こだわり過ぎて
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第一章
こだわり過ぎて
巴香緒里はパティシェである、それもイタリアで何年も働いて学んできて腕にも自信がある。それでだった。
働いている高級レストランでも腕は認められている、だが。
「ではまた次も」
「頑張って下さいですか」
「はい」
店長の西川四十四が言った、そしてだった。
香緒里は項垂れた、小柄で丸顔で茶色の髪を左右で縦ロールにしている。大きな奇麗な目と大きな胸が目立つ。
コンクールに出てもいつもいいところまでいくが優勝は出来ない、それで自分の何が悪いのか悩んでいた。
「何か足りないのかしら」
「だから優勝出来ないとですね」
「思っています」
温和な顔で太った中背の西川に話した、彼の髪の毛はつむじからなくなってきている左で分けた黒いものだ。
「それには」
「そうですか、むしろです」
「むしろ?」
「思い出すべきかと」
西川はこう言った。
「巴さんは」
「思い出すですか」
「そうされては」
「思い出すといいますと」
香緒里は首を傾げさせて応えた。
「一体」
「それはです」
西川は話した。
「巴さんがどうしてパティシェになられたか」
「そのことからですか」
「振り返ってです」
そうしてというのだ。
「お考えになられて」
「思い出すことですか」
「そうされてはどうでしょうか」
「そうですか、最近お店で作っていましても」
それでもというのだ。
「今一つ伸び悩んでいると」
「思われていますね」
「普段からそうですし」
コンクールの時だけでなくというのだ。
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