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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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初陣

華琳と話を終えたその夜。
明日から色々と仕事を任されるから、早めに寝ようと思った時だった。

「あ、あの~。」

聞き慣れない声が扉越しから聞こえた。
寝台に寝転がっていた俺は起き上がって、扉を開ける。
すぐ傍には曹仁が立っていた。

「す、すす、少し、だけお、お話をしてもいいですか?」

噛み噛みになりながらも申し訳なさそうな顔をして言う。

「俺は問題ない。
 立ち話もなんだし、中に入る?」

「は、はいいぃぃ!!」

緊張しているのか、ぎこちない歩き方で部屋に入って行く。
もしかしたら曹仁はかなり人見知りかもしれない。
それも雛里クラス。
そんな彼女がわざわざ俺の部屋に来る理由が分からない。
近くの椅子に座る曹仁に対面するように俺も椅子に座る。

「それで俺に何の用?」

「そ、それはですね。
 お礼を言いたくて。」

「お礼?
 俺は曹仁に何か礼をされるような事をしたか?」

「私ではありません。
 姉さんの事です。」

「華琳の?」

俺は曹仁が礼を言わなければならなくて、華琳に関係している事。
ここまで考えれば答えは自ずと出てきた。

「もしかして、昔の時に華琳を助けた事を言っているのか?」

俺の言葉に曹仁は頷く。

「あの時から時間は経っていますが、姐さんを助けて頂いてありがとうございます。」

わざわざ椅子から立ち上がって、深々と頭を下げる。

「そんなわざわざ頭下げなくていいよ。
 俺は誰かにお礼を言われたくて助けた訳じゃない。
 それにあの時は師匠が居たから助ける事ができた。
 師匠が居なかったら、俺は華琳を助けられなかったよ。」

実際、あの時の俺はかなり弱かった。
賊一人相手にするのもきつかったから、師匠が先行して戦ってくれていなかったら助けられなかった。

「でも、関忠さんとそのお師匠さんが居なければ、姉さんは死んでいたかもしれません。
 あの時、姐さんが死んでいたら私はここにはいなかったかもしれませんから。」

「確か、周りの人が華琳やその祖父を嫉んでいたって。」

「祖父自身は地位は高かったので、その矛先は私達に向けられました。」

この事は昔、華琳の口から聞いている。
嫌がらせやいじめを受けていた事を。
おそらく、口で言うより実際に受けた内容は悲惨な可能性がある。

「私は見ての通り、ひ弱な性格です。
 自分の言いたい事をはっきりと言えず、周囲にされるがまま。
 でも、そんな私を守ってくれたのが姉さんです。
 姉さんは私の前に立って私を守ってくれました。
 今こうしているのも、姐さんが居てくれたおかげです。
 だから、関忠さんにはとても感謝しています。」

自分の姉の話になると、すごく楽しそうに曹仁は語る。
それほどまでに姉が好きで、尊敬しているのがよく分かる。
俺も義妹の愛紗の事を語る様はおそらく、こんな風になっていると思う。
しかし、自分より大きい曹仁を華琳が守る図を想像すると、ちょっとシュールと思ってしまった。
感動的な話なのに、少しだけ笑ってしまった。

「関忠さん?」

その笑い声を聞いた曹仁が首を傾げながら聞いてくる。
流石に失礼だったので、反省しつつ何でもない、と答える。

「姉さん自身も、関忠さんの話をよく聞かされました。
 なので、一度会ってお話ししたいと思っていました。」

俺に慣れたのか、噛む事はなくはっきりとした口調で話してくる。

「それとですね、感謝の気持ちなどを込めて私の真名を関忠さんに預けようと思いまして。」

「それなら俺も真名を預けないとな。
 俺の真名は縁だ。」

「私は華憐です。
 縁さん、これからよろしくお願いします。」

もう一度深々と頭を下げる。
その後、少しだけ雑談した後、華憐は自分の部屋に戻り、俺も寝台に寝転び睡眠をとるのだった。




次の日。
侍女から玉座に来るように言われて、俺は身だしなみを整えて、玉座に向かう。
そこには華琳や夏候淵や夏候惇、華憐がいた。
最初に着いたのは俺らしい。
その後に豪鬼、黎と優華、月火、星、胡蝶の順にやってくる。
少し遅れてから最後に一刀がやってきた。

「これで全員のようね。」

俺達を見回しながら、華琳は言う。

「今日から貴方達にも仕事を与えるわ。
 昨日に縁から貴方達について色々と聞いて、適材適所を私なりに考えたわ。
 まず兵の調練を丁奉、趙雲、太史慈、龐徳。
 春蘭と共に行ってもらう。
 次に縁、北郷、馬良、司馬懿は私と秋蘭と華憐と一緒に内務をしてもらう。
 これを聞いて何か異論はあるか?」

その言葉に誰も反応しない。
まさに適材適所だ。
昨日、俺が教えた特徴をしっかりと把握している。

「ないなら、早速仕事に取り掛かって貰うわ。」

「よし、それなら先程呼ばれた者は私について来い。」

夏候惇は豪鬼らを連れてどこかへ行く。
華琳を先頭に部屋に向かう。

「本当なら各自の部屋でやって貰っても構わないのだけれど、初めて内務をする者もいるだろうから、今日は一緒の部屋でするわ。」

予め準備してあったのか、部屋には人数分の机と椅子が用意されてあった。
それぞれ椅子に座り、その机に置いてある書類に手をかける。
内容を見た限り、この城に住む文官が提出ものだろう。
どうやったら、さらに流通が良くなるかなどのいくつかの提案が書かれている。
それらを最終的に決定するのが、華琳であり、俺達は華琳に余計な仕事を増やさない為に独自で考え、案件を絞っていくのが仕事だろう。
黎は前からこの仕事をしているからか、手際よく作業を進めている。
胡蝶は書類を見渡し、右に左にと分けている。
ていうか、真面目に仕事している胡蝶を見ていると、言い様のない感動が生まれる。
一刀は文字の読み書きは教えてあるので、一枚一枚丁寧に読んで、真剣に考えている。
黎や胡蝶に旅の合間に色々と教えて貰っていた。
なので、時間は掛かれど何とか捌いている。
俺も負けられない。
そう思って書類に目を通そうとした時だった。

「縁~、飽きたから何か面白いことしよう。」

「さっきまで俺が感じていた感動を返せ!!」

隣の席に座っていた胡蝶が胸を押し付けながら、俺に抱き着いてきた。
退屈を嫌う彼女にとって、書類整理はもの凄く退屈なのだろう。

「刺激が欲しいからね。
 今からお前の部屋に行く?」

「行くかボケ!
 仕事しろ、仕事!」

「私といいことしたら、縁もとってもいい気分になると思うんだけど。」

こいつは本当に周りの視線とか考えずに言えるよな。
いや、胡蝶ならそれらを考えて発言している可能性がある。
バキン!、と何かが割れる音が聞こえた。
前を見ると、黎がいつも書いている竹簡を握りつぶしている所だった。
それだけで冷や汗が流れる。

「縁、何をしているの?」

剣より鋭い言葉が俺の耳に入る。
明らかに怒っている雰囲気を出している華琳を見て、

「ま、待て!
 これは客観的に見ても俺が悪くないだろ!」

「なら、どうして司馬懿を離そうとしないのかしら?」

そこに怒っているのかぁぁぁぁぁ!!
俺は力ずくで司馬懿を離そうとするが、既に俺の行動を読んでいたのか、腕を強化して俺から離れないようにしていた。
司馬懿の表情は華琳に背を向けているので見えない。

「計画通り。」

どこぞの某新世界の神のような顔と台詞を言う。
その後、別室で俺は悪くないのに華琳に説教された。

「あぁ~、こういうのが堪らなくゾクゾクするわ。」

「北郷よ。
 司馬懿はいつもああなのか?」

「うん、いつも縁や黎や優華を使っていじっているよ。
 あの曹操まで巻き込むとか、流石というかなんというか。」





それから何週間か経った。
夏候惇曰く、豪鬼達の調練は文句なしらしい。
華琳があそこまで春蘭を言わせたのは初めてだとのこと。
内務も黎と一刀がよく頑張っている。
胡蝶は時々さぼるが、それでも最低限の事はしている。
夏候淵がさぼる姉者と比べればマシだ、と言っていた。
俺はというと、軍部と内務の両方を受け持っていた。
王になる為にはどちらの経験も必要だと思い、華琳に頼んで両方させて貰っている。
星達にも内務の事を手伝わせたりと、独立するための準備を着々と進めていく。
ある日の事。
一つの情報が華琳の耳に入った。

「この近くで賊が集まり、一個団体を築き上げている。
 さらに数が増えれば、奴らはここに攻めてくるでしょう。」

いつものメンバーが揃っている中で華琳は言う。
この情報が入ってきたのは最近。
陳留周辺を警備していた兵からの情報だ。
早めに潰しておかないと、街に被害が出る。

「奴らが行動を開始する前に叩く。」

「では、さっそく部隊の編成を。」

「それは必要ないわ。
 この賊の集団には縁達だけでやってもらうわ。」

華琳の発言に全員が驚きの表情を浮かべる。

「関忠達、という事は、私達は一切関与しないという事ですか?」

「秋蘭の言うとおりよ。
 軍の編成から兵糧の数まで、全て縁達に任せるわ。」

「し、しかし、華琳様!
 我らの部隊を全部関忠達に任せ、あげく私達が関与しないとなると。」

「春蘭の言いたい事は分かるわ。
 失敗すれば私達は大打撃を受ける事になるでしょうね。」

そう言いながら、華琳は俺に視線を向ける。
まるで俺を試すかのような。
そんな視線だった。

「できるかしら?」

その視線を言葉に表したかのように俺達に向ける。
その言葉に俺は返事をすることなく、豪鬼達に指示を出す。

「豪鬼と星と優華と月火。
 お前達は軍の編成を準備してくれ。
 残りは兵糧などの準備を。」

俺の指示に皆頷いて、準備に取り掛かってくれる。

「俺の答えはこれだ。」

「よろしい。
 失敗すればただでは済まさないわよ。」

「失敗するつもりなんてない。」

俺はそう言って、準備を手伝いに行く。

「か、華琳様。
 本当に大丈夫なのでしょうか?」

「心配し過ぎよ、春蘭。
 丁奉達の軍の調練は問題なかったのでしょう?」

「はい、それは大丈夫でしたが。」

「内務に関しても私から見ても問題はありませんでした。」

「わ、私も特に問題はないかと。
 彼らなら烏合の衆である賊には負けないと思います。」

「ほら、秋蘭に華憐もそう言っている。
 何より、私が行けると判断したから任せたのよ。
 そうでなかったらこんな事は言わない。」




軍の編成などを終えて、俺達は陳留を出た。
一応、俺達の手腕を確かめるために華琳達もついて来ている。
情報に寄れば、賊の団体はそれほど離れていないようだ。

「この中で兵を率いた事がある人は?」

「儂は国に仕えていた時に。」

「私もあるよ。」

「一応、少しだけ。」

『私は軍師として何度か。』

豪鬼と優華と月火だけのようだ。
黎は軍師としての経験あり。
この状況だと俺達のブレインになるな。

「私は兵法などを読んだりした程度です。」

「私も星と同じ。」

星と胡蝶は兵法を読んだだけ。
これは俺と同じ。
一刀は兵法すらあまり読んでいないだろう。
何より、武器がまだ木刀だ。
と、先に放っていた偵察隊が戻ってきた。

「報告!
 これより先で賊が部隊を展開しています!
 奴らも我らの接近に気がついているかと!」

「了解。
 さて、配置を説明するぞ。
 先陣は俺と優華だ。」

「げっ!?」

配置を聞いた時に優華が嫌そうな声と表情を浮かべる。

「黎の傍が良い!」

「駄目だ。
 黎は後方で敵の動きを予想して、部隊を動かして指示してもらわないといけない。
 お前の突破力があれば、勢いづくだろ。」

『優華、頑張って。
 怪我しないでね。』

「うっ・・・分かったわよ。」

黎に応援されて、引くに引けなくなった優華は渋々と了承する。

「右翼を月火、左翼を星が担当してくれ。
 中盤に豪鬼と胡蝶、本陣には黎と一刀。
 作戦内容だが、俺が賊に突撃して相手を混乱させる。
 その後に先陣の部隊で追撃でさらに戦局を乱して、続いて左翼右翼部隊が両側から敵陣をさらに崩していく。
 詰めに中盤の部隊が先陣の部隊と協力して、賊の本体を潰す。」

「一つだけ。
 縁殿が危険すぎます。」

星の言葉に優華と胡蝶以外が頷く。
この二人は心配なんてしないだろう。

「賊相手なら問題ない。
 それに優華がいるし。」

「乱戦の隙に後ろから刺すかもね。」

「それは背中もしっかりと警戒しておかないとな。」

優華の嫌味を俺は警告と受け入れる。
嫌味が通じなかったのでふん、と顔を逸らす。

「私は乱戦で刺激的な戦いをしたいんだけど。」

「そこは堪えてくれ。
 時期を見て、先陣を援護してくれ。」

「まぁ、その時に楽しませてもらうわ。」

妖艶な笑みを浮かべる胡蝶を見て、俺は豪鬼に小声で話す。

「胡蝶の事を頼んだぞ。」

「あれを儂が制御できるか分かりませんが、出来る限りやってみます。」

『縁様、気をつけて。』

「黎、しっかりと指示を頼んだぞ。」

『皆を傷つけない為に頑張る。』

竹簡に書いてある文字を見て、俺は黎の頭を優しく撫でる。
最後に俺は一刀に言う。

「一刀、お前は木刀だから一番安全な本陣に置いた。
 戦は初めてだな。」

「う、うん。」

戦の気に当てられたのか、少しだけ震えていた。

「人が多く死ぬ。
 それをしっかりと眼に焼き付けておけ。
 お前もいずれは戦場に立つからな。
 って、偉そうに言うが俺もこういう風に兵を率いて戦場は初めてだ。」

最後は少しだけ笑いながら、一刀の頭に手を置いて少しだけ乱暴に撫でる。

「んじゃあ、行ってくるよ。」

本陣には一応、華琳らがいる。
彼らが居れば、最悪の事態にはならないだろう。
もちろん、そうなるつもりは毛頭ない。

「縁殿、号令を。」

「えっ?
 俺がか?」

豪鬼の言葉を聞いて、いきなり振られ戸惑う。

「そうね、貴方は今だけとはいえ大将なんだから。
 号令の一つくらい頼むわ。」

「そ、そうか?」

俺は先頭に立って、大きく深呼吸する。
兵士の視線が俺に集まるのを感じながら、俺は叫ぶ。

「聞け、曹操に仕える兵士達よ!!
 今、目の前にいるのはお前達が守っている街を蹂躙しようと考えている者達だ!!
 今を率いるのはあの夏候惇ではない。
 だが、臆するな!
 この俺が先頭に立ち、道を切り開く!」

俺は刀から抜刀する。
それと同時に賊の集団が俺達に向かって突撃してくる。

「全軍、俺に続け!!」
 
 

 
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