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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百一話 強者へ至る道

 
前書き
はい、どうもです!

今回は新川君とお話。

少しリョウの過去に触れます。

では、どうぞ! 

 
「ぷっは、中々スリリングだったな」
「…………」
カプセルが音を立てて開き、内部からリョウコウが起き上がる。シュピーゲルは、未だに倒れたままだ。
リョウは回り込むようにカプセルの中の顔を覗き込み、ニヤリと笑う。

「よぉ少年。どうだったい?」
「…………」
言うとシュピーゲルはぼーっとした様子でリョウを見、問う。

「なんで……」
「ん?」
「なんで、あんな動きが出来るんですか?」
新川が言っているのが何のことかは、大体分かる。おそらく、最後のあのさかさま飛びの事を言っているのだろう。

「ま、出来ると思えばこの世界じゃ大抵の事は出来っからな。お前なら……滅茶苦茶早く走るとか、余裕だろ?」
「…………」
さも当然そうにそう言ったリョウに、シュピーゲルはほぅっと息を吐く。
確かに、しようと思えば彼にもそれくらいの事は出来る。しかし、実際の所、その速さは戦闘に置いて今は殆ど役には立ってくれない。

一時期は、この世界ならば本当の最強になれる。そう信じる事の出来た時期もあったのだ。しかしそれは、悔しいが有るプレイヤーの予想通りに、既に終わりを告げた。
レアな命中精度の高い銃の台頭によって、AGI型本来の戦い方である敵の弾を全弾回避してのこちら側の弾丸の命中は難しくなり、また、そう言ったレア銃を此方も装備出来るならばともかく、その手の銃は総じて要求筋力値が高く、AGI型の弱点である筋力値の低さともろにかちあってしまった。
しかし……

「まぁ、今証明した通り、結局プレイヤーのスキル次第で案外どうともなるもんなんだよ。努力次第って事だ」
「一つ、聞いて良いですか?」
「ん?」
シュピーゲルは真剣な表情をすると、体を起こした。

「リョウさんはどうやって、そこまで強く……?」
それは、ふと聞いた、と言うよりも、その答えを切実に求めているような問いだった。
リョウは一瞬驚いたような顔をすると、ふっと笑ってカプセルと対象の位置に有ったベンチに腰掛ける。

「まぁ、さっきみたいのは唯の技術だが、そうだな……昔話は好きか?」
「え?」
「だから、昔話だよ」
「は、はぁ……」
行き成りなふりに、シュピーゲルは曖昧に頷く。と、リョウがニヤリと笑って言った。

「昔な、とあるMMOのゲームがあったんだ」
「…………」
「そのゲームは普通と違う所が色々と有ったが、まぁそりゃ良いんだ。こりゃそれをプレイしてたやつの話でな……」
リョウはぽつぽつと、懐かしげに眼を細めると、話しだした。

「そのゲームは、ステ振りが単純でな。筋力値と敏捷値の二つしかなかった。その代わり有りえねぇ程幾つものスキルが有ったんだけどな。とにかくそりゃ、ゲームシステムだけ言えば、育成からグラフィックまで、何処も彼処も完璧としか言いようのねぇゲームだった。唯一、ゲームオーバーになると、取り返しのつかない事になるって点を除けばな」
聞いて居るシュピーゲルはもう彼の話しているのが何のゲームの話なのかうっすらと気付き始めていた。しかし、何も言わずに唯聞き続ける。

「さて、そんなゲームの中で、そいつはステ振りにありえねぇ方針を選んじまった。筋力─極型だ。なんでそんな方針を選んだかっつーと、単純な話さ。早いうちに、そいつは敏捷値の少なさをカバーする方法を見つけちまって、なら一撃で倒せるようになれば無敵じゃねぇかって考えたからだ。ま、今考えるとそりゃ馬鹿な考えだがな」
同時にその考えは思いもかけない方向で役にも立ったのだが、それを彼が知るはずも無いのでリョウはそのまま話しを続ける。
ちなみに敏捷値をカバーする方法と言うのは、リョウの良くやっていた手首や指先を使って槍を物理法則に従い高速で動かすことで、動きの速い敵の攻撃をパリィすると言う方法だ。

「けどな、調子よくモンスターを斬りまくってて、有る時そいつはとんでもねぇ事に気が付いた」
「……?」
シュピーゲルが首をかしげた。

「戦闘してて、何体ものモンスに囲まれてな。こりゃやべぇと思って逃げたしてみたら、《しかし回り込まれてしまった》だ」
「え?」
「逃げられねぇんだよ。敏捷値が無ぇから、ぜんっぜん走れねぇ。結果、そいつは戦闘中に“逃げる”って選択肢が一切とれなくなった」
実際の所、SAOに置いて逃げる事で命をつないだ例はいくつもある。何しろあの世界に置いて、危険時に離脱を選ばないと言うのはそのまま“死”に直結する行為だったのだ。
“トレイン”等は非マナー行為として有名な物の一つだが、実際緊急時はそんな事を気にしている訳にもいかない。フィールド上に置いては基本的には一定範囲内から出れば離脱は可能だし、有る程度の敏捷値さえあればダンジョン内でもモンスターの魔の手から逃れる事は出来る。
が、リョウに関して言うならば、その“有る程度の敏捷値”すら持っていなかったのだ。当然、離脱など出来る訳も無いので、リョウはSAOに置いて、戦闘が開始してしまえばずっと「逃げる」コマンド縛りでやらねばならなかった(転移結晶も、戦闘が始まってしまうと相手から有る程度距離を取らないと使えない)。しかも……

「しかもこれが飛行型とか相手だと最悪でなぁ……」
飛行型モンスターや、遠距離攻撃能力を持つモンスターが相手となると、彼等は常に間合いを取ろうとしてくる。
後々跳躍ができるようになると話しも変わるのだが、それ以外の時は最早地獄であったと言って良い。距離を取られ、それを詰めるために接近しようにも、敏捷値が足りない為に全く接近できず、仕方なく相手が何らかの理由で接近してくるか、少しずつ距離を詰めた後技を出してきた後の硬直を狙って一気に接近するか、時折繰り出してくる近接用の技を使って来るのを待つなどして戦うしか選択肢が無かった。ちなみに、突進型の技などを多用してくるヒット・アンド・アウェイ型の的モンスターに関しても同様である。

不利な相手が何気に多いうえに、逃走コマンド縛り。
命がけのゲームをするには、余りにも不安定なビルドの元に、リョウは生きてきた。

「それで、その話しの人がリョウさんは分かりますけど……」
「あれ、ばれた」
そりゃばれるだろう。共通点が多すぎるし、余りにも話し方が実体験な感じだった。

「それがリョウさんの強さとどう関係が……」
「うーん、結局の所よ、それでもそのスタイルを貫き通したのが、俺なんだよな」
「…………」
リョウは頭の後ろを掻くと、苦笑して言った。

「一度このスタイルで行くって決めたからよ。途中で周りに合わせて切り替えんのが面白く無くてなぁ……ビルドエラーとか言われた事もあっけど、どんなもんでも極めてやればそれなりにはなる。なら、徹底的に貫いてやろうって思ってな……そのビルドを使う為だけに色々と考えて、色々試して、レベル上げて……一時期は日に三、四時間しか寝なかったのもザラだったな……」
あ、不健康だからやるなよ?と言って、リョウはニヤリと笑った。

「何せゲームだ。強くねぇとなんも出来ん。なまじ強くなりたかったから、夢中でプレイしてたな……けどなんだかんだ、行った事ねぇ場所に行くのとか、そう言うのも楽しかったからなぁ」
強くなるのにはあらゆる理由が有るだろう。しかしあえて言うならば、ゲームに置いて強くなる事にそこまで難しい考えは必要ない。
強くなれば、ゲームは楽しくなる。それはある意味現実(リアル)でも同じ事。

「いつの間にやら、そのゲームでトップに立てそうな勢いになってた……ま、それから色々あって今の俺が居るけどよ。結局、俺みたいのでも此処までやれたんだ。強さに、王道なんざ無いって事だな」
二ヒヒと楽しげに笑ったリョウは、シュピーゲルを見た。唖然とした様子の彼は、ふとして考える。

楽しむために強くなる。そう考えた事が今まで無かった訳ではない。しかしここ最近は、そんな風に考える事は殆ど無くなっていたと言えるだろう。
最早自分にとっての強さは、自分自身の存在を誇示するためのものであり、それ以上でも以下でも無い。ただ貪欲に求めるべき対象となっていたからだ。

そんな新川の胸中を知ってか知らずが、リョウはこんなことを言い出す。

「ま、だからよ、AGI型じゃ装備がねぇと無理だ。なんてのは結局、お前自身が選択肢狭めた結果の幻想なんだよ。やろうと思えば、案外もっと広く見えて来るもん……進路もな」
「え……?」
突然のリョウの発言に、シュピーゲルは眼を見開く。

「お前、高認試験の成績良くねぇだろ」
「なっ……!?なんで……」
驚くシュピーゲルに、リョウはあっけらかんとした様子で返す。

「お前とさっきその話しした時、嘘付いたの分かったんでな。そう言うの見破んの得意なんだよ俺」
「…………」
驚きと、戸惑いでどう答えたら良いのか分からず、沈黙するシュピーゲルにリョウは頬杖をついて問う。

「実家は医者だっけか……察するに、医学部入れって親に言われたのか?」
「……」
無言。しかしコクリと新川は頷く。

「で、リアルから逃げたくなってGGO(これ)始めて、ビルドで失敗したと……」
「…………」
ぐっ、とのどの奥でうめき、シュピーゲルは堅く拳を握りこんだ。その音を、リョウの溜息が遮る。

「はぁ……親御さんに逆らってなんかするっつー気概は買うけどな……」
「っ!」
驚いたように、シュピーゲルは肩を震わせた。以外にも、リョウは自分の事を非難するつもりはないようだったからだ。

「ま、俺はソイツの人生はソイツのもんだと思ってっから、お前がゲームに人生掛けようが何に本気になろうが文句は垂れねえが、一応、お前が勘違いしねえように言っとくぞ?新川」
と、不意に、あっけらかんとした様子で、リョウは話しだす。

「親父やお袋に逆らってでも選ぶテメエの選択肢ってのはな、その選択肢を狭めるために選ぶ道じゃねえ。親に従いたくねえ、したいことをしてやるって、手前の選択肢を広げる為に取るもんだ」
「広、げる……?」
言われた事の意味を良く理解できず、恭二は首をかしげる。

「そうだ。世間ってなあ断じて優しくは出来ちゃ居ねえが、人生賭けてみりゃあ、案外色んな選択肢ってのがゴロゴロしてるもんだ。その先に失敗があろうが成功があろうが、賭け金はお前の人生。それ以外の何物でもねぇ。お前はそのでっけえ賭け金をベットにしてゲームに打ち込んでる割にゃあ、親に思いっきり逆らう訳でもねぇし、勉強するフリはしてる……割にビルド云々で他人に左右されて、煮え切ってねぇ。それって、イマイチじゃねぇ?」
「…………」
図星を付かれ、同時にやはり非難するのかと言う怒りが湧いて来て、新川は黙り込む。
しかし……

「少なくともお前の人生って、今はまだお前のもんだろ?なら、頑張れよ。装備集めなら付き合ってやるし、必要なら俺に出来る事は手伝ってやるから」
「は……?」
拍子抜けするような事を言われて、恭二は思わず声を漏らしてしまう。
それはそうだろう。ゲームに人生を掛けるなど、一般的に見れば愚行でしかない。彼のようにある程度満たされている人間からすれば、見下すべき対象と言ってもおかしくない筈だ。それがどうしてそうなるのか。あるいは唯からかわれているのか。そう感じて、新川は警戒しつつ問う。

「な、なんでそんな……」
「…………?」
真剣な顔で問うた彼に、リョウは何故そんな顔をしているのか。と言った様子で首をかしげた。

「なんでって……お前詩乃のダチなんだろ?」
「えっ?」
不意打ち気味に聞かれ、思わず新川は頷く。

「で、今俺と「ゲーム(デュエル)」したよな?」
「は、はい」
何が言いたいのか分からず彼は頷いて……

「なら俺のダチじゃん」
「…………」
この一言で固まった。
それはまるで、「友人のゲーム手伝ってなんか問題あんの?」といった様子の(と言うか実際そう思っているのだが)余りにも何の含みも無い言葉だったから。

んじゃ、先行くぞ~と言いながら外に出て行くその背中を、彼はただ茫然と眺めていた。


Third story 《少年を否定せよ》 完
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

というわけで新川君に関してはあとはもう彼次第。

リョウの強くなり方については、「最高に面白かった」から続いていますw
SAOは少なくとも、ゲームとしては最高峰です。ゲームに夢中になって、睡眠時間皆無になったことありませんか?その感覚ですw彼は基本ゲーマーですからw

さて次回、いよいよ……GGO本戦が開幕いたします!!!!
予定でははじめっからぶっ飛ばしていくつもりですので、よろしくお願いします!!

ではっ! 
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