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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第4話 代償

「あの〜、いい雰囲気のところ申し訳ないんだけど……。そろそろ私たちと話をしてもらってもいいかしら?」


 そう女性の声が聞こえて純吾はリリムの笑顔から視線を外し、声の方を向く。
 視線の先には、自分と同じだろう年齢の女性が苦笑しながらこちらへゆっくりと近づいて来ていた。長い紫がかった黒髪を綺麗なストレートにし、涼やかな目元のリリムと張り合えるほどの美貌の持ち主だ。

「……誰?」

「あぁ、そうね、まずは自己紹介からしましょうか。私は月村忍、この家の当主をしているわ。
 それで、後ろにいる一番幼い子が私の妹のすずか、その隣の髪の長い子が内でメイドをしてもらっているがノエルで、短い方が彼女の妹のファリンよ」

 月村忍と名乗る女性に言われて視線を彼女の後ろに向けると、確かにその後ろには紹介されたような特徴の女性たちがいる。
 純吾の視線に気がついたのか、メイド服を着た姉妹は険しい顔をしているが純吾へ軽く会釈し、姉妹に挟まれるように立つ少女は驚いたのか、小さく体を震わせた。


「ん……。ジュンゴは、鳥居純吾。」

「そう、ジュンゴ君っていうの。名前も分かったし、病み上がりの所申し訳ないんだけど、お姉さん聴きたい事があるの。少しお話聞かせて貰えないかしら?」


 その言葉に純吾は眉根を寄せる。
 目の前にいる忍はどう見ても20代前半には届かないほどの年齢だろう。そして自分も今年で19歳だ。
 なのに、同年代のはずの自分を圧倒的に年下に見ているのはどうしてなのだろう?

「……シノブ。ジュンゴ、19歳だよ?」

だから、純吾は彼女に自分は同じくらいの年齢だと伝えるのだが———

「えぇっ? あなた、どうみたってすずかと同じくらいにしか見えないわよ?」

 何を言っているんだ、という表情と共に忍から返ってきたのはそんな答え。

 予想外の答えに体がビクッと震えた。起きたばかりでぼんやりしていた頭が急速に回り始め、今までの事を整理し始める。
 そういえば、さっきまで抱きついていたリリムは、いやに自分を子供扱いしなかったかだろうか? それに、自分は彼女に抱きかかえられていた。自分の方が、ずっと彼女より背が高かったにもかかわらず、だ。

 いや、それはおかしい。

 答えを求め、純吾はあたりを見渡す。そうして、品のいい調度品で整えられた部屋の壁面には姿見のための鏡がかかっているのを見つけた。思わず、その鏡を凝視してしまう。

 そこには、“自分を幼くしたかのような少年”がこちらを見返していた。


「…………ジュンゴ、ちっちゃくなっちゃった?」

 鏡に映る少年は、ひどく間の抜けた顔をして、自分と異口同音に口を動かしていた。




 しばらく鏡に映る少年が自分だと理解できなくて茫然としていたが、忍が自分に声をかけてきたのに気づいた。純吾はその声にまた現実に引き戻される。

「何か、納得できないって顔をしている所申し訳ないんだけど。正直、君は私たちにとっても分からない、納得できないってことはたくさんあるの。
 さっきは聞きそびれちゃったけど、本当に貴方の事について教えてもらえないかしら?」

 回復したばかりの純吾を気遣ってか、恐る恐るといった様子で質問してくる。


 まぁ、実際忍の様子がひどく丁寧だったのは、後ろのリリムに気を使っての事だった。
 先程から純吾に対する態度が気に食わないのか、そもそも彼女以外の女性が純吾に近づくのが許せないのか、リリムはもの凄いイイ笑顔で純吾の後ろから忍を見ていた。
 付け加えるなら、純吾が名乗った時に後ろの女性達に警戒をされていたのも、この笑顔が原因だった。

……そこはさておき。


 忍から目線を逸らし、純吾は考え始める。正直、起きて意識がはっきりしてからずっと、純吾には気になる事がたくさんあった。
 だけど、それは彼女たちも同じな様だ。そこで、純吾は顔をあげ提案をした。

「ジュンゴも、聞きたい事がある。だから、ジュンゴもシノブに聞いてもいい?」

「えぇ、勿論。けど、まずは私たちから質問してもいいかしら? あなたが傷だらけで倒れていたのが、私たち本当に不思議だったの」

「ん…、分かった。じゃあ、聞いて」

 そうして、純吾は今までの事について話し始めた。
 自分の今までの事。孤児院出身で、名古屋で板前修業をしていた事。ある日突然大地震が起こり、世界が崩壊した事。そしてその崩壊と共に現れた悪魔と、今日まで【悪魔召喚アプリ】で戦いながら生き延びた事など。
 そして、自身の最後。名古屋に発生した暴徒に対し、人質の身代わりとなって重傷を負った事。そこから意識が消え、気が付いたらここにいたという事。


———話が終わりに近づき、ふと視線を感じて顔をあげる。

 忍たちは、何とも言えない顔をしていた。不審の表情で、或いは疑問の眼差しでこちらを見定めるように凝視している。

「話は、これで終わり」

「……っ! あぁ、ぅん。良く分かったわ、話を聞かせてくれてありがとう」

 純吾の確認を促す言葉に、慌てて取り繕う様な返事をする忍。その後ろでは、他の3人が集まって小声で何かを話し合っている。

……おかしい。
彼女の表情は、自分に向けた態度は、何かがおかしいと純吾は感じた。

 そこで、唐突に気がつく。
 自分の体験した事は、多くの人が体験している事にだ。

 あの地震によって、日本中の多くの街が被害を受けたと仲間の一人であるフミから聞いた。つまり地震の規模は日本全土を覆い、どこかしこでも何かしら恐慌が起こっているはずだ。
それなのに、彼女たちの落ち着き具合といったらどうだろう。

 それに、悪魔の存在。
 地震と共に現れた彼ら。人間にとって圧倒的な力を有する彼らの存在を無視して生活をする事ができるだろうか。できない、できるはずがない。彼らは自分たちを召喚した人間に対して、嬉々として襲いかかってくる。
 これらから逃げのびるはずなどできるはずがない。
 だが目の前の彼女たちの表情はどうだ。自分の話に対して訳が分からない、そんなことはありえないと言わんばかりの表情は。



「次は、ジュンゴから聞きたい。」

だから確かめる。

「ここは、どこ?」

 まず、自分がいるここの事。はっきり言って、名古屋でこんなにも立派な部屋を備えた建物が残っているとは思えなかった。
 確かに、公共の施設など、頑丈な建物なら形が残っているものはあったが、それでも所々ひび割れたり備品が破損していたりなど、崩壊の傷跡はどこかしこにあった。
 けど、この部屋には傷一つなく、調度品も壊れているということはない。運よく、世界の崩壊を免れる事の出来た場所なのだろうか?

「ここは海鳴市。○○県にある、海と山の間にある街よ。都会ってわけじゃないけど、自然がいっぱいあるとてもいい所よ」

そんな街は知らない。それに、『とってもいい所』? どこもかしこも大地震で崩壊をし、自然を楽しむ余裕なんてないはずなのに、なんという言い草だろうか!

「…悪魔って、本当に知らない?」

「えぇ。そこにいるリリムさんが初めてだけど……」

悪魔に浸食されていない地域、そんなものが自分のいた日本にあるというのだろうか?

「……3日前に、名古屋でもの凄い大きな地震があった。シノブ、知ってる?」

「いいえ。ニュースは毎日見てるけど、そんな事聞いたこともないわ」

 その言葉に頬を思い切り殴り飛ばされたかのような衝撃を受ける。
 この質問は、何より大事な、フミやアイリ達など仲間の息災への手がかりだからだ。知らない場所に来るのはいい、悪魔がいない地域があるのなら幸いだ。
 だが、地震もなかったというのはどういう事なのだろうか。これは自分の実体験のはずだ、それすらないと言う事があるのだろうか?

……いいや、そんなことは絶対にあり得ない。有り得ない、有ってはいけない!!



「じゃあ、…………じゃあ!!」

 じわじわと、質問をするたびに這い上がってくる冷たいものを振り払うかのように叫んだ。早く、早く何か言わなければ。この不安を吹き飛ばしてくれる、そんな疑問を見つけなければ!

「…ねぇ、ジュンゴ君。」

しかし、忍の言葉にビクリ、と体が固まり、声がでなくなる。忍と呼ばれた女性が、純吾の方へ鋭い視線を投げかけてくる。

「君が確認した通り、君が体験してきたっていう事はここでは起こっていないの」

「…………」

「話す機会がなかったけど、君、すごい方法でここに現れたらしいのよ」

「……どういう、こと?」

「あっ、それなら私が」

忍の後ろにいた少女が前に出てくる。

「えっと、ジュンゴ君を見つけたのが近くの森だったんだけど。それより少し前、ジュンゴ君が倒れていた場所に、青い焔が空から降りてくるのが見えたの」

「……それ、本当?」

「信じられないかもしれないけど、本当に見たの」


 青い焔、それは自分も見覚えがあった。あの暗い世界で、自分がそれに包まれたから。あの時は、ティコと、憂うものと名乗る青年がいて……

 唐突に、純吾は思い知った。どうして、自分がここにいるのかを。

『私が用意した道で君は間違いなく戸惑い、傷つき、そして他人と争う事となる』

「ねぇ、ジュンゴ君。こんな事言うのはとても荒唐無稽だとは自分でも思うんだけれども。」

 目の前にいる忍と、暗い世界にいた憂うものの言葉が重なって聞こえてくる。分かっている、彼女の言おうとしていることは。
自分でも何となく理解しつつあった。

『君は恐らく今までいた所には二度と帰る事ができないだろう』

「君がここにたどり着いた方法や、君の話と私たちの話が違う事からの推論なんだけど」

 だんだんと大きくなっていった違和感。その正体はなんだったか。

「君の話にでていた事が、どうしてここでは起こっていなかったか。それは———」


 あぁ、だからその答えを認めたくない。認めてしまえば、仲間の行く末が、自分の生き返った意味が———



「君が、こことは違う世界からだと思うの。」

『それではジュンゴちゃん☆ 新しい世界でもぉ、ハブ・ア・ナイスた~☆』

『天秤の守護者(ジュゴス)……。いや、純吾。その世界を、頼んだ……』



「えっ! ちょ、ちょっと!」

「いやぁぁ! ジュンゴ、ジュンゴーー!!」

 あの世界で2人が言った事を正確に理解をしてしまった純吾は、自身の死の宣告を聞いた時よりも深い絶望が自分に牙をむくのを感じた。
 そうしてそれに抵抗すらできず、そのまま周りの声すらも届かない、深い闇へと意識を堕としていった。
 
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