Fate/WizarDragonknight
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指輪
「数日来なかっただけでまたこんなに散らかるものなのか……」
その惨状を見て、ハルトは口をあんぐりと開けた。
見滝原大学の地下研究室。今後えりかに手伝ってもらうために行っている教授の手伝いを、連日の戦いにより来れずにいた。
結果。
「すみません松菜さん、蒼井も手伝ったんですけど、とても片付きませんでした……」
隣でえりかが眉を八の字にして謝罪している結果となる。
すでに教授の研究室は書類であふれかえっており、文字通り足の踏み場もない状態となっていた。教授の一人娘である結梨は、書類の山の中に潜り、愉快そうに大笑いを上げていた。
「あ! おにいちゃん! こんにちは!」
「お、おう。こんにち……痛ッ!」
挨拶をしている最中に、ハルトの頭上から本が落ちてくる。ご丁寧に角を命中させてきた本をキャッチしたハルトは、涙目になりながら恨めしく本を見下ろす。
「どこから降って来たんだよこれ……」
頭上を見上げ、傾いた本棚を睨みながらハルトは呟いた。
「ああ、松菜さん。来てくださいましたか」
教授の声が、部屋の奥から聞こえてくる。
だが、壁のように高く積み上げられた書類たちに阻まれ、その姿を確認することができない。ハルトの「教授、どこですか?」という呼び声にも、「おや、おや、申し訳ない。今手が離せないもので」という返事しかない。
「……この状態で片付けろと?」
「はい。蒼井も確認しましたけど……どうも、研究資料が多くなりすぎたようで」
えりかは足元の資料を拾い上げながら言った。
「多田さんは来られないんですか?」
「フロストノヴァのマスター探しで、新しい方針について検討中。そもそも大学にマスターがいるって前提条件さえ崩れそうになってるけど」
「手がかりになり得るのが、彼女が大学にいたから、ですからね」
えりかはそう言いながら、手にまとめた書類を机の指定されたボックスへ収納した。
だが、作業を続ける彼女のもとに、結梨がかけよってくる。
「あ、結梨さん……」
「えりか! おんぶして!」
「ちょ、ちょっと待ってね。今お父さんの片付け手伝わないといけないから……」
えりかはそう言うが、彼女の腕はだんだんと結梨に引っ張られ、やがて前かがみになってしまう。その背中に乗った結梨は、結果的におんぶという目的を達成してしまった。
ほほ笑みながら、ハルトはため息をついた。
「だからって……いや、確かに昨日とかフロストノヴァやらデイダラやらパピヨンやらの相手があったから来れなかったのも悪かったかもしれないけど、それでもここまでなる?」
「ほら、先日言ったように、教授も近日中に研究発表をしないといけないじゃないですか。その追い込みで、資料も大量に必要なんだそうです。あ、結梨ちゃん、暴れないで……」
「ふーん……」
結梨に悪戦苦闘しているえりかを横目に、ハルトは手に持ったままの本に目を落とした。
「生と死……」
ふと、その題名が目に入り、ハルトは動きが止まった。
「松菜さん? どうかしましたか?」
「いや、最近このキーワードについて引っかかったことがあるような……」
ハルトはしばらく、その場で固まっていた。無数の文字が記されているのに、そのワードだけが妙に光って見えた。
やがて、ハルトの口は自然と次の言葉を紡ぎ出していた。
「賢者の石……」
「え?」
「グレムリンが……ほら、この前ヤマタノオロチの力を取り込んだファントムが、賢者の石ってのを探してたんだ。覚えてる?」
「はい。鉄を金に変え、生死さえもひっくり返す究極の魔法石、でしたね。それに、聖杯そのものでもあると……」
「……説明文が俺の記憶と一言一句変わらないのはさておき、どうしてもそっちが過ぎるよね。そういえば、教授の研究テーマって命とか生命の神秘だよね」
ハルトは本を本棚の隙間に収納する。傾きがこれ以上大きくならないよう、巨大化の魔法で大きくなった手で本棚を押し戻し、直立させた。
「そう聞いています。蒼井も、研究の内容は見せてもらっていませんが」
「それだったら、賢者の石のことも知らないかな」
「存じ上げていますよ」
突然、深い男性の声がハルトのすぐ背後から響いた。
跳びあがったハルトが振り返ると、教授が仮面を付けたまま、ハルトを見下ろしていた。
「お父さん!」
えりかから飛び降りた結梨が、教授の手に捕まる。
「お仕事おわり?」
「おや、おや。結梨。もう少しだけ時間をください。少し息抜きで席を立ったところで、松菜さんが面白い話をしていたので来た次第です」
教授は少しだけ結梨へ首を傾けた後、その縦線が入った仮面をハルトへ向けた。
その紫の縦線だけが、教授の仮面で唯一黒ではない部位だった。だが、それをどう強く見たところで、彼の内面は何も伺い知ることが出来ない。
「賢者の石。かの高名な錬金術師、アレイスター・クロウリーのみが錬成できたと言われる、伝説の触媒。鉄を金に、溶かして飲めば不老不死にと言われる、まさに夢のような結晶体。しかし後年、数多くの研究者がそれを求めて研究しますが、成功した例はないと聞きます。君も、それを求めるのですか?」
「いいえ。最近、戦いの中でその話を聞いたのと、本の題名を見て繋がってしまって」
ハルトはそう言いながら、手にした本を教授に手渡す。
教授は本を見下ろし、数秒で頷いた。
「おや、おや。若い者は、興味があるものについては突き詰めるべきでしょう。ああ、賢者の石に関する資料もありましたね。そこの本棚にあります。読んでいただいても構いませんよ」
「ありがとうございま……」
礼を言い終えようとしていたところで、ハルトの動きが止まった。
「……教授。そこの本棚って……どれですか?」
「ええ。それです」
ハルトが指差したのは、はたして本棚と認識できるかどうか微妙な壁だった。
おそらく本棚の枠組みなのであろうものは上半分しか確認できない。下半分はやはり、資料に埋もれて確認できない。
「結局片付けを終わらせないと、何も進まないわけね」
ハルトはがっくりと肩を落とす。
教授は首を動かす。彼の仮面が無ければ、きっと表情の変化が見れたのだろうが、声色を含めて教授に変動はない。
「お願いします。ああ、私は奥で研究を続けていますので、また何かあったら声をかけてください」
「分かりました。……よし! じゃあ、俺の興味を満たすためにも、さっさと終わらせよう!」
「はい! 蒼井も頑張ります!」
教授は再び、研究室の奥へ姿を消した。
ハルトとえりかは同時に気合を入れ、特にハルトは袖を拭い、いざ足を踏み出そうとしたとき。
「お兄ちゃん、今日もお手伝い?」
「そうだよ。お父さんも大変だからね」
ハルトがそう言うと、結梨は頬を膨らませて俯いた。
「どうしたの?」
「ここ最近、教授は本当に忙しくしていて、結梨さんに構っている時間も無さそうでしたし……」
「ああ……」
えりかの解説に、ハルトは頷いた。教授が去って行った方向と結梨の顔を見比べ、頭を掻いて頷いた。
「まあ、いっか。別に読もうと思えばいつでも読めるし」
ハルトはしゃがみ、結梨と目線を合わせる。
彼女のくりくりとした目は、ハルトの動きに合わせて目を
「じゃあ、今日は一日中、結梨ちゃんがやりたいことをやろうか! 教授には、今日は難しかったってこと伝えておくよ」
「いいと思います。教授もそんなに急いでいませんし、きっと問題ないですよ」
えりかはそう言って、ハルトの隣で腰を落とす。
「じゃあ、何やろうか? この前とは違う、新しい手品を……」
ハルトはコネクトの指輪で大道芸の道具を取りだそうとするが、それよりも先に結梨がリクエストを発した。
「お外行きたい!」
漠然と外出を希望され、教授からも許可をもらった後、ハルトとえりかは共に結梨の手を取り、見滝原の夜を散策していた。
「まあ、わざわざラビットハウスまで行くのもね……近場で何かあるかな」
「お兄ちゃん、魔法見せて!」
結梨はそう言いながら、自らの指に付けてある指輪をハルトに見せつけた。
「あ、それまだ付けてくれてるんだ」
「私も魔法使うよ! 今日から魔法使い!」
改めて見て見ると、彼女の左手中指に付けられている指輪は、月の光を反射して淡い赤で煌めいていた。
彼女にあの指輪を渡して正解だったと感じながら、ハルトはコネクトの指輪を取りだす。
『コネクト プリーズ』
発動した魔法陣へ手を突っ込み、その出口を結梨の目の前に繋げる。
すると、ハルトの手が彼女の目の前に現れ、手を広げる。驚いた結梨は、そのままハルトの手を掴まえた。
「うわっ! ちょっと、結梨ちゃん!」
「すごいすごい!」
「コネクトが! コネクトが途切れる!」
コネクトの空間操作の魔法陣は、消滅しようと縮むが、間にハルトの腕があるため伸縮を繰り返している。
十年以上最も使ってきた魔法であるコネクトが、間に物を入れた状態で解除された場合どうなるかなど想像したくもない。
「すごいすごい!」
「うん、ありがとう! 確かに凄いから、離して! コネクト解かれちゃったら、俺どうなっちゃうか分かんないから!」
ハルトが訴えるが、その痛恨の訴えを遊んでくれていると考えているのだろう。結梨はハルトの手を掴み、きゃっきゃと上下に振っている。
「ゆ、結梨ちゃん! 本当にまずいって! 今コネクトの魔力が切れたらどうなるか分かんないから!」
「松菜さん、この魔法が繋がっている間に切れたことありますか?」
「無いから怖いんだよ! 俺の腕が千切れたりする可能性だってあるんだから!」
そういう間にも、コネクトの魔法陣は拡縮を繰り返している。果たしていつ消滅するのか分からない恐怖におびえていると、ようやく結梨はハルトの手を放した。
勢いよく手を引っ込め、魔法陣から抜くと同時に、コネクトの魔法は消失した。
「あ、危ない……いや、これは俺の手があったからコネクトが切れなかったのか、それとも俺の魔力がギリギリまで持ったからなのか……」
「あまり想像しない方が、精神衛生上いいと思いますけど……」
「おっしゃる通りで」
ハルトは想像を止めて、他の魔法を見せようと指輪を入れかえる。
決してコネクトを安易に結梨の前に見せないと誓いながら、エクステンドの指輪を取りだすと。
「えいっ!」
『エラー』
突然、ベルトから認識不能の音声が流れた。
見下ろしてみると、結梨が自身の指輪をハルトのベルトに押し当てていた。
『エラー エラー』
「エラー!」
『エラー』
何度もエラー音声を流しながら、結梨は笑顔でハルトのベルトに指輪を押し付け続ける。
無論、ハルトが渡したその指輪に魔法の力は宿っていない。せいぜいエラー音声を流すのが関の山なのだが、それが結梨には楽しいのだろう。何度も何度もハルトの指輪を鳴らしている。
やがてそれに飽きたのか、結梨はハルトのベルトから手を放す。
「すごい! この指輪、すっごくすごいね!」
「うん、凄い指輪だよ」
ハルトは結梨の頭を数回撫でて、えりかへ向き直る。
「そろそろ帰った方がいいかな?」
「そうですね。あまり遅くなるのも危ないですからね」
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「決めた!」
ハルトを見上げた結梨は、即、ハルトの腰にしがみつく。
「うわっ!」
「わたし、お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる!」
「え……えええええええええええええっ!?」
「ぽかーん……」
突然の結梨の爆弾発言に、ハルトとえりかがそれぞれ目を白黒させる。
だが、結梨は構わず続けた。
「大人になったら、お兄ちゃんと結婚してあげる!」
「こ、これって、幼少特有のやつ、だよね」
「多分、そうですね」
「えへへ!」
えりかも同意する。
結局この後、教授の元に戻るまで、結梨はハルトの腰から離れることはなかった。
後書き
紗夜「お疲れ様でした」
紗夜「ふう……ブランクも結構回収できてきたわね……」
紗夜「あら?」
???「お? お疲れ」
紗夜「お疲れ様です。岩沢さん」
岩沢「もう帰りか?」
紗夜「はい。半年、レンタルで練習してきましたが、だいぶブランクも取り戻せてきました」
岩沢「へえ。そいつは何よりだ。もう帰っちまうのかい?」
紗夜「はい。今日はもうこれくらいにしておこうかと」
岩沢「ふうん……今日、アンタ暇?」
紗夜「? まあ、予定はありませんが……」
岩沢「じゃあ、ちょっと見て行ってよ。今日、あたしたちのライブなんだ」
紗夜「ガルデモですか?」
岩沢「ん」
紗夜「……では、折角ですし」
___find way ここから (find way ここから) find out 見つける(find out 見つける) rockを奏でろ (rockを奏でろ) 遠くを見据えろ(遠くを見据えろ)____
紗夜「魂に響く曲ですね。Crow song……」
紗夜「まさに天使の鼓動」
紗夜「2010年の4月から6月に放送していたアニメですね」
紗夜「死後の世界でも、自らに課せられた運命を抗うために戦う者たちの物語……」
紗夜「また、天使と呼ばれる少女とも過酷な戦いを繰り広げていく……」
紗夜「そしてまた、作品名の意味もとても感動的です」
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