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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第229話:復活の序曲

 未来と共にチフォージュ・シャトーに連れていかれた奏は、そのまま彼女とは別に適当な部屋に監禁されていた。未来と離れ離れにされる際、多少暴れて苛立ちを感じたメデューサにより殴られ口の端を切るという怪我を負ったがそれ以上の事はされず、しかしそれ以上暴れたり下手な事をされては困るという理由で身動きが取れないよう両手を上げた状態で鎖に繋がれる。

 当然ギアペンダントも没収され、抵抗する術を失った。唯一持っていたのはブレイブウィザードリングだけだったが、純粋な魔法使いではない奏は指輪だけを持っていても意味はない。

 今の自分に出来る事は未来の無事を信じて只管に耐え、颯人達が助けに来てくれるのを待つ事だと大人しくしていた。そんな彼女の元を、ヴァネッサは訪れた。

「ん? 何だ、お前らか」

 突然自分の元にやって来たヴァネッサの姿に、最初奏は自分の世話でも押し付けられたのだろうと思っていた。両手を鎖で繋がれた状態では食事も満足に取れない。大方老人介護宜しく、食事の世話などをする為に来たのだろうと思ってあまり愛想を振りまく事も無くされるがままにするつもりであった。

 ところが意外な事に、徐にヴァネッサは奏を拘束している鎖を外し始めた。ともすれば抵抗を許してしまう状況に、逆に奏は困惑して目を丸くしてヴァネッサの行動を見ていた。

「な、何だ? お前何して……?」
「取引しましょう」

 困惑する奏にヴァネッサは端的に告げる。最初こそ彼女の行動を訝しんでいた奏だが、何やらただならぬ雰囲気を感じて理由がある事を察し拘束を解かれた手首を解す様に揉みながら話を聞いた。

「……話、聞かせてもらおうか?」

 奏が自分達に興味を抱いたのを見て、ヴァネッサはこれから自分達がしようとしている事を告げた。
 即ち、ジェネシスと縁を切りノーブルレッド3人でS.O.N.G.に寝返るのである。

「あなたにはベルゼバブを倒して、ミラアルクちゃんを助ける手伝いをして欲しいの。その代わり、私達はあなたがここに連れてこられた他の子を助け出すのを手伝うわ。どう?」

 ヴァネッサからの分かりやすい要求に、しかし奏は即座に答える事をしなかった。何と言っても怪しいからだ。これが実は罠で、奏だけでなく颯人達をも巻き込んで一網打尽にする策略ではないとも限らない。仮にヴァネッサがそんな意図が無かったとしても、彼女の行動が結果的にワイズマン達に筒抜けであえて泳がされているという可能性も考えられたからだ。

――どうする……こういう時、颯人なら……――

 虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが、入った穴が実は虎穴どころか虎の口の中だったという可能性も考えられる。悩む奏ではあったが、今のままではどの道自分には何も出来ずただ颯人達を待つしか出来ない。その間に未来に何かされたりすればそれこそ悔やんでも悔やみきれない。それならば、毒を食らわば皿までの覚悟でヴァネッサの提案に乗る事が最善のように思えた。

 結局、今の奏に選択肢は多くは無く、この状況を打開する為には行動を起こさなければならない。それならば…………

「……分かった。だけど今のアタシはギアが無い。ギアが無けりゃ戦えないぞ?」
「安心して。ギアならここにあるわ」

 そう言ってヴァネッサは、見張りの目を盗んで持ち出しておいた奏のガングニールのギアペンダントを差し出した。受け取った奏は暫し色々な角度からペンダントを眺め、それが間違いなく自分のギアペンダントである事を確認すると小さく息を吐きながらそれを首に掛けた。

「言っておくが、お前らの事を完全に信用してる訳じゃない。そこは分かってるな?」
「勿論よ。そう簡単に信用してもらえるとは思ってない。もしもって時は、どうぞご自由に後ろから切って頂戴」

 そう言ってヴァネッサは無防備な背中を奏に見せる。首から下げたギアペンダントを指先で弄びながらその背を見た奏は、束の間目を瞑り気持ちを落ち着けると聖詠を口にしガングニールを纏った。

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 奏がガングニールを纏うのを見て、ヴァネッサは部屋の外を警戒し見回りの魔法使いが来ない事を確認すると手招きして奏をミラアルクとベルゼバブの居る所へと連れて行った。

「おい、こっちに未来が居るのか?」
「生憎だけど、先ずはミラアルクちゃんを助けるのが先よ」
「何ぃ? おい、それじゃ話が違うぞ!」
「仕方ないでしょ! どの道あの子ともう一人連れてこられた子を助け出すには人手が必要でしょ? 足手纏いを守りながら逃げられる自信があるの?」
「チッ……」

 先に自分達の目的を達しようとしているヴァネッサに思わず舌打ちせずにはいられない奏ではあったが、彼女の言う事も尤もであった。未来と序でにハンスも連れて逃げる為にはどうしても人手が必要だ。加えてどう頑張っても恐らく途中で見つかるだろう事を考えると、未来達を守りながら逃げる為には戦う為の戦力も必要になる。ミラアルクを助ければそれらが賄えるとあれば、そちらを優先しない訳にはいかなかった。

 渋々ではあるがヴァネッサについて行くと、ある部屋の前でエルザが扉に耳を当てて中の様子を伺っているのが見えた。どうやらその部屋の中に誰かが居るらしい。奏とヴァネッサが息を潜めて足音をなるべく立てないように近付くと、音に敏感なエルザは2人の接近に気付きそちらを見て手招きした。

「ヴァネッサ、こっちであります」
「エルザちゃん、どう?」
「どうやら連中は目的を達した様であります」
「と言う事は……」
「ガンス。連中、S.O.N.G.本部を襲撃してキャロルを連れ去って来たであります」
「なっ!?」

 まさかの情報に奏が慌てると、一早く彼女が騒ぎそうになるのを察したヴァネッサが先手を打ってその口を塞ぐ。突然口を塞がれた奏は息が詰まるのを感じ、咄嗟に抵抗して乱暴にその手を退かした。

「もごがっ!? くっ、おいどういう事だ?」

 流石にここで騒ぐのはマズイと、口を塞がれて冷静さを取り戻した奏は焦る心を抑えながら何がどうなっているのかを訊ねた。

「今エルザちゃんが言った通りよ。連中はあなた達がここに連れて来られて、私達と日本政府に繋がりがある証拠を隠蔽されないように戦力を割いた隙をついてそっちの本部を襲撃。最優先目標の1人だったキャロル・マールス・ディーンハイムを連れ去る事に成功したのよ」
「何だって連中はキャロルを欲しがるんだ? あいつ記憶喪失だろ?」

 錬金術に関しては知識が疎い奏は、想い出の焼却のし過ぎで自分とハンスの事以外を忘れたキャロルにどんな価値があるのかが理解できなかった。ヴァネッサはそんな奏に呆れと面倒臭さを感じながら、事態の深刻さを理解してもらう為キャロルの持つ価値を話した。

「記憶の有無は関係ないわ。要は彼女の体さえ動かせればそれで十分なのよ」
「何で?」
「あなた、ここが何処だか分ってる?」

 言われて奏は改めて自分が今居るこの場所が何処なのかを分かっていない事に気付いた。何処かの城の中の様である事は分かるが、何分魔法で転移させられてきたので外観などを見る機会は無かったのだ。だが所々に破損した箇所やその部分をビニールシートなどで覆い修復しようとしている様子から、何処かの廃墟の中だろうと漠然と考えていた。

 しかしここに来てキャロルを欲する事と、この内部の惨状を照らし合わせて奏もここが何処で、何故キャロルが狙われているのかを悟る事が出来た。

「まさか、ここ……チフォージュ・シャトー?」
「正解。今は機能停止してるけれど、キャロルを使えばまた動かせるようになるわ」
「だけど、アイツ今記憶ないから錬金術も使えないだろ?」
「使えないなら、使わせればいいのよ。操って必要な操作をさせてしまえば本人に記憶や知識が無くても問題無いわ」
「クソが……!?」

 人間を物のように扱うジェネシスの非道さに改めて奏は反吐が出る思いだった。

 そして気付く。今その話をして、そしてこの扉の向こうでその事が分かる会話がされているという事は、この奥にキャロルが居るという事になる。そうとなれば話は早いと、奏は拳を握り一気に部屋に突撃しようとした。

「そうとなれば善は急げだ。さっさとキャロルを連れ出そう」
「待ちなさいッ! 今はまだ早いわ。いきなり入っていっても包囲されて袋叩きにされるのがオチよ。まずはタイミングを見計らって――――」

 そこで突然、部屋の中が俄かに騒がしくなった。何やら争うような音が聞こえてくる。何事かと奏達が扉を凝視していると、耳が良いエルザが突然顔を青褪めさせて飛び退きながら2人を扉から押し出す様に離れた。

「ま、マズイであります!? 早く、早く離れてッ!」
「えっ? えっ!?」
「チィッ!」

 エルザのただならぬ様子に困惑するヴァネッサに対し、奏は咄嗟にアームドギアを展開しそれを床に突き刺すと自分とヴァネッサ達をその影に押し込んだ。直後扉が弾け飛び、中から何者かが飛び出して何処かへと去っていった。

「けほっ、けほっ……な、何だ?」

 舞い上がり立ち込める砂埃に咽ながらアームドギアの影から顔を覗かせると、見覚えのあるドレス姿の人形が2体奏達から離れていくのが見えた。一瞬しか見えなかったが、人形の片方……ガリィと思しき人形の腕にはキャロルが抱きかかえられているのが見えた気がした。

 一体何が起こっているのかと理解する間もなく、部屋からは魔法使いがぞろぞろと現れて逃げていくガリィともう1体の人形・ミカを追いかけていく。砂埃に隠されてか奏達に気付く魔法使いは誰も居なかったのは幸いか。

 何人ものメイジがガリィ達を追いかけていった光景に思わずヴァネッサ達を顔を見合わせる奏だったが、部屋の中からはまだ争う音が聞こえてくる。それに気付いた奏がアームドギアを引き抜き吹き飛んだ扉の影から部屋の中を覗き込むと、そこではベルゼバブが1体でレイラとファラの2体を相手に戦っている光景と、その傍で床に倒れているミラアルクの姿を見つけた。

 奏に続き部屋の中を見たヴァネッサとエルザは、倒れて気を失っている様子のミラアルクに気付き慌てて彼女に駆け寄っていった。

「ミラアルクちゃんッ!?」
「ミラアルク、しっかりするでありますッ!」

 騒ぐヴァネッサ達の声にベルゼバブがチラリと扉の方を見ると、そこに奏の姿を認め思わず言葉を失った様子で固まった。

「ん? なっ!? あ、天羽 奏ッ! 貴様、何故外に…………ハッ! 貴様ら、我々を裏切るつもりかッ!」

 ここで漸くヴァネッサ達の裏切りに気付いたベルゼバブが、怒りに任せて空間を繋げてヴァネッサ達を串刺しにしようと剣を振るう。だがそれはベルゼバブと対峙しているレイラとファラにより防がれた。

「派手にやらせん」
「あなたの相手は、私達でしてよッ!」
「チィッ! 人形風情がッ!」

 コインを連続で飛ばしてくるレイラにその場に釘付けにされ、動けずにいる所で接近したレイラのソードブレイカーによる斬撃を受ける。ファントムであるベルゼバブはその程度で致命傷を受けたりはしないが、自分より劣る筈の人形に傷付けられた事は奴の自尊心が許さないのか激昂した様子で剣を振るい反撃した。

 咄嗟にそれをソードブレイカーで受け止めようとするファラであったが、突如彼女の動きが鈍った。まるで引っ掛かった様に動きを止めたファラに、ベルゼバブの斬撃が襲い掛かりソードブレイカーを持つ腕が切り落とされる。

「くっ!?」
「砕け散れッ!」

 武器を失ったファラに、続くベルゼバブの攻撃を防ぐ手立てはない。錬金術は間に合わない。レイラがフォローしようとしてくれるが、あちらも動きが鈍くなっており思考に反して体が動いていないようだ。
 そのままベルゼバブの剣がファラの胸を貫こうとした、その直前奏が飛び出しベルゼバブの攻撃に合わせる様にアームドギアを振るい逆に切り裂き吹き飛ばした。

「ぐふぁぁぁぁっ!?」

 奏の一撃に壁に叩き付けられるベルゼバブ。自分を助けたのが奏と言う状況に、ファラは自嘲するように笑いながら腕を切り落とされた時一緒に床に落ちたソードブレイカーを拾い上げる。

「まさか、装者であるあなたに助けられるなんてね」
「こっちだって、お前らを助けることになるなんて思ってなかったよ」
「とは言え、助かったのは事実。地味に感謝しよう」

 レイラからの感謝に奏は複雑そうな顔をした。元々は敵だったというのもあるし、何より何故ここに彼女達が居るのかが全く分からない。

「おい、一体何があった? お前ら、前にアタシらに壊されたんじゃないのか?」




「それについては、ウチから説明させてもらうゼ」

 出し抜けにそう告げたのは、ヴァネッサとエルザに助け起こされたミラアルクであった。頭痛を堪えるように頭を抱えた彼女だが、その姿に洗脳されているような様子は見られない。まだベルゼバブが一応は健在であるにもかかわらず洗脳が解けている事に、奏が訝しんでいるとミラアルクは先程何があったのかを話し始めた。




***




 S.O.N.G.の本部潜水艦から拉致られ、束の間再会できたハンスと再び離れ離れにさせられたキャロルが連れてこられたのは、シャトー内部のジェネレーター室であった。そこでは無数の朽ちかけたオートスコアラーが棺のような物に入れられ、積み上げられた先にあるコアの様な物に繋げられていた。

 勿論キャロルにはこれが何なのかは分からない。記憶の大半を失っている今の彼女に、シャトーの内部構造に関する知識など残ってはいなかった。

「こ、これ……何?」

 困惑するキャロルに対し、ベルゼバブは洗脳しているミラアルクを操って更にキャロルを洗脳させた。

「ミラアルク、やれ」

 ベルゼバブの命令に頷いたミラアルクは、困惑するキャロルの首を掴んで持ち上げる。首を絞められ喘ぐキャロルの心は動揺し、隙が出来たことでミラアルクの洗脳が通る様になっていた。結果、ミラアルクが目をステンドグラスの様に輝かせると、それをまともに見てしまいキャロルも洗脳状態となり顔から意志が消えてしまった。

「う、ぁ……」
「よし。では始めろ」

 キャロルが操り人形になったのを見て、ベルゼバブはミラアルクに命じてキャロルに生体認証を通させた。

 何故ベルゼバブは自分でキャロルの事を洗脳しないのかと言われれば、それは偏に無用な魔力の消耗を抑える事にあった。使い魔を用いての洗脳は地味に魔力を使う。このジェネレーターの起動以上の働きが期待できないキャロルを相手に、そんな魔力を使いたくはなかったのである。
 加えて、ベルゼバブには錬金術に関する知識が無い。洗脳状態とは言え錬金術師としての知識を持つミラアルクでなければ、キャロルを正確に操りジェネレーターの起動をさせる事は出来なかった。

 ミラアルクに操られるままに、キャロルは生体認証を突破しジェネレーターを起動させる。

「……その庭に咲き誇るは、ケントの花……、知恵の実結ぶ、ディーンハイムの証なり……」

 キャロルの体と合言葉により、ジェネレーターに光が灯った。その光景にベルゼバブも満足そうに頷いた。

「よ~し、よしよし。仕込みは万全だな。賞味期限切れとは言え、使い様はあったと言う訳だ」

 ジェネシスがキャロルを求めた最大にして唯一の理由はこれであった。シャトーの起動にはどうしてもキャロルの体と、彼女が口にする合言葉が必要不可欠。起動キーに刻まれた文言をキャロルが読み上げなければ、シャトーはただの鉄くずでしかない。逆に言ってしまえば、例え記憶が無くともキャロルの体で文言を読み上げる事さえできれば何も問題は無いのである。

 そして、彼らにとってキャロルの価値とはここまでであった。

「もうそいつは必要ないな。ミラアルク、そいつの心を壊して始末しておけ」

 このままミラアルクを使ってキャロルの心も壊してしまおうとベルゼバブが指示を出せば、ミラアルクはその言葉に従いキャロルを自分の方に向かせてその瞳に宿った『不浄なる視線《ステインドグランス》』の精神摩耗《マインドフレア》により心を完全に壊そうとした。
 ミラアルクとキャロルが目を合わせ、瞳を通じて不可視の繋がりが出来る。

 その瞬間、キャロルから飛び出した金色に輝くオーラがまるでミラアルクに食らい付く獣の様に彼女の中に入り込んだ。キャロルから飛び出たオーラが入り込んだ瞬間、ミラアルクは自分の中で暴れるその”獣”により無理矢理捩じ込まれた邪悪な魔力を喰らい尽される。

「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?!?」
「な、何だッ!?」

 突然悲鳴を上げるミラアルクにベルゼバブも困惑する中、キャロル本人はその場に力無く倒れる。キャロルが倒れた後も、ミラアルクは悶えのたうち回り、自身の中で暴れる獣の方向に耳を塞ぎ悲鳴を上げていた。

「うわぁぁぁぁぁあっ!? あぁっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 どれ程そうしていたか、突然電池が切れた様に静かになったミラアルクは意識を失っていた。ベルゼバブが見ている前で、ミラアルクからは再び金色のオーラが噴き出しそれが一瞬”獅子”の様な顔になったかと思うと再びキャロルの中へと戻っていった。

「い、今のは何だ? いや、それよりも……!?」

 ベルゼバブは倒れたミラアルクの様子を見て、そして驚愕した。彼女に施しておいた洗脳が解けていたのだ。洗脳の為に彼女の中に潜ませていた魔力が綺麗さっぱり無くなっている。まるで何かに食いつくされたかのようだ。

 何が起きているのか分からないベルゼバブではあったが、これだけは確実に言える。キャロルに何か秘密があるのだ。このまま放置しておいては、確実にワイズマンの障害となり得る。
 ここは自分の手で確実にトドメを刺しておこうと、剣を構え倒れたキャロルに近付くベルゼバブ。気を失っているキャロルはそれに気付かず、目を覚ました時には既に振り上げられた剣が彼女の体を貫く寸前であった。

「え……あっ!?」
「死ねッ!」

 迫る凶刃を前に、キャロルは咄嗟に目を瞑り愛する少年の名を口にした。

「ハンスッ!!」

 その時、何者かがベルゼバブの剣を弾いた。目を瞑っていたキャロルの耳には剣が弾かれる音と、直後に何かが砕ける音が聞こえてきた。

「何、貴様はッ!?」
「え……?」

 一体何が起きたのかとキャロルが顔を上げ目を開けると、そこに居たのは自分を守る様に立ちはだかる緑色の服を着た女性の姿。その向こうには、手にしていた剣を無残にも砕かれて慄くベルゼバブの姿があった。

 唖然とするキャロルに対し、その女性は振り返り声を掛ける。

「ご無事ですか、マスター?」
「おま、えは……」

 それは女性ではなかった。否、人間ですらない。

 嘗てキャロルの配下として幾度となくS.O.N.G.の前に立ちはだかり、最後には予備機が颯人により倒された筈のオートスコアラー。

 ファラ・スユーフがそこに佇んでいたのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第229話でした。

先ずはオートスコアラーの復活です。この話は原作も特に人気でしたね。海外の人達もオートスコアラーの復活は嬉しいのか、海外の反応動画でも歓喜する人が居て見ていて楽しいです。

それとは別にキャロルの事を守る存在が居た事が明かされました。さてこのキャロルを守る者の正体は…………

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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