴様等は必ず敗れるということをな」
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスはそれには答えなかった。三影はそれを見届けてニヤリと笑った。
「わかったか。では俺はそろそろ地獄へ行かせてもらおう。閻魔が心待ちにしているだろうからな」
「地獄か」
「そうだ、俺の行く道は・・・・・・そこしかなかろう」
 その言葉の意味がゼクロスにはよくわからなかった。だが役にはわかったようだ。
「さらばだ。ゼクロス」
「何だ」
 彼は最後に三影に顔を向けた。
「貴様には勝ちたかったがな。しかしいい勝負をさせてもらった。悔いはない」
「そうか」
 ゼクロスはそれを聞いて首を縦に振った。
「では俺からは何も言うことはない。それではな」
「ああ。地獄で待っているぞ」
「わかった」
 ゼクロスは頷いた。三影はそれを見て笑った。そして最後にこう言った。
「バダンに勝利を!」
 その声と共に爆発して消えた。後には何も残りはしなかった。
 こうして三影英介は死んだ。跡には何も残りはしなかった。
「三影・・・・・・」
 ゼクロスは爆風を受け、それが消えたのを見届けて呟いた。何時になく力のない、それでいて澄んだ声であった。
「遂に倒しましたね」
「はい」
 彼は役の言葉に応えた。
「手強い奴でした。そして切れる男でした」
「ええ」
「そして誰よりも俺を知っていた。恐ろしい男でしたよ」
「そうですか。今の気持ちはどうですか」
「何とも言えませんね」
 彼はそれに対してこう言った。
「虚しさがあると言えばあります」
「そうでしょうね。しかし」
 だが役はここで言葉を変えてきた。そしてこう言った。
「まだ終わりではありませんよ」
「はい」
 そしてゼクロス自身もそれに頷いた。
「行きましょう。まだ暗闇大使、そして首領が残っています。彼等がある限りバダンは滅びはしません」
「おお、その通りだ」
 ここで今まで戦いを見守っていたライダー達が二人のもとにやって来た。立花達もだ。
「まだ首領がいる。首領がいる限りバダンは滅びはしない」
「そうだ、遂に奴を追い詰めたんだ。一気に行くぞ」
「はい」
 ゼクロスはそれに頷いた。
「では行きましょう、奴等の心臓部へ。そしてあの首領を倒しましょう」
「よし」
 ライダー達は声を合わせる。そこに立花達がやって来た。
「行くか」
「おやっさん」
 立花達も行くつもりであった。
「心配するな、足手まといにはならないからな」
「ええ、歓迎しますよ」
 そしてライダー達もそれを笑顔で迎えた。
「おやっさん達の力があれば百人力ですよ」
「そうか、ならいいんだ」
 これには立花も滝もその他の者も皆笑った。
「これが最後だからな。最後まで御前達の力になりたいんだ」
「任せてくれ、これでもフォロー位はできるからな」
「はい」
 彼等はここで皆手を合わせた。ライダー達だけでなく立花達も彼等もその心はライダーであった。
「行くぞ」
 立花が一番上に手を置いた。そしてこう掛け声をかけた。
「はい!」
 そして皆がそれに応えた。これで合図が終わった。
 彼等は最後の戦場に向かおうと足を踏み出した。その前に何者かが姿を現わした。
「ムッ」
 ライダー達はそれを見てすぐに身構えた。それはまるでファラオの様なシルエットの持ち主であった。
「フフフフフ」
 それは暗闇大使であった。彼はライダー達の前で不敵に笑った。
「よくぞゼクロス達を倒した。見事であったと褒めておこう」
 彼はライダー達を見据えながらこう言った。
「だが戦いはまだ終わりではない。それはわかっているだろう、ライダー諸君よ」
「無論だ」
 ゼクロスがそれに答えた。
「貴様を、そして首領を倒さないことには戦いは終わらない。それはわかっているつもりだ」
「ならばよい。ではわしがここに来たわけはわかるな」
「ああ」
 ライダー達はそれに答えながら左右に散った。大使の周りを戦闘員達が取り囲む。
「俺達を倒す為。それ以外に何があるというのだ」
「わかっていればいい」
 彼はそれを受けてこう言った。
「これでわしも本当の力を見せることができる」
「本当の力!?まさかそれは」
「フフフ、そうだ。あれだ」
 暗闇大使はゼクロスの言葉を受けて再び不敵に笑った。
「松阪でのサザンクロスはわし自身であった」
「やはりな」
 ゼクロスは今の会話からそれを感じとっていた。
「そしてそれは一度は貴様等に敗れた。だがサザンクロスは滅んではおらぬ」
「どういうことだ」
「言っただろうサザンクロスはわし自身だと。そしてわしがいる限りサザンクロスは不滅だ。そう、わしがいる限りな」
「まさか」
「そう。今見せよう、サザンクロスの、そしてこの暗闇大使のもう一つの姿をな!」
 彼の身体が黒い光に覆われた。そしてその中で姿が変わっていく。
「ムムム・・・・・・」
 誰もがその変身に目を見張った。光が消えた時そこには赤い邪神がいた。
「フフフフフ」
 暗闇大使は笑っていた。顔と上半身はフジツボだらけであり、その他の部分は暗闇大使の姿のままであった。彼はその姿のままライダー達を見据えた。
「それが貴様の正体だというのか」
「その通り」
 暗闇大使はその禍々しい形の口でそう答えた。
「サザンクロス、わしの正体だ」
「やはりな。貴様もまた改造人間だったということか」
「そうだ。これはわかっていたことだろう」
「フン、当然だ」
 ライダー達はそれに答えた。
「大幹部の正体は改造人間、これはもうわかっていたことだ」
「そして貴様はあの地獄大使の従兄弟、必ずその正体は怪人だとわかっていた」
「そうか。ならば話は早い」
 彼、サザンクロスはそれを受けてニヤリと笑った。
「では来るがいい、ライダー達よ。この力見せてやろう」
「望むところだ」
 ライダー達は彼を取り囲んだ。しかしそれでもサザンクロスは怯むところがなかった。今最後の要塞攻略がはじまろうとしていた。


決戦   完


                              2004・12・26


 
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