ハドラーちゃんの強くてニューゲーム
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第18話
執事の様な衣装を纏いシルクハットを被った少女の後を追うハドラーちゃん、フレイザード2号、そしてクレオ。
だが、その追跡は3人の予想とは比べ物にならない程意外と早めに終わった。
「こちらでございます」
「もうか?」
正直、ハドラーちゃんは罠や伏兵を覚悟していた。が、その様なモノは一切無く早々と神秘的で光々しい大木の前に楽々と辿り着いた。
「……綺麗……」
フレイザード2号は目の前の巨木の神々しさに感極まっている中、クレオは首を傾げた。
「何で!?前に探索した時はこんな物は無かった!何時の間に!?」
どうやら、クレオは前回の探索ではこの神々しい巨木を発見する事が叶わなかった様だ。
そんなクレオの驚きに対し、ハドラーちゃんは目の前の少女にある疑惑が浮かんだ。
「貴様……何時からこの女を見張っていた?」
「見張る?」
「つまり、今回辿り着けたと言う事は、この木を渡す時が来た。そう判断したのだろ?」
少女は悪びれも無く慇懃無礼に言い放った。
「まったくその通りでございます。よくぞここまで成長なされた」
神々しい巨木の美しさに圧倒されて呆けていたフレイザード2号もようやく事の大きさに気付き、1本の魔法の筒を取り出した。
「で、この木の実を食べると……どうなるの?」
「より優れた存在に進化する事が出来ます」
フレイザード2号は魔法の筒から1匹のアニマルゾンビを解き放った。
「デルパ」
その様子を視て溜息を吐く少女。
「疑り深いですねぇ」
それに対してハドラーちゃんが皮肉を言う。
「すまんな。キルバーン猜疑心が増してしまった様だな?」
その間、フレイザード2号はアニマルゾンビに神々しい巨木が無数実らせた金色に果実を食べさせた。
一方のアニマルゾンビは一旦匂いを嗅いで危険性が無いと確認してからその果実をかじった。
すると……
「アッ!?……アオオォーーーーー!?」
アニマルゾンビは光の柱に包まれながらもがき苦しんた。
「な!?何なんだこの光は!?しかも、色々と痛そうな音が鳴り止まないぞ!?」
だが、少女はあっけらかんとしていた。
「大丈夫です。この狼は今より優れた存在に進化しているだけですから」
しかし信用出来ない。
「こいつ……死ぬんちゃいます?」
さて、一方の進化の実を食わされたアニマルゾンビは、激痛にもがく苦しみながら外見と声色を劇的に変えていた。
それはまるで、全身の骨格や筋肉、神経や内臓、遺伝子まで作り変えられているかの様であった。
「アオォーーーーー!?アッ……」
そして、アニマルゾンビは激痛に耐え切れずに意識を失った。
が、その姿は劇的に変わっていた。
「な……何!?」
進化の実を食べてしまったアニマルゾンビを包んでいた光の柱の中から出てきたのは、狼の耳と尻尾を生やした魔族の少女であった。
「ただのアニマルゾンビを……魔族に変えたと言うのか?」
執事の様な衣装を纏いシルクハットを被った少女は、しれっととんでもない事を言った。
「はい。この進化の実は、食べるとたった1時間で200万年分の進化・進歩しますから」
「200万年だと!?」
「しかし、効果はたった1回。1度進化の実を食べた者は、2個目の進化の実を食べただけでは絶対に進化しなーい」
そんな説明と進化の実を食べさせられたアニマルゾンビの激変を視て、進化の実を食す事を断ろうとするクレオ。
「私は遠慮します!」
クレオの拒否は本気だった。
ただでさえこの世界でのレベルアップの影響で激ヤセして美化してしまった上にそこに200万年分の進化・進歩による外見激変となれば、本来居るべき世界での生活に支障をきたすと判断したのだ。
「……臆したか?」
ハドラーちゃんは恐る恐る進化の実をもぎ取ろうとすると、今度はフレイザード2号が光の柱に包まれた。
「来た来た来た来た来たぁーーーーー!女性同士の性交による妊娠・出産の時代がぁーーーーー!」
「何時の間に食った?!」
だが、先程のアニマルゾンビとは違ってそこまでフレイザード2号の外見が変わる訳でも無く、右半身が氷の岩で左半身が炎の岩だったフレイザード2号の身体がより人間らしい外見と肌色になっただけにしか見えない。
(私の場合は……なんか人間に戻っただけって感じ……いや!……いや違う!)
しかし、フレイザード2号の中身は劇的に変わっていた。
(感じる!物凄く小さいけど、両肩と両足の付け根(鼠経部)に計4つの脳が備わっている!しかも、この小ささなのにかなりの智慧と記憶力を兼ね備えている!それに!)
何かを確信したフレイザード2号がハドラーちゃんの肩に手を乗せた。
「喜んでハドラーちゃん!私、ハドラーちゃんの娘を出産出来る様になったし、ハドラーちゃんも私の娘を出産出来る様になった、がはぁ!?」
ハドラーちゃんは、発言がアホ過ぎるフレイザード2号を殴ってしまった。
「アホかぁーーーーー!たった1度しか出来ない200万年分の進化をくだらない事に使いおって!」
さて、選択肢選びが最後になって―――
「いや、まだクレオが食べていなかったな?」
その途端、クレオは慌てて逃走するも直ぐにハドラーちゃんに捕まってしまった。
「良いではないか良いではないか。200万年分進化できるのであろう?なら、お前に損は無いと思うが?」
クレオは必死に拒否する。
「嫌々嫌々!ただでさえこの世界に来る前より激変したのに更に激変したら、私は2度と学校に行けなくなるぅーーーーー!」
が、クレオに拒否権は無く、ハドラーちゃんはクレオの口に無理矢理進化の実を放り込んだ。
「が!?ハドラーちゃん!?何を……嫌あぁーーーーー!」
「私は魔王だ。人間の嫌がる事をしたくなる性分なのよ」
クレオは拒否の絶叫を上げながら光の柱に包まれた。
「あーーーーー!」
が、クレオは先程の狼やフレイザード2号と違って外見に変化はなかった。だが、200万年分の進化・進歩を果たしてしまった身体なので、中身は劇的に変わっている事だろう。
しかし、クレオはBLを楽しむのに適していない容姿になったのではないかと言う恐怖に屈して失神してしまった。
「ひど……い……」
「だろうな。進化の実の毒味をさせられたのだから」
さて……今度こそハドラーちゃんが最後となった。
ハドラーちゃんは躊躇いも無く進化の実を食べて光の柱に包まれ、立ったまま意識を失って立ったまま夢を観ていた。
「ここは?」
ハドラーちゃんは夢の中で闇の中を歩き続けたが、目の前に何かの大群がやって来たのでその場で停まった。
「アレは……俺?」
そう。ハドラーちゃんの前に現れたのは、転生による女体化どころか超魔生物に成る前の……魔軍司令時代のハドラーだった。
それだけではない。
魔軍司令時代のハドラーは様々な種類のモンスターを引き連れていた。
それが何を意味するのか?それを正しく理解するハドラーちゃん。
「なるほどね。お前達は材料か?ザボエラが俺を超魔生物に作り変える際に使われた材料か?」
目の前の大群の正体は判明したまでは良かったが、問題はどう対応するかである。
「まさかと思うが、こいつら全員を超えろと……」
ハドラーちゃんは直ぐに超魔生物になった理由を思い出し、目の前の大群を倒すのは違うと直感で悟った。
「……は、違うな。俺は望んでこいつらを取り込んだ……なら」
一方の魔軍司令時代のハドラーは、何故か汗だくだった。
「何を恐れるハドラー?アバンの使徒に敗ける事か?それとも、大魔王バーンの機嫌を損ねて魔軍司令の座を失う事か?」
ハドラーちゃんの指摘に年甲斐も無く反論する魔軍司令時代のハドラー。
「だ……黙れ!何故バーン様に楯突く!?そんな事をして何の得がある!?」
「呆れたな。我ながら保身に走ったクズは、何時見ても醜いな」
「答えになっていない!それとも、本当はバーン様に楯突く理由が無いのに叛旗を翻したと言うのか!」
冷静に言葉を紡ぐハドラーちゃんに反し、魔軍司令時代のハドラーは完全に怯え慌てていた。
「何を言っている?単純に邪魔だからだ。勇者アバンとその使徒達との戦いにおいて、あ奴らは本当に邪魔だった。特にキルバーンはな」
「あ、あ奴らって……貴様、口の利き方に―――」
「それに、己の立場を可愛がってる男に、真の勝利など無い!アバンに敗れ大魔王バーンの盟約により復活したあの日から、お前は大魔王バーンの全軍を束ねる魔軍司令などではない。ただの着飾った奴隷だ」
「だ、黙れ!」
が、魔軍司令時代のハドラーは台詞を吐けない。
「そんなに大魔王バーンが怖いのか?竜の騎士バランが怖いのか?アバンの使徒が怖いのか?それでよく地上の王を目指せたな?」
そして、ハドラーちゃんは魔軍司令時代のハドラーの頭頂部を鷲掴みした。
「な!?……何をする!?」
「思い出せ。獄炎の魔王だった頃の勇気と貪欲さを」
そう言うと、ハドラーちゃんは魔軍司令時代のハドラーを吸収して取り込んだ。
そして……
「俺は……2度と恐れぬ!2度と怯えぬ!2度と諦めぬ!2度と前進と貪欲を捨てぬ!だから……魔物ども!俺の糧となって俺の力となれ!」
すると、ハドラーちゃんの目の前にいる大群は光の粒子となってハドラーちゃんに吸収され、再びハドラーちゃんを超魔生物に作り変える際の材料となった。
そんな夢から醒めると、ハドラーちゃんを包んでいた光の柱は既に消え、その代わりにハドラーちゃんの背中に3対6枚の赤い翼が生えていた。
「なるほど……俺を超魔生物に作り変える為の材料の中にヘルコンドルやキメラも含まれていたのか?」
そして、自分の内に秘めた者達を再確認すると、
「どうやら、今度こそ3種類の俺……獄炎の魔王、魔軍司令、超魔生物を本当の意味で同時に兼ね備える存在に進化したのだな……ま、200万年分進化して漸くと言うのが、我ながら正直情けなくはあるがな」
それは、ハドラーちゃんが本当の意味で魔族と超魔生物を同時に兼ね備える存在に進化した事を意味していた。
その頃、ガンガディアとぶくぶくは合体呪文について話し合っていた。
「なるほどな。同じ魔法でも、単純に2連射するのではなく1つに融合させる事で、その効果を変えると言う事ですか?」
「そう言う事だ。例えば、普通にモシャスを唱えても使用者が対象者に変身するしか出来ないが、2つのモシャスを同時に繰り出し合体させると……」
ぶくぶくは1匹の蠅を発見し……
「モシャサス!」
すると、その蠅がさそりばちに強制変身させられた。
「おー」
ガンガディアが打算無く素直にぶくぶくに拍手を送ったが、バルトスはこの後の展開にツッコミを入れた。
「で、さそりばちに変えられたこの蠅……この後どうする御心算か?」
元に戻った蠅を見送ると、ガンガディアはぶくぶくに訊きたい事を遠慮なく尋ねた。
「で、ぶくぶく殿は氷結呪文と火炎呪文を合体させた事は?」
それを聴いたぶくぶくは考え込んでしまった。
「双方の呪文が消える……ではなさそうだな?」
「ほう。直ぐには『氷結呪文と火炎呪文がぶつかり合ってお互い消える』とは考えませんか?」
ぶくぶくがそう思わなかった最大の理由は、ガンガディアの態度にあった。
「君は……氷結呪文と火炎呪文を使った合体呪文を観た事が有るだろ?」
「え?……あ、はい」
「名は?」
「名前?何の……でしょうか?」
「その合体呪文の名前だよ」
「……極大消滅呪文」
ぶくぶくは、極大消滅呪文と言う言葉を聴いて更に考え込んだ。そして、出した答えは、
「それを使った奴、本当に人間か?」
一方のガンガディアは完全に気圧されていた。
「あ、いえ」
「だろうな。原理は単純。氷と炎をぶつける事で発生する水蒸気爆発を矢の様に飛ばして相手にぶつける」
「フレイザード2号が使っていた極大消滅呪文は、確かにそんな感じでした」
が、ぶくぶくはここでガンガディア達に釘を刺す。
「でも!言うは易し行うは難し。氷と炎のバランスが少しでもズレれば……その力は間違いなく術者に返り、術者を屠りさる」
すると、ぶくぶくはメラとヒャドを組み合わせて光の玉を作り、それを森の奥へと発射した。
それだけで複数の木々が跡形も無く消し飛んだ。
「そなた!?使えるのか極大消滅呪文を?」
ぶくぶくは首を横に振る。
「いや……今のはメラとヒャドを組み合わせた物だ。メドローアじゃなくてメヒャドだ。でも、それだけでこの威力……メドローアは、使うな!」
とは言われても、フレイザード2号は堂々と使用しているし、マトリフも使ってきそうだ。この程度で怯えている場合じゃない。
「ですが、もし極大消滅呪文でなければ、の場面に出くわしたら―――」
「君は、既にその答えを持っているのにか?」
ガンガディアは言ってる意味が解らなかった。
「答え?……どこに?」
それに対してぶくぶくが指差したのが、
「君の懐だよ」
「!?」
ぶくぶくの指摘を受けて1冊の本を取り出すガンガディア。
「この書物が何かご存じで?」
「いや。でも気配は感じた。未知の魔法の気配が」
ぶくぶくがガンガディアから借りた本を読破すると、
「これだよ!君が極め、私の合体呪文と組み合わせるべき呪文は!」
が、ガンガディアはぶくぶくの言い分が理解出来なかった。
「その呪文と他の呪文を……組み合わせる、と?」
一方のぶくぶくは完全に興奮した。
「この呪文は、凄いぞ!この呪文さえあれば、ドラゴンの前でモシャスを使用すると言う面倒な事をせずとも、何時でもドラゴンの力を使えるぞ!」
「ま……まあぁ……そう……ですな……」
そう。ガンガディアがヨミカイン遺跡の魔導図書館から奪った呪文は『火竜変化呪文』!
術者自ら火竜に変身、鉄の様に堅くなった皮膚と絶大なパワー、口からの火炎……と言ったドラゴンの最強パワーを我が物にする呪文なのだ。
そんな火竜変化呪文とそれ以外の呪文を、ぶくぶくは合体させようとしているのだ。
「ヒャドとドラゴラムを合体させれば冷気を吐くドラゴンの力が使えるし、バギなら風を操るドラゴンになれる!いや!ドラゴラム同士を組み合わせればドラゴンを超える力が!」
ガンガディアはぶくぶくの興奮に完全に気圧されていた。
「……そ……それは……考えも……しません……でした……」
「では!早速使用ではないか!」
「は……はぁ……」
そこからのぶくぶくの動きは早かった。
早速火竜変化呪文の修得の儀式を行い、火竜変化呪文を使用しようとするが発動しない。
「儀式を済ませても術者の力量が不十分だと使えません」
「そうなのね」
そこへ、暗黒神ラプソーン第二形態の量産型モンスターである『エビルバルーン』が、たった1匹で現れた。
「これは―――」
エビルバルーンはどす黒い球体を賢者の家に向かって放った。
「……敵の様ですな?」
「……だな」
エビルバルーンは杖を掲げ、上空から岩の様な物を激しく降らせた。
が、エビルバルーンの神々の怒りや念じボールは賢者の家に施されている防壁の前では無力だった。
「……改めてこの家の恐ろしさを知りました」
「……僕様の師匠の凄さもね」
でも、エビルバルーンは懲りずに天から流星を降り注がせようとする。
「……野放しは、無理そうですね」
「……つまり、倒せと?」
そこで、ぶくぶくはある事を思いついた。
「そう言う君は、ドラゴラムを使えるか?」
「その為にこの本を手に入れたのですが、それが何か?」
「なら……お前のドラゴラムと僕様のバギムーチョを合体させるのだ!」
「えーーーーー!?」
ぶくぶくの提案に驚くガンガディア。
「何を言っておられる!?」
「試したいのだ!ドラゴラムの可能性を!」
「は……はぁ……」
この勢いでは拒否は不可能だと判断したガンガディア。
「判りました……火竜変化呪文」
「ガンガディアのドラゴラムと僕様のバギムーチョ!合体!嵐竜変化!バギグラム!」
すると、ガンガディアが鷲の様な翼を持ち羽毛に覆われたドラゴンへと変身した。
が、エビルバルーンは何も驚く事は無く、巨大化して太い腕を振り下ろそうとした。
だが、嵐竜となったガンガディアにとっては避けやすい大振りな攻撃だった。
「くお?」
「……やはり、無策な力任せは単調になり易いな」
そして、嵐竜となったガンガディアは口から強力な竜巻を吐いた。
「ぐおぉーーーーー!?」
「もっと知性を身に着けてから来るが良い……があぁーーーーー!」
「ぐおぉーーーーー!」
こうしてエビルバルーンは滅び、ガンガディアとぶくぶくの修業方針は決まった。
(師匠……僕様はこれから、ドラゴラムを極めようと思います!)
後書き
いよいよハドラーちゃんの異世界修行の始まり始まりー……
と思いきや、いきなり『進化の実』なんて卑怯技に走ってしまいましたね(汗)。
それに対して、ガンガディアはロトの紋章に登場する合体魔法が使用出来る賢者ぶくぶくと共にドラゴラムを極める為の修業が始まります……
明らかにこっちの方が異世界修行らしいですね(汗)。
で、
デスタムーア第三形態の量産型モンスターである『ルシファーヘット』。
暗黒神ラプソーン第二形態の量産型モンスターである『エビルバルーン』。
と続きましたが、ラスボスの量産型モンスターシリーズはもう少しだけ続くんじゃ。
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