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冥府の寺

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第一章

                冥府の寺
 兎に角強くなりたい、中学生の池田辰朝はこう考えていた。小柄で丸坊主で童顔の少年である。
 それで近所の空手道場に行ってだ、同情をやっている谷崎雄一郎白髪の老人である彼にこう言ったのだった。
「俺強くなりたいんです」
「何故強くなりたい」
「強いともてるからです」
 池田は迷いなく答えた。
「それで時間かけてとか嫌なので一瞬で世界最強になりたいです。駄目ですか?」
「普通そんなことを言えば馬鹿かお前はで終わる」
 空手着を着た谷崎は一言で言い切った、尚彼は空手九段である。
「ローマは一日にして成らずだ」
「一日では強くならないですか」
「日々の修行あってこそ、しかし」
 それでもとだ、谷崎は言った。
「一瞬は無理でも一晩で強くなる」
「世界最強になって女の子にうはうはもてますか」
「少なくとも世界最強にはなる」
 もてる様になることは言わなかった。
「そのことは確かだ」
「じゃあ今からお願いします」
「うむ、ではこれを持っていけ」
 谷崎は筆と和紙を出し硯で一瞬で墨を作ってそれで書いてからまた言った。
「夜布団の中にな」
「布団の中ですか」
「ベッドの中でもいいがな」
「俺ベッドです」
「ではベッドにな」  
 そこにというのだ。
「持って行くのじゃ」
「これお手紙ですね」
「左様、これを持ってな」
「ベッドの中に入って」
「そして寝るのだ」
 そうすればいいというのだ。
「そうして朝起きた時はな」
「俺世界最強になっていますか」
「そうなる、実はこのやり方を人にやらせるのははじめてだ」
「そうなんですか」
「普通の者は努力して時間をかけて強くなろうとする」
 そうするものだというのだ。
「一瞬でという者は君がはじめてだ」
「俺努力嫌いなんで」
「そこまではっきり言う者もはじめてだ」
 そうだというのだ。
「実にな、しかしわしは一晩で強くなる方法を知っておるからな」
「それをですね」
「やってみるのじゃ」
「そうします」
 笑顔で言ってだった。
 池田は谷崎が書いた手紙を受け取った、達筆なので書道に疎い彼には何と書いてあるのかわからなかったが色々書いてあるなとは思った。
 そしてその夜その手紙をベッドに入れて寝ると。
「よく来たな」
「あれっ、何処ですかここ」
「冥界だ」
 見れば目の前に空手着を着た丸眼鏡の髪の毛がほぼない男がいた。 
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