魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)
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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第7章】アウグスタ王国の王都ティレニア。
【第7節】はやて、暴走。コスプレ祭り!
そこで、ガイウス王とアティア王女とアインハルト、ユリア王女とカナタとツバサ、および、ザフィーラの7名は、会話の場を一旦、そこから南側にあるガゼボに移しました。
【なお、ここで言う「ガゼボ」とは、「庭園の中に築かれた(柱と屋根だけで壁の無い)休憩所」のこと。つまり、日本で言う「四阿」のようなモノのことです。】
実のところ、アインハルトはつい先程まで、このガゼボでアティア王女と二人きりになり、彼女から個人的な相談を受けていました。しかし、具体的な話に入る前に、王女はふと、姿の見えない「誰か」の視線を感じてしまったのです。
敵意など全く無い穏やかな視線ではありましたが、それでも、相談事はとてもプライベートな内容のモノだったので、王女はその視線をやや疎ましく思い、『少し歩きながら、お話をしませんか?』と言って、アインハルトを連れ出し、「壁際の植え込み」に沿って視線の反対方向へと(北側へと)二人で歩き出したのでした。
しかし、百歩も行かぬうちに、植え込みの前方奥から何やら妙な物音が聞こえたので、王女は思わず小走りに駆け寄ってその奥を覗き込み、ユリアたちの姿を見つけた……という経緯だったのです。
なお、その視線の主は、いささか親バカな一面のあるガイウス王でした。
今夜は「立夏の直前の満月」なので、今年も例年どおり「西の大広間」では「望月の宴」が催される予定です。そこで、ガイウス王は、昼食を手早く済ませた後、侍従と二人で、その大広間の設営の状況をみずから視察しました。準備はすべて滞り無く進んでいるようです。
その後、『今日は時間もまだ空いているし、いつものガゼボで一休みしようか』という話になり、王と侍従はその「大広間の建物」から裏手(北側)に出たのですが、二人はそこで、そのガゼボにはすでに先客がいることに気がつきました。
アティア王女とアインハルトです。
ガイウス王としても、二人が何を話しているのかが気になるところではありましたが、残念ながら、声が聞こえるほどの距離ではありません。侍従とともに植え込みの陰に身を潜めてしばらく様子を見ていると、その視線に気がついたのか、アティアとアインハルトは不意にガゼボを離れ、向こう側へと歩き出しました。
そこで、王は侍従の制止の声をも振り切って、巧妙に気配を消しつつ、娘と賓客の後を素早く静かに追いかけていったのです。(笑)
そして、王に比べれば随分と足の遅い侍従がようやく追いついた時には、何やら客人との会話が始まってしまっていたので、その侍従は慎重にも多少の距離を取って、王の背後に控えていました。
実は、そうした経緯があって、あのような状況となったのです。
ザフィーラが独り、ガゼボの外に立って待ち構えていると、やがて、そこへヴィータとミカゲが飛んで来ました。
訊けば、『八神提督が「実際に降りる前に、王様と少し顔を見て話がしたい」と言うので、後のことはもう一人の小隊長であるヴィクトーリアに任せて、二人で先に来た』とのことです。
主に下町に展開した上陸部隊の面々は、ヴィータとミカゲに置き去りにされたオルドメイも含めて、じきに全員がヴィクトーリアの許に集合することでしょう。
そこで、まずは、アインハルトがガイウス王と王女らのことをヴィータとミカゲにも紹介し、続けて、ザフィーラが二人の同僚をガイウス王と王女らに紹介しました。
ひととおりの挨拶が終わると、ミカゲはすぐに通信用のデバイスを取り出し、ガゼボの中央にあるテーブルの上にそれを設置して、ガゼボの東側の空間に大型の空間投影ディスプレイを準備します。
そして、やがて上空の抑制結界が外されると、ミカゲは八神家の独自ルールに従って、まずは音声回線だけをつなぎました。
「マイスター。映像回線の方も、今すぐつないで良いデスか?」
すると、いきなりシグナムの慌てた声が聞こえて来ます。
「ちょっ! ちょっと待て! 今はまだ、つなぐな!」
皆々の顔には思わず疑問符が浮かびましたが、そこで、はやては間、髪を入れずに、いかにも楽しそうな声でこう答えました。
「え~よ~。今すぐ、つないでや~」
「あ、主はやて! それはあまりに……」
ミカゲはちょっと困った表情でヴィータに問うような視線を向けましたが、ヴィータは何やら笑ってこう即答します。
「構わねぇよ。今すぐ、つなげ。多分、面白えモノが観れるぞ」
ミカゲがその指示に従うと、そのディスプレイには「相当に露出度の高い、真っ赤なパーティードレスで着飾った長身の美女」が映し出されました。
もちろん、シグナムです。
場所は、例の「巨大なウォークイン・クローゼット」の前、転送室の一郭で、はやては撮影専用のデバイスを駆使して、さまざまな角度からシグナムの立ち姿を撮りまくっていました。
「いや~。やっぱり、これぐらい身長があると、こういう服装が映えるな~。私の背丈では、なかなかこうは行かんわ~」
どうやら、はやてはまだまだコスプレを愛で足りなかったようです。(笑)
無論、犠牲者(?)はシグナムだけではありませんでした。
彼女の後ろには、色違いでお揃いの、妙に可愛らしい装飾過剰のドレスを押し着せられてしまったリインとアギトが『何故こんなコトになってしまったのだろう?』と言わんばかりの愕然とした表情で、力なく立ち尽くしています。
そして、もちろん、はやて自身も今はパーティー用のドレスで着飾っていました。シグナムのドレスに比べれば、随分と落ち着いた色合いで露出度も相当に低い衣装ですが、それでも、普段の「八神提督」からはちょっと考えられないほどのオシャレで華やかな衣装です。
ガゼボの側では、王家の三人を始めとして、みな思わず呆然となってしまいましたが、一拍おいて、アインハルトがようやく口を開きました。
「あの……陛下。提督は今、ちょっと、その……珍しく羽目を外しておられるようです」
「あ? ああ……そのようですな」
この状況には、さしものガイウス8世も困惑した表情を浮かべていました。
(実際には、ガイウス王は、はやてがあまりにも「今は行方不明となっている自分の妃」と瓜二つだったので、それもあって言葉を失っていたのですが。)
「提督! 今、よろしいですか? もう映っているんですけど!」
アインハルトが強い口調で言うと、はやてもようやく撮影を中断し、カメラに対して正面を向きました。
それに合わせて、ガゼボの側でも、全員が席を立ち、はやての映像の側を向きます。
「あ~。申し訳ありません、陛下。いきなり妙なトコロをお見せしてしもうて。私が今回の調査隊の指揮官で、八神はやてと言います」
「ああ。いえ、どうぞ、お気になさらずに。私がこの国の王、ガイウス・ティベリウス・アウグスタです。あなたのお名前は、アインハルト殿から幾度と無く伺っておりました」
「そうですか~。……ああ。それで、陛下。そちらへ実際にお邪魔する前にひとつ『大切なコト』をお訊きしておきたかったんですが……」
はやてが真面目な顔をして、ぐっと身を乗り出して来たので、ガイウス王もふと神妙な面持ちになります。
「はい。何でしょう?」
「そちらへお伺いするのに、私らは、仕事の制服とこういった服装と、一体どちらの方が良えですかねえ?」
《大切なコトって、そんなコトかよ!》
カナタは思わず、皆々の声を代弁して(?)心の中でそうツッコミを入れました。
ガイウス王も一瞬だけ呆けてから、こう答えました。
「……ああ。今しも宴の準備を進めておりますので、皆さん、是非ともそのままの服装でお越しください」
その返答に、はやては思わず歓喜の表情を浮かべます。
「だ、そうやで~。シグナム~」
「いえ! 私は……これは、さすがに着替えた方が良いのでは?」
恥ずかしさのあまり、シグナムはもうほとんど涙目になっていましたが、それでも、はやては容赦しませんでした。
「いやいや。現地の王様が『是非ともそのままで』と言うておられるんやから、ここは逆らったらアカンて!」
「いや! しかし、この素肌率の高さはちょっと……」
実のところ、シグナムのドレスは胸元も大きく開き、背中に至っては「ほぼ丸見え」になっています。
カナタ《素肌率って。(笑)》
ツバサ《確かに、胴体だけでも三割どころではありませんね。(苦笑)》
やがて、はやては真顔に戻って、念のために服装規定や「ローゼンでは禁止されている服装や配色」などについてもガイウス王に尋ねました。
「ベルカからの客人に対して、あまり細かいことを言うつもりもありませんが……過剰な露出はお控えいただければと思います。正直なところ、私どもの基準で言うと、そちらの女性の真っ赤なドレスはかなりギリギリです。
あとは……あくまでも宴の席ですので、無彩色は御遠慮ください。ローゼンでは古来、純白や漆黒は、とても宗教的な意味合いが強い色とされているのです」
おそらくは、ミッドにおける婚礼衣装や喪服などと似たような感覚なのでしょう。はやてはそう理解して、ガイウス王の言葉に大きくうなずきました。
「解りました。それでは、すでに地上に降りとる18名に関しては、着替えのために今から一度、全員をこちらに引き戻したいのですが、それは構いませんか?」
ガイウス王が『はい。どうぞ』とうなずくと、次の瞬間、アティア王女は何やら不安そうな表情でこう問い返して来ました。
「あの! その『18名』と言うのは、アインハルト様も含めた人数なのでしょうか?」
どうやら、彼女は今、『隣にアインハルトがいてくれないと心細い』といった心境のようです。
「いえ。アインハルトを除いた他の者たちが、全員で18名です」
そう言ってアティア王女を安心させたところで、はやてはまた相手を切り替えて、こう言葉を続けました。
「済まんが、アインハルト。私らが着替えてそちらへ上陸するまでの間、王様や王女様たちにいろいろと説明しておいてくれるか?」
「解りました」
アインハルトはすでにローゼンの暦で丸一か月、18日間もこの王宮に滞在しています。当然ながら、現地の言葉にもだいぶ慣れて、王族ともいろいろと普通に会話ができる状況になっていました。
「それでは、陛下。私らも、なるべくお待たせしないように急ぎますので、もうしばらくお待ちください」
「ああ。いえ、こちらも急がせてはおりますが、宴の準備に、あと2~3刻はかかると思いますので、できれば、それに合わせてお越しください」
「では、係の人たちをあまり急かしてもいけませんので……『今からちょうど3刻後に、私らを含めた総員27名が転送でそのガゼボの付近に上陸する』ということで構いませんか?」
「解りました。アインハルト殿まで含めれば、総勢は28名ですね。どうぞ、その線でよろしくお願いします」
ガイウス王は、転送という技術についてもすでによく理解していました。第一次調査隊の上陸部隊が現地の魔導師たちの目の前で艦内に収容されたことが、何度もあったからでしょう。
そこで、はやてはまた相手を切り替え、別の通信機に向かってこう言いました。
「ヴィクター。そちらは、今、どうなっとる? 13人、揃うたか?」
現地の王族にも聞かせるため、言語はわざとローゼン首都標準語を使っています。
「はい。間もなく揃います。それで、先程から現地の魔導師たちが『王宮へ案内するので、ついて来てほしい』と言っているのですが、これは従った方が良いのですか?」
「いや。王様によぉ訊いたら、『歓迎の宴を催したいので、パーティー用の服装で出直してほしい』とのことやったからな。一旦、全員を艦内に転送し、着替えた上で、今度は全員で王宮区へ直接に再上陸することにしたわ。
そういう訳やから、今そこにおる人たちにも、ヴィクターの方からそう説明しておいてや。それが終わり次第、君ら13名を転送で艦内に収容するわ」
「解りました」
二人がそんな会話をしている間に、アインハルトは取り急ぎ、カナタとツバサとザフィーラとヴィータとミカゲの5人に、念話でこう「お願い」をしました。
《済みませんが、皆さん。いろいろあって、この王都では、私は完全に『男性だ』と思い込まれてしまっておりますので、どうか全員で口裏合わせの方を、よろしくお願いします。》
《何だ? 誤解を誤解のままにしておきたい、ってことかよ。》
《はい。これ以上、姫君たちを徒に混乱させたくはありませんので。》
《……まあ、その方がかえって面倒な説明をせずに済むってことか。》
ヴィータは少し呆れたように軽く鼻を鳴らしながらも、アインハルトに了承の意思を伝えました。
《ああ。それと、今、カナタとツバサから聞いたのですが、局では『執務官の親族関係は特秘事項あつかい』ということになっているので、カナタとツバサは艦内で、一般の陸士たち15名に対しては、『自分たちにとって、アインハルトは「隣の家のお兄ちゃん」である』という「設定」にしておいたのだそうです。》
《……それで?》
《しかし、この王宮では、カナタとツバサは『私の妻の妹たちである』という「設定」になっておりますので、こちらも、全員で口裏合わせの方を、よろしくお願いします。》
《何だよ。異邦人には本当のコトを教えておいて、局員に対してはウソをそのまま通すってことか。》
《ああああ! 結果としては、そういうことになってしまうのですが……済みません。成り行き上、仕方が無かったんです。》
アインハルトの自責の念(?)に免じて、ヴィータたちはその件に関しても笑って了承したのでした。
はやては、まず王宮区にいる5人の方を先に回収することにしました。ミカゲは通信用のデバイスをアインハルトの手に委ねて、ガゼボの外へと駆け出し、ヴィータとザフィーラとカナタとツバサの4人もそれに続きます。
「大丈夫だよ、ユリア。ボクらは着替えて、すぐに戻って来るからネ」
「あと3刻ほど待っていてください」
「はい。私もそれまでに着替えておきますね」
そんな短い会話の後、5人は〈スキドブラドニール〉に転送されました。
それを見送ると、ガイウス王はひとつ大きな溜め息をついてから、自分の娘に向かっておもむろにこう語りました。
「ところで、ユリア。公爵家へ出向いたはずのお前が、今ここにいることに関して、私はいろいろとお前に訊きたいことがあるのだがね」
「いえ。あの……お父様! そんなことより、私たちも早く着替えませんと。面倒なお話は、また宴の後でお願いします!」
ガイウス王は思わず俯き、右手で自分の額を押さえ、またひとつ深々と溜め息をつきました。
(話を面倒にしているのは、お前だろう! ……まったく、この子たちは一体誰に似たんだ? やはり、二人とも『悪いトコロばかり、グロリアに似てしまった』ということなのか?)
たとえ「一国の王」であっても、「娘に対する父親ならではの悩み」というものは、やはり、一般の庶民ともそれほど大きな違いは無いようです。
さて、全員で27名となる上陸部隊のうち、〈スキドブラドニール〉に残っていたのは、第一分隊と第七分隊と第八分隊の計9名でしたが、そのうち、この時点で着替えを終えていたのは八神家の四人だけで、五人の男性陸士たちは「昼食後に実行された、はやてによるシグナムの撮影会の様子」をただ呆然と眺めていただけでした。
そこへ、王宮区から転送されて来た5名が合流し、しばらくして、ヴィクトーリアたち13名もまた合流します。
(実のところ、13人というのは、「一度に安全に」転送できる人数としては、ほぼ上限に近い数字でした。)
その場で、はやてはまず、ヴィータからの連絡に基づき、総員に「アインハルトからのお願い」について通達しました。
「そういう訳やから、アインハルト執務官のことを代名詞で言う時には、『彼女』ではなく、必ず『彼』と言うようにしてほしい。それから……いろいろあって、『彼』は、現地ではカナタとツバサのことを『義妹』として扱うから、そのつもりでいてな」
皆々が揃ってうなずくと、八神はやて准将は続けて、カナタとツバサからの報告に基づき、「王妃グロリア」についても、「彼女が自分と瓜二つであること」や「彼女がもう何か月も前から行方不明になっていること」を総員に伝達しました。
「どうやら、『馬車ごと崖下に落ちて、そのまま行方が解らんようになった』ということらしいんやけどな。いずれにせよ、王家にとっては、かなりセンシティヴな問題やろうから、みんなもあまり王妃様のことは話題にせんようにしてあげてな」
この件についても、全員が揃ってうなずきます。
「よし。それでは、総員、今から30分以内に着替えて、再びここに集合や。トイレは着替える前に済ませておいた方が良えで」
それを聞いて、大半の者はまず上の階のレストルームへ向かいました。
そして、最初に着替えを終えたのは、意外にも(?)ミカゲでした。
彼女はレストルームから戻って、ウォークイン・クローゼットに駆け込むと、大急ぎで「リインやアギトと色違いでお揃いのドレス」に着替えて出て来たのです。
リインのドレスは青地にところどころ橙色の装飾がついたもので、アギトのドレスは赤地にところどころ緑の装飾が、ミカゲのドレスは黄色の地にところどころ紫の装飾がついたものでした。いずれも、やや装飾が過剰ですが、必要以上に可愛らしく見える衣装となっています。
ミカゲは二人の隣に並んで大はしゃぎでしたが、アギトはそこで、しみじみと嫌そうな声を上げました。
「なんで、こんな色違いのお揃いが、三着もあるんだよ」
すると、ミカゲは驚愕の表情を浮かべ、あたかも『それは誰もが知っていて当然の知識である』かのような口調でこう述べます。
「何を言ってるんデスか、アギト姉さん! これは『プレシャス・ガールズ』の『ドレスアップ・フォーム』の衣装デスよ!」
「はァ?」
「知らないデスか? 何年か前に日本でやってた『変身ヒロインものアニメ』の主人公の三人組デスよ。……ああ、そうか……。背中の『光輪』までは再現されていないから、それで、ちょっと解りにくかったんデスね」
(そういうレベルの問題じゃねえよ!)
アギトは危うく、声に出して叫んでしまうところでした。
【作者註:架空のアニメです。(笑)】
「ミカゲは、そういう方面に詳しいですねえ」
リインもさすがに呆れ顔でそうコメントをしましたが、ミカゲはむしろ得意げな表情でこう応えました。
「五年前、フユカやハルナも一緒にみんなで地球へ行った時に、ミカゲはアニメに関して、すずかさんから薫陶を受けたのです」
(いきなり難しい単語が出たけど、こいつ、本当に意味、解って言ってるのかなあ?)
アギトは思わず、そんな疑問を抱いてしまったのでした。
【新暦90年の5月に催された「友だち結成25周年(四半世紀!)」の様子に関しては、「プロローグ 第10章 第2節」を御参照ください。
なお、原作には全く存在しない設定ですが、この作品では、『月村すずかは、サブカル方面にも造詣が深い』という設定で行きます。(笑)】
次に着替えを終えたのは、ヴィータです。
彼女が薄紫色を基調としたドレスを着てウォークイン・クローゼットから出て来ると、ミカゲはとても嬉しそうな表情で、彼女にこう語りかけました。
「ああ。やっぱり、ミ・ロードはシグナム姉さんとお揃いなんデスね!」
「何だよ。あたしはただ、はやての字で『ヴィータ用』と書かれたタグのついた服があったから、何も考えずにそれを着て来ただけなんだが……これ、シグナムのドレスとお揃いなのか? あんまり似てねぇぞ」
「それは、『ふたりはパニッシャー』の第1話で、主人公の二人組がカジノに潜入捜査していた時の衣装デスよ!」
「お前って……そういうことは、きちんと記憶できるんだなあ」
ヴィータが呆れ顔で言うと、ミカゲはここぞとばかりに『エッヘン』と胸を張ります。
(別に誉めてねぇよ……。)
ヴィータは引き続き、呆れ顔でした。
【作者註:もちろん、架空のアニメです。(笑)】
一方、ザフィーラは、はやてをエスコートできるような、儀礼的な正装をして出て来ました。カナタとツバサは、やや管理局の制服(男性用)に近い感じのズボン姿です。
また、ヴィクトーリアはいかにも貴族的な雰囲気の衣装で、エドガーとコニィはその護衛騎士という感じの服装でした。
【ちなみに、ハイヒールというのは元々、『地面が(人間や家畜の)排泄物まみれであること』を前提とした履物なので、古代ベルカやミッドチルダのような衛生環境の整った世界では、そんな「履く者の足を痛めつけるような不健康な履物」は、最初から存在していません。
ローゼンもまた同様であり、当然ながら、八神家の面々もヴィクトーリアもコニィも他の女性陸士たちも、足元は「踵周り」のしっかりとした履物になっています。】
他15名の陸士と陸曹たちは、元々あまり着飾ることに慣れていなかったため、おおよそエドガーやコニィからの「お勧め」に従って、まあまあ無難な服装に落ち着きました。
女性陣は4名とも一応はドレス姿ですが、かなり『動きやすさを優先させた』という印象です。
こうして、「はやての通達」から30分以内には、全員が再びその場に集合しました。
幾つかの注意事項を確認した上で、計27名を9人ずつ3回に分けて王宮区に転送する運びとなります。
最初は、八神家の7人とカナタとツバサが、次には、エドガーと平の男性陸士8人が、最後に、ヴィクトーリアとコニィと四人の女性陸士と三人の陸曹たちが、まとめて転送されました。
時刻はすでに14時になろうとしています。
そして、14時からは、王都ティレニアの王宮区にある「西の大広間」で、いよいよ「ベルカ(方面)からの客人」を歓迎する宴が始まったのでした。
後書き
さて、いささか中途半端なトコロで恐縮ですが、ここでまた、毎日の連載を一旦、お休みさせていただきたいと思います。
「第一部」の「第8章」以降に関しては……できれば年度末ぐらいには、遅くともゴールデンウイークまでには……掲載を開始したいと考えておりますので、どうか気長に待っていてやってください。 (2024/ 11/ 15)
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