Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
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紅の集い
前書き
最近モチベが下がってきた。東方系列のゲームをやればモチベ上がるんだけど、やりたい奴がなんかバグってまともに遊べないんだな、チクショウめー!。
「あー、咲夜さんも人使い荒いなぁ。でも、労せずして休みを得られたし、別にいっか」
伸びをしながらそんなことを呟いているのは、吸血鬼の白である紅魔館で門番を務めている紅美鈴。
恐ろしい噂が絶えない紅魔館の門番という割には、当人は至って朗らかな性格をしている。
そういった意味では、門番としては三流だろう。彼女もそれを理解している。
それでも門番を任されているのは、そのマイナスを差し引いても門番として優れているからに他ならない―――筈である。
「あ、お婆さん。その荷物お持ちしますよ」
「お~美鈴ちゃん、すまないねぇ」
「いいんですよ。私は力ぐらいが取り柄ですし」
事実、このように妖怪でありながら人間との間に何の遺恨も持たない希有な存在であり、人間の里でも珍しく歓迎されている程である。
惜しむらくは、門番という立場上気軽に訪れることができないことである。
当人の門番スタイルにおいても、門を通ろうとしないのならば、門前での談笑も平気ですると言う自由さを貫いている。
門番としての職務を怠っている訳ではない以上、上司もその点に関しては強く言えない為、現状維持が続いているという次第である。
だが、今回はそんな彼女の人柄の良さに感謝するべきだろう。
「いや、それならば私が引き受けよう。女性に労働をさせるのを見て見ぬふりは、男としてどうかと思うしな」
同じ気質を持つ者同士、惹かれあったのだろう。
美鈴が声の主へと振り返ると、そこには彼女が探せと指示されていた条件と合致する風体の青年がいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「先程はありがとうございました」
丁寧にお辞儀をする中華風の女性。
花が咲いた様な笑顔は、彼女の人柄の良さを顕著に表している。
「いや、こちらこそ差し出がましい真似をしたのではと思っていたが、喜んでもらえたならば何よりだ」
善意の押しつけは良くないと思いつつも、無視はできないという矛盾。
その結果が悲惨な末路を辿ったことも少なくない。
にも関わらず、反射的に行動を起こしてしまう私は、とことん損な性格だと思わずにはいられない。
「それで、あの。不躾なお願いがあるんですけど………私の仕えている主に会ってもらいたいんです」
両方の人差し指を突き合わせ、申し訳なさそうに上目遣いで訴える。
私の知る女性の中では彼女は背の高い部類に入るが、それでも流石に追い越される程ではない。
衛宮士郎ならば、身長差に悔しい思いをしていたことだろう。
「主?何故私が君の主とやらに会わねばならんのだ」
「それは私にはわかりかねます。私はしがない門番ですので」
そう言いながら、恥ずかしそうに頭を掻く。
そんな自らを門番だと名乗った彼女を、思わずしげしげと眺めてしまう。
門番を名乗るだけあり、チャイナドレスから見え隠れする脚は見事に引き締まっており、一目で何か武術を嗜んでいるのかがわかる。
中国的な服装かつ武人が無手でいるという状況から、彼女は中国拳法使いなのではと推測する。
そう考えると、エミヤシロウは何かと中国拳法に縁があるなと微妙な感慨に耽ってしまう。
凜のことと同時に言峰のことも思い出してしまう為、美しい思い出とは言い難いのがもの悲しい。
「だったらせめて、主とは誰なのかを教えてくれ。知人ならよし、そうでないにしても一方的に知られているというのは愉快ではないからな」
女性は少し迷う素振りを見せた後、口を開く。
「………そうですね、教えないというのは流石に酷い話ですし、包み隠さず教えます。―――主の名はレミリア・スカーレット。齢五百の吸血鬼です」
「吸血、鬼」
その言葉を聞いた途端、自分でも分かるぐらい表情が歪む。
「やっぱりそんな反応を示しますよね。………身内贔屓にしか聞こえないかもしれませんが、こうして使者を派遣する形を取る場合、彼女は間違いなく相手を客人として迎える気で臨んでいます。余程の粗相を働かない限りは、決して危害は加えない筈です」
「余程の程度は君達の匙加減次第だろう。こちらとしては、どこまで信用して良いものか測りかねる。はっきり言って、断られても文句が言えない程不安材料がある」
「―――そう、ですね」
「だが、まぁ。ここで断ったところで恐らくは二度三度と同じことが繰り返されるだけ、最悪そのレミリアとやらの怒りを買う羽目になるかもしれない。そんな不利益は被りたくないからな、渋々ではあるが大人しくついていくことにしよう」
幻想郷という箱庭に住む以上、そのレミリアという吸血鬼とやらとも今生の付き合いで終わるとは思えない。
悪い感情を持たれるような行動を取っても、ただ私の行動範囲を狭めるだけで何の得もない。
ここで生きていくならば、どんな相手であれ機嫌取りをしていて損はない。
それが、力を持つ妖怪相手ならば尚更である。
「―――あ、ありがとうございます!」
仰々しい程の礼をする女性。
まぁ、彼女も仕事でこの場にいる以上、断られれば立場上よろしくないだろうからな。これぐらいは当然の反応なのかもしれない。
「それでは、案内させていただきますね」
「ああ、頼む」
そうして女性が歩き出した先では、木々で大半が隠れていながらもしっかりと輪郭を残している紅の館が、遠巻きで強い存在感を示していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようこそいらっしゃいました、紅魔館へ」
眼前に拡がる紅の塊を護るように立ちつくしていたのは、メイド服を着た女性だった。
メイドは堂に入った一礼と共に、歓迎の言葉を口にする。
「レミリアお嬢様がお待ちです。私の後へついてきて下さい」
その指示に従い、踵を返したメイドの後に続く。
門番の女性は再び仕事に戻ったのであろう。門前のレンガにもたれかかるようにして、そのまま動かなくなった。
案内された洋館の中も、目が痛くなるほどの紅だった。
紅魔館という名の通り、見渡す限りの紅、赤、アカ。
私自身も赤を好んではいるが、ここまで来ると趣味が悪いと思わざるを得ない。
吸血鬼と血液の赤をイコールで結びつけているとするならば、何とも安直な発想か。
そうしてメイドが足を止めた。
「お入り下さい」
明らかに無駄と思えるぐらい大きな扉が開いた.
重苦しい音の先には、この館の主であろう少女が、漆黒の翼を細かに動かしながら椅子に座していた。
「ようこそ、紅魔館へ。私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」
肘掛けに肘をかけて頬杖をつき足を組むその姿は、幼い容姿ながらもれっきとした威厳を感じる。
「エミヤシロウと言う。―――それで、何故私を招いた?こちらは君とは初対面であり、それでありながら君は私を知っている。何故だ?」
諏訪子から大凡の情報は聞いているが、レミリアの口から聞かなければ始まらない。
「貴方は知らないかもしれないけれど、貴方結構有名人よ?何せ妖精に力を与えたという、無駄で無価値なことをやらかした存在だもの」
「無駄、だと?」
「ええ、そうよ。妖精は生まれた時点で完結している存在。例え命尽きても形作るための自然が存在し続ける限り、無限に復活し続ける換えの効く量産品。そんな自然から生まれた分身に手を加えたところで、死ねばそれすら無駄になる。理解できて?」
つまり、私がやった行為は量産工場で出来た商品を改造するものであって、彼女にとって意味ある行為にするならば、量産工場そのものに手を加える必要があると。
確かにその通りなら無駄の一言に尽きるだろう。
「無駄かどうかは、私が決める。それに、絶対にその法則が適用されるなんて、誰が決めた?」
だが、彼女達は道具でもなんでもない。
例え換えの効く存在と言われようとも、彼女達は確かに生命としてそこにある。
喜怒哀楽もあれば、個々の感情だってある。
それを道具と認識する?
「へぇ………言うわね。それなら貴方はそんな万分、億分の一に縋り妖精に力を与え続けるの?」
「勘違いするな。そもそも私は妖精に力を与える為に生きている訳ではない。結果としてそうなっただけであり、それはただの手段に過ぎない」
「そんな砂漠に埋もれた砂金を掴むが如し所業を、如何なる信念を以て為そうとする?まさかただ偽善を振りかざしただけとは言うまいな?」
鋭い視線が私の心を射貫かんと迫る。
しかし、その程度の事で怯みはしない。
「偽善?そもそも何を持って善と偽善を区別する。何故他人にそれを評価されなければならない。他人本位な評価でしか区分けできないのであれば、それは最早善という言葉に価値がないのと同義。だってそうだろう?結局誰もが何かしらの信念があって行動を起こしている。それが善意から来るものであれば、それは本来どんな形であれ善行だ。そしてそれを評価するのが受け取った側の人間で、彼らが偽善と思えばその瞬間善意が否定される。それはどう考えてもおかしい。それでは受け取る側の人間にとって満足のいく結果でなければ、なんでも偽善になってしまう。そんな莫迦な話があってたまるか」
「なら、金持ちが必要以上に民から税を搾取しておきながら、パンを分け与えるように仕向けるのは偽善ではないと?」
「そもそも前提がおかしい。税の搾取という不当を働いておきながら、金持ちの行動が善として認識される訳がないだろう。区別以前の問題だ」
「そうかしら。貴方の言い分を借りるなら、どんな境遇であれど善行を働いた者の意思は尊重されるべきだと言っているように聞こえるけれど」
「なら君は、世界征服を目論んだ魔王が、いきなり人間の為に全霊を尽くすという物語を読んだとして、素直に受け入れられるか?裏がないと思わないか?」
「―――それは、」
「区別という行為は、それが横ばいで同じ土俵で立っているからこそ成立するのであって、上下の動きはどちらかと言えば差別だろう。評価が一定値以下の存在の言葉など、そう簡単に戻りはしない。相応の努力の果てに、ようやく認められてからがスタートになるんだ。その時点でその気になるのは愚の骨頂」
「………結局、貴方は何が言いたいの?」
「私は私の想いに従って行動するだけだ。例え第三者に無駄と蔑まれようとも、もうこの足を止めるつもりはない」
一度無駄に足を止め続けたからこそ、進み続けた日々の価値が実感できる。
それは苦難の道だったかもしれない。
誰にも認められない行為だったかもしれない。
―――だが、それでも。
この祈りを誰かに否定される謂われはない。
誰かを救いたいという願いは、決して貶められていいものではない。
―――それに、今の私は決して借り物の祈りには縋らない。
衛宮切嗣の影は、もう振り切った。
なればこそ、残ったのは己の意思のみ。
後は、それを行動で示すだけだ。
………とはいえ、未だどうすればいいのかは固まっていない以上、あまり偉そうなことは言えた立場ではないのだが。
「なら、最後の質問いいかしら」
「構わんよ」
「貴方のその願いとやらは―――粉骨砕身をするに足るほど高尚なものなの?」
「………さてな、そんなのは知らん」
「何ですって?」
「誰かのご機嫌伺いの為にやっていることでもなければ、認めてもらいたくてやっていることでもないからな。評価して欲しいならボランティアでもしていればいい。私がやりたいことは、そんな誰にでもできる当たり前のことじゃない。そんな新境地に手を付けるんだ、高尚か低俗かなんて判断しようがないだろう?」
過去に衛宮切嗣が進んだ道とはいえ、その事実を知るものは最早存在しないだろう。
当然、私も含めてだ。
衛宮切嗣がどんな生き方をしていたかは語られても、その内に秘めた理想までは誰も知ろうとはしなかった。
手段を選ばない冷酷無比の魔術師殺し―――誰もが持つ共通認識であり、嘘の認識でもある。
誰よりも優しい願いを持ってしまったが故に、誰よりも現実に直面した、子供な大人。
故に理解されず。故に孤独。
いや、もしかしたらそうではなかったのかもしれない。
だが、理解者も第四次聖杯戦争で失い、結果あのような無気力な余生を過ごす羽目になったのだろう。
何にせよ、自惚れでなければ、今正義の味方を目指しているのは私以外この世に存在しない。
ならば、次に評価される正義の味方の在り方は、私の行動次第ということになる。
そんな始まったばかりの出来事を、どう評価しろというのか。
外の世界で衛宮士郎が正義の味方を目指すなら、私は幻想郷でそれを為す。
とはいえ、奴の進む道は衛宮切嗣の祈りの果て。
凜に奴のことを頼んだとはいえ、恐らくは私と似た結末を辿るだろう。
それが奴の望む生き方ならば、私はもう何も言うつもりはない。
だが、私は追体験を辿るような愚は犯さない。
絶対に幸福な未来を掴み取ってやろうではないか。それも奴が平身低頭するぐらいのな。
それが凜との約束でもあり、決して蔑ろにしてはいけない、何よりも優先すべきことだ。
「もういいかね?ならばこれで失礼させてもらう」
「ええ、そうして頂戴」
その言葉を最後に、踵を返し部屋を後にする。
部屋を出る直前の背後から感じた悪寒は気のせいだと自己暗示した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
エミヤシロウが去った館の一室で、不適な笑みを崩すことなく座する紅魔館の主。
その姿は、見ようによっては子供が新しい玩具を手に入れた時みたい―――には見える訳がない。
「くく―――思った以上に面白そうな奴だよ、エミヤシロウは」
「もう誰も見ていませんので、そろそろその似合わないポーズはお止めになられても良いかと」
「って、咲夜!折角珍しくカリスマ溢れる姿勢を維持していたのに邪魔しないでよ!」
「どうせまともに維持できないのに、よく頑張りますね」
「維持できなくて悪かったわね!これでも紅魔館の主として莫迦にされないように努力してるんだから、メイド長としては褒め称えるところでしょう!?」
「付け焼き刃という言葉がこの世にはありまして」
「付け焼き刃じゃないもん!五百年ものだもん!」
「威厳ある方はもん、なんて言いません」
「うーーーーー!」
なんてコントをしているとエミヤシロウが知ったならば、あの場のシリアスな雰囲気と真面目に応対した時間を返せと言いたくなる光景が広がっていた。
「五月蠅いわよ、レミィ」
気怠げな口調と共に現れたのは、紅魔館のヴアル魔法図書館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジだった。
「パチュリー!咲夜が、さくやがー!」
「あーはいはい。咲夜もほどほどにしないと、また幼児退行起こすわよ」
「なんだ、いつも通りではないですか」
「少なくとも、昔はもっとカリスマあったと思うけど………。まぁいいわ、そんなことよりさっき誰か来ていたようだけれど、何かあったの?」
「そんなこと!?―――じゃなくて、さっき来ていたのは最近話題の妖精を鍛えたという男、エミヤシロウよ」
レミリアの言葉を聞いた瞬間、珍しく真面目な雰囲気をパチュリーが出す。
「………その男、どんな感じの奴だった?」
「そうね、面白い奴だったわ。曲がりなりにも吸血鬼の根城にいながら、眉一つ動かさず私と対峙するだけでなく、その物怖じのしなさも中々のものだったわ。それに―――」
「それに?」
「私の予測が外れていなければだけど、アイツは化け物と呼ばれる妖怪なんかよりも、よっぽど化け物している人間かもしれないのよね」
くつくつとどこか愉しそうに笑うレミリアを訝しむパチュリー。
「良く分からないけれど………ソイツただの人間だったの?」
「十中八九違うでしょうね。今回は会話だけで済んだからわからず仕舞いだけど、あの胆力と雰囲気は一般人が出せるものじゃないわ。あんな奴が幻想郷出身なら、話題に挙がるのが遅すぎる。外来人と見て間違いわね」
「………そう。ようやく見つけた、と踏んでいいのかしらね」
今度はパチュリーが愉しそうな笑みを浮かべる。
そんな光景を眺めて咲夜が一言。
「普段からこうなら、流している風評も嘘偽りにしなくて済むんですけれどね………。まぁ、期待するだけ無駄か」
咲夜の溜息が、何故かとてもよく室内に響いた。
後書き
咲夜さんが前作の盲信っぷりからは信じられないくらいの毒舌家に。
レミリアもうーうー言うし。どうしてこうなった。
今回の変化―――、まぁ前回と変わらんな。
強いて言えば、咲夜の毒舌がレベルアップしていたくらいか。
あとは、まだうふふやらリトルデーモンやらは出てないとか。
んじゃあ単語用語シリーズいくべよ。
俯瞰
高い所から見下ろすこと。または全体を上から見ること。
視野を広げて物理的なものを見ることですね。
それより広義な意味で捉えた場合に使うのが、大局。こっちのがメジャーかな。
大局的に物事を見る、いうのは、俯瞰的な視点から、更に未来的な事象に目を向け、未来に起こるかもしれない可能性すら予測することです。
溜飲が下がる(りゅういんがさがる)
不平・不満・恨みなど、胸のつかえがおりて、気が晴れる。
単純に不安が晴れた場合では使われず、上記のような少しマイナス面の感情による悩みが晴れた際に用いられるケースが多い。
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