古い友達
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第一章
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これまでを振り返ってだ、後藤象二郎は東京の自宅で自分の家で働いている若い書生に対して言った。
「今日は退助が来るからな」
「だからですね」
「楽しく飲むぞ」
「そうされますか」
「夜はな」
「あの、ですが」
ここでだ、書生は後藤に言った。
「板垣様は質素な方で」
「昔から贅沢には興味がない男だ」
「そうですね」
「それでだ」
その為にというのだ。
「わしとしてはいい酒を用意したいが」
「安いもので、ですね」
「いいと言うからな」
「だからですね」
「今宵の酒もな」
二人で飲む酒もとだ、見事な洋館の中の一室の豪奢な席に座ったうえで洋服を着て葉巻を咥えつつ話した。
「そうしたものだ」
「わかりました」
「しかしその酒がだ」
後藤は書生に笑って話した。
「つまみもな」
「お刺身ですね」
「うむ、その辺りで獲れた魚のな」
「それがですね」
「天婦羅もですね」
「退助は好きでな」
そうであってというのだ。
「わしもだ」
「お好きですね」
「あ奴と飲んで食うとな」
そうすると、というのだ。
「それでだ」
「美味しいですか」
「そうだ」
これがというのだ。
「だから今宵は楽しみだ」
「お酒におつまみが」
「どれもな」
「そうなのですね」
「これがな」
こう言うのだった。
「わしもな」
「そうしたことは関係ないのですね」
書生は後藤の横に立って述べた。
「贅沢は」
「うむ、わしは金の使い方が荒くな」
それでというのだ。
「破れ風呂敷と言われておるな」
「その様ですね」
「確かにそうだ」
自分で笑って話した。
「土佐藩にいた頃からな」
「お金のことはですね」
「考えずな」
そうであってというのだ。
「まことにな」
「ことを考えられて」
「やってきた、どうもだ」
書生に嗤ったまま話した。
「金のことは苦手でな」
「多く使われますね」
「しかし退助と飲むとな」
そして食べればというのだ。
「関係ない」
「安いものでもですね」
「いいとな」
その様にというのだ。
「思えてだ」
「楽しめますね」
「そうだ」
まさにというのだ。
「わしはな。ではな」
「今宵は」
「退助が来るからな」
この家にというのだ。
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