英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第59話
ヴァン達と共に4spgをこなしながら市内を回っていたアニエスはある建物に気づくと立ち止まって、建物を見つめた。
~新市街~
「ここは…………」
「リベールのZCF(ツァイト中央工房)――――――それに”エプスタイン財団”か。」
「オメーの曾祖父さんの基金から設立されたっつう、外国の技術財団か。カルバードでも昔から名前は知れてるが随分隅っこに押しやられてんじゃねえか。」
アニエスが建物を見つめている中ヴァンは建物の部屋を借りているテナントを確認し、アーロンは建物の場所が市内の片隅である事が気になり、それを口にした。
「……………………」
「…………アーロンさんは”でりかしー”が無いです。」
アーロンの指摘を聞いて黙っているアニエスが気になったフェリはアーロンに注意した。
「あはは…………大丈夫ですよ。でも、以前は大きなビル全てが財団の支部だったそうですね?」
「ええ、カルバードでの事業縮小と合わせこちらに移転したのだとか。財団の業績自体は、カルバード以外ではさほど落ちてはいないようですが…………」
「ま、こんな”規格”が広まってる以上、若干下がるのは仕方ねえだろうな。」
アニエスの確認にリゼットが答えるとヴァンはザイファを取り出して呟いた。
「ザイファ規格…………」
「以前は別の規格でしたよね。今では裏に流れてるっていう…………」
「第五世代の一つ、”RAMDA"だな。財団とヴェルヌの共同開発の。次の第六世代はどうなるかって連合による併合の直後あたりに話題に上ってたそうだが…………蓋を開けてみりゃ、まさかRFでもやらなかった”財団外し”をやらかすとはな。」
「各国の反発もあったようですが今や民生化にすら漕ぎ着けつつあります。弊社を起用しての運用テストも含めて、底知れぬものを感じますね。わたくしが言うのもどうかと思いますが。」
「マジでそれな。」
(そしてそれが”国策”として押し進めているのが…………)
ヴァン達がヴェルヌについて話し合っている中アニエスは目を伏せて考え込んでいた。
「それで、ZCFの方は飛行船を発明した所でしたっけ?」
「ええ、リベール王国のツァイス市にあるメーカーですね。」
「ふふ、通信機器や民生品などでカルバード両州でも結構見かける名前ですね。」
「ま、友好国としてヴェルヌとも”一応”提携関係にあるからね。」
フェリの確認にリゼットとアニエスが答えると聞き覚えのある女性の声――――――レンの声を聞いたヴァン達が振り向くとレン達がヴァン達に近づいてきた。
「先輩、オデットたちも。」
「こんにちはー、ヴァンさんたち!アニエスもやってるみたいだねー。感心、感心。
「…………フン。」
「ああ、話は聞きましたが。」
「研修の一環で、バイト先の人達と調べ物をしてるんだっけ?」
鼻を鳴らしたアルベール以外の生徒達はそれぞれ興味ありげな様子でヴァン達を見つめていた。
「はい、一人だけすみません。」
「ま、ボチボチやらせてもらってるぜ。――――――そっちはこのビルに用か?」
「ええ、ZCFにも財団にも個人的なツテがあるから。”国際技術交流”の現場を見るのに打ってつけの場所でしょう?」
「ええ――――――エレボニア人としてもとても興味深い分野です。」
「映画に使われる記憶結晶とかも作ってるって聞いちゃ、来ない訳には!」
ヴァンの確認に対してレンが答えると生徒達もそれぞれレンに続くように答えた。
「なるほど…………本格的な話が聞けそうですね。」
「…………まあ、こちらは任せてくれ。君の分までレポートはまとめておくさ。」
「その代わりそっちで面白いネタがあったらよろしくね!」
「ふむ…………?制服――――――ああ、例の研修とやらだったか。」
アルベールとオデットがアニエスにそれぞれ声をかけたその時建物から白衣の眼鏡の男性が出てきてレン達を見つめた。
「す、すみません、こんな所で話し込んでて。」
「あれっ、どこかで見たような…………」
(この御仁は確か…………)
(…………ええ、かの有名な。)
アルベールが男性に謝罪した後男性に見覚えがあるオデットは首を傾げ、男性に心当たりがあるヴァンとリゼットは小声で会話しながら男性を見つめた。
「――――――ごきげんよう、教授。レン・ヘイワーズといいます。”博士”からお噂はかねがね。」
その時レンが前に出て男性に挨拶をした。
「ああ、君が…………北カルバードに留学していたのだったか。クロンカイトだ、対面は初めてだな。――――――ようこそ、バーゼルへ。君の論文は興味深く読ませてもらった。」
対する男性――――――クロンカイト教授はレンに心当たりがあったのか、名乗った後興味ありげな様子でレンに対する称賛の言葉を口にした。
「へっ…………」
(論文…………?)
「クスクス…………名高き天才に読んでもらえて光栄です。”そのうち”お話をさせていただけますか?」
クロンカイト教授が口にしたある言葉が気になったアルベールが呆け、アニエスが戸惑っている中レンは微笑みながらある提案をした。
「君相手ならいつでも歓迎だ。それ以外は面倒だから遠慮したいがね。それでは、忙しいので失礼する。」
レンの提案に乗り気な様子で答えたクロンカイト教授はヴァン達に視線を向けた後その場から立ち去った。
「…………偉そうっつーか、タダ者じゃねぇ雰囲気のオッサンだったな。」
「はい…………どうやら東方系の方みたいですが。」
「ヤン・クロンカイト教授――――――カルバードの技術界を担う若き天才ね。3年前の大戦以前から数々の分野で画期的な技術を発表しているわ。」
クロンカイト教授についての感想をそれぞれ口にしているアーロンとフェリにレンがクロンカイト教授についての説明をした。
「あ、そういえば前にタイレル通信で見たような…………!」
「それこそハミルトン博士以来の才能って言われているそうですね。でも先輩、どうしてそんな人と――――――」
レンの話を聞いたオデットは心当たりを思い出し、あることが気になったアルベールはレンに訊ねた。
「さて、先方を待たせているし、そろそろ入りましょうか。アニエス、集合時間は忘れずにね。守らなかったらお尻ぺんぺんだから♪」
アルベールの疑問に対する答を誤魔化したレンはアニエスを見つめて微笑みながら冗談も混じった忠告した。
「ふふっ、はい。みんなの引率、お願いしますね。」
「ちょ、ちょっと先輩っ?露骨に誤魔化さないでくださいよ…………!」
「あはは、それじゃあ。そっちもお仕事頑張ってね!」
アニエスの答えに満足したのかウインクをしたレンはアルベールの文句を無視して建物の中へと入って行き、オデットはアニエスに声をかけた後アルベール達と共にレンの後を追っていった。
「さて、そろそろ行くか?」
「………はい、頑張らないと…………!」
その後市内の徘徊を再開したヴァン達はメンフィル帝国の軍人達が警備している建物が気になり、立ち止まって建物を見つめた。
「あの建物は一体…………わざわざ軍人の方達が警備されているようですが…………」
「あの建物は南カルバード総督府の”出張所”だ。総督府自体が郊外にあることから、一般人達による総督府の利用が必須の様々な手続きを円滑に行う為に総督府が配備したとの事だ。」
建物――――――南カルバード総督府の出張所を戸惑いの表情で見つめているアニエスの疑問にヴァンが答えた。
「…………警備の軍人の方達も中々の実力の戦士と見受けました。」
「フフ、それは当然かと。バーゼル市に配備されている南カルバード州軍の大半は”本国”から派遣されている精鋭の方達なのですから。」
「”本国”ってことは異世界――――――姉貴やアニエスの天使が元々いた世界に本拠地を構えているメンフィルの軍人達か。癪だが、確かに煌都の基地に務めている現地の軍人達よりは確実に”上”であることは俺様もわかるぜ。」
「ちなみに出張所内には市内の”有事”に備えて小隊ではあるが南カルバード州軍の部隊も待機しているとの事だぜ――――――」
警備の軍人達の強さを感じ取ったフェリに苦笑しながら指摘したリゼットの説明を聞いたアーロンは真剣な表情で軍人達を見つめ、ヴァンがアニエス達に更なる説明をしたその時建物からセレーネが現れ、セレーネが現れると軍人達はセレーネに敬礼した。
「あの女性は一体…………軍人の方達がわざわざ敬礼までしていますけど…………」
「ヒュウ♪相当な上玉じゃねぇか。あんな上玉、俺様でも滅多にお目にかかった事はねぇぜ。」
(あの女性は確かかの”大英雄”の…………)
「ハアッ!?おいおい、あのお嬢さんがこのバーゼルにいるってことはまさかとは思うが…………!」
「ヴァンさん…………?」
軍人達に敬礼されているセレーネが気になったフェリは不思議そうな表情を浮かべ、セレーネの容姿や豊満な身体つきを目にしたアーロンは思わず口笛を吹き、セレーネに見覚えがあるリゼットは目を丸くし、思わず驚きの声を上げて身体をのけ反らせた後表情を引き攣らせて呟いたヴァンが気になったアニエスが首を傾げたその時
「あら…………?」
ヴァン達に気づいたセレーネがヴァン達に近づいてきた。
「フフ、お久しぶりですわね、ヴァンさん。まさかこのバーゼルでお会いできるとは思いませんでしたわ。」
「ああ、例の”親睦会”以来だから大体3年ぶりくらいになるか。――――――つーか、その言葉そっくりお返しするぜ。お嬢さんがこのバーゼルにいた事自体が俺達にとって青天の霹靂過ぎる出来事なんだがな。」
セレーネに挨拶されたヴァンは苦笑しながら答え
「え…………そちらの女性はヴァンさんのお知り合いなのですか?」
顔見知り同士の様子で話す二人が気になったアニエスは驚いた後ヴァンに訊ねた。
「ああ、3年前”依頼”の関係で知り合ってな。ちなみにそのお嬢さんはメンフィル帝国の”御貴族様”だから、言葉遣いとかには気をつけろよ?」
「ヴァンさん…………わたくしがそのような些細な事は気にしないとわかっていて、わざと言っていませんか?――――――初めまして。セレーネ・L・アルフヘイムと申します。ヴァンさんの紹介にあったようにわたくしは確かに”貴族”ではありますが、言葉遣い等と言った些細な事は気にしていませんので、皆さんのいつも通りの調子で接して頂ければ幸いですわ。」
冗談交じりなのか口元に笑みを浮かべてアニエス達に忠告するヴァンの様子に疲れた表情で呟いたセレーネはアニエス達に自己紹介をした。
「寛大なお気遣いありがとうございます。ヴァンさんの助手の一人を務めているアニエス・クローデルです。」
「同じくフェリーダ・アルファイドです。」
「MKからの現地出向SCとしてヴァン様達の所で務めているリゼット・トワイニングと申します。どうぞお見知りおきを。」
「アーロン・ウェイだ。…………しかし、”剣の乙女”サマといい、アニエスのパイセンの生徒会長やメンフィルの貴族のお嬢サマといい、テメェの知り合いは綺麗所満載で羨ましいご身分じゃねぇか、オッサン?」
アニエス達と共に名乗ったアーロンはからかいの表情でヴァンに指摘し
「誤解を招くような言い方をするんじゃねぇ!それと念の為に先に言っておくがそのお嬢さんには婚約者がいる上おまけにその婚約者はセレーネお嬢さんを溺愛しているから、間違っても手を出そうとするんじゃねぇぞ!?」
「わぁ…………っ!」
「婚約者がいるのですか!?」
アーロンの指摘に対して呆れた表情で反論したヴァンはアーロンにある忠告をし、ヴァンの忠告を聞いたセレーネに婚約者がいる事を知ったフェリとアニエスはそれぞれ興味津々な様子でセレーネを見つめた。
「ア、アハハ…………あ、そういえばヴァンさん。ミュゼさんから、もしヴァンさんにお会いすることがあれば、『私の本拠地のお膝元に黒月でも最大派閥のルウ家の令嬢が支店長の支店を置くきっかけを作ってくださったヴァンさんには”貸し”一つですわよ♪』と伝えるようにと。」
「ゲッ…………!」
「え…………『自分の本拠地のお膝元に黒月でも最大派閥のルウ家の令嬢が支店長の支店を置く切っ掛けをヴァンさんが作った』って…………」
「まさかとは思うがアシェンの事か?」
ヴァン達のやり取りを苦笑しながら見守っていたセレーネはある人物からの伝言を思い出してヴァンにそれを伝え、それを聞いたヴァンが思わず表情を引き攣らせて声を上げた後心当たりがあるフェリとアーロンはそれぞれ目を丸くして呟いた。
「本拠地のお膝元…………アシェンさんが支店長の支店…………ヴァンさんが切っ掛け…………あの、その”ミュゼさん”という方はもしかして、エレボニア王国の大貴族―――――ミルディーヌ公女殿下の事ですか?」
「ええ、ちなみに”ミュゼ”という名前はミルディーヌさんの愛称ですわ。」
「ハッ、エレボニアのVIP達の中でも下手すりゃ王族よりも上になる大貴族と親しい様子から察するに、どうやらアンタはメンフィルの貴族連中の中でも相当重要な位置にいる貴族のようだな。」
アニエスの質問にセレーネが答えた後アーロンは真剣な表情でセレーネに対するある推測を指摘した。
「ふふっ、幾ら何でも持ち上げ過ぎですわ。ミュゼさんとは親しくなる機会があっただけで、わたくし自身は一伯爵に過ぎませんわ。」
「いや、”平民”の俺達からすれば爵位持ちの時点で十分相当なご身分だし、そもそもお嬢さんの母親は南カルバード総督なんだから、その娘のアンタはカルバード人の俺達からすれば重要な位置にいる人物なのは事実じゃねぇか。」
「え…………み、”南カルバード総督”のご息女という事は…………」
「まさかのメンフィルの皇族かよ!?」
「はい。ちなみにアルフヘイム卿には双子の姉君がいらっしゃいまして、その方はプリネ皇女殿下専属侍女長兼親衛隊長を務めていまして、”蒼黒の薔薇”という異名を世間に轟かせています。」
「”蒼黒の薔薇”…………戦士団でも聞いたことがあります。」
苦笑しながら答えたセレーネにヴァンが呆れた表情で指摘するとヴァンの指摘を聞いてセレーネの正体を察したアニエスとアーロンは驚きの表情でセレーネを見つめ、リゼットの補足説明を聞いたフェリは真剣な表情でセレーネを見つめながら呟いた。
「それで?この時期にセレーネお嬢さんがこのバーゼルに現れた理由は…………やっぱ”A”の件か?」
「はい。この後ラヴィさん達と合流して情報交換をすることになっていますわ。」
「!”A”の件に関わっている上、ラヴィさん達”北の猟兵”の方達と情報交換をするということは…………」
「アンタもメンフィル側の”エースキラー”の一員か。」
ヴァンの質問に答えたセレーネの答えを聞いてセレーネがエースキラーの一員であることに気づいたアニエスは目を見開き、アーロンは真剣な表情でセレーネを見つめて呟いた。
「ええ。…………今までの皆さんの”出張”の件を考えれば、お互いに協力し合う機会が訪れる事も十分に考えられますから、その時はよろしくお願いしますわね。――――――それではわたくしはこれで。」
「――――――セレーネお嬢さん、一つだけ確認させてくれ。」
「?」
2人の確認に応えてヴァン達を見回して微笑んだセレーネはその場から立ち去ろうとしたがヴァンがセレーネに声をかけると立ち止まって首を傾げてヴァンへと振り向いた。
「セレーネお嬢さんがこのバーゼルで活動しているって事はお嬢さんの”お兄様”もお嬢さん同様”エースキラー”の一員で、バーゼルで活動しているのか?」
「勿論ですわ。…………とは言っても、お兄様は”本来の仕事”の関係で”今日はバーゼルで活動していませんわ。”」
「やっぱりかよ…………それと、このバーゼルを活動する関係でセレーネお嬢さんもそうだが、お嬢さんの母親や”お兄様”に頼る機会があるかもしれねぇから、互いの連絡先を交換してもらってもいいか?」
「ええ、構いませんわ。」
そしてヴァンとの連絡先を交換したセレーネはその場から立ち去った。
「あの、ヴァンさん。セレーネさんの”兄”という方は一体…………」
「あのお嬢サマには双子の姉がいるって話だが、”兄”もいるのか?」
「いや、セレーネお嬢さんの”お兄様”というのはお嬢さんの”婚約者”の事で、別にお嬢さんの親族という訳じゃねぇ。」
「”婚約者”なのに”兄”呼ばわり…………意味がわかりません。」
「フフ、恐らくですがアルフヘイム卿はその”婚約者”の方の事を”兄”のようにも慕っているからこそ、そのような呼び方で呼んでいるのかと。」
セレーネが去った後口にしたアニエスとアーロンの疑問にヴァンが答えるとフェリは困惑の表情を浮かべ、フェリの様子をリゼットは微笑ましそうに見つめながら指摘した。
「そういえばヴァンさん、セレーネさんを見た瞬間随分と驚いていましたけど、どうしてなんですか?」
「ああ…………セレーネお嬢さんは常に婚約者――――――”お兄様”の傍で行動していたからな。あのお嬢さんが現れた時点で、このバーゼルに”お兄様”も活動している可能性が非常に高いと思ったから驚いたんだよ。」
「ハア?テメェがそこまで驚くとか、その”お兄様”とやらは一体何者なんだよ?」
あることを思い出したアニエスの疑問に答えたヴァンの話が気になったアーロンは眉を顰めてヴァンに訊ねた。
「あー…………それについては今ここで口にした所で信じられないだろうから、実際に会う時までの楽しみにでもしておいてくれ。」
「ええっ?」
「そんな言い方をされたら余計に気になりますっ!」
「フフ、アルフヘイム卿の”婚約者”様の件は後の楽しみに取っておいて、今は業務に集中しましょう。」
アーロンの疑問に対してヴァンはリィンを思い浮べた後気まずそうな表情で答えを濁し、それを聞いたアニエスは困惑の表情で声を上げ、フェリは真剣な表情でヴァンに指摘し、リゼットは苦笑しながら今は業務に集中するよう指摘した。
そしてヴァン達は業務を再開した――――――
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