ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士
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第53話 =釣りイベって実際にやったら絶対静かだよね=
「……何故こうなった…」
今日はここ、第22層中最大の湖で釣り大会らしい。まぁ大会って言ってもここに住む『ヌシ』を釣るというイベントでギャラリーも22層にいる全員がここにいるんじゃないかってくらいぞろぞろといるけど…。
すぐそこにはではそれぞれ変装したアスナやサチらがいる。なんだかんだアインクラッドの中ではアスナは『閃光』とその美貌が、サチたちは同じくその外見と少数人数でボス戦へと堂々と挑んでいる『凛々の自由』ということから有名人らしくそれぞれ外見をスカーフなら何やらで隠している。キリトの感想は「生活に疲れた農家の主婦の集まり」、思わず笑いを噴き出してしまった。
ちなみに俺は久しぶりの【うさんくさいおっさん】の称号、キリトは武装をしてない。
「……寒っ!」
おまけにもう11月だからか寒くなってきた。…おいシリカ、その首のマフラーにしてるピナ貸せよ。
「嫌ですよ」
「聞こえてたんだ…」
「…結構な頻度でブツブツ言ってるわよ?アンタ」
マジですか!?
「うん、マジ」
まさかのリズが肯定。…これからは控えたほうがいいのかな…
「…リクヤ、ニシダさん来たんじゃない?ほら、あそこ」
サチの指差す方向には麦わら帽子があんなに似合う人はいないんじゃないかっていうくらいに似合っている釣竿を持った初老の方が……竿とえさ大きくないですか?というのが初見の感想だ。
「わ、は、は!晴れてよかったですなぁ!!」
「こんにちは、ニシダさん」
元気よくこちらに来たニシダさんにペコリと頭を下げる。それにしてもアクティブなおっさ……人だなぁ…どうやら俺たちが来る前から釣りコンペなるものをやっていたらしくすでに場は猛烈に盛り上がっていた。
「えー…それではいよいよ本日のメインイベントを決行します!」
なんで俺がこのメインイベント…ヌシを釣るイベントに参加しているかというと……キリトに投げられた。これで9割くらい説明できるんじゃないか?
詳しく説明する3日くらい前、キリトとニシダさんが一緒に釣りしてるところに俺も通りかかり話をしているうちにキリトの腹の虫が鳴き声を上げ、せっかくだからということでニシダさんも一緒に夕食を食べた。そこでキリトがいつまで経ってもつれないと愚痴ったところいま、目の前にある湖は他に比べて必要スキル熟練度が高いらしい。その理由は『ヌシ』がいるから、ということで俺とキリト以外の女性陣が話しに食いつき釣ってみようということになったのだ。その時に筋力値を聞かれて明らかに俺の方が高かったけどキリトにパスしようとしたところ先にそれをやられてしまい話が進んで俺が引っ張り上げる役になってしまった。こうして釣り版スイッチのための即席パーティ的なものが作られたんだ。
「それではリクヤさん、準備はよろしいですかな」
「……よし!……いいですよ!!!」
俺もそのヌシに興味がないといったら嘘になる。なので気合を入れなおして桟橋をニシダさんの裏について歩く。一番奥まで来るとニシダさんはその40cmはあろうかというトカゲみたいなのを100人いたら100人がほめそうな綺麗なフォームでその湖へと投げ入れた!
「ニシダさん、引いてますよ!」
「なんの、まだまだ!!」
さすが玄人というべきか…初心者な俺にはタイミングがまったくわからない。いやぁ焦るのなんのって…
「掛かりました!あとはお任せしますよ!」
「あ、はい………うおっ!?」
自分を落ち着かせるために軽い気持ちで持ってみるとものすごい勢いで湖の中から俺を引っ張ってくる者がいた。これがヌシだろう…
「危なっ!……風邪ひくところだった…」
風邪なんてバッドステータス存在しないけど、気分的なやつだ。そんなことを思っている間にも釣られないように水の中で暴れまわっているのが振動でこちらまで伝わってきている。釣り糸もめちゃくちゃ動いているからニシダさんにもわかるだろう。
「……よいしょっと!」
少しずつ竿を引っ張りながら体勢を整える。力が入れにくかったらその分、力負けするからな。体勢を整えた後になると、その水中から引っ張っている力による釣り竿の重さはキャリバーンよりも少し重いだけのように感じた。
さ、ニシダさんの釣り竿…耐えてくれよ…?
「うぉぉぉぉっ!!!」
一応スキルには《特殊二刀流》もとい《双・大剣士》が常時セットしてあるのでその中の1つのソードスキルを一気に放つ。
特殊二刀流初級ソードスキル《カタパルト・ファング》。本来は右で切り上げて左で突き、右を斬り下ろす単調な技だけどその最初の斬り上げでシステムアシストもろもろで俺の筋力値が加算され思いのほか簡単につりあがってしまった。
「……え?」
ソードスキルに従い、何もない左手で空を突いているとその上を微妙な色をしたヌシ的な何かが俺の上を通過した。無理やり後
ろに腕を引っ張られたせいでイレギュラーが発生して中断させられる。ソードスキル特有の硬直が解けたと同時にドスンっ!と
俺の釣り上げたヌシ的な魚っぽい…6本足の生えた何かが落下してきた。
「「「「はぁっ!?」」」」
「……なんなんだよ、これぇぇぇ!!!!!!!」
という叫び声が今この場にいる全員から上がったものだった。驚きから生まれた恐怖でキリトたちはすでに一線を退いていたが
まだその顔は驚きでいっぱいだった。俺も恐怖を感じないといったら嘘になる…というか怖いので自分でもびっくりするくらい
の速さで皆が避難しているところまで走り抜ける。
「ハァ…ハァ……お、お前等…なに逃げてんだよ……!!」
「ご、ごめん…つい…アハハ…」
「あれで驚くなってほうが無理だろ…」
サチの乾いた笑いにかぶせるようにキリトもあの6本足の魚を見ながら言う。キリトの言うとおり…ヒースクリフさんでも絶対
に顔をしかめたりなんかなったりすると思う……気持ち悪さで言えばSAOで最も高い場所に君臨してそうな体型だ。体長は軽く
俺たちの身長を越しておりこの中で一番背の高いユカでさえ見上げなければ顔が見えなくらいだ。
「陸を走ってる…肺魚なのかな…」
「どうでもいいよ」
「……で、リクヤは武器持ってるの?」
リズがこう聞いてきた理由はアイツがモンスターみたい、ではなくモンスターそのものだからだ。その証拠に魚が視界に入ると
自動で頭っぽい場所にカーソルが出る。その色は黄色だから立派なモンスター…普通の魚みたいにアイテム欄に自動収納される
ものならよかったのに…と呟こうとしても意味がない。
「竿はあそこだし……ないや」
「……じゃあどうするのよ…あれ…」
ドスドスとゆっくり確実にこちらへ歩いてきている巨大魚を見ながら呆然と呟く。メイス使いなリズなので彼女も持ってきてな
いのだろう。シリカに視線を向けると「わたしも持ってないです」といわんばかりに首を横に振っていた。
「…私がやるわよ」
「お姉ちゃん、わたしもやる?」
「有名人はおとなしくしておきなさい」
危うくお前も有名人だろうがっ、とつっこみかけるがそれを言ってしまえばここにいる全員に当てはまるので黙っておこう。後
が怖いし…。
「リ、リクヤさん!…奥さんが!!奥さんが危ない!!」
「いや、奥さんじゃないですって」
何度言えばこの人はわかるのだろう…最初は女性陣全員と俺を含めたあの家にいる全員が顔をボンッと赤くしてしまうような爆
弾発言だけどここらへんはやはりおっさんなのか…
「それに任せておけばいいですよ」
そうは言うもののなかなか納得してくれないニシダさん。オブジェクト化させている仲間の竿を引ったくり前へ行こうとするの
をあわてて制す。
…そういえば、こうやってユカの戦闘を見るの初めてだな…見る機会はあっても俺も大変だったし…
いろいろと思っているうちにどうやらマジで戦闘するらしいなあいつ。それをいい獲物だと思ったのか巨大魚はスピードを上げ
てユカへと襲い掛かる。が、ユカにとっては遅すぎるだろう。俺とはほぼ真逆の敏捷の極上げのステータスだから軽い動きで直
前まで来て噛み付いてこようとする巨大魚の口から逃れる。
確かあいつの2つ名って『疾風の天使』だっけ?回復するのが天使っぽい…とかそんな感じでワイワイ言われてたっけ…。ソラが
ユカを2つ名で言わなかったのは以前、ソラの意識のときにその名前でユカを呼んでしまい恥ずかしくなったのかソラをボコボ
コにしたからだ。圏内だから助かったけど…。しかもそれをやったのが攻略組で行われる会議のとき、まぁほとんど全員が見て
いたわけでそれ以来、この名前が呼ばれることは無かった…本人の前では、だけど。
天使が舞うように次々と足での攻撃や水ブレス攻撃を軽々と避けている。アラウンドステップを使ってないはずなのにそれより
も綺麗に、隙を出さずに避けている。
時折右手が発光し、巨大魚に投剣が刺さっているのを見ると『シングル・シュート』で攻撃をちょくちょくしてるらしい。でも
さすがというべきか敏捷補正+スキル熟練度のおかげで剣が見えない。対プレイヤーになら圧勝できるレベルだぞ…。まぁ狙う
場所を絶対目で定めるからキリトも俺もシステム外スキル《見切り》を完全習得してるから避けるのはたやすいけどな。
と、考え込んでいるうちにあれよあれよという間にHPが黄色へと変化していた。もちろん魚の方が。
時々、投剣でスパッと斬るなんて行為もやってるけど彼女によれば「もし接近戦に急に入ってしまったら」のための対策らしく
アレは練習ってことになるらしい。
おっと……あと一撃で決めるみたいだ。投剣最上級ソードスキル『レイン・モーメント』の構えだ。AIが単純なのかまた噛み付
こうと大きく口を開ける巨大魚。その隙を見計らいソードスキルを発動させ一瞬、消えるように駆け抜ける。
口から尾にかけて一気に貫通したと思ったらHPが急激に減っていきあっという間に空になった。見たくも無いけど体内を見ると
多分投剣がいたるところに刺さってるんだろうなー…。HPバーがなくなった瞬間、この世界のすべてのものに起こる現象で光の
カケラとなってあの巨大な魚は姿を消した。
「お疲れ」
「ありがと…久しぶりにあんなに体動かしたわね…」
疲れた体をほぐすかのように腕を上へ伸ばし思い切り伸びをしている。あのあと、レア釣り竿がドロップしてそれをニシダさん
に渡して、今は帰路についている。あのあといろいろと騒がしくなったがさすがはニシダさんというべきか、一瞬でその場を収
め何事も無かったかのようにつり大会をはじめている。
キリトも負けじと竿を振っているが残念ながらヒットは今のところない。サチたちもおしゃべりをしながら釣りを楽しんでいて
まさかのキリトよりも十分に釣れている。
「…そろそろ、ね」
「何がだよ」
「ボス戦よ……75層のマップもあと少しで全部開けるでしょ?」
「…あぁ……」
75層…今までとてつもなく大きな被害を出してきたクォーターポイントの3つ目…恐らくあの運命の鎌並みの強さはあるとは思
う…
「でも、立ち止まってもいられないしな。精一杯頑張るさ」
「…本当にお気楽ね……フフッ」
普通に笑われた…。でも、せっかくソラが助けてくれた命だ…。生きなきゃどうしようもない。
「75層ボス!待ってろよ!ってな…」
今は遠くにある75層のボスめがけて拳を突き上げた。これで気合はもう十分だし決意も完璧に固まった!
そしてその時は釣り大会の数時間後、シリカへのメールで訪れた。送信元はKoB団長、ヒースクリフさんからの。
後書き
涙「どうしよう…」
リ「何がだよ…」
涙「いや…ユカのモデルの人とさ席が前後だったから話してたんだけど少々人間関係についてきちゃいまして…」
リ「問題があったのか?」
涙「うん……好きかどうかはわからないけど好意は持ってるなって思ったけどまさかのマルベリーのモデルの人が嫌いだってさ」
リ「Wow…」
涙「……そして席替えしたらそのマルベリーモデルの人と隣だし…」
リ「ユカのモデルの人とは離れたわけか」
涙「うん……どうやって情報を得ようか…」
リ「話しかければ「無理」…だろうな……」
涙「俺も正直マルベリーモデルの人嫌いなんだよな…いじるのは別にいいけど雑すぎる…しかもツッコンだらそれにノッてくれないし…そんな感じの人がもう一人隣にいるんだよな…」
リ「どんまい!」
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