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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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救出戦

 
前書き
タイトル思いつかない…… 

 
 食事を終えたゲツガ達は、シンカー救出のためにユリエールについていく。

「ユリエールさん、シンカーさんが閉じ込められているダンジョンって何処なんですか?」

 ユキが前に歩くユリエールに向かって問いかける。

「ここ、です」

「ここ……って?」

「どういうこと?」

 アスナとユキは首をかしげた。

「この、はじまりの街の……中心部の地下に、大きなダンジョンあるんです。シンカーは……多分、その一番奥に……」

「マジかよ」

 キリトがうめくように言った。

「ベータの時にはなかったぞ不覚だ」

「そうなのか?じゃあ、行けばよかったな。もしかしたら、レアアイテム落ちてたかもしんねえし。入り口って何処にあったんだ?」

「そのダンジョンの入り口は、黒鉄宮、つまり、軍の本拠地の地下にあるんです。おそらく、上層部の進み具合によって開放されるタイプのダンジョンでしょうね、発見されたのはキバオウが実権を握ってからのことで、彼はそこを自分の派閥で独占しようとしました。
長い間、シンカーにも、もちろん私にも秘密にして……」

「なるほどな、未踏破ダンジョンは一度しかポップしないアイテムとかが多いからな。かなり儲かっただろう」

「それが、そうでもなかったんです」

 ユリエールの口調が少し痛快といったような色合いを帯びた。

「基部フロアにあるにしてはそのダンジョンの難易度は恐ろしく高くて……。基本配置のモンスターだけでも、六十層くらいのレベルがありました。キバオウ自身が率いた先遣隊たちは散々追いかけまわされて命からがら転移脱出するはめになったそうです。使いまくったクリスタルのせいで大赤字だったとか」

「ははは、なるほどな」

「キバオウって人、案外馬鹿なんだね」

 ユキとキリトがそう言って場から少しの間笑みがこぼれるが、そのあとユリエールの表情が暗くなる。

「でも、今は、そのことがシンカーの救出を難しくしています。キバオウが使った回廊結晶は、モンスターから逃げ回りながら相当奥まで入り込んだところでマークしたものらしくて……シンカーがいるのはそのマークの奥なんです。レベル的には一対一なら何とか倒せるのですが、連戦だとさすがに無理なんです。……失礼を承知で聞きますが皆さんは……」

「六十層ぐらいか……」

「そのくらいだったらね」

「確かに、そのくらいのレベルだったら」

「何とかなると思います」

 みんなの言葉を引き継いでアスナが頷く。六十層くらいなら、マージンを十分とって攻略するのに必要なのはレベル70だが、俺はすでに100を超えていて、ユキはゲツガの十七下の86、キリトは多分90は超えてるだろうし、アスナも80後半はいっているだろう。これなら、ユイを守りながらでも十分突破できるだろう。しかし、不意にユリエールは気がかりそうな表情で話を続ける。

「それと、もう一つだけ気がかりなことがあるんです。先遣隊に参加した人から聞きだしたんですが、ダンジョンの奥で……巨大なモンスター、ボス級の奴を見たと……」

「……」

 四人は顔を見合わせる。

「ボスも六十層クラスくらいの奴なのかな?あそこのボスってなんだっけ?」

「えーと、確か石で出来た鎧武者みたいな奴だったな」

「あー、あいつか。そんなに強くなかったな」

「そうだね」

「まあ、今のレベルぐらいだったらな」

 そして、アスナはユリエールのほうを向いて頷く。

「まあ、それも、何とかなると思います」

「そうですか!よかった!」

 ユリエールはようやく口許を緩めた。

「そうかぁ。皆さんはずっとボス戦を経験してらしたんですね。すみません、貴重な時間を割いてもらって……」

「気にすんなって。俺たちはちょうど休暇中なんだ。それに、最近体動かしてないし、ちょうどいい運動になるだろ」

 そう話してる間に前方に巨大な建造物が見えてくる。はじまりの街、最大の施設の黒鉄宮だ。ここの奥を完全に軍が占拠しているため、生命の碑を確認するぐらいしかやることがない。

 ユリエールは黒鉄宮の正面からではなく、裏手のほうに回った。高い城壁と深い堀が侵入を拒むようにどこまでも続いていく。

 しばらく、歩き続けると、堀の水面か近くまで続く階段のある場所に着く。階段の先端右側には壁に暗い通路があった。

「ここから、宮殿の下水に入り、目的のダンジョンの入り口を目指します。ちょっと暗くて狭いんですが……」

 それを聞くとユキが若干身震いし、ゲツガのコートの袖の部分をつまんだ。そういえばユキは、暗いところが苦手だったな。しかし、ユリエールはユイの方を見ていた。まあ、子供は暗いのが苦手かもしれない、そういう配慮をしているのだろう。その視線を向けていたユリエールに心外そうに顔をしかめて

「ユイ、こわくないよ!」

 と、主張した。

「ユキ、ユイは大丈夫らしいがお前は?」

「だ、大丈夫……かも」

 ユキにそんなことを聞いている間にキリトはこちらを温かい視線を向けていた。どうやら、キリトたちのほうは準備が終わっていたらしい。

「二人とも、もう行くけど大丈夫?」

 アスナがゲツガとユキに確認のために聞いてくる。

「ああ、大丈夫だ」

「それじゃあ、行きましょう!!」

 そして、ダンジョンの奥地を目指し、入り口に足を踏み入れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ぬおおおおおおお!!」

 キリトの握るダークリサルパーがモンスターを切り裂き、

「りゃああああああ!!」

 もう片方に握るエリュシデータで吹き飛ばす。

 シュッとゲツガはキリトの剣撃が届かない場所にいるモンスターに短槍を番えて射る。

 久々に二刀を装備する狂戦士となったキリトと弓を装備したゲツガは次々と敵を殲滅していく。

 アスナやユキはやれやれと言った様な感じの顔をして、ユリエールは口を丸くして見ている。ユイは「パパ、お兄ちゃん、ガンバレー」声援を送っている。ダンジョン内というのにまったく緊張感がない。

 ダンジョンに入って、数十分はたったがダンジョンは予想以上に広く、モンスターの数も多いが、ゲームバランスを崩壊しかねない勢いで二刀を振るうキリト。ゲームシステムを無視して作った弓に短槍番え、射るゲツガ。そのせいで、女性剣士たちは疲労はまるでない。

「なんだか、すみません、任せっぱなしで」

 申し訳なさそうに首をすくめるユリエール。

「いいんだよ。俺らは好きでやってるんだから」

「俺をお前のような戦闘狂(バトルジャンキー)と一緒にするな」

 群を蹴散らし戻ってきたキリトが、落ちていた短槍をゲツガに投げ渡して言った。

「誰が戦闘狂(バトルジャンキー)だ。俺はそこまでバトル好きじゃねえぞ」

「そうだよ。戦闘馬鹿なだけだよ」

「ユキ、それフォローになってない」

 その他愛もない会話のあとも攻略していき、シンカーの現在位置にどんどん近づいていく。

「シンカーの位置は、数日動いていません。多分安全エリアにいるんだと思います。そこまで到達できれば、あとは結晶で離脱できますから……。すみません、もう少しだけお願いします」

 ユリエールはそう言って頭を下げる。

「いや、俺らは好きでやってるんだし、なぁ」

「そうそう、アイテムも出るし」

「へぇ」

 アスナはそう聞き返す。

「なにかいいものでも出たの?」

「おう」

 そうキリトは答えて素早くウィンドウを操作して赤黒いグロテスクな肉を出現させる。ユキとアスナはそれを見て顔を引きつらせる。

「な……ナニソレ?」

「カエルの肉!ゲテモノほどうまいって言うからな、後で料理してくれよ」

「絶・対・嫌!!」

 アスナは自分のウィンドウを開く。結婚するとストレージ共通化するためキリトとアスナのストレージは同じになっている。素早く操作して、さっき出した肉をゴミ箱マークに放り込む。

「あっ!あああぁぁぁ……」

 キリトが情けない声を上げた。ゲツガはキリトに近づき肩を叩く。

「ドンマイ」

 そう言ったあと、キリトにだけ聞こえるくらいの小さな声で言う。

「俺もあるから、これが終わったあと来い。作ってやるよ」

 そう言ったとき、ユキがウィンドウを開き何か操作していた。何故か心配になったゲツガはウィンドウを開き、あれがあるか確認する。

「ゲツガ君のことだから、どうせさっきのアイテムで料理しようとしたんでしょ。安心して捨てといたから」

「「のおおおおおお!!」」

 ゲツガとキリトが膝を突いて叫ぶ。ソレを見たユリエールは我慢しきれないといった風にくっくっと笑いを洩らす。

「お姉さんがはじめて笑った!」

 ユイがうれしそうに叫ぶ。ユイも満面の笑みを浮かべている。ユリエールは、ゲツガたちとあってから、作り笑いしかしていなかった。しかし、ユリエールが本当の笑ったのを見てユイはうれしかったんだろう。ゲツガはユイに近づいて、頭をくしゃくしゃとなでる。

「よかったな、ユイ。お姉さんが笑って」

「うん!」

 ユイがうれしそうに声を出した。そしてゲツガはユイの頭から手を離す。そのあと、アスナが声をあげる。

「さあ、先に進みましょう」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョンに入ってからしばらく水中生物型のモンスターだったが、階段を下りるたびゾンビだのゴーストだのといったオバケ系統のモンスターに変わって、アスナとユキが身震いしていたが、アスナやユキにあまり見せないために、ポップした瞬間、近くに出た奴はキリト、遠くの奴をゲツガが屠った。

 あっという間に二時間が経ち、マップもシンカーのいる場所にどんどん近づいてきた。何匹目とも知れぬ黒い骸骨剣士を剣と短槍で屠った先に、光が漏れる通路に目に入った。

「あっ、安全地帯よ!」

 アスナがそう言うと同時に、ゲツガとキリトも索敵スキルで確認する。

「奥にプレイヤーが一人いる。グリーンだ」

「多分、シンカーだと思う」

「シンカー!!」

 ユリエールは我慢できないといった風に安全地帯へと走り始めた。ゲツガたちはその後を追う。しかし、走っているとゲツガは何か嫌なものを感じて、足を止めた。ソレを見たユキが足を止める。

「どうしたの?ゲツガ君?」

「この先に何かいる……」

「シンカーさんじゃないの?」

「違う。人じゃない。この感じは……モンスターだ!」

 その時、ユリエールの話を思い出す。

「ダンジョンの奥で……巨大なモンスター、ボス級の奴を見たと……」

 その瞬間、この嫌なものの正体を推測し、キリトたちに向かって叫ぶ。

「止まれ!!ボスモンスターが来るぞ!!」

 ソレを聞いたキリトたちは足を止める。しかし、ユリエールは足を止めずそのまま進んでいく。

「ユリエーーーーール!!」

「シンカーーー!!」

「来ちゃだめだ!!その通路は……っ!!」

 その瞬間、右側の死角の部分に黄色のカーソルが現れる。素早く名前を確認する。《ザ・フェイタルサイス》。運命の鎌という意味であろうボスモンスター。

「ユリエールさん!!戻って!!」

 アスナが叫ぶと同時にカーソルがすうっと左に移動する。十字の交差点へとどんどん距離をつめる。このままでは数秒後にぶつかる。瞬間、キリトは物凄い速さで駆け出す。ユリエールとの距離を一瞬でつめて、身体を抱え込み急停止しようとする。しかし、ものすごい速さだったため慣性の法則が働きなかなか止まらない。キリトは開いてるほうの手に持っている剣を床に突き立てる。すさまじい金属音を立てて、十字路の手前で停止する。その前を大きな音を立てて巨大な影が横切る。

 黄色いカーソルは、数十メートル進んだところで停止した。そして、こちらのほうに向き直り再び近づいてくる。ソレと同時にキリトはユリエールを下ろして、床の剣を抜いて通路に飛び込んでいった。

「ゲツガ君、ユイちゃんをお願い!!ユキ、キリト君を助けるのに付き合って!!」

「分かった!!」

 そう言って、ユキとアスナはキリトを追うように通路に入っていく。ゲツガはユイを抱えあげ、ユリエールに近づく。

「ユリエールさん!!早く安全地帯に行きましょう!!」

 そう言ってユリエールを連れて、安全地帯に踏み込む。

「シンカー!!」

「ユリエール!!」

 久方ぶりの再開を喜んでいるが今はそんな場合じゃない。

「ユリエールさん!!転移結晶を使って脱出してください!!」

 そう言うと転移結晶を出す。ユイにも転移結晶で帰るように言うが頑なに「いや!!」と首を横に振る。

「先にユリエールさんは、シンカーを連れて帰ってくれ!!ユイは帰りたくないならここで待っておけ!!」

 そういった瞬間、シンカーとユリエールは転移結晶を使って消えた。ユイを中心の石に置く。その瞬間、身体にノイズが走る。

「ッ……!!」

 しかし、ソレは一瞬のことですぐに治まる。何だったんだ、さっきの。だが、今は関係ない。すぐにキリトたちを助けに行かなければ。そしてゲツガは、キリトたちの居るところに向かおうとする。そのとき、知った声に引き止められる。

「待ってください」

 足を止めて、振り返る。

「ユイ、どうした」

 そこには俯いて立つユイがいた。先ほどまでとは感じが違いどこか悲しい雰囲気を纏っていた。

「全て……全て思い出しました」

「……そうか。だけど、話は後だ。今はキリトたちを助けに行かなきゃなんないからな。お前は待っておけ」

「いいえ、私もいきます。パパたちにも言わなきゃいけないことがあるので」

 そう言ってユイは石を触って何かしていた。そのあと、ゲツガに向けて言う。

「いきましょう。パパたちのとこへ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ゲツガとユイがキリトたちの所に着いた時、キリトたちのHPはグリーンではなく、イエローに達していた。ゲツガは壁を跳ねて、キリトとユキ、アスナを回収する。素早くキリトたちを回収し終えると同時にユイがとことこ歩いてきてモンスターの前に出る。

「バカ!!早く逃げろ!!」

 キリトが叫ぶモンスターが重々しい動作で持っている鎌を振りかぶる。そして、ユイに向かって振り下ろされる。その前に飛び出したゲツガは死神の鎌を軌道をそらそうと弓を分解し、二本の剣を逆手に持つ。しかし、ゲツガのパワーでも、あいつの鎌を弾き返せるか分からない。その時、さっきのノイズのことを思い出す。

『もしかしたら、あのノイズは……』

 スキル《殺陣》を使えるか試す。すると、自分の身体の中にうごめくものを感じる。そのあと壁やモンスターにいくつもの赤い線が見ようになる。何の線かみた瞬間に何故か理解できた。

『この線は……あいつを構成するプログラムのつなぎ目』

 鎌にある線を剣で沿うように斬る。すると、スパンと鎌が真っ二つ斬れ、ポリゴン片になる。ソレを見たユイは驚いた顔をして言う。

「何で私を助けたんですか?今の私はプログラムに守られてダメージを与えられることがないのに……それにさっきの……」

「まあ、さっきのは自分でもわからねえけど、食らわないって本当か?何で食らわないかわ分からないけど、自分を慕ってくれる子が攻撃されるとこを何もしないまま黙って見ることが出来ないんでね」

 そう言うとユイは悲しそうな笑みを浮かべる。

「優しすぎますよ、あなたは……」

 そして、ユイは自分の身の丈を超える炎剣を出現させる。そして、その剣を、ぶん、とモンスターへと撃ちかかる。死神は何も出来ないまま、その剣を叩きつけられる。ソレを食らった死神の身体を火炎が包む。しばらく死神が出したと思われるかすかな断末魔が響く。火炎が消えた時には、もう死神の姿はなかった。

 アスナたちはよろよろと立ち上がる。ゲツガはユキを起こすのを手伝う。

「ゲツガ君、何でユイちゃんが……」

「俺もどうしてかわからない。でも、ユイが話してくれるはずだ」

 そう言ってユイのトコに近寄る。キリトとアスナもユイに近づく。

「ユイ……ちゃん……」

 アスナが掠れた声で少女の名を呼ぶ。そして、ユイは振り向く。微笑んでいるが目には涙が溜まっている。

「パパ……ママ……お姉ちゃん…全部思い出したよ……」

 ユイは静かにそう告げた。 
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