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ソードアート・オンライン 夢の軌跡

作者:Neight
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一つの終わりと始まり

 
前書き

 という訳で、初めての方は、初めまして! この小説に少しでも興味を持っていただき、ありがとうございます。頑張って、読んだ人に何かを伝えられるような文章を書いていきたいと思っています!
 また、なろう時代から読んでいる人は、お久し振りです! 随分と待たせてしまってすみません。別に何度も読む気ないよ、という方がもしいらっしゃっても、地の文や描写を増やしていくので、再び目を通していただけると幸いです。
 さて、挨拶も終わったことですし、早速本文を読んでもらいましょう!
 ではどうぞ。 

 



 ──気が付くと、そこは見知らぬ森の中だった……。
「ここは……どこだ?」
『ここは聖域じゃ』
 後ろから(おごそ)かな声がしたので振り返ってみると、優しそうだがなにか普通ではない雰囲気を(かも)し出すお爺さんがいた。
「聖域……? それに貴方はいったい……?」
『ワシか? ワシはお主らのいうところの神の一人じゃ』
「…………はあ」
 思わず首を傾げて気の抜けた返事をしてしまった。そんな俺を見て、お爺さんは顔をしかめた。
『やはり信じられんかのう』
「それは、まあ……いきなり目の前に神を自称する人が現れたら、精神を病んでいる人の妄言か、寂しくて誰かに構ってもらいたいご老人の戯言(たわごと)としか受け取れないんですけど」
『……妙に現実感があって嫌な回答じゃのう』
 お爺さんは困り顔だが、きっと俺も同じような顔をしているだろう。
『まあよい。お主が信じられなくとも、ワシが神であることに変わりはない』
「……じゃあ、もし仮に貴方が本当の神様だというのなら、なぜ私はここにいるのですか?」
 俺の質問に、少しは調子を取り戻して答えた。
『おお。お主がここにいる理由は、ワシが招き寄せたからじゃ。それと、そんなに堅苦しくしなくてもいいんじゃぞ』
「あの、ですが……」
『構わん構わん。変に気にする必要はない』
 ここまで言うのだから、本当に大丈夫なのだろう。俺はお礼を告げてから、次の質問に移ることにした。
「わかった。敬語なんて慣れない言葉遣いをするから結構大変だったんだよな。……じゃあ、なぜ俺なんかを呼んだんだ?」
 その言葉を待っていたのか、お爺さん……神様……やっぱりお爺さん。が、にんまりと笑った。
 そこはかとなく嫌な予感がする。虫の知らせというやつであろうか。
 ……可能であるのならさっさと退散したいのだが、絶対に無理なのであろう。大人しく話を聞く以外の選択肢がないことがもどかしい。
『ようやく本題に入れるのお。お主をここに呼んだのはほかでもない、お主が条件に一致したからじゃ。じゃからお主には転生してもらう』
「条件? 転生?」
 心底面白そうにお爺さんは口を開いたが、逆に俺は極度の緊張から背中に嫌な汗が流れた。もしこれがただの夢であったなら、間違いなくうなされているだろう。夢見が悪いなんて段階はとうに越えている。
 ただ、このまま黙っていても仕方がないので、(まこと)不本意(・・・)ながら続きを促した。
「それで?」
『うむ。条件とは、『ソードアート・オンライン』を知っていること、加えて善人であることじゃ。そしてお主にはそこの平行世界に転生してもらうことになるな』
「ちょ……ちょっと待ってくれ! 俺は善人でもないし、そもそもなぜ貴方は俺を転生させようとしているんだ!?」
 俺は驚きを隠す余裕もなく叫んだ。……いや、叫ばずにはいられなかった。
『それは……』
「それは……?」
 思わず固唾を呑んで繰り返すと──





『ワシが感動したからじゃ』
 ──俺は転けた。それはもう盛大に転けた。
 それまでで一杯一杯だったのに、更なる衝撃を受けてしまい、我慢の限界を越えた。越えてしまったのだ。遠慮も(つつし)みも全てかなぐり捨てて、声を大にして言おう。
「はあっ!? ちょっと待ってくれ! 確かに感動したさ! したよ!! でも貴方神様なんだろ!? こんなことしてもいいのかよ!?」
『大丈夫じゃなければやっとらんわい』
 その自信満々さが余計にむかつく。
 だがしかし、その程度で俺は諦めないしまだまだ叫び足りない。なんだか無限に言葉が流れ出しているみたいである。俺は沸き上がる自分の感情に任せて続けた。
「それに元の世界での俺の扱いはどうなるんだよ!? 元の世界には帰れないのかよ!? いやむしろ帰せぇ!!」
『既に全ての人間がお主に関する記憶を完全に失っておるし、お主が生きていたという痕跡(こんせき)も完璧に消してある。だから帰すことはできんが、心配する必要はないぞ』
 なんて血も涙もない仕打ちであろうか。近頃の犯罪者よりもよっぽど凶悪である。
「これもう誘拐とか拉致(らち)のレベルすら超越してんじゃねえか! 絶対に最初から帰す気がなかっただろ! なんで選べる選択肢がねえんだよ!」
『転生するという選択肢があるぞ』
 少しも悪びれずに、そう(のたま)いやがった。
「………………はあーっ」
 どうやら逃すつもりはさらさらないらしい。少しはすっきりしたし、俺は最後に長いため息を吐いて、全てを受け入れることに決めた。
「わかった。やってやるよ。だから具体的には何をすればいいんだよ?」
『一つだけ必ずやってもらうことがある。それは、登場人物をできるだけ幸せにしてあげることじゃ。そのための力も、お主が望むものを用意しよう』
 ……ああ、そういうことか。つまりはある程度の力を渡すから、《月夜の黒猫団》の全滅を食い止めることや、《ソードアート・オンライン》での死者数を減らすことなどをしてほしい、という話だったのだ。
 それならば、確かに俺も思ったことがある。こんな悲しみを減らせればいいのに、と。
 もうあとには引けないことなんてわかりきっていた。転生する以外に道がないことも。だから俺は、腹を(くく)って、躊躇(ためら)いを捨てた。
「そういうこと、か……。じゃあ【あらゆる問いに答えることができる能力】が欲しい」
 この能力なら戦闘だけでなく、日常生活などでも活用することができる。応用が利く方がなにかと便利だからな。
『……それだけか?』
 なんと、まだまだ願ってもいいようだ。ならば思い付いたものを並べていってみよう。
「もっといいのか? だったら……【高い学習能力と記憶力】、【大きい伸び代】、【丈夫で健康な体】、【幸運】……あとは【原作の知識を時がくるまで忘れない能力】も頼む」
 ……結構な数の力を要求したけど、果たして大丈夫なのだろうか? 欲張り過ぎていないか、少々不安である。
『【原作の知識を時がくるまで忘れない能力】の時とは、いつのことじゃ?』
「その出来事が実際に起こる筈だった時までで、それ以降は自然に忘れさせてくれ」
 忘れる理由は、いつまでも物語と現実を混同しないためだ。
『ふむ、ではそうしておくぞ。それにしても、本当にそれだけでいいのか? 欲のない奴じゃのう。まあ、そういうところが選ばれた理由でもあるのじゃから、これでいいのじゃろうな』
 ……どうも更に多くの力を要求されることを予想していたらしい。
 既に普通からは程遠いような数々の力をもらっているのに、これ以上って……贅沢過ぎるな。うん、俺には今でももったいないくらいなんだし、身にあまる力は自身を滅ぼす、的な言葉を聞いたこともあるからな。
 ……あ。
「だあっ!! 忘れてた! 性別は変わらないんだよな!?」
 俺が急に問いつめると、お爺さんは物凄く(おび)え出した。
 なぜびびっているかは知らないし、大体そんなことはどうでもいい! 今は、この一点のみが、重要なんだっ!
『あ、はい。性別は変わらぬから、少し落ち着いてくれぬかの?』
 ああー、よかった。これでもし、女になるかも、なんて言われてたら……恐ろしいことを考えるのは止めよう。
『ふう、やっと戻ったか。なら容姿は、お主が好きなゲームのキャラクターと同じにしておいてやろう』
「キャラクターって、どのキャラクターだ?」
 ぱっと思い付いた男性キャラクターだけで、五人はいるぞ。
『それは転生してからのお楽しみ、じゃな』
「うーん……」
 ゲームのキャラクターと同じ容姿か……たぶん、悪いことにはならないだろう。
 …………と、信じよう。うん。
「わかった。楽しみにしてるよ」
『では、そろそろ行くかの?』
「ああ。もう大丈夫だ。一人ではできることなんて高が知れてるが、必ず運命(ものがたりのほんすじ)を変えてみせるさ」
 そして笑った。自分でも驚くくらい自然に笑えた。こういうのを屈託(くったく)のない笑みっていうのかもな。
『ほお……これは頼もしいのお。では、そこの扉をくぐると来世の始まりじゃ。赤ん坊の頃は意識がはっきりとしないからすぐに過ぎるじゃろうが、頑張るのじゃぞ』
「そうか。それは助かる。ありがとな」
『お礼を言う必要なんてないだろうに……』
 お爺さんはどこか申し訳なさそうな顔をした。
「いいんだよ。結局は俺が決めたことなんだから」
『そう言ってもらえると、気が楽になるのお。それじゃあ、さよならじゃ』
「ああ、さよなら」
 こうして別れを済ませて俺は歩き出した。だが、まだ一つ聞いてないことを思い出したので、訊ねた。
「なあ、そういえばお爺さんの名前は?」
『ワシの名前か? ほっほっほ。ワシに名前はないぞ』
「そうか……。ならやっぱり、お爺さんって呼ばしてもらうわ」
『おお、いいぞい。これで今度こそ行けるかの?』
「ああ。行ってくる」
 もう、振り返らなかった。
『頼んだぞい』
 最後にその言葉を背に受けて、俺は光る扉をくぐり抜けた── 
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