相続者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「借金で首が回らなくなったりな」
「病気になったりしたわね」
「梅毒で死んだりな、だからな」
「そうした遊びもしないわね」
「それで傭兵になったり徴兵で戦争に行って」
「戦死したり身体の何処かなくなったり」
「そんなこともあったしな」
だからだというのだ。
「平和が一番だともな」
「思っているわね」
「そうだよ、災害もな」
これもというのだ。
「ないとな」
「いいわね」
「ああ、そうしたこともな」
「わかってきたわね」
「そうだよ」
妻に真顔で話した。
「何度も生きて生まれ変わって」
「その中で」
「そうだったよ」
「色々わかったわね、ただ」
妻はここで夫に言った。
「あなた二千年の間生まれ変わってきたけど」
「何十回もな、生まれてすぐ死ぬなんてこともな」
「結構あったのよね」
「昔は子供はすぐに死んだからな」
だからだというのだ。
「子供のうちになんてな」
「そうだったけれど」
「どうしたんだ?」
「生まれ変わるなら前世はね」
それはというのだ。
「歴史上の有名人とか歴史上の大きな出来事の中にいたとか」
「ないな、普通の仕事ばかりな」
「していたわね」
「ああ、そうだったよ」
そうだとだ、妻に答えた。
「本当にな」
「そうよね、生まれ変わってもね」
「何十回もな、というか世の中殆どの人は普通だろ」
「お百姓さんだったりするわね」
「その辺りで働いているな」
「普通の人ね」
「そんなそうそう偉人に生まれ変わるとかな」
そうしたことはというのだ。
「ないさ、あとな」
「あと?」
「下手に有名になってもな」
「これまで生きてきて見て来たものを活かすとね」
「色々知ってるからな」
何十回も生まれ変わった中でというのだ。
「知識も教養もな」
「積み重ねられてね」
「そうだよ、けれどな」
「そういうことを活かして世に出ても」
「注目されると生きにくいんだよ」
そうだというのだ。
「かえって。その禿げたおっさんにしても」
「有名になって注目されて」
「あの事件起こった時俺も驚いたからな」
「その時思ったのね」
「平凡が一番だってな」
生きるにはというのだ。
「わかったよ」
「所謂市井の人になることね」
「そして生きる中でもな」
市井の中で何度もというのだ。
「知識、それに知恵はどんどん蓄積されるからな」
「経験として」
「それなりに生きられるんだよ」
「いいことよね」
「学業もそれで出来てるしな」
何十回も生まれ変わる中でというのだ。
「そして今はラーメンに巡り会った」
「明治の頃よね」
「そうだよ、まだ志那そばって言われていて」
ラーメンは明治の頃そう呼ばれていた、これは東の方で西では中華そばと呼ばれて昭和の頃にはまだこの呼び名が残っていた。
「その時に食ってな」
「大好きになって」
「次の生からラーメン屋になってな」
「今の人生もよね」
「そうだよ、どんどん美味いラーメンにしていくな」
自分が作るそれをというのだ。
「これからは」
「そうしていくわね」
「生まれ変わる中でな」
「そうするね、では私はそのあなたとね」
妻は夫ににこりと笑って応えた。
「ずっと一緒にいるわ」
「お前も実はだしな」
「そのローマの頃からね」
「だからこうして言えるな」
「ええ、お互いにね」
夫婦で笑顔で話した、そうしてだった。
今度はラーメンの話をした、どうしたらより美味くなるか。その話を熱心に一緒に話すのであった。
相続者 完
2024・9・15
ページ上へ戻る