のびあがり
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第五章
「江戸時代の頃とは違うな」
「時代が変わってね」
「今はそうですね」
二人は現代人として答えた。
「もうです」
「高い建物なんてあちこちにあるわ」
「この大阪でも」
「タワーマンションも増えて」
「そうなったからな」
だからだというのだ。
「もうな」
「今はね」
「のびあがりさんもですね」
「そこまで大きくなく驚かれることもない」
そうだというのだ。
「時代は変わったものだ」
「それもね」
「仕方ないですね」
「昔は大阪城も天守閣がなかった」
このことも話した。
「大坂の陣で焼けて」
「それで初代はなくなって」
「二代目は落雷で」
「今は三代目で」
「昭和の初期に建てられてますね」
「それで通天閣も初代まではな」
それが建つまではというのだ。
「わしがのびあがると高いと驚かれたが」
「今はね」
「何でもないですね」
「そうなった」
実際にというのだ。
「これも世の流れか」
「そうね」
「仕方ないですね」
「うむ」
妖怪も確かにと頷いた。
「こうなってはな」
「けれどやるでしょ」
美玖は妖怪にここでこう言った。
「あんたはこれからも」
「のびあがるぞ」
「そうよね」
「そうすることがな」
まさにというのだ。
「わしのアイディンティだからな」
「それでよね」
「これからもな」
「人の傍に出て」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「視線が上がるとな」
「それに基づいて伸びていって」
「見上げさせる」
「そうするわね」
「そうしていく」
このことは変わらないというのだ。
「これからもな」
「そうよね」
「そしてだ」
妖怪はさらに言った。
「楽しむ」
「そうするわね」
「ずっとな、大阪にいてな」
「じゃあ頑張ってね」
「うむ、しかしお主達臭いな」
話が一段落してだ、妖怪はこんなことを言った。
「焼肉とキムチと大蒜の匂いがな」
「やっぱりします?」
「酒の匂いもな」
琴子に話した。
「アイドルらしくない」
「プライベートですから」
琴子は酔った顔で答えた。
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