スーパーヒーロー戦記
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第32話 ウルトラセブン救出作戦
「そうか、ジュエルシードを見つけてくれたのか!」
ウルトラ警備隊に戻ってきたフェイトは直ちに隊員達に封印したジュエルシードを見せる。それを知った隊員達は皆歓喜の声に震えた。これでセブンを助けられる。
誰もがそう思っていたのだ。
「ところで、その隣の少年は誰だい?」
「始めまして。僕はクロノ・ハラオウンと言います。時空管理局執務官をやっています」
「ハラオウン? もしかして君はリンディ艦長の…」
「母さんをご存知なんですか?」
クロノが尋ねようとした時、丁度目の前のモニターに画像が映り出した。噂をすれば彼女であった。
「失礼します。地球を回っていたレーダーについてですが…はっ!」
「か、母さん…」
モニター越しとは言え母と子が再会した瞬間だった。
「クロノ…貴方一体何処に居たの? 半年近くも連絡を寄越さないで?」
「すみません。色々と事情がありまして…連絡が遅れた事は謝罪します。それよりも一体どうしたんですか?」
「そ、そうだったわ…ジュエルシードが全て封印された事により、徐々にですがレーダーが回復しだしているんです。恐らく1週間後にはレーダーは完全に回復する筈です。そして、転移魔法も使用出来る筈です」
「そうか、こちらもジュエルシードを確保した。今からウルトラセブンを救出に向うつもりだ」
皆の顔に笑顔が戻って来る。希望が膨らんできたのだ。セブンを助けられる。これで戦力が戻る事は間違いない。
「すぐに行きましょう! セブンが処刑されるまで後1時間しかないんですよ!」
時刻は既に午前4時を指していた。日の出まで後1時間しかない。一刻の猶予もなかった。
「ところで、そのセブンとか言うのは何処に居るんですか?」
「今此処で磔にされている。これを見てくれ」
そう言ってセブンが磔にされている映像をクロノに見せた。それを見た時、彼の眉がピクリと動いた。
「ちょっと待って下さい! 此処に行くのは時間のロスになるだけです!」
「どう言う意味だい? セブンを助ける為に行くのが無駄だって言うのかい?」
「無駄ですよ。何しろこれはセブンじゃありません」
クロノから放たれた言葉は意外であった。モニターに映っているのがセブンじゃない。それは一体どう言う事なのだろうか。
「正確に言えばこれは本物を投影して映し出した偽者です。だから此処に行った所で時間の無駄になるだけです。わざわざ敵の罠に落ちるような物ですよ」
「もしそうだとしても、何処に本物のセブンが居るんだ?」
「皆さんが聞いたと言うセブンの通信、僕にも見せて貰えませんか?」
言われるがままにクロノに以前セブンが送った信号を見せた。その際途中で妨害電波が発生してしまい全ては聞けず仕舞いではあったが肝心な部分は聞けたのだ。
通信を聞き終えた時、クロノはニヤリと笑みを浮かべた。
「フフッ、完璧主義のガッツ星人にしては以外な落ち度をおとしたものだ。この妨害電波の発信源を捕らえれば奴等の居場所が分かります。そして、其処にきっとセブンが居る!」
誰もが唖然としていた。とても14歳位の少年が言う台詞じゃないからだ。
「凄いねクロノ君、それもあの日本一の私立探偵って人が教えてくれた事なの?」
「まぁ、そう言う事になるかな? 何せあの人の教え方はかなりスパルタ入ってたし」
「それって、どれ位?」
「執務官試験の方が数段楽だったよ」
遠目を見ながら呟くクロノを見てフェイトは青ざめた。其処まで厳しい事をさせられていたのかと思ったからだ。
「よし、急ぎセブンの元へ向おう。ぐずぐずしてはいられない! 良いか、何としてもこれを成功させるんだ! この作戦には人類の未来が掛かっているんだ!」
キリヤマ隊長の激が飛ぶ。それを聞いたその場に居た一同の顔が引き締まる。失敗は許されない。今手持ちのジュエルシードはたったの一個。恐らくそれで作れるエネルギーはおよそ1回分。即ち外せば全てが終わるという事に他ならない。
失敗は許されないのだ。
フェイトはふと待機状態のバルディッシュを握り締めた。この中に一つだけジュエルシードが封印されている。これを使えばセブンのエネルギーであるマグネリウムを精製する事が出来る筈だ。後はそれをセブンのビームランプに照射すればセブンは再び動き出す事が出来るのだ。
(待ってて下さい、ダンさん。今助けに行きますから)
呟きながら、モニター越しに何時までも映る磔にされたセブンを見た。かつてフェイトはダンに救われた。あの時ダンが居なければ自分は今頃立ち直れなかった筈だ。
今度は自分がダンを助ける番だ。彼を見殺しには出来ない。何としても救い出さなければならない。
***
東の空から徐々に太陽が昇り始めた。夜明けである。それを合図に数機の円盤が飛来してきた。その真下には磔にされて身動きの取れないウルトラセブンが居た。
【時間だ、これよりウルトラセブンの処刑を執り行う!】
ガッツ星人の号令と共に数機の円盤が攻撃を開始しようとする。だが、その刹那、何者かの攻撃が行われた。
【何だ?】
【人間共が妨害に来たみたいだぞ!】
それは、ウルトラ警備隊のウルトラホーク1号である。セブン処刑を妨害する為にウルトラ警備隊が全力を尽くして立ちはだかっているのだ。
「良いかフルハシ! 我々の目的はテスタロッサがセブンにエネルギーを与えるまでの間奴等を近づけない事だ。一機も近づけるな!」
「はい、鼠一匹通しません!」
そう言い、フルハシがホーク1号を操縦する。突然の乱入者に場は騒然となった。ガッツ星人達もこの襲撃は予想していなかった。その為、ホーク1号ばかりに気を取られていた為にセブンに近づく人間達には全く気づかないでいた。
「よし、今の内に射程圏内まで近づこう」
「うん!」
フェイト、アルフ、クロノの三人がゆっくりとセブンに近づいていく。飛んで行けば早いのだがそうすればガッツ星人達にも気づかれてしまう。そうなればおしまいだ。
(こう言うのって、寧ろなのはの方が得意かも。私格闘戦が主だったからあんまり射撃は練習してなかったし…)
この時、フェイトは自分の得意分野を嘆いた。正直精密射撃や砲撃戦は寧ろなのはの得意分野だ。そして自分の得意なのは一撃離脱の突撃戦法、即ち格闘戦だった。一応射撃が出来ない訳ではないが錬度が低い。
その上今度の的はセブンのビームランプと言う極めて小さな物になる。外せば全てが終わりを迎える。一発勝負だ。
「射程圏内ギリギリまで僕達が君を守り通す。撃てる距離に入ったらランプ目掛けてトリガーを引け!」
「私達の事は心配しなくて良いからねフェイト。フェイトは自分の事だけに集中して!」
「有難う、アルフ、クロノ…」
二人に礼を言い、フェイトは走る。丁度上空では地上を走るフェイト達を見つけたのか円盤からの集中攻撃が降り注ぐ。しかしそれをクロノとアルフの二人が必死に防ぐ。射程圏内まで後5m。
【セブンを復活などさせるか!】
だが、そんなフェイトの前に突如ガッツ星人が姿を現す。もう目前に迫ってきたのに。今此処で無駄にエネルギーを使う訳にはいかない。
「其処を退けぇ!」
「フェイトの邪魔すんなぁ!」
そのガッツ星人を退かす為にクロノとアルフの二人がぶつかる。
【おのれ、地球人が!】
「フェイト、行けぇ! セブンを救いに」
「此処は私達に任せて…早く!」
「うん!」
全てを賭けてフェイトが上空へと舞い上がる。撃ち落される危険性も孕んでいたが今はそんな事言っていられない。全てはウルトラセブンを救う為に。
「バルディッシュ! マグネリウムエネルギー照射」
【準備完了。何時でも行けます】
デバイスから音声が発せられる。準備は出来た。後は命中させるだけだ。デバイスの切っ先をウルトラセブンのビームランプに向けて構える。切っ先にマグネリウムエネルギーが収束していく。
「ダンさん……今、助けます。ファイアァ!」
バルディッシュの先端からスパークしたエネルギーが放たれる。その閃光は曲がる事なく真っ直ぐにセブンのビームランプへと注ぎ込まれていく。エネルギーが全身に行き渡っていく。セブンの両目とランプに光が灯り全身に力がわきあがってくるのが見て取れる。
「隊長! セブンが…」
「あぁ、成功だ!」
皆の目にも明らかに映った。セブンが十字架を破壊し、再び立ち上がった。そして、ガッツ星人の円盤を一つ残らず破壊していく。
【ば、馬鹿な…我々の作戦は完璧だった筈…何故だ?】
「僕達人間を舐めたからだ。ガッツ星人」
【おのれぇぇぇ、人間風情がぁぁぁぁ!】
完全に怒り狂ったガッツ星人がやたらめったらに光線を放つ。それらをクロノは片手で振り払いガッツ星人の目前に立つ。
【ヒッ!】
「往生際が悪い。侵略者ならそれらしく覚悟を決めろ!」
驚き及び腰になったガッツ星人に向かいクロノのバインドが拘束する。雁字搦めにされたガッツ星人がもがく。
【おのれ、こ、これをどうにかしろ! 私をどうするつもりだ!】
「例え侵略者と言えども命は一つしかない! お前には法廷で裁きを受けて貰う!」
「わ、流石執務官!」
アルフが呟く。普通異星人に裁きなどをする人間など居ない。が、其処は執務官らしい発言でもある。だが、その直後、背後からガッツ星人を何かが貫いた。それは人間の手であった。背中から突き抜けた手がガッツ星人の腹を突き破って出てきたのだ。
【ガァッ、き、貴様等ぁ…】
「余計な事を喋られては困る。死人に口なし……と、言うからな」
背後に居た男がそう言い手を引き抜く。それと同時にドウッと地面に倒れ付すガッツ星人。誰もが息を呑んでそれを見ていた。其処に居たのは薄汚れた青いスーツの男であった。
「ハハハハハッ、所詮ガッツ星人如きはこの程度が限界よ。だが良い仕事をした。後は我々が頂くとしよう」
「貴方は、一体何者なんですか?」
「フン、どうやらデビルサターンの言っていたのとは違う魔導師のようだな。まぁ良い、俺の名はバグ。ギャンドラーにその人ありと言われた男だ」
ギャンドラー?
フェイトには耳新しい名前であった。恐らくもう一人と言うからにはなのはが戦った事のある敵なのだろう。しかし、あの残忍性から見るに相当な強敵と思われる。
「要するに敵って事だよね。だったら叩きのめせば良いだけの話じゃん!」
「ふん、無知な奴程面倒な奴は居ないな。俺様に挑む前に其処に転がってるゴミを見てから考えるんだな」
「え!?」
皆が倒れたガッツ星人を見た。其処に居たのは既にドロドロに溶けてゲル状となっていたガッツ星人の姿であった。それを見た三人は青ざめる。そんな中、バグと名乗った男は不気味に笑っていた。
「思い知ったか? これぞ天空宙心剣・毒手刀だ! 貴様等如き掠っただけで骨も残さず溶けてこうなるだろう」
恐ろしい武器であった。異星人ですら簡単に溶かしてしまう強力な毒を手に纏っているのだ。下手したら結界ですら安易に溶かしてしまう危険性すらある。しかもそれだけではなかった。
「やいやい、新参者の癖して良いとこ取るなんざえぐい真似するんやないわぁ!」
「デビルサターンの言う通りだよ! あたいらを置いて出てくるなんざぁ礼儀を知らないとはこの事だぁねぇ!」
更に同じくギャンドラーのデビルサターンとディオンドラ、更には妖兵コマンダー達の姿があった。
「うわっ、何かぞろぞろと変な奴等が出てきた!」
「阿呆! 何が変な奴等や! 以前ワイ等と戦った…ん?よぅ見ると其処におんのは以前戦った白い子とはちゃうみたいやなぁ?」
「白い子? もしかして、なのはと戦った事があるの?」
フェイトが尋ねる。その問いを受けたデビルサターンは笑みを浮かべる。
「お~お~、あの嬢ちゃんそう言う名前なんやなぁ。如何にも貧弱そうで弱そうな名前やわぁ」
「はん、どうでも良いね。それより其処のガキ! お前が持ってるジュエルシードをこっちに渡しな。でないと命の保障はないよ」
「嫌です。貴方達には絶対に渡しません!」
頑としてそれを拒むフェイト。当然の回答であった。こんな奴等にジュエルシードを渡す訳にはいかない。そうなればそれこそとんでもない事態を生む事となる。
「はん、どうやら状況がまだ分かってないみたいだねぇ。これだけの数を相手にそんな大口かませるたぁ余程の命知らずと見えるねぇ」
「それとも来たのはわいらだけと思っとるんとちゃうかぁ? こちとら更に強力な援軍もおるんやでぇ!」
デビルサターンがそう言う。すると背後から赤い何かが姿を現した。全身が赤い体をしており双方に嘴を付けた怪獣であった。
「か、怪獣!」
「その通りや。あれこそゴース星人から拝借させてもろた双頭怪獣パンドンやでぇ! さてさてどうするんやぁ? 今の光の巨人に戦える力はあるんやろうかなぁ?」
笑いながらデビルサターンは言う。確かに復活したてのセブンではあの怪獣と戦うのは無理がありそうだ。それにこれだけの数のギャンドラーを相手にしなければならない。形勢はかなり悪かった。
「フェイト、此処は僕達に任せて君はセブンの援護に行ってくれ!」
「え? でも…」
「私達の心配なら要らないって。こんな奴等に負けないよ」
クロノとアルフが言う。だが、その発言が明らかに強がりだとは見て取れた。三人でも厳しいのに二人でどうにか出来る筈がない。だが、それはセブンも同じだった。今目の前では新たに現れたパンドンを相手にセブンが苦戦している。あの怪獣は相等強い。このままではセブンが倒されてしまう。今光の巨人を失う訳にはいかないのだ。
となればとるべき行動は決まった。
「すぐに戻るから…無事で居てね」
「分かったよ」
一言残し、フェイトはセブンの援護に向った。残ったクロノとアルフの二人はギャンドラーと向き合う。
「ハハハッ、友情ごっことは見せ付けてくれるじゃないのさ。私等を相手に無事で済むと思ってるのかい?」
「そんなに死にたいのなら貴様等から殺してやる!」
バグの言葉を皮切りにギャンドラーの大群が今や押し寄せようとしてくる。正直言って二人だけでこの現状を打破するのは無理がある。
だが、負ける訳にはいかない。フェイトに無事に居ると約束したのだ。むざむざ倒れる訳にはいかないのだ。
その時だった…
「待てぇぇい!」
突如天空を切り裂くかの様な怒声が聞こえてきた。その声の威圧感に皆の体が止まる。そして、声の主を探す。
「こ、この声は!」
「あかん、ワイ等が悪さすると大概奴が来るんや」
「ちっ、折角良い所だったってのにさぁ!」
バグ達がそれぞれ不満そうな愚痴を漏らしている。恐らくあの声の主は彼等にとって相等嫌な奴なのだろう。しかし、その声はアルフやクロノも初めて聞く声だった。
「今の声は一体?」
「ってか、何処に居るんだいその声の主は?」
誰もが声の主を探し回る。その声の主はありえない場所に居た。それはセブンの立て掛けられていた岸壁の天辺であった。其処に鎧を纏った青年が見下ろしている。
「まぁた貴様かい! 毎度毎度良い所で邪魔しよってからにぃ!」
「当然だ! 貴様等悪党を黙って見過ごす事はしない! この俺が居る限り、悪は栄えない!」
「フン、大口を叩くなよロム・ストール!」
バグが天辺に居るロムを見上げて叫ぶ。するとロムの顔つきが険しくなった。
「貴様、バグ! 父キライの教えを忘れたのか?」
「ハハハッ、そんな物とうの昔に忘れたわ! 天空宙心拳、何が正義の拳法だ! 俺はこの力を使いギャンドラーの幹部にまで上り詰めてやる!」
「語るに落ちたな、バグ! ならば、天空宙心拳継承者の務め、貴様は俺の手で葬る!」
言葉を発し、ロムは舞い降りた。ギャンドラー達を前にロムは構える。その間、アルフとクロノの二人は完全に置いてけぼりであった。
「き、君は味方…なのか?」
「勿論だ、俺は正義の為に戦う。悪を滅ぼす為に!」
「あんた、言ってて恥ずかしくないのかぃ?」
「勿論だ。俺は俺の道を行っている。恥じる事はない!」
アルフの問いにロムは迷う事なく言い放った。それを聞いたアルフは正直頭が痛くなる思いがした。此処まできっぱりと言い放つ男が凄いと思えたのも事実だ。
「ハンッ、たかだか一人増えた位で調子に乗るんやないわ!」
「ふっ、正義の為に戦うのは俺一人ではない!」
ロムの言葉の後、辺りで爆発が起こった。ギャンドラーのコマンダー達が吹き飛んでいく。何事かと爆発のあった場所を見る。其処には更に二人の仮面ライダーの姿があった。
「誤算だったな、俺達を忘れるとは」
「真打登場だぜぇ! でかくならないで出てきたのが運の尽きって奴だぜ!」
仮面ライダー達の登場によりギャンドラーは事実上挟み撃ちに会った。しかし数ではこちらがまだ勝っている。
「所詮数に頼る悪党に勝利はない! それを貴様等に教えてやるぞ!」
「ねぇ、クロノ…何か私達置いてけぼりになってない?」
「言わない方が良いと思う。今はそれより戦闘に集中しよう」
そうは言いながらも、内心クロノ自身も何処か自分達の影が薄くなっているのを感じていた。しかし今はそんな事を言ってる場合じゃないのは事実。何よりも今は目の前の敵を倒す事に集中すべきだからだ。
***
復活したばかりのセブンは突如現れたパンドンに苦戦を強いられていた。明らかにこの怪獣は今までの怪獣よりも遥かに強い。
桁外れのパワーを持っていたのだ。しかもそれだけではなかった。
【か、体に力が入らない…】
セブンの体が異常を発していたのだ。地球で長い間戦い続けてきた為にセブンの体は知らぬ間に傷ついていたのだ。それが更にセブンを苦しめる要因となっていた。
「ダンさん!」
其処へフェイトが駆けつける。しかし目の前に居るのは自分よりも遥かに巨大な怪獣であった。正直魔導師で何処まで戦えるか全く予想できない。だが、戦わねばならない。今戦えるのはセブンと自分しか居ないのだから。
「私に…なのはみたいな事が出来るかどうか分からないけど…」
フェイトは思い出していた。現になのはは何度か怪獣と闘い、そして聞いた話によれば実際に幾体も怪獣を葬っていると言うのだ。
初めて会った頃は魔法の使い方も戦い方も素人同然であった筈の子が何時しか自分より強大な怪獣を倒せる程までに強くなっている。だが、そんな事が果たして自分に出来るのか?
「バルディッシュ、ちょっと無茶するけど、付き合ってくれる?」
『無論です。貴方は私のマスターです』
「有難う。バルディッシュ」
笑みを浮かべて、フェイトはバルディッシュを強く握り締める。あの怪獣を仕留めるには下手に数を撃っても意味がない。強力な魔力砲で一発で仕留めるしかない。だが、今のフェイトにそんな強力な魔力砲はない。少なくとも、今までまでは…
(まだ実戦で使った事がないけど…)
内心不安が残るものの、フェイトは撃つ決心を固めた。この怪獣を倒す。それしかセブンを…ダンを救う手立てはないのだ。
既にセブンは戦うだけのエネルギーが残っておらずまともに立ち上がる事も出来ない。今の状態であの怪獣と戦うのは無理だ。やるしかない。
「まずは怪獣の動きを止める!」
フェイトがパンドンに対しバインドを仕掛けた。激しい雷撃のバインド。ライトニングバインドである。
が、相手の質量が大きすぎる。
パンドンがそれを易々と破ろうとしている。フェイトの顔に苦悶の表情が浮かび上がる。
その時、その上に更にバインドのような物が被せられた。見ればそれはセブンが放った物であった。
フェイトはセブンの顔を見た。セブンは無言でフェイトに語りかけた。
それは「私の変わりに頼む」と言っているようでもあた。
フェイトは頷き、怪獣に向かいデバイスの切っ先を向ける。
「ダンさん、見てて下さい。なのは、私に力を貸して……フォトンランサー・ファランクスシフト…ファイアァ!」
デバイスの切っ先から黄金色の強大な魔力が放出された。
それは動きを封じられ、無防備だったパンドンに全弾命中していく。凄まじい衝撃と爆煙が辺りに立ち込める。
フェイトは自身の魔力が尽きる限界までトリガーを引き続けた。
この状況では怪獣の生死を見極める事は出来ない。
だが、確実に仕留めなければならない。
もしこれで倒せなかったら。もう対抗する手段がない。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
やがて、魔力が尽き掛けた。
フェイトはトリガーを指から離し、ゆっくりと地上に降りた。
目の前では未だに黒い煙が上がっている。その中からゆらりと黒い影が現れた。パンドンであった。
まだ生きていたのだ。恐ろしい相手である。フェイトがまたバルディッシュを構えようとするが、既に魔力は限界まで来ている。もう一発も放てない。
だが、そのパンドンは数歩歩いた後、地面に倒れてしまった。
どうやらギリギリで倒せたようだ。
ホッとしたフェイトは地面に倒れる。
怪獣と戦った事はあっても仕留めた事はなかった為に緊張の糸が切れたのだろう。そして、セブンを見上げた。
戦闘を終えたセブンもまた、変身を解き、ダンに戻る。
だが、ダンはその直後頭を抑えて倒れてしまった。
「だ、ダンさん!」
倒れたダンに向かいフラフラな足取りでフェイトが向った。ダンは額から血を流しており酷く衰弱していた。そっと彼の額に手を置く。凄まじい熱がフェイトの手に伝わった。
(熱っ!)
見れば触った手は赤く焼けていた。
軽い火傷をした際の跡だ。だが、普通人の額を触れただけで火傷などする筈がない。
それは、明らかにダンの、セブンの体が異常事態である事を告げるには充分過ぎることでもあった。
***
ギャンドラー達は殆どの戦力を倒されてしまった。残っていたのは幹部だけである。
「ギャンドラー! 今日が貴様等の最後だ!」
「ちっ、此処は一旦引き下がった方が良さそうだねぇ」
「しゃぁないなぁ、覚えとれやぁロム・ストール! 次は絶対にワイ等が勝つからなぁ!」
「待て! もう逃がさん!」
逃げ去って行くギャンドラーを追ってロムもまた戦場から姿を消す。その光景を見ている四人。
「二人共、無事だったか?」
「いやぁ、助かったよ、ってかあんたら今まで何してたんだい?」
「ま、こっちにも色々とあってな。それより、なのはちゃんが目を覚ましたよ」
「本当!?」
フェイトにとってそれは嬉しい知らせだった。
どうやらダブルライダーは防衛力の無い科学特捜隊の護衛を行っていたようだ。
そして、二人のお陰でなのはが目を覚ました事をフェイトはいち早く知る事が出来た。
だが、その時、上空から何かが放たれる。それに気づいたのはクロノ只一人であった。
「危ない!」
咄嗟にクロノは三人を庇う形でクロノが飛ぶ。
彼の目の前にやってきたのはシャボン玉の様な丸い透明な物だった。それがクロノに当たるとその物体はクロノを包み込むと虚空の彼方へと消え去ってしまった。
「クロノ!」
「くそっ! 俺とした事が…」
本郷は完全に油断していた自分を悔やんだ。
クロノが皆を救う為に異星人に捕まってしまったのだ。
それは、かなりの痛手でもあった。
そして、これこそ全人類を巻き込む史上最大の侵略の始まりを意味しているのであった。
つづく
後書き
次回予告
地球を侵略しようとゴース星人は全人類を人質に取る地底ミサイル作戦を開始した。
しかし、これに挑む防衛力は既に残されていない。
全ては守護者達の手に委ねられる事となった。
次回「史上最大の侵略」お楽しみに
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