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死にそうな人の顔

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第二章

「危なかったわ」
「それは何よりね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「あんたの牛丼もう来てるのね」
「だって吉野家よ」
 真紀子はそれでと話した。
「だったらね」
「すぐに来るのね」
「早い安い美味しいでしょ」
「吉野家はね」
「だからね」 
 それでというのだ。
「あんたがおトイレ行っている間に」
「来たのね」
「そうよ、けれどね」 
 真紀子はそれでもと話した。
「待ってたから」
「お箸つけてないわね」
 見れば真紀子は箸を手にも取っていない。
「そうね」
「ええ、あんたの牛丼が来たら」
 それならというのだ。
「その時にね」
「一緒に食べるのね」
「そのつもりで待っていたのよ」
「有り難う」
 富美子は真紀子に微笑んで感謝の言葉を述べた。
「そうしてくれて」
「お礼はいいわよ、じゃあ食べましょう」
「私の牛丼が来たらね、ただ思えば」
 富美子は微笑んだままこうも言った。
「女子高生二人が休日吉野家で牛丼を食べるなんてね」
「ちょっとないわね」
「それも制服でね」
「そうよね、けれどそれは」
「私がピンチだったからで」
「けれどピンチは脱したし」
「よかったわね、じゃあそのことをよしとして」
 富美子は自分から言った。
「私の牛丼が来たらね」
「一緒に食べましょう」
「そうしましょう」
 真紀子の言葉に頷いた、そして富美子の牛丼が来ると一緒に食べた。もう富美子はふつうにえがおになっていて脂汗も流していない。先程までの死にそうな顔は何処にもなかった。


死にそうな人の顔   完


                   2025・2・15 
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