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大阪の夜泣き蕎麦

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第六章

「それではです」
「この一杯で充分です」
「わかった、ほなその一杯楽しむんや」
 こう言ってだった。
 二人はそのうどんを麺の欠片も残さずだ、そうしてだった。
 おつゆもある程度飲んで勘定を払ってから店を後にした、その時にのっぺらぼうは二人に対して言った。
「また来てな」
「はい、そうします」
「美味しかったですし」
 二人は笑って応えた、そうしてだった。
 店を後にした、見勘はその後で三葉に帰路の中で言った。
「いや、こっちの屋台にはいたわね」
「妖怪が」
「そこは本所とは違って」
「しかものっぺらぼうさんでしたね」
「ええ、しかもね」
 蜜柑はさらに言った。
「お蕎麦じゃなくてね」
「主におうどんでしたね」
「何かと違ったわね」
「そうですね、ただ人を襲ったりしませんし」
 三葉はそれでと話した。
「ちゃんとおうどん出て食べられましたし」
「しかも美味しくて温まったしね」
「いいですね」
「ええ、それならね」
 蜜柑は笑って応えた。
「私達もね」
「構いませんね」
「別にね」
「それでなんですが」
 ここでだった、三葉は言った。
「私達と入れ替わりにお客さん来ましたね」
「ええ。見たら」 
 蜜柑もその客について応えた。
「ボルサリーノにマントでね」
「着流しを着た」
「戦前のファッションの服でしたね」
「昭和の初期位までのね」
「明治から続いた」
「如何にもって恰好だったわね」
「あの人は」 
 三葉はさらに言った。
「神社に銅像がある」
「織田作之助さんよね」
「そうですよね」
「間違いないわね」
 確かな声でだ、蜜柑は答えた。
「あの人織田作之助さんよ」
「あの神社にも縁がある」
「あの人大阪のこの辺りの生まれでね」
「高校、旧制中学も高津で」
「近くだしね」
 だからだというのだ。
「縁が深くて」
「それで、ですね」
「銅像もあって」
 そうであってというのだ。
「しかも大阪に凄く愛情があった人でしょ」
「大阪で生まれ育って」
「だからお亡くなりになっても」
「幽霊になってですね」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「今も大阪の街にいて楽しんでおられるそうで」
「そのお話は本当で」
「それでね」
「あのお店にも入られましたね」
「そうでしょうね、これはね」 
 蜜柑は三葉に話した。
「今度お会いしたら」
「サインですね」
「貰いましょう」
 それをというのだ。
「その時はね」
「やっぱり貰いたいですね」
「有名な作家さんだし」
「大阪の人ですし」
「大阪の文学の中でね」
 織田作之助はというのだ。
「本当に有名な人だから」
「欲しいですね」
「だからね」
「お会いした時は」
「サインしてもらいましょう」
「はい、じゃあ今は」
「このまま帰ってね」 
 そうしてというのだ。
「お風呂に入って歯を磨いて」
「寝て」
「また明日よ」
「そうですね、また明日」
「頑張りましょう」
 三葉に笑顔で言った、そうしてだった。
 二人はそれぞれの家に帰った、そのうえでそれぞれ風呂に入って歯を磨いて寝た。それから朝になると起きて学校に行って学園での生活を過ごしたのだった。


大阪の夜泣き蕎麦   完


                     2024・12・30 
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