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リリカルってなんですか?

作者:SSA
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無印編
  第十五話




 なのはちゃんが倒れて一週間経った。その間、僕となのはちゃん、恭也さん、ユーノくんは放課後にジュエルシードを探すために歩き回っているわけだが、最初の一週間と違って成果が全然上がらない。ジュエルシードの捜索を始めて早二週間が経過しているが、集まったジュエルシードの数は5つ。全部で21個あることを考えると約4分の1が集まっていることになる。

 後ろには時空管理局という警察のような組織があることを考えれば、後二週間無駄足になってもいいから、ジュエルシードに遭遇せずに時空管理局にバトンを渡したほうが、平穏ではないだろうか、と考えてしまう。
 もっとも、ユーノくんの話では、ジュエルシードは封印しない限り、意思のある生き物に触れ、願った瞬間に発動してしまうのらしい。ジュエルシードは、まるで不発弾のようなものだ。だから、そんな危険なものを放置するわけにもいかず、封印できるなのはちゃんが探すのをやめるといわない限り、探すのを諦めるわけにはいかない。

 そんなわけで、休日の今日も朝から僕たちは、書店で買った海鳴市の地図を片手に海鳴市を巡っていた。地図を片手にユーノくんをジュエルシードのアンテナ代わりに歩いていると、まるで海鳴市を観光しているような気分になる。子供の頃から住んでいる町ではあるが、少し足を運ばなければならない場所になると、恭也さんでさえ分からないというような場所もある。よくよく考えてみると自分のテリトリーなんていうのは意外と狭いのかもしれない。

 しかしながら、分からないから、といって探さないということはないので、今日もユーノくんを肩に乗せ、隣になのはちゃん、少し後ろに恭也さんというポジションでなのはちゃんやユーノくんと話しながらジュエルシード捜索を行っている。

 ユーノくんとは主に地球のことについて話すことが多い。文化的な違いとでも言うべきだろう。何にでも興味を持った子供のようにユーノくんは次々にあれはなに? これはなに? と尋ねてくる。ユーノくんが遺跡発掘の責任者ということを考えても、知的好奇心が強いということに異論はないだろう。

 なのはちゃんとは、主に本に関する話題が多い。最近は、少し僕がテレビに関する話などをしたせいか、なのはちゃんも興味を持ってくれたみたいで、その手の番組の話もすることが多い。後は、授業に関することだろうか。なのはちゃんは理数系に関しては、天才的と言っても過言でないほど頭が回る。聞けば、学校のテストも満点を取れることもあるらしい。ただし、その代わりと言ってはなんだが、文系教科は壊滅的らしい。

 そんな感じで、僕たちは休日といえどもジュエルシードを探していた。

 ほのぼのと三人と一匹でジュエルシードを探す今日この頃だが、実は今日、すずかちゃんたちからお茶会をやるけど、来られる? と誘われていた。もっとも、僕は最初から一ヶ月は無理だと伝えていたことから、ダメで元々のつもりだったようだが。
 僕がこうしてお茶会に誘われることは珍しいことではない。すずかちゃんの家に本を借りに行ったときでさえ、簡単なお茶会程度は開いてくれるのだから。紅茶を片手に読んだ本について雑談するなんて、なんて優雅な趣味なんだろう。しかし、残念ながら、紅茶も本も借り物という情けなさ。
 それはともかく、今回は頭を下げる形で、今日もジュエルシードを探しているのだが、ジュエルシード探しが終わった後、もし、お茶会に誘われたら、今度は手土産を持っていく必要があるだろうな、とぼんやり考えていた。

 さて、午前中は何も見つからず、近くの公園―――海鳴は適度に都会と自然の調和がとれており、自然公園が近くに結構ある―――で、なのはちゃんのお母さんと僕の母さんが作ってくれたお弁当を食べて、さて、午後からも頑張ろうか、とベンチから立ち上がろうか、というときに、不意に何かを感じた。

 奇妙な違和感というべきだろうか、どんな風に形容するべきか分からない感覚。何らかの違和感である。それは、なのはちゃんとユーノくんも感じているらしい。そして、両者ともある方向を向いて、ユーノくんが口を開いた。

「ジュエルシードが発動したっ!?」

 どうやら、今日は平穏なジュエルシード探しというわけには行かなくなったようだ。しかし、このなんと形容して言いか分からない感覚がジュエルシードが発動した感覚なのだろうか。前の神社のときは欠片も分からなかったことを考えると進歩なのだろうが、なのはちゃんたちみたいに発動した方向すら分からないような曖昧さでは、なのはちゃんに追いつくのはまだまだ無理そうである。

「どこ?」

 僕はこの近辺の地図を広げながらユーノくんに聞く。僕たちがいる場所と方向と距離を照らし合わせれば、どこで発動しているか、地図上ではっきり分かるはずである。僕が広げた地図をなのはちゃんと恭也さんも覗き込む。

「えっと、僕たちがいる公園がここで」

 僕は持っていた赤い水性ペンで丸をつける。

「ジュエルシードが発動したのは、ここからこの方向に……えっと、距離はちょっと遠いかな。翔太の家から学校ぐらいの距離かも」

 基準が僕の学校なのは、おそらく僕が授業中はユーノくんは家にいて、僕と念話で話していることを基準にしたのだろう。一週間前は、短距離しかできなかった念話だったが、一度できるようになるとコツがつかめたのか、距離だけは伸びていった。ならば、他の魔法はどうか? と聞かれると残念ながら、まだプログラムを構築している段階である。

 さて、それはともかく、ユーノくんが言うように僕の家から学校までの距離を直線で書くと―――

「大体この辺りかな?」

 僕が公園からまっすぐ線を引き、ここら辺にありそうだ、と思った場所に丸をつけると、そこは何もない空間が大きく広がっていた。街から少し離れた場所だ。しかも、そこは僕もよく知っていた。なぜなら、一ヶ月に数回訪ねるような僕の友達が住んでいる家の近くなのだから。

「……忍の家の辺りか?」

 同じく地図を覗き込んでいる恭也さんから、意外な名前が出てきた。

 月村忍さん。すずかちゃんのお姉さんだ。気さくな性格で、少し内気気味なすずかちゃんと血の繋がったお姉さんとは思えない。もっとも、姉妹と思えないのは、性格的な面だけで容姿はとてもよく似ている。

「あれ? 恭也さん、忍さんと知り合いですか?」

「ああ、俺の友達だ。君もどうして忍を?」

「僕の友達のお姉さんですよ」

 恭也さんも「ああ、すずかちゃんか」と納得していた様子だった。縁とは奇妙なところで繋がっているものだ。
 さて、それはともかく、僕も恭也さんも結論は一つに達した。つまり、すずかちゃんの家の近くでジュエルシードが発動したということだ。何が起きたか分からないが、早く行かなければならない、という思いが僕の中で生まれた。
 まだ、結界さえ張っていない状態なのだ。つまり、ジュエルシードに対する被害をすずかちゃんたちがこうむることになる。最悪の場合は、怪我だけではすまないかもしれない。それを考えると一刻も早く向かいたいものである。

 その思いは恭也さんも同じなのかもしれない。忍さんという恭也さんの友人も巻き込まれているのかもしれないのだから。僕と同じような思いを抱いてもおかしな話ではない。

「ショウ、早く行かないとっ!!」

「タクシーが早いな。大通りに出ればすぐに捕まるだろう」

 確かに、神社のときのように走って何とかなる距離ではない。むしろ、大通りならば、走るよりもタクシーのほうが早いはずである。

「行こうっ! なのはちゃんっ!」

「うん」

 どこか、少しだけ意気消沈したようになのはちゃんは頷く。一体、どうしたというのだろうか? さっきまではあんなに元気だったのに。

「なのはちゃん? どうかした?」

「ううん、なんでもないよ。それよりも、ジュエルシードを早く封印しないと」

 先ほどの意気消沈した声が嘘のように明るい声を出して、先ほどの言葉を否定する。本当ならもう少し気に掛けたいところだが、なのはちゃんが元気なら、なのはちゃんの言うとおり、確かにジュエルシードの方を優先すべきだろう。

 僕たちは、大通りでタクシーを拾って一路、月村家の邸宅へを向かった。



  ◇  ◇  ◇



 さすがに目的地を告げると車は早い。車があまり混んでいないこと、信号もあまりないことが幸いした。このまま行くと目的地までは15分程度といったところだろうか。
 早く、早くと心の中で急かすものの、僕が念じたところで車の法廷速度を変えられる変えられるわけでもないのだが、それでも念じてしまうのは人だからだろうか。だが、僕が一秒でも早く目的地に着くことを願っている最中、不意にユーノくんが驚いたように顔を上げた。

 ―――えっ!? ―――

 声に出さなかったのはさすがだろう。ただ、念話で突然送られた驚きの声は、何が起きているか分からない僕でさえも驚いてしまいそうな声だった。念話が聞こえない恭也さんは何かあったのか、といわんばかりに首を捻っている。もっとも、原因は僕のも分からないのだが。だが、その答えは僕の隣に座っているなのはちゃんからもたらされた。

「……ジュエルシードの反応が消えた?」

「え?」

 確かに言われて見ると、先ほど感じた違和感のようなものは感じなくなっている。しかしながら、消えたということはどういうことだろうか。

 ―――どういうこと? ―――

 ―――分からない。反応が消えるなんて、ジュエルシードが封印されたとしか考えられないけど―――

 ―――でも、なのはちゃんは隣にいるよ―――

 おそらく、地球上で唯一ジュエルシードを封印できるはずのなのはちゃんは僕の隣に座って、なぜか酷く焦っているような表情をしていた。突然、ジュエルシードの反応が消えたのだ。焦るのも分かるような気がする。

 ―――そうだけど……。でも、反応が消えたってことは、それぐらいしか考えられないんだ―――

 ―――あるいは、ジュエルシードを封印できる誰かがそこにいたか、ってことかな? ―――

 むろん、その場合は、誰が? という話になってくる。なのはちゃんはここにいる。そして、この街では、僕となのはちゃん以外は魔力を持っていないことを確認している。ならば、外から来たとしか考えられない。そこから導かれる解は一つだ。

 ―――時空管理局の人ってことは考えられない? ―――

 ユーノくんの予想では、三週間後という予測だったが、もしかしたら、早く来ることができて、来た瞬間に偶然発動したジュエルシードを僕たちよりも早く封印したとは考えられないだろうか。今のところ、僕の中で一番しっくり来る説はそれなのだが。

 だが、ユーノくんは首を左右に振って僕の考えを否定した。

 ―――それはないと思う。時空管理局の人なら、ジュエルシードに対して結界を張らないということはないから―――

 ユーノくんの話によると地球は、第九十七管理外世界と呼ばれ、魔法文明がない管理外の世界らしい。そこで、魔法を表ざたにすることは通常禁止されている。つまり、時空管理局の名前を背負っている人が魔法を表ざたにする切欠になるようなジュエルシードをそのまま対処するとは考えられないということらしい。

 しかし、そうなると、結論を出すことはできない。ユーノくんはここに一人で来たと言っていたことを考えると、ユーノくんのお仲間ということも考えられないだろうし。

 ―――ここで考えても仕方ないよね。とりあえず、行ってみよう―――

 仮説ならいくらでも立てられる。しかし、いつだって事実は一つなのだ。後、5分もすれば、目的地に着くのだからタクシーの中で考えても仕方ない。むしろ、ジュエルシードの暴走が止まって幸運だった、ぐらいには考えておこう。

 タクシーは僕たちを乗せて目的へと走るのだった。



  ◇  ◇  ◇



「この辺りで間違いない?」

「うん、この向こう側だ。間違いないよ」

 確認のためになのはちゃんに視線を向けてみるが、なのはちゃんもユーノくんと同じ意見なのだろう、コクリと頷いて肯定の意を示した。

 タクシーで月村家の近くまで送ってもらった僕たちは、そこから歩いて月村家の門の前まで歩いていった。そこで改めてユーノくんに反応の有無を確認してもらったのだが、ジュエルシードの反応はやはりなし、ただ痕跡というか、発生したであろう場所は月村家の邸宅の奥に広がっている森で間違いないようだ。

「さて、どうしたものかな?」

 その場で、僕らは頭を捻った。

 幸いにして、この家は、僕にはすずかちゃん、恭也さんには忍さんという友人と呼べる知り合いがいる。つまり、中に入ることは簡単なのだ。問題は中に入った後だ。当然、訪問するからには理由がいるだろう。しかし、まさか、率直に「魔法の石がお宅の森で発動したので確認させてください」とはいえない。だが、誤魔化すにしても森の中に立ち入るだけの理由が必要だ。ある程度不自然ではなく、森の中を自由に捜索できるような理由。

「う~ん」

 なのはちゃんも、恭也さんも、ユーノくんも必死にどうやって森の捜索許可を貰うか考えてくれている。だが、妙案というものは得てして考えるものではなく、閃くものである。そして、今回ひらめいたのは、なのはちゃんだった。

「ね、ねえ、ショウくん」

「なに? 何かいい案がある?」

「う、うん、あのね、ユーノくんが逃げたことにするのはどうかな?」

 僕と恭也さんの視線がユーノくんに集まる。突然、名前が出てきたことに驚き、僕たちの視線を受けて二度驚いているユーノくん。なるほど、僕はいつもユーノくんと喋っていたから、案として出てこなかったが、ユーノくんは傍目から見ればフェレットである。つまり、動物だ。動物は得てして気ままなもの。偶然、逃げ出して、すずかちゃんの家の庭に行ってしまっても仕方ないということか。

 僕たちは、ユーノくんがコミュニケーションが取れる動物だと知っている。だが、すずかちゃんたちはそれを知らない。ユーノくんも普通の動物だと思っているだろう。ならば、確かになのはちゃんの案は十分通用するだろう。

「うん、いい案だと思うよ。僕には思いつかなかったよ」

「えへへ」

 可愛く照れ笑いを浮かべるなのはちゃん。

 本当に言われて見るとすごい案のように思える。これならば、先にユーノくんが森の中にはいって捜索しても不自然ではないからだ。一人になるよりも当然早いだろう。もっとも、逆に懸念すべきことは、ジュエルシードを封印したであろう魔導師のことだが、もし遭遇したとしてもユーノくんは転送魔法が使えるらしいので先行する人物としては最適だろう。

「よし、それじゃ、ユーノくん。そういうことで頼めるかな?」

「うん、分かったよ。何かあったら念話で連絡するからよろしくね」

 こうして、ユーノくんは上手に壁を駆け上がって月村家の裏庭へと姿を消した。

「さて、僕たちは、表門から行こうか」

 恭也さんとなのはちゃんを促して僕たちは、表門についたインターフォンの前に立つ。僕と恭也さん、どちらがボタンを押すか話し合ったが、この場合は、飼い主である僕だろう、ということで僕がインターフォンを押した。
 インターフォンに出たのは、いつものノエルさんではなく、すずかちゃん付きのメイドであるファリンさんだった。僕は、すずかちゃんにフェレットのユーノくんが逃げたので捜索する許可を貰いに着た旨を告げた。

『今、お嬢様に聞いてきますから、少々お待ちくださいね』

 プツッとインターフォンが切れて、待たされること数分、門の向こう側に見える大きな西洋風の左右両方が開く扉の片方をあけて出てきたのは、ファリンさんだった。少し足早に門の前まで来ると、僕たちがいる反対側から小さな門を開けてくれた。

「ようこそいらっしゃいました、蔵元様、高町様、えっと……」

 僕と恭也さんを見て頭を下げるファリンさん。最後に言い淀んだのはなのはちゃんだ。そういえば、なのはちゃんは、この家に来るのは初めてなんだ。ファリンさんが知らないのも無理はない。

「ああ、こっちは、俺の妹のなのはという」

「そうですか、私は月村家でメイドをやっておりますファリン・K・エーアリヒカイトと申します。ファリンとお呼びください」

 頭を下げるファリンさんになのはちゃんは僕の後ろに隠れて、少しだけ顔を出しながらコクリと頷いた。
 それでファリンさんは満足したのか、「こちらです」と告げて、僕たちを先導し始めた。僕たちはそれに続いて歩いていく。僕や恭也さんにしてみれば、いつものことなので特に興味を引かれるものはなかったが、なのはちゃんはこんな大きな家を見るのは初めてなのか、キョロキョロと辺りを見渡していた。その仕草に最初に来たときの僕を思い出すようで苦笑してしまう。

「珍しい?」

「え、う、うん、大きいなって思うよ」

 確かに大きい。しかし、大きさだけで驚いていたなら中をじっくり見たらもっと驚くだろう。僕だって、曲がった階段やシャンデリアなんて海の向こう側の家にしかないものだと思っていたぐらいなのだから。

 やがて、左右両開きの扉の前までファリンさんに案内される。すると、ファリンさんが扉に手をかける前に自然と扉が開いた。

「えっと、いらっしゃい、ショウくん」

 扉を開けた向こう側から少し恥ずかしそうに出てきたのはすずかちゃんだった。

 だが、僕はいつもなら「こんにちは」と返すはずの返事を忘れてしまった。理由は、すずかちゃんが着ている洋服だ。僕のイメージでは、彼女が着ている服は白が殆どだ。少し色がついていたとしてもクリーム色だとか、比較的明るめの色が多かったように思える。だが、ここに来ていきなりそのイメージとは真逆の真っ黒でところどころ白いフリルがついた可愛らしいワンピースで現れたのだから、言葉を忘れても仕方ないと思う。

 本当に女の子は、服装一つ、髪型一つでイメージががらっ、と変わってしまうものである。いつもの洋服なら清楚な感じのイメージが強かったすずかちゃんだったが、黒い洋服はすずかちゃんの夜を流し込んだような黒髪と相まって小悪魔のようなイメージを髣髴させる。

 どちらにしてもすずかちゃんによく似合っていることには変わりない。だから、僕はそれを素直に口に出す。こういうときは、褒めるものだと相場が決まっているのだから。

「初めて見る洋服だけど、よく似合ってるね。うん、可愛いと思うよ」

「あ、ありがとう」

 恥ずかしそうに頬を染めるすずかちゃん。初々しいな、と思う一方で、すずかちゃんのことばかりに構っていられないのも事実だった。

「それで、話は聞いてるかな?」

「うん。聞いてるよ。ユーノくんが逃げちゃったんでしょ?」

 どうやら、ファリンさんから話は上手いこといっているようだ。

「うん、だから、庭を探させてもらいたいんだけど」

「ごめんなさい。今、森には入れないの」

 すずかちゃんの答えに思わず驚いてしまった。すずかちゃんは理由もなく断わるような女の子じゃない。てっきり快諾してくれるものだと思っていたからだ。

「なんで?」

「えっと―――」

「あら、ショウくんじゃない」

 すずかちゃんが理由に言いよどんでいるときに助け舟のように現れたのは、庭の森のほうから現れた忍さんだった。彼女はいつものようにラフな格好で、シャツにジーパンだった。しかし、すずかちゃんが、森に入れないといった理由は忍さんが森にいたからだろうか。

「忍」

「恭也も? 一体、どうしたの?」

 どうやら、ここからは役者を交代したほうがよさそうだ。僕は恭也さんと目配せすると、説明の要員を交代した。恭也さんが忍さんに事情を説明してくれる。恭也さんから説明を聞いた忍さんは俯いて少し考え込んでいたが、やがて顔を上げて口を開いた。

「分かったわ。私の指示に従うなら、捜索してもいいわよ」

 なるほど、もしかしたら、森には月村家の何かが隠してあるのかもしれない。部外者には見せられないものや蔵のようなものがあるのかもしれない。それらに触れてもらいたくないのかも。ならば、すずかちゃんが拒否したのも分かる理由だ。

 どうする? と目で聞いてくる恭也さんに僕はコクリと頷いて肯定を示した。本来の目的であるジュエルシード捜索は忍さんがいてもできるかもしれないし、本命はユーノくんが向かってくれているはずだ。森の中を歩けるだけでも御の字だろう。

「それじゃ、頼めるか?」

「分かったわ。来るのは、恭也とショウくんと……」

「俺の妹のなのはだ」

 忍さんもなのはちゃんと顔を合わせるのは初めてだからか、なのはちゃんを見て首をかしげたため、恭也さんが忍さんに紹介する。

「そう、なのはちゃんでいいのね?」

「ああ、よろしく頼む」

 こうして、僕たちはすずかちゃんとファリンさんに見送られて森に向かった。



  ◇  ◇  ◇



 ―――ユーノくん、そちらの状況はどうだい? ―――

 森を歩きながら、僕は先に向かっているはずのユーノくんに念話を送った。

 ―――ショウ? やっぱり、管理局の人間じゃない。外部の人間だ―――

 ユーノくん曰く、森の中で戦闘の跡を見つけたそうだ。地面が抉れ、木が何本か倒れているらしい。ジュエルシードが発動した方向とも合っているし、ここでジュエルシードを封印するために戦闘が起きたことは間違いない。だが、ジュエルシード自体は持っていかれたのか、見つからないようだ。

 ―――ジュエルシードの反応はないの? ―――

 ―――ないよ。よほど強固に封印されたのか、微塵も感じないよ―――

 ユーノくん曰く、封印には強度があるらしい。ここに来る前はユーノくんが自分で封印を行った。ただし、ユーノくんの魔力で封印した場合は、個人でもジュエルシードの反応が追えるほどの魔力を感じられるらしい。だが、一方で、なのはちゃんの魔力で封印した場合はどうか。答えは、微塵も魔力を感じないほど強固に封印が可能らしい。こうなると、時空管理局が持っているサーチ専用の機械を使っても無理らしい。だから普通は、探知機などをつけるらしいが、今回のジュエルシードにはついていない。

 しかし、そうなると大変な事実が判明してしまった。

 ―――相手は、なのはちゃんほどの魔力を持った魔導師? ―――

 これもユーノくんに聞いた話だが、どうやらなのはちゃんが持っている魔力というのは、かなり強いものらしい。管理世界を見ても稀有なほどに。そんななのはちゃんと同等の魔力の持ち主が相手。しかも、まったく素性の知れない魔導師だ。
 ジュエルシードだけでも頭が痛い問題なのに、それを手に入れようとする時空管理局以外の第三者登場か。

 ―――どちらにしても、もうジュエルシードがないんじゃ仕方ないね。一度、合流しようか―――

 ―――分かった―――

 案内してもらっている忍さんには申し訳ないが、こちらの都合でフェレットのユーノくんとは合流してもらおう。

 やがて、森を案内してもらっている最中に適当なところで、ユーノくんに顔を出してもらい、僕たちを合流した。忍さんは素直によかったね、と言ってくれたが、忍さんの笑顔が胸に痛い僕だった。



  ◇  ◇  ◇



 僕たちが森から出て、月村家の玄関まで出てくると既に太陽が山の向こう側に沈みかけ、紅色の光を発していた。

「忍さん、ありがとうございました」

「きゅー」

 ぺこりと僕とユーノくんが頭を下げる。このお礼には、許可をくれてありがとうという意味とわざわざ付き合ってくれてありがとうという二つの意味が込められている。本当なら忍さんにこんな面倒をかけなくてもよかったのだが。

「あら、ショウじゃない。ユーノは見つかったの?」

 丁度、タイミングを見計らったように出てきたのはアリサちゃんとすずかちゃんだった。すずかちゃんは先ほどの洋服から着替えて、いつもの服に戻っていた。

「ああ、アリサちゃんも来てたんだ」

 そういえば、今日はお茶会とか言っていたようなきがする。なら、僕が来たことで邪魔しちゃったわけか。申し訳ないことをしたものだ。

「一応、あんたも誘ったお茶会だったからね。それよりも、あんたの後ろにいるのは誰よ?」

 アリサちゃんが僕の後ろ……つまり、先ほどから着いてきているなのはちゃんを指差す。なのはちゃんはアリサちゃんの元気のよさに押されてか、僕の後ろに隠れるようにしていた。

「ああ、彼女は、僕の友達で、話していた一緒に探している高町なのはちゃん」

 なのはちゃんをアリサちゃんたちに紹介する。だが、一方的じゃ、不公平だろう。だから、僕はアリサちゃんたちもなのはちゃんに紹介する。

「そして、彼女たちは僕のとも―――親友のアリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃん」

 僕が途中で友達と言いかけたのだが、アリサちゃんの鋭い視線が飛んできたため、急遽言いなおした。どうやら、僕の言葉は間違っていなかったらしく、アリサちゃんは満足げに笑っていた。

「ここで会ったのも何かの縁だから、仲良くしてくれよ」

 なのはちゃんとアリサちゃん、すずかちゃんは異なるクラスだけど、別のクラスに友達がいてもおかしい話じゃないだろう。友達は多いほうが良いだろうし。もっとも、実はここにいる四人は一年生のときは同じクラスだったんだけどね。

 だが、僕の意に反して、アリサちゃんは何故かなのはちゃんに鋭い視線を向けていたし、なのはちゃんもそれに反抗するかのように敵愾心のようなものをむき出しにアリサちゃんを見ていた。

 え? なんで?

 僕にはよくわからない。ここで仲たがいをするほど、彼女たちはお互いによく知らないはずだ。それが、ここに来て急になぜ?

 だが、僕に答えを導き出せるほどの時間を彼女たちは与えてくれなかった。

「ショウ、今から帰るんでしょう? あたしも、帰るから一緒に帰りましょう」

 アリサちゃんの提案を受けて、考える。確かに時間的には夕方で、日が沈みそうだ。基本的にジュエルシード探しは日が沈むまで続けられる。日が沈むと恭也さんが僕を送ってくれるのだ。だが、今日は月村家まで出てきていることを考えると、今から街まで出ると日が暮れるだろう。つまり、今からジュエルシード探しはできない。

 ふむ、なら送ってもらったほうが、恭也さんたちの負担も軽くなるな。

 僕がそう考え、アリサちゃんの提案に乗せてもらうと思い、口を開こうとしたとき、不意に僕の袖が引かれた。振り返ってみると、なのはちゃんが不安げな顔で、まさかの提案をしてきた。

「ねえ、ショウくん、一緒に帰ろう?」

 え?

 僕の頭は混乱した。アリサちゃんとなのはちゃんに一緒に帰ろうと誘われた状態だ。僕にどうしろというのだろうか。ここでどちらかを選ぶと確実に角が立つ。なのはちゃんが言う前に決断すればよかったのだろうが。
 参った、とばかりに僕の心情を理解してくれているだろうすずかちゃんに視線を向けても、にっこり微笑まれるだけで、僕に救いの手を伸ばしてはくれなかった。

 ………一体どうしたらいいのだろうか?



  ◇  ◇  ◇



 ―――どうしてこうなった?

 僕が途方にくれてから数十分後。僕はアリサちゃんの車の中に乗り込んでいた。もちろん、アリサちゃんと一緒に帰るという選択をしたわけではない。僕に救いの女神が舞い降りたのは、少しはなれたところで見ていた忍さんだった。「なら、一緒にアリサちゃんの車で帰れば良いじゃない」という一言だ。

 アリサちゃんは少し渋っていたが、なんとか承諾してくれた。僕も、どちらを選ぶというわけでもなく、両者に角が立つわけでもなく万々歳だったわけだが、なぜか恭也さんが道案内をする、といって助手席に座り、後部座席が僕とアリサちゃんとなのはちゃんだけになってしまったところから歯車が狂ってしまったようだ。

 恭也さんがいれば、少しは抑止力になっただろうが、肝心の恭也さんは助手席だ。

 座り方の順番は奥からアリサちゃん、僕、なのはちゃんという僕を挟んだ形だ。僕としては、女の子二人が並んで座って雑談に花を咲かせてくれればよかったのだが。その目論見は脆くも無残に砕け散った。全然、そんな雰囲気ではない。
 むしろ、アリサちゃんの話が止まらない。僕に対してのみだ。もっとも、話の内容が、塾だったり、すずかちゃんの家でのことだったり、なのはちゃんを絡められないのが事実だ。僕もなのはちゃんに話を振ろうとするのだが、上手くいかない。

 なのはちゃんはなのはちゃんで、アリサちゃんの元気に押されたのか、俯いたままで話し出す雰囲気でもない。僕もアリサちゃんに話しかけられて、返事をしないわけにもいかないので、なのはちゃんだけに構えない。

 そんな感じの雰囲気が、僕の家にたどり着くまでの数十分間続くのだった。



  ◇  ◇  ◇



 僕は、アリサちゃんにお礼を言って、車を降りるとはぁ、とため息をついた。

「どうしたの?」

「う~ん、どうしてアリサちゃんがあんな行動を取ったのか分からなくて」

 できるだけ僕となのはちゃんを話させないようにしていたというか、距離を取らせようとしていたような感じに思えた。例えば、そういう風に仮定できたとすると、考えられる原因は一つだけ考えられる。

「拗ねちゃったかな」

 女の子とは特有の仲間意識みたいのがあるらしい。つまり、僕の親友と豪語してくれるアリサちゃんからしてみれば、なのはちゃんが原因で僕と遊べないと思えば、なのはちゃんはアリサちゃんにとって僕を取った敵になるわけだ。

 先週、一応、理由を話したから分かってくれると思っていたが、頭で理解しても心では理解できないというわけだろうか。ああ、そうかもしれない。アリサちゃんは同級生と比べて大人びているといっても、まだ子供だ。理性で感情を抑えろといっても無理だろう。

「はあ、月曜日からご機嫌とらないとな」

 そうじゃないと、次になのはちゃんと会った時も険悪な雰囲気になってしまうだろう。

「しかし、そうだとすると、今大丈夫かな?」

 僕は海鳴の夜空に浮かぶ星空を見上げながら、アリサちゃんの車で帰っているなのはちゃんとアリサちゃんの雰囲気を心配するのだった。




 
 

 
後書き

 表から想像できる裏は、どんな感じでしょうか? 次回のメインは車中のアリサとなのはがメイン……かな? あと夜の一族も。

 あと、夜の一族等とらいあんぐるハート3の設定が垣間見えますが、補足説明は必要ですかね?
 御神流については少し書きましたが。まさかググレとはいえないので。必要なら感想と一言くれると次回書きます。 
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