スーパーヒーロー戦記
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第31話 少女の想い、少年の決意
フェイトとアルフの居る場所は広大な海の上であった。
一面青々と広がる海と空しか其処には存在しない。
地球の約七割が海で出来ている。
そしてその海の何処かにジュエルシードがあるとするならば探すのは至難の業だ。しかし、それも今までの話だ。
「此処に残ったジュエルシード全てがあるんだ」
此処に来る前、フェイトはイデ隊員が完成させたジュエルシード探索装置を使用してみた。
そして、残り6つのジュエルシードが全て此処にあると言う事を知ったのだ。
しかし、その直後に襲撃してきた恐竜帝国の対応の為ウルトラ警備隊が総動員している最中な為、フェイトはアルフと共に単独でこの地点にやってきたのである。
たった一つでなら難なく封印出来るが、数が六つとなるとそうはいかない。明らかに戦力が不足している。
「行くよ、アルフ!」
「本当に大丈夫なのかい? フェイト」
心配そうにアルフが見守る。
事実上言ってみれば無理だ。
幼い少女で、しかも連戦で疲れきってる状態の時に6つものジュエルシードの封印など出来る筈がない。
だが、やらなければならない。
今ジュエルシードを封印出来るのは自分しか居ないのだから。
「それじゃ、始めるよ」
アルフの了承を得たフェイトが詠唱を始めた。
足元には巨大な魔方陣が展開し、魔力が辺りに放出されていく。その魔方陣に応じて目の前の海面が歪に変化していく。
その大きさがジュエルシードの数に呼応するかの様に巨大になっていく。そして、それはやがて巨大な渦を巻き、それが上空へと舞い上がり巨大な竜巻が複数現れ出した。
***
「!!!」
「ん、どうした?」
何かを感じ取ったのかクロノが虚空の空を見上げる。それを隣で焚き火を見ながら魚を齧っていた早川が尋ねる。
「今、何処かで巨大な魔力を感じたんです」
「あ~、管理局執務官のお得意の魔力サーチって奴ね。俺は生憎そんな機能ないからわかんないけど」
そう言いながら魚を黙々と食べ続ける。
魔力を体内に持っているクロノならではの魔力サーチらしい。
流石の早川も魔力がなければサーチが出来る筈がない。
「しっかしこのどんよりした空どうにかならんかねぇ。これじゃ折角の俺の代えのパンツが乾かないじゃねぇか」
「早川さん、パンツそれしか持ってないんですね」
クロノの見える所、即ち早川の後ろには木々同士を紐で結んで作った簡素な洗濯物干しにぶら下げられてる一枚のトランクスが見えた。
それは勿論早川の代えのパンツである。しかも一枚きり。
「んで、お前さんとしては黙っている訳にはいかないんじゃねぇのか?」
「……はい」
「なら、行ってくれば良い。男だったら前進む事だけ考えてりゃ良いのさ。他は後回しで良い」
食い尽くした魚の骨を草むらの中に捨て去り、もう一本の魚に手を付ける。それを齧る前にちらりとクロノを見た。
その目は真剣その物であった。
「お前には有る程度は俺のいろはを叩き込んだ。それに、そろそろ俺もソロで活動したかったところだ。そろそろお袋さんに顔を見せてやれ」
「早川さん」
「親が居る内に目一杯親孝行しておけ。死んじまったら後悔してももう戻れないんだからよ」
「……はい!」
固い決意の元、クロノは立ち上がる。
木に引っ掛けてあったデバイスを手に取り早川を見る。
「有難う御座います。早川さん」
「おぅ、気をつけて行って来いよ」
ぶっきらぼうに手をヒラヒラさせて言う早川を見て苦笑いを浮かべながらもクロノは飛び去って行った。
そんなクロノの背中を早川は何処か嬉しそうに眺めていた。
「良い目つきになったじゃねぇか……さてと、アイツも居なくなった事だし、残りの魚全部頂いちまおうっと」
そう言ってみてる早川の前にはまだ魚が5本串に刺さっていた。
***
フェイトの目の前には起動したジュエルシードが起こした巨大な竜巻が発生していた。
天空を切り裂くほどの巨大な大竜巻が六つも起きていたのだ。それらを全て封じなければこの巨大竜巻は町に向ってしまう。
そうなれば大惨事は間違いない。
「私が……私があの子の、なのはの分も頑張らないと!」
必死に大竜巻と戦うフェイト。だが、力の差が違い過ぎる。その為フェイトが放つ魔弾も全く歯が立たない。アルフも援護しているが焼け石に水であった。
「やっぱり無理だよフェイト! このままじゃフェイトの体がもたない…」
「でも、ジュエルシードが無ければダンさんを助けられない! だから、だから…」
フェイトは強い決意の元竜巻に挑む。バルディッシュの刃を展開させて一つの大竜巻を叩く。
だが、巨大な質量を誇る竜巻を前にフェイトの軽い体は軽々と吹き飛ばされてしまった。
「あうっ!」
「あぁ、フェイト!」
アルフが助けに向おうとする。が、そんな彼女の前に巨大な竜巻が立ち塞がる。
このままでは弱ったフェイトの体は海面に激突してしまう。
正にその時であった。突如青い閃光がやってきてフェイトを抱え上げる。
閃光が無くなり、其処に居たのは一人の少年であった。
「間に合ったみたいだね」
「え? ……き、君は? 君も魔導師?……」
「まぁ、そうなるね。自己紹介は後回しにしよう。まずは…」
少年は目の前にある6つの竜巻を見る。どれも巨大であり激しくうねりをあげている。
まともに巻き込まれれば人間の五体などあっと言う間にバラバラにされてしまう。
「あの竜巻をどうにかしないといけないな」
「でも、どうやって?」
「なぁに、簡単な事さ。竜巻ってのは外は強いが中は脆い。台風の目に入ってしまえばこっちの物だ」
少年が推測する。それをフェイトは黙って聞いていた。
勿論、思念通話でアルフもそれを聞いていたのであり。
「あんた鋭いじゃん! 何者だい?」
「只の執務官さ。最も、日本一の探偵の助手もしてるけど」
少年の言い分に二人は首を傾げていた。
だが、少なくとも現状で魔導師が戦列に、しかも執務官クラスが来てくれたのは有り難い。
「さてと、それじゃまずは下準備をしないといけないな」
少年はそう言って台風の回りを飛び回る。
そして、台風に向かい魔力弾を放った。普通ならそんな物食らった所で台風自体何の効果もない。
だが、少年が放った魔力弾の当たった台風は何と少しずつ移動を開始したのだ。
移動した竜巻はやがて一つに合さり巨大な竜巻となってしまった。
その光景にアルフとフェイトはギョッとする。
只でさえ困難な相手が合体し更に困難になってしまったのだ。
こうなってはもう手がつけられない。
「ちょっと、あんた! 一体何してんのさぁ!」
「いいや、これで良い。こうすれば纏めて一気に封印出来る」
「な、成る程!」
納得したのかフェイトが手を叩く。しかし本当にそれで良いのかと内心そう思うアルフだったりする。
「だけど今の僕に封印は出来ない。其処で君に協力してほしい」
「良いけど、その為には台風の目に行かなきゃいけないよ。でも、私じゃどうしようもない…」
「だから僕が来た。僕が結界を張って台風の目まで引っ張っていく。其処についたら君の出番だ。良いね?」
「うん!」
フェイトは頷いた。となれば後は行動するだけだ。時間を掛ければそれだけあの台風が厄介な代物になってしまう。そうなる前に片付ける必要があるのだ。
「よし、僕にしっかり捕まっててくれよ。かなりかっ飛ばすから」
「大丈夫。速度には自信あるかr…」
言い終わる途中でクロノはフェイトを抱えて竜巻に突進していった。
物凄い速度だった。恐らくフェイト以上の。
「あぐぐぅぅぅ!」
「黙ってないと舌噛むよ。此処からが本当にキツイからね」
台風に向って突っ込んでいく。そして台風に激突する直前、少年が自身の回りに結界を纏う。青い結界だった。
それを纏った二人が台風の中に突っ込んでいく。結界を張っているとは言えその中に居る二人に襲い掛かる衝撃は凄まじかった。
「つ、潰れるぅぅっぅ!」
「もう少し…もう少しで目に入るから…」
実際に言えば少年の方が遥かに辛い。
何せ結界を張りながら高速で移動するのだ。並大抵の事じゃ出来ない芸当である。
やがて、凄まじい風圧が体から消え去った。
台風を抜けたのだ。目の前には台風が回っている。どうやら此処はお目当ての台風の目のようだ。
「到着! 目的の品は真下にある。後は頼むね」
「うん、任せて!」
少年から離れてフェイトがバルディッシュを手に6つのジュエルシードへ向う。
此処は竜巻の目。
即ち竜巻の影響は受けない。今のジュエルシードは裸同然である。
「まずはあれを無力化する。ハーケンセイバー!」
金色の刃を放ちジュエルシードの纏っていた結界を破壊する。
一撃を受け破壊された結界と同時に周囲を回っていた竜巻も姿を消した。どうやら大人しくなったようだ。後は封印するだけだ。
フェイトが6つのジュエルシードを封印しようと近づく。
だが!
「危ない!」
咄嗟に少年がフェイトを抱えてジュエルシードから離れる。
フェイト達が異議を唱えようとした直後、そのジュエルシードに向かい紫色の極太の雷撃が放たれた。
もしそれが直撃していたら例えバリアジャケットを纏っていても危険だった。
「今のは…母さんの!」
「危なかった。あれをまともに食らってたら今頃黒焦げ魔導師の一丁上がりだったからねぇ」
「そ、それじゃ…ジュエルシードは!?」
フェイトが見た際に其処には6つあったジュエルシードは何処にも無かった。フェイトの母プレシアがジュエルシードを奪う為に行ったのだろう。
だが、知っての通り地球全体を謎の結界が張られている。それを突き破るのは大魔導師であっても苦労する。
恐らくプレシアは焦ってのことだったのだろう。
「そんな…折角見つけたのに…これじゃぁ、もうダンさんは…」
「フェイト…」
意気消沈するフェイトに対し何と言えばいいのか言葉が見つからないアルフ。
だが、其処へ―――
「あのぉ…そのジュエルシードって、これの事かい?」
少年の手には一つだけジュエルシードが持たれていた。それを見た二人の目が点になる。
まるで、「何で持ってるの?」的な目であった。
「いやぁ、君をあの雷撃から遠ざける際に一個だけ失敬しておいたんだ」
「流石執務官! 早業だねぇ」
「嫌、君は何か誤解してるみたいだけど、別に執務官だからってこれが出来る訳じゃないよ。僕の場合は只教えてくれた人がちょっと変わってる人でね……」
***
「へぇっくしぃ!」
その頃、パンツ一枚になってた早川が盛大にくしゃみを発する。
「あ~、やっぱまだ生乾きだったか。もうちょっと干しておくべきだったかなぁ~」
焚き火の前で乾いていると思って履いてみたものの、くしゃみを盛大にした為にこれが生乾きと思ってしまう早川。
しかしその真相が助手の愚痴によるものだとは露程も思ってなかったようだが。
***
「有難う! 貴方のお陰で、ウルトラセブンを助けられる!」
フェイトが目を潤ませて少年の手を掴む。その際に動揺したのか顔を真っ赤にしている。
「い、いいい嫌! 僕は只執務官としてととと当然の事をしたまでのこここ事でありましてぇ……」
「あんた、もしかして超絶的な初心って奴?」
どうやら図星なようである。
「と、ととととにかく! これが必要なんだろ? 早くこれを…」
「うん」
フェイトにジュエルシードを渡すと少年は急ぎフェイトから離れる。
「やったよアルフ! これでダンs…セブンを救えるよ!」
「よ、良かったねぇフェイト! 早くウルトラ警備隊に戻ろうよ」
「うん…あ!」
フェイトは何かを思い出したかの様に少年の方を向く。
「有難う執務官さん。助かりました」
「まぁ大惨事にならなくて良かったよ。何せ此処は、父さんの生まれた星だからね」
「え?」
少年の言葉に二人は「え!?」と言う顔をした。
「貴方、もしかして名前は?」
「僕? 僕はクロノ。クロノ・ハラオウン。今は地球を調査中なんだ。それが何か?」
「アルフ! この人って!」
「うん、うん! きっとそうだよ!!」
目の前で二人だけで騒ぐ二人。それにクロノは首を傾げていた。
「ど、どうしたんだい二人共?」
「クロノ君…じゃなくて、クロノさん、私達と一緒に来て下さい!」
「い、良いけど…どうしたの急に?」
二人の反応に戸惑いながらもクロノは付いて行く事にした。
高町なのはが一時戦線から離脱してしまったが、その変わりに心強い助っ人がやってきてくれた。
その少年は日本一の私立探偵の助手を務め、更に時空管理局執務官も行っているかなり不運な相が見える少年であった。
「僕、やっぱり不幸なのかなぁ?」
そうなんじゃない?
つづく
後書き
次回予告
たった一つジュエルシードを手に入れる事が出来た。
これでウルトラセブンを助ける事が出来る。
チャンスは1回きり。失敗は許されない。
次回「ウルトラセブン救出作戦」お楽しみに
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