今度こそ、成し遂げてみせる【未完】
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第16話「その役目は私が引き受けよう」
「――軌道計算、出ました。このままでは、直撃は避けられません……」
オペレーターの藤尭が、手元に残った機械端末で月の欠片の移動コースを算出した。その後、このままだと地球に衝突してしまうっと付け加えて…。
事は只今より少し遡り、二課装者&ヒルデvsフィーネの激しい戦いは決着を迎えた。
空が夕焼けに染まる中、響は倒れていたフィーネの肩を背負って二課装者、ヒルデと弦十郎以下二課職員、数十名の民間人に響と未来の友人であるリディアン学院生徒3人の元へ向かい、ほんの少し離れた所に響はフィーネを近くの平らな岩に座らせた。
響のそんな行動に一同は呆れた思いで見ていた。
フィーネに向ける恐怖は少しあれど、敵意といった視線等は無く、嫌そうな表情は微塵も無かった。フィーネ…櫻井了子の事を知り付き合いがある一部の人間は、恐怖では無い眼差しを強くフィーネを注視していた。
岩に座って少し無言になっていた櫻井了子はスッと立ち上がり、この場に集う者達に語り始めた。
「…ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間……統一言語を失った我々は、手を繋ぐよりも相手を殺すことを求めた」
それは衝撃的で信じられない話であったが、フィーネは転生を繰り返してきた存在だ。現代社会を生きる人々からすれば仕方が無いとも言えたが、聞いていた皆が共通して思ったことは『本当にあったこと』であると、本能はそう強く訴えていた。
響は今一度に説得を試みたが結果は失敗。了子が足元の地面を砕き、陥没させながら放った鎖を勢いよく引き寄せる。
鎖の伸びる彼方へ視線を向ければ、カ・ディンギルによって砕かれた月の欠片へネフシュタンの楔が打たれていた。
無理やりに力を入れた反動なのか了子の身体が、ネフシュタンが、ボロボロに崩れ始める。
それでも、了子によって引き寄せられた月の欠片は、少しずつ、でも着実に、地球へと移動を開始していた。
「私の悲願を邪魔する禍根は、ここで纏めて叩いて砕く!この身は此処で果てようと、魂までは絶えやしないのだからな!」
ネフシュタンの鎧が砕け散りながらも、了子は話し続ける。その顔は、何処か狂気に包まれながらも笑みを浮かべていた。
「聖遺物の発する波形がある限り、私は何度だって世界に蘇るだろう!いや蘇るッ!どこかの場所を、いつかの時代、今度こそ世界を束ねるために!!」
それは執念、自身の願いを叶える為ならどんなことでもする果てしなき執念。
「アハハッ!私は永遠と刹那に存在し続ける巫女!フィーネなのだ!!」
だがそこに立って居る彼女からは先程までの強い意志など無く感じず、か弱い一人の女性であるとこの場に居る人々は思い感じた。
…その時、響の拳が了子の胸に当て、直後に小さな風が吹く。
それは必殺の一撃では無く只、コツンっと。
響は了子の言葉に頷きながら、その拳を下した。
「どこかの場所、いつかの時代、甦るたびに何度でも。私の代わりにみんなに伝えてください」
そう語る響の表情と明るくそしてお願いする声音は二課や装者、トリオ友人に未来、そしてヒルデなどが知る同じ笑顔で元気一杯な声音であった。
「世界を一つにするのに、力なんて必要ないってこと。言葉を超えて私たちは一つになれるってこと。私たちは、未来にきっと手を繋げられるということ。私には伝えられないから、了子さんにしかできないから」
「…お前、まさか」
了子は何かを察した顔をする。
「了子さんに未来を託すためにも、私が今を守って見せますね!」
響は確固たる決意をもって、曇りなき笑顔を向けた。
「……ふっ、本当にもう。ほうっておけない子なんだから」
了子の顔は、とても優しい笑みだった。
優しい笑みを浮かべた彼女は響の胸に指を当てて、最期の一言を遺した。ーー胸の歌を、信じなさい。
フィーネであった櫻井了子の体は、灰となり、風に舞い散らした。
長い付き合いだった弦十郎に翼そして奏は涙を堪え、二課オペレーターである安里あおい、1番に付き合いクリスは涙を流した。
そして現在、二課オペレーターである藤尭が、落下してくる月の欠片の計算を終え、この場に居る全員にそう報告した。
その言葉を聞いたこの場に居る人々全員が月の欠片を見上げる。
「あんな物が落ちたらッ…」
「私達もうッ…」
「世界の終わり、か」
それぞれが絶望に暮れる中、一人の少女が前に出た。
「響?」
少女の名は、立花響。
小日向未来の親友で、ガングニールを纏いし少女でもある。
誰よりも先に響の意図に気づいた未来が呼びかけ、未来の声を聞いた響は歩みを止めて振り返る。
振り返った響は覚悟を決めた顔をしており、その佇まいは一人の戦士のソレであった。
その時である。人々の中から、また一人の少女が前に出たのだ。
「おい、響、ちょっといいか?」
「え?何ですか、ヒルデさん…」
戦術礼装を身に纏う彼女の名は、ヒルデ。
彼女は一体何を思って前に出たのかは、本人のみぞ知るところであった。
第4.0話 その役目は私が引き受けよう(腹パンしてすまない)...
〈ヒルデSIDE〉
「え?何ですか、ヒルデさ…がはっ!?」
響がきょとんとした瞬間、響の腹部をうっかり殴ってしまう。
腹部を殴られた響は力なく私にと倒れこんだ。
そっと、響を地面へと横たらせる。
響の顔には、驚愕が浮かんでいた。
…すまない、わざとじゃないんだ。
躓いてよろめきそうになったから、手を伸ばしたのだが…まさか拳を力強く握り、勢いよく突き出すように前に出てしまうとは思わなかったんだ。
…だからどうか、翼も奏もクリスも私を殴らないことを願う他無い。
地球に向かってきている月の欠片問題を解決するから、どうか見逃して欲しい。
私は我が管理局技術部によって開発された【機械仕掛けの翼】を顕現させ、背中へと装着と展開をした。
これは空中飛行は勿論のこと、なんと宇宙空間をそのまんま飛べることが出来て、月面軌道まで行ける優れもの。しかし、月まで行けないことには悔やまれるし、稼働時間が一時間ちょっとだけ、…改良の余地有りだな。
響達のほうへと振り返る。
「その役目は私が引き受けよう。お前が、響が行く必要は無い」
私が持つ秘密道具とカウンターサイドの力があれば解決だ。
だから安心してそこから見守ってほしい。
「まさか、・・・ヒルデ!?」
さて、行ってこようか。
…いや、皆、そんな顔しなくてもいいじゃないか。
何故泣いているんだ?死に逝く訳でも無いのに。
「ヒルデさん…いやですッ、行かないで…!」
『ヒルデさん…いやですッ、逝かないで…!』
逝かないよ響。死に逝く訳でも無いのに…。
「…行ってくる」
私はそう言い残し、地から少しずつ浮遊し空中飛行に移り、やがては空へ羽ばたいた。
よかった、飛べている。
「ヒルデさぁぁああぁぁぁんッ!!」
響の声が遠く聞こえいく。
だからそんな悲壮な顔をしなくてもいいじゃないか、死地に向かう訳では無いのに。
私はそのまま雲を突き抜けていく。
飛行機が飛ぶ高度を超えた辺りで私は【食用宇宙服】を服用。
一見すると中身は錠剤であるが、これを食べると体の中で酸素が作られて、外側に膜ができ、宇宙服を着たのと同じ状態となる。
本当に不思議だ。たったこれだけで宇宙空間を生身で行けるのだから。
飛行を続け、やがては地球の重力より開放された私は軌道上を超えて宇宙空間へと辿りつき、背後に浮かぶ存在へと振り返る。
「(あぁ、地球は丸かった)」
一度口に出して言ってみたいがそもそも宇宙空間で声を出さる筈も無い。…出せてしまった。
そういえば劇場版の何処かのシーンで、そのような場面があったな。
さて、月の欠片を何とかしないとだな。…作戦内容はこう、だ。
【地球破壊ミサイル】を使って月の欠片を破壊する。【地球破壊爆弾】のミサイル版であるコレはそのまんまの意味である。後者と違い、威力は劣るが月の欠片であればギリギリ破壊は出来る、筈だ。
成功した場合、これは着弾した瞬間、『流れ星の素』が散らばり、やがては流星群のように降り注ぐようになっている。
始めは驚くかもしれないが、きっと響達は感動の余り涙が出てしまう程となること間違いなしだ。
成功しなかった場合、…どうか許して欲しい。
ま、まぁ、少なくとも地球へは悪影響は…あるかも、月の欠片が地球とキスする訳だからな。
と、とにかく、地球の為、明日を生きる人達の他に、私は阻止してみせる!
〜〜その後〜〜
月の欠片は跡形もなく消滅した。あの程度の大きさなら海に落ちたとしても問題は無いだろう。
仮に問題があったとしても、我が管理局が対処する。問題はない。
地球から見る景色はおそらく、いや確実に月の欠片を破壊し光輝いた後、砕け散った欠片が流星群となったことだろうな。…使用したコレが一つのみであったことをうっかり忘れてしまったが。
まぁ、いいか(吹っ切れ)。
こうして、月の欠片を破壊し地球を救ったヒルデ。彼女は地球へと戻り、皆の元へと帰還するのであった。
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