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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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手を取り合う為に

 
前書き
ソウルサクリファイスが発売した。
これに備えてvitaを買ったんだ。
でも、その二日後に値下げ宣言がきたんだ。
頑張って安く抑えたから値段に違いはないんだけど、何だろう、このどこにぶつけたらいいかわからない感情。 

 
「やれやれ、まさか本当に会話だけで終わるとはな。幻想郷の吸血鬼は気性が穏やかなのか?」

守矢神社に向けて帰宅する中、先程の顛末を思い浮かべる。
外の世界に存在する吸血鬼は、まさに化け物と呼ぶに相応しい奴らばかりだ。
死徒二十七祖と呼ばれる、具体性の付けようがない化け物とは違い、レミリアからはそこまで恐れるべき力を感じなかった。
それに、彼女は死徒とは違い、どこまでも吸血鬼らしい外見をしていた。
特筆すべきは、蝙蝠のような漆黒の翼。
私が知る現実での吸血種は、血を吸い自らの血を与えた存在を食屍鬼―――グールに変え、自らの手を汚さず血液の採集を行い、鼠算式に増殖していく。
稀にそこから死徒クラスが生まれるが、それ以外は思考能力も持たない木偶でしかない。
一般人には脅威たり得るが、幻想郷では恐らく一般の妖怪にすら劣るだろう。
だが、レミリアの出で立ちはまさに物語上のそれだ。
現実に根ざした吸血種とは違い、どこまでも共通認識に忠実な姿。
この時点で、彼女は死徒や真祖のような吸血種とは全く異なる種族として扱うべきことに勘づいていた。
そもそも幻想郷とは、忘却という時代の波に流されたモノが集う場所。
一般に通じていないとはいえ、それでも結構な存在が認識している死徒や真祖がいると考えるのはあまりに早計。
寧ろその認識のせいで、物語上の吸血鬼の存在が表と裏両方から〝なかったもの〟として扱われた結果物語上の吸血鬼は空想上のものとして扱われ、幻想郷に追いやられたのだと考えた方がしっくり来る。

とすると、彼女はどこまでも伝承通りの存在となる。
太陽の光に弱く、銀や心臓に杭を打たれると絶命し、流水にも弱い。にんにくや十字架にも弱いという、まさに弱点のオンパレードだ。
………こうして考えると、死徒や真祖の恐ろしさがどれ程のものなのかが良くわかる。
たかがにんにくや十字架で退けられるような安い存在なら、誰も苦労しない。
そのまさに空想具現化の賜物が、当たり前に存在するのが幻想郷なんだと再認識させられた。

「何とも飽きさせない世界だよ、ここは」

天を仰ぎ、太陽に手をかざす。
自然が十二分に存在し、しかし人間が住めるような環境が成立しているというのは、とても貴重だ。
民族という形で人間が住んでいるケースは多いが、あれは最早性質が獣寄りに適用されているだけで、殆どの人間にはその例は当てはまらない。
時間を掛ければその限りではないが、百年単位では一世だけのもので終わる。
血に覚えさせるつもりなら、途方もない年月を掛けなければいけない。
慣れと適応は違う。
そこでしか生きられなかっただけの相手に言うのもおかしな話だが、正直尊敬するよ。
良くも悪くも、人間の大半は楽な生活に慣れすぎた。
電気という概念がいきなり消えただけで、人間の生活は破綻する。
それだけで文明人ではなく原始人レベルにまで格下げされる、脆く儚い栄光。
幻想郷にも外の文明の名残はある。電気もあれば機械だってある。
だが、それらが無くなったところで幻想郷の住人にとってはさしたる問題ではない。
電気という概念自体、幻想郷ではマイナーな代物だ。
守矢神社は外の技術と河童の技術との併用で、一般家庭レベルの文明は維持できている。
しかし、慧音の家の中には、電化製品は何一つとしてなかった。
他にも香霖堂にも、それに準ずる道具は売り物として出されていたが、店の備品としては何一つとして使われていなかった。
せいぜい明かりはカンテラぐらいのものか。
固形燃料を用いたストーブとかならばあるのかもしれないが、常用品ではない上に一家に一台あるかも怪しい。
そもそも人間の里にある建物の外観からして、江戸と明治の中間ぐらいの建築技術で造られているのが分かる。
だが、紅魔館のような西洋の建物もあれば、外の機械技術を上回る機械郡を造ることの出来る河童の存在と言ったように、技術レベルの定義は曖昧だ。
外からの技術を取り入れ、それをより優れたものへと改造する技術を持ちながら、その技術が遺憾なく発揮されている様子はない。
まるでわざとそうしているような、そんな印象さえ見受けられる。
それが幻想郷の住人の総意なのか、それとも―――

「―――?」

微かに耳に入る草の根を掻き分ける音。
振り向いた先は、整地もままならない草の生い茂る地。
こんな場所から不自然な音が拡がる為には、何かしらの干渉がなければいけない。
それこそ、生物が近づいているようにさえも感じられる。
自然と身体が強ばる。
一般人が整地されていない場所から現れるなんて、妖怪の蔓延る世界では異常だ。
故に、自然とこの音源の正体は、獣か妖怪ということになってくる、が―――さて、何が来る。
ゆっくりとヒトガタが輪郭を現してくる。
ヒトガタに光が刺す直前―――それは起こった。

ぐぅ~

どこか獣の唸り声のように聞こえたそれは、どこか聞き覚えすら感じる。
それに続くように現れたのは、年端もいかぬ少女だった。
少女はお腹を押さえながら、よろよろとこちらへと歩み寄ってくる。

「お腹、空いた―――」

それだけを告げ、ばったりと地面に伏した。
………先程の唸り声は、この子の腹の虫だったのか?
動かぬ少女の身体を揺らすも、反応はない。
苦しそうな表情で気絶している少女を前に、獣道から現れたという不信感を煽る事実など無意味。
躊躇うことなく少女を抱え、近くの木に背中を預けさせる。
そして、直ぐに獣道の奥深くへと駆け出した。
目的は当然、食糧探しだ。
少女から目を離さない程度の距離を散策し、食糧の確保に成功する。
適当な見覚えのある野生動物を狩り、焚き火で肉を焼く。
野草の類の採取も考えたが、肉と違い毒が入っていた場合の対処が困難だという点と、幻想郷に群生する野草が私の知識、いや常識で図れるような代物でない可能性を考慮したからだ。
それこそ、非現実的な食虫植物が居ても不思議ではない常識外の世界だ。
私の判断ミスであの少女にいらぬ負担を掛けてしまうのは愚かの極みだ。

「ん、んぅ………?」

肉の焼ける香ばしい匂いに反応したのか、少女が目を醒ます。
徐々に瞳の奥に光りが灯り、ついには物凄い速度で焚き火に接近し、肉と私を交互に見つめてくる。
言葉を発することなく、口元から大量のよだれを垂らしキラキラした目で訴えてくる。
………まぁ、元々彼女の為のものだから構わないのだが、何だろうかこの名状しがたい感情は。

「焼きたてだからな、冷まして食べなさい」

そう言って串に刺した肉を手渡すと、全く話を聞いていなかったらしくがっついて閉じた悲鳴を上げる。
だが、熱そうにしながらも食べる勢いは衰える様子はない。
それだけでどれだけ飢えていたのかが容易に想像できた。
水のひとつでも提供できればいいのだが、そこまで都合良くはいかない。

「ふぅ………ごちそうさまでした。ありがとうお兄さん」

あっという間に平らげ、ぽんぽんとお腹をさする。
獣一匹分の肉はあったのだが、まさか全部食べるとは恐れ入った。

「食べ終わったところで聞きたいのだが、君は何故あんな所から出てきたのだ?妖怪に襲われでもしたのか?」

「ん~?妖怪に襲われてなんかいないよ。襲われる理由もないしね」

「理由がないとは解せんな。人間が妖怪に襲われないという謂われはないだろうに」

「―――あ、そうか。そういうことか」

成る程、と言った風にポンと手を叩く。

「私、妖怪だよ?」

「………なんだと?」

思わず少女をまじまじと見つめてしまう。
肩に掛かるか否かの長さの金髪に、ルビーのような瞳。黒が強調されたドレスに、側頭部にある赤いリボンのアクセントが利いている。
どこからどう見ても、幼い少女にしか見えない。
先の三人の妖精とも違い、人外だという特徴を一切持ち合わせていないせいで、からかわれているのではと疑わずにはいられない。
いや、外見だけで言えば吸血鬼だって牙ぐらいしか見分けがつかない場合も少なくはないし、一概に否定は出来ないのか?

「お兄さん、外の人でしょ?だったら仕方ないけど、妖怪を見かけで判断するのは駄目だよ。油断してるところをパックリいかれるかもしれないよ?」

「私を食べるつもりか?」

「そんなことしないよ。お兄さんは命の恩人だもんね」

屈託のない笑みでそう答える。
………こんな少女が人間を襲う姿を幻視してしまい、思わず顔をしかめる。
少女に限らず不快には感じるが、なんと言うべきか、戦争に駆り出された少年兵を見ているような気分にさせられ、余計に不快感が増すのだ。
―――しかし、これはいい機会かもしれない。
彼女が妖怪だと言うのなら、色々聞きたいこともある。

「恩義を感じているのならば、質問に答えてもらいたいのだが」

「いいよー別に」

「妖怪は何故人を襲うんだ?文献や史実で妖怪の在り方の殆どは、人間を脅かす存在として載せられている。ただ人を襲うだけの者もいれば、食用として扱っている場合もある。だが、人間を襲うという根底は決してブレることはない。何故なんだ?」

幻想郷は人間と妖怪が共に存在している。
人間側の視点で見るならば、妖怪と併存するということは人間側にまるで得が感じられない。
妖怪側からすれば人間は食糧としての意味がある為、釣り合いは全くと言っていい程取れていない。
そんな端から見れば妖怪贔屓にしか感じられない世界観で、果たして本当に妖怪が人間を補食しなければいけないのかが気になったのだ。
飢えを凌ぐだけなら、何も人間である必要性はない。
そこに何かヒントがあるのかもしれない。

「どうしてそんな事を聞くの?」

「命を狙われる理由も知らず、一方的に標的として見られて納得出来るわけがなかろう?。そちらにどのような言い分があるのかを知らずして、君達の存在を全面的に肯定するなんて土台無理な話だしな」

郷に入っては郷に従えという言葉がある。
数日前までは部外者でしかなかった私が、我が物顔で妖怪の存在を否定するのはあまりにも厚顔無恥が過ぎる。
もし二者の関係が成立していなかったならば、とっくの昔に幻想郷は滅んでいる筈。
とすれば、絶妙なバランスでこの世界は成り立っていると認識して間違いないだろう。
それに―――もし人間にとって不幸を強いられる世界だとして、早苗があんなに生き生きとしていられる訳がないしな。

「………じゃあいいよ。教える理由なんて、ない」

「何故そんなことを言う?」

「私が教えたとして、お兄さんは絶対に私達を肯定しない。だって、私達は人間を食べることは絶対にやめないし、やめられないから。それなのに教えて何の意味があるの?教えたら大人しく喰われてくれるというの?」

「それは―――」

言い淀む私の姿を尻目に、少女は立ち上がる。

「どう足掻いたところで、妖怪が人間を餌として見ることはやめないよ。だったらまだ、無知でいられた方が幸せじゃない?」

「―――それでも私は訊きたいんだ。納得は出来ないかも知れない。容認も出来ないかもしれない。だが、知らなければ歩み寄れないんだ。私は、君達を否定したくはないんだ」

去ろうとする少女の背中に向け、頭を下げる。
第三者からすれば滑稽な姿だろう。
それでも、ここで引き下がるつもりはない。

「………ルーミア」

「え?」

「私の名前。次に会う時にまで、その考えが崩れていなかったら、話してあげる」

それだけ告げ、振り返ることなく去っていった。
やはり、そう簡単にはいかないか。
それにしても、ルーミアと名乗った少女―――私が妖怪の話題を出した途端に、一気に雰囲気が変わった。
妖怪のことをまるで知らない私だが、妖怪だからという理由であの切り替えをしていたとは思えなかった。
まるで人格をすげ替えられたかのような切り替わり。いや、二重人格に近いものを感じた。
そんな不思議な少女の背を見送り、小さく溜息を吐く。

「やはりそう簡単には無理、か」

別の妖怪に聞くという手段も確かにある。
お誂え向きにも河童であるにとりが知り合いにいる。情報を得るならば友好的な相手との方がやりやすい。
だが、不思議とそんな選択を取る自分の姿が思い浮かぶことはなかった。
今の自分のまま、知識のままで妖怪を観察し、私自身がゼロから得た妖怪のイメージを固め、そして少女と再び相まみえる。
そうしなければいけないのだと、何故か勝手に納得している自分がいた。

幻想郷で生きていくしかない以上、妖怪との付き合い方も視野に入れていかなければならない。
それも事情を一切考慮に入れない一方的な敵対ではなく、手を取り合うことも考慮に入れた共存関係として。
過去に人間に害を為す存在は等しく葬ってきた身としては、今更過ぎる切り替えだ。
私が接してきた妖怪に、語るまでも無いレベルでの危険性を孕んだ者がいなかったこともあるが、我ながら何という偽善だろうか。
状況が変わったからとはいえ、果たしてそれが正しい選択なのかと自問せずにいられない。

「………考えるだけ無駄、か」

早計過ぎる行動は誰の得にもならない。
誤解を抱いたまま敵対するなんて悲しい展開も避けたい。
寧ろ私から妖怪に歩み寄ってみるべきか?
堪え忍ぶことに慣れているとはいえ、元より座して待つのは主義ではない。
明日からは本格的に妖怪に会う為に、積極的に行動してみることにしよう。
 
 

 
後書き
おひたしぶりの投稿だけど、済まんね。どちらかというとサブの方が書くの楽しいんだ。

んだば今回の変化。

二種の宵闇→手を取り合う為に

前回よりもルーミアに怪しさがない。
これは匙加減の問題です。極端すぎるのはいけないな、と勝手に判断したからです。

狩りの様子を割愛。
これはどうでもいいよね。

単語用語コーナー

旧懐(きゅうかい)

昔を懐かしく思う心。

ノスタルジーって言い方のがメジャーかな。~の念って使い方ができるシリーズ。

水泡に帰する(すいほうにきする)

折角の苦労が無駄になる。無効に終わる。

これは結構メジャーな慣用句かな。語るまでもなさそう。
 
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