外道戦記ワーストSEED
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
十一話 崩れ行く世界の中で
前書き
英雄という『幻想』は自らなるものではなく、勝手に他社に『されている』ものである。
本人にとって、良いか悪いかは関係なく。
それは、異様な光景であった。
どれが?
スーツの肩が突っ張るほど筋肉が張った、青年か?
違う。
横で華奢なスタイルを白のドレスで包み、女優のような白磁の美貌でしずしずと佇む女性か。
違う。
屈強なSPに囲まれ、自らも端から見ても鍛えてると分かる肉体を持ちながら、会ってからずっと下を向いて俯き、汗を拭いている大西洋連邦大統領である。
その異様さは、会員制だという事も相まって、言動が大きくなりがちなレストラン内を全て静寂に変えたほどであった。
無論、レストラン側もその雰囲気でそのままにするほど察しが悪くなかった。
周囲の目に晒されながら食前酒を終えると、彼らは程なく、奥の個室へ消えていった。
さて、どう切り出すべきか。
ガチガチに緊張したボーイに個室案内されたので、チップを弾んだら高速で逃げられたジョンは、頭の中で考えを巡らせていた。
アズラエルが回してくれた送迎車の中では、ミオリネと会食だとあんまり食べられないから後で別のレストラン行くかー、とか言ってたが、この異様な雰囲気を察せないほど子供でもない。
事情も話してないのに俯いて話す大統領。
顎に手を当てて考え込む誕生日席のアズラエル。
いや、だから早く誰か説明してくれ。
相手の立場的に強要する訳にもいかず、数分。
ようやく、大統領が口を開いた。
「世界樹での活躍は聞き及んでいる。流石は『大西洋の死神』だな」
威厳を出すためなのか、両手を前に組みなおしてそう言われる。
はあ、そういったスタイルで通しぬくなら初めからそうしてくれ。
先程のビビった姿のあとなので対応しきれないんだよ。
「世辞は良いでしょう。で、殺すしか脳のない男に何用で?」
だが、他人から滑稽な喜劇に見えても、舞台にあがっているのは自身だ。
大統領の変わり身を見ないふりをして、会話を続ける。
「とんでもない!電力削減で芸能関係が軒並み休止の中、君はヒーローだよ!戦時中でなければ、銀幕のヒーローにもなれるさ」
「それは止めてくれ、宇宙から帰還した時の歓迎ですら、キツかったんだ」
お国柄なのか、転生前に居た日本と違い、大西洋連邦はとにかくオーバーだ。
民衆の歓迎アーチなどはともかく、こちとらアイドルとやらのサプライズハグのせいで、妻に土下座するはめになったんだぞ。
(なお、先んじて謝ったら、政治的パフォーマンスになんて怒ってないわよ、と逆に慰められた)
そう答えるジョンに、オーバーリアクションで大統領は返す。
「ははっ、英雄の宿命だね。ただ、許してほしい。ピエロにするためにやっている訳じゃない……良いニュースが欲しくてね」
「そりゃな、分かってるさ」
食前酒に貰ったバーボンを呷る。
まあ、宇宙港守って民衆には火種が飛ばないと思っていたら、ニュートロンジャマーによる大量の死者の発生だ。政治的舵取りする側としては泣きたくはなるだろう。
「世界樹の自爆戦術で男手を失った家庭。ニュートロンジャマーのせいで病気の継続的な治療が困難になり、家族が亡くなった事例。まあ、叩く対象として狙われる苦労はわかっているつもりだ。だからメディアの前で、緊急時の対応として一夫多妻を許す人口増加のための緩和政策にも賛同しただろ」
さて、ここで残酷な事実を言おう。
コーディネーターという種は、遺伝子を弄りすぎて子供が出来にくい、という欠陥はあれど、ほとんど全て共通してとある『長所』が存在する。
それは、顔を含め身体全体的なデザインが良い。という点だ。
それだけと侮るなかれ。
他の条件が同じで美醜だけが異なっていたら、男女関係なく容姿の整った方にいくように、残酷なようだが、容姿の整っているというのは大きなファクターなのだ。
「言い出した大統領が男性だから当初叩かれはしたがね。自分の稼ぎに応じてだが、ナチュラルであれば男女関わらず結婚相手を複数持つことを許可する、相手は一人でもナチュラルを含めればコーディネーターを選んでも構わないという法案は人口増加と経済を回す上で悪いことじゃない。……残酷なようだが、多少無理をしてでも、誰かの家庭に入っておけば、最近流行りの『コーディネーター狩り』からも逃れられるからね」
そもそもマンハントが合法な国なんてない。コーディネーター狩りはあくまで経済的、精神的ストレスを抱えた『善意の市民』を騙る差別主義者が勝手にやっていることであり、このように国のトップが明確に国の指針としてコーディネーターの迫害を禁じれば、彼らに大義名分なんざないのだ。
「話は終わりか?ならそろそろ御暇したいんだが。これでも多忙でね。大統領自身も主張しているように『オフには家族を優先したい』」
その瞬間、大統領は直立すると同時に頭を下げた。
「お願いします!わしの孫を助けるために、嫁を増やして頂けませんか!」
「……は?」
横でミオリネの、聞いたことのない憤怒の声が聞こえた。
詳細を聞くと、こういうことらしい。
まあ、当然の話、コーディネーターを保護するというのは自国の治安維持でやってるわけで、無制限にコーディネーターを受け入れる訳では無い。
だから、他国で暮らしているコーディネーターがその恩恵に預かるためには、厳しい審査と、婚姻等により連邦市民になる手続き、つまりは結婚する必要がある。
そして今、両親をテロで失い、難民になった孫を連邦に迎え入れるため、絶対に安心できる相手として自分に白羽の矢が立ったと。
うん……やめてもろて。
いや、SPに静止されながらもミオリネの前で再度頭下げてビンタされるその心づもりは立派だけど。
なんで俺なんですか(二回目)
家庭内に不和を持ち込むとかコレが人のやることかよ!
え、妻からも懇願された。
今連れてきてる?
おいやめろ、ミオリネはそういった浪花節に弱いんだ。
家でも死んだ飼い主を待ち続けるタヌキとかの感動番組とかテレビで見て号泣してるからな。
ほら、ハンカチに手を当てて泣きながらすがる大統領夫人に絆され始めた。
いや、止めろ、負けるなミオリネ。知ってるだろ?
大統領の法案が施行されてから、同居してるイヴも妖しい流し目で俺を見ているの?
このままじゃなし崩し的に俺ヤラれちゃうよ!
え、ミオリネ何?そんなスッキリとした目で俺を見るの。
なんで大統領と夫人は抱き合って感謝の祈りを捧げてるの?
……え?マジなの?
後書き
なお、その間、『ワイン美味いなあ』と眺めてたアズにゃんは、数十年の付き合いで初めて、ガチ説教食らった模様。
ページ上へ戻る