バイオハザードなんてクソくらえ!【未完】
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第9話
ゼノビアは背もたれ付きの椅子に座り、デスクトップに向き合ってキーボードのキーを叩いていた時…、
「ゼノビア博士」
自分以外に誰もいないこの研究室内に、場違いにも程がある少女の声を、ゼノビアは耳にした。声が聞こえた方向はゼノビアから見て、右隣からであった。
ゼノビアはキーを叩くのを一旦止めて、右隣に居るであろう少女へ動揺することなく振り向く。
「何だ?”ホワイトクイーン”」
ホワイトクイーンと呼ばれた少女は、報告がある旨を伝える。その際、一瞬だけ姿がその場から消えたかと思えば再び姿を現した瞬間を、ゼノビアの瞳には確かに映った。
…そう、ホワイトクイーンと呼ばれた少女は人間では無かった。
少女は人工知能だ。レッド・クイーン同様にアンブレラ社の施設をしているのだが、ホワイトクイーンに関しては一部の施設を管理している。
「さっき、センサーで強い超能力波を探知した。アルファとベルタ波…両方のよ」
「83番のか?」
「いいえ。クローンから発せられたものでは無く、この施設の外から発せられたものよ」
「…本当なのか?」
「センサーではっきりと探知したの。最大級の超能力波が15分前に発生した。発生源は砂漠だったわ」
「…」
ゼノビアはその細い指を整った顎に添えて考える。
クローンでは無いのなら、いったい誰が?…いや、1人、確実に可能である人物をゼノビアは思い浮かべることが出来た。
「すぐに三角測量をしてくれ。その場所の緯度と経度が知りたい」
「はい、ただちに」
ゼノビアは椅子の背もたれに背中を深く預ける。
「本当に”彼女”であれば、問題は全て解決だ…」
ゼノビアは静かに笑みを浮かべた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
〜〜某砂漠 モーテル〜〜
此処、モーテルには5台もの車が円陣を組んでいる。
車の種類は色々とある。ハマーと呼ばれる黄色の車に軍用の野戦用トラック、救急車、タンクトレーラー、果てはスクールバスまである。
一見すると映画かCMの撮影かにも思えるかもしれない。しかしながら、この世界はとある理由で滅んでしまった。…世界中にウイルスが蔓延したことによって。
では無人かつ放棄されてしまったのか?…違う。放棄されていない。むしろ、生存者達の動く家とも言える。であれば、此処は野営地ということになる。
…では場面を変えて、その内の1台、ハマーの中に居るであろう生存者を見てみよう。
車の中で朝を迎え、前部座席でぐっすり眠っていた金髪の少女は、屋根を引っ掻く音で目を覚ます。
「ふぁ、ふぁ〜…ん?、車の屋根を引っ掻く音が聞こえるような?」
本当ならまだ眠っていたいと思う少女。しかし、気になったのか、目をゴシゴシと乱暴に擦りつつ、車のドアを開けて屋根を覗く。
屋根には何も無かった。
少女はほっと安堵の息を漏し、中に戻ろうとするが何かが車の屋根に留まる音が聞こえ、再び覗く。そこには…、
「…カラス?」
カラスが居た。しかし、目が変だ。どことなく恐ろしい。目は黒い筈が、充血しているように赤く血走っている。
「Kgyaaaaッ!!」
カラスは少女に威嚇した。少女は驚いた。このような事は初めてだったからだ。
襲われるかも、と生存本能が働いた少女は車の中に素早く戻り、ドアを勢いよく閉めた。
帽子を深く被り今も後部座席で眠っている女性の名を、少女は悲鳴にも近い声音で呼び掛け続ける。仲間からの信頼も高く、この車団のリーダーを務めている女性の名を何度も。
「大変だよっ。クレアッ、クレア起きてぇ!!」
悲鳴にも近い呼び掛けによって眠りから覚めて身体を起こしたクレアは、急いで運転席へと移動した。助手席には少女が座っている。
「Kマート、緊急事態なのね?」
「そうよ、”アレ”を見て!」
一方、その頃、デスクトップやパソコンなどの様々なコンピューター機器に囲まれているミニバンの車内で眠っていたマイケルは、監視カメラからの警報音により、突然と眠りから覚まされる。
ぱっと起きる彼であるが、すぐ目の前が車の天井であることを忘れており、派手に頭をぶつけてしまう。
痛みに悶えつつ、キーボードのキーを正確にそして速く打ち込んで警報音を止めると同時に、警報音が鳴った理由である監視カメラの映像をデスクトップに映し出す。
映し出された光景に、マイケルは目を丸くした。
「急いで知らせないと…っ」
マイケルはデスクトップの脇に置いてある小型のトランシーバーを取り、今起きている事を伝えた。
クレア、カルロスらは目を丸くした。
彼等が目にしたのは…カラスの大群が建物の屋根や電柱、電線に止まり、クレア達の乗る車両集団を取り囲んでいた光景だった。
「絶対に外に出ないで。窓を閉め切って、一切…音を立てないで」
クレアからの指示を聞いて、各車は窓を閉め切る。その後、音を立てぬよう。
カラスの大群は未だに留まっている。獲物を逃さぬ為か、獲物を探している為か…。
恐ろしい程の緊張感が生存者達に包まれる。カラスは頭が良い。群れの統率力や視力の方も優れている。
もしも、カラスが感染しているのならば、それは今の世界で生きる生存者達にとって、アンデットと同じく脅威であるといえるだろう。
早くここから離れていくのを祈るばかりだ。静寂の中で誰もがそう強く思い祈っていたその時だった…。
トランシーバーから大きな音がしたのだ。カラーンと甲高い金属の音だ。「本当にゴメンなさい」っと幼い少女は何度も謝罪をし、啜り泣いていた。
スクールバスの窓からボンネットに移動したカラスは、首を左右に振りながら鳴き始める。
静寂は破られた。
ボンネットの上に立つ同胞の鳴き声に次々と答えるカラスの大群は、止まっている場所から一斉に飛び立つ。
「発進して、脱出よ!」
クレアの号令で、各車はエンジンを起動させ、脱出を図ろうとする。
カラスの集団は円を作っていた。まるで竜巻のようだ。
カラスの集団から逃げようとするが、ただ1台…L・Jとベティの乗った救急車は砂にタイヤを取られてしまい、発進しようにもタイヤが砂に埋まってしまっているという状況に陥ってしまう。
「ちくしょう!埋まった!!」
「このままじゃ無理だ。オットーのスクールバスに移るぞ!」
「そうね!」
救急車から降りた2人は近くにスクールバスまで必死に走る。もっとも、車から出てきた獲物を見逃す程、甘くない。
竜巻から数十羽のカラスが食らいつこうと飛来するが、L・Jとペディの走っている姿を目撃した子供の1人が、搭乗用を開けたことにより、間一髪というところでL・Jとペディは無事に乗り込むことが出来た。
L・Jとペディを乗せたスクールバスはクレア達と合流しようとするが、”カミカゼ特攻”のように急降下し次々と体当たりしてくる為、子供達はそんなカラスを怪物のように思えてしまい、悲鳴を上げる。
フロントガラスにも突っ込んで来ている為、バスを運転するオットーはカラスのせいで前方の視界を完全に塞がれてしまう。いくらか走らないうちにバスは電柱に衝突してしまい、衝撃がスクールバスを襲った。
不幸はそれだけに留まらず、フロントガラスの枠も外れてしまい、スクールバスを取り巻くカラス達はフロントガラスへと殺到し始める。
「絶対に中へ入れるな!」
それを阻止せんとばかり、5人の大人が枠から外れてしまったフロントガラスを支える。…助けが来るまで。
一方、その頃…、
「クレア!あれって…!!」
Kマートはスクールバスが電柱にぶつかり、カラスの群れがスクールバスを取り巻いているのを見た。クレアもバックミラー越しで確認し、マイキーやカルロスらと共に救出に向かう。
カルロスの乗る野戦用トラックはスクールバス前から斜め右で止まり、マイキーが操るミニバンはスクールバスの後ろに止めて、その場に置いた。クレア、Kマートが乗るハマーは野戦用トラックの隣に止めた。
一行はスクールバスに取り残されている者達を救出する為、迅速に行動した。
「さぁ、行って行って!」
バスの非常用出口は既に開かれており、子供達は頭を低くして、小走りでミニバンに乗り込んでいく。クレア、カルロス、マイキーらは、カラスの群れに対しありとあらゆる銃器を駆使し牽制しつつ子供達の避難誘導をしていく。
「…!?」
そんな中、1人の青年がスクールバスとミニバンを繋ぐ鉄板からうっかり落ちてしまい、更にはゴロゴロと転がってしまった。それにより、2mは離れてしまった。
「い、嫌だっ。誰か助けッ…ギャアァアア!?」
孤立した青年を30羽ものカラスが彼に嘴を向け、容赦なく顔を突き、彼の顔を無惨な程に肉を抉っていった。
「早く来い!」
子供達がミニバンへと移れた中、スクールバスから出たL・Jはペディ達に早く乗り移るよう叫ぶ。
「ペディ、先に行け!」
オットーにそう言われたペディは、この状況で本当に先に行って良いのかと強く疑問に思った。
だが、そんなペディにオットーとディロンは身体の至るところからボタボタと血を流していても、今にも倒れそうだったになりながらも…ペディへと『漢の顔』を魅せた。
それを見て、ペディは歯を食いしばる。
自分の…自分為の犠牲になろうとしている。
フロントガラスから手を離したペディは一筋の涙を流し、踵を返す。非常用出口に向かっている際、彼女は座席の下で耳を抑え、金切り声を上げる金髪の男の子を見つけた。
「セバスチャン行くよ!」
ペディはセバスチャンを抱き抱えると、出口へと走り出した。カラスからの攻撃もあり、辿りついた頃には、血だらけとなっていた。
「この子を…!」
ペディからセバスチャンを差し出され、L・Jは抱える。ペディの後ろではオットーとディロンがまだフロントガラスを抑えているが、破壊寸前だ。
「早く乗せて上げて!」
「分かった!ペディも急げよ!」
「勿論よ、L・J!」
L・Jはセバスチャンを抱えて、急いでミニバンへと向かう。辿り着いたL・Jは手を伸ばすクレアにセバスチャンを託す。
L・Jもセバスチャンに続いて、乗った。
ふと、L・Jはペディへと振り向く。そこには彼女が曇りなき笑顔をL・Jへと向けていた。笑顔の中には、愛する人のみにしか魅せないであろう『女の顔』も含まれていた。
その後、ペディはスクールバスの非常用ドアを閉めた。
その意図に気付いたL・Jはペディに叫ぶ。
「よせぇぇええ!!」
フロントガラスを破ったカラスの群れはオットーとディロンを呑み込んでいく。数秒後、血だらけのペディに向かっていく。彼女は最期の悪足掻きに拳銃を撃つが、そんなのは全く当たらず、カラスに蝕まれていった。
「ペディーッ!!」
スクールバスの窓ガラスに顔を貼りながらずるずると倒れていくペディの姿に、L・Jは溢れんとばかりの涙を流した。
ミニバンの後部ドアはL・Jの目の前で勢いよく閉まる。
いっそのこと、忌々しいウイルスにヤられ、死んでいればよかった。もう、こんな世界には生きたく無い。こんな苦しみを抱えながら耐えねばならないのなら……もう、生きたくは無い。
最愛の恋人を失ったL・Jは、そう思わずにはいられなかった。
カルロスはミニバンを移動させるよう言い、自身は野戦用トラックに戻ろうとする。
「キャー!?」
1人の女性の悲鳴が聞こえた。
スクールバスの下から生存者が飛び出してきて、車がある所とは別の方向に右往左往していたのだ。
「ケリー、今行くぞ!」
カルロスは見捨てられる訳もなく、ケリーを追いかける。カラスがケリーを追っていたというのもあるが、何よりもう目の前で死んでいく姿を見たくは無かった。
カルロスは生存者の腕を掴んで車に戻ろうとする。だが、先程まで生存者の1人が使っていた固定式火炎放射器が火を噴いたまま回転し続けていて、カルロス達を炎の中へと呑み込もうとしている。
火炎放射器を操っていた人物は、既に事切れていた。
カルロスはケリーを庇うべく、彼女を抱きしめつつ自身の背中を火炎放射器の方へと向ける。
(もっとも、俺達2人は直に呑み込まれるだろう…はぁ、苦しまずに死ねると嬉しいんだが)
カルロスは瞼を閉じる。このまま炎に包まれる…
(…ん?炎に包まれていない?)
かと、思いきやカルロス達は炎に包まれることは無かった。それだけで無く、その炎はカルロスの背中に差し掛かってはいるのだが、不可視のバリアに阻止されているのか、熱すら感じさせない。
(いったい、何が…?)
それから炎がよじれ、螺旋状に上がり始めた。まるで炎自身の意思を持っているかのように。あるいは、何らかの意思が炎を支配しているように。
カルロスは驚いて瞼を開け、周囲を見回した。数秒にも満たない時間で、炎を支配しているであろう人物を発見した。
カルロスは、また驚いた。何故なら自分が知っている人物であったからだ。
「…アリス」
アリスは両腕を垂らし、6m程の離れた場所に立っていた。
炎は幾つかに分かれ、カルロスとケリーを焼け包む筈であった炎は火炎瓶や火炎放射器よりも熱を増し、竜巻を作っている上空のカラスの群れめがけて向かっていく。
数秒後には空全体が眩く燃えていた。炎に捕えられ、地面に落ちて焼け死んでいく。
気がつけば、全てが終わっていた。
カラスは居なくなった。アリスのおかげで。
アリスは口元をほころばせ、カルロスに歩み寄った。
「私が居なくて、寂しかった?」
カルロスは首を振りつつ、デトロイドで別れて以来の数年ぶりに再会した女性を見つめた。
「まぁ、ひとつだけ言えるとするならば…君はまだ、登場の仕方を心得ているよ。勿論、良い意味でな?」
アリスの笑みがぱっと広がった。しかしその後、疲労でなのか倒れかけてしまった。
カルロスは慌てて、アリスを抱き止めた。彼が庇ったケリーは、気がつけば何処かに行ってしまった。クレア達の元へと向かったのだろう。
アリスは自分達を助ける為に力を使い果たしたのだ。
「お帰り、アリス」
カルロスは助けてくれた恩人であり、友人のアリスへ感謝しつつ苦笑いを浮かべるのであった。
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