ハッピークローバー
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第百四十三話 豆腐を食べてその九
「避けられない、逃げられないんだ」
「そうよね」
「しかしな」
「しかし?」
「死の受け止め方が問題なんだ」
「受け止め方なのね」
「人の死を見てとう思ってな」
そうしてというのだ。
「どう感じるかがな」
「問題なのね」
「こころって小説あるだろ」
「夏目漱石さんの」
「あの作品は知ってるな」
「一応ね」
こう父に答えた。
「あらすじ自体は」
「さの作品の先生は自殺しているな」
それが作品の中で大きな出来事になっている。
「それはずっと友達を出し抜いて恋愛に勝って」
「お友達を自殺させて」
「そのことを後悔していてな」
そうであってというのだ。
「悩んで苦しんでいて」
「自殺したのよね」
「明治帝の崩御とな」
「確か乃木大将の殉死もあって」
「その二つの死を見てだったんだ」
「先生は自殺したわね」
「明治のこころと共にとなってな」
そう考えてというのだ。
「それでだ」
「自殺したわね」
「専制はな、先生が自殺したのは」
「明治帝の崩御と乃木大将の殉死ね」
「その二つがあってだな、死を前にしてだ」
「どうするかが問題ね」
「先生は自殺して全てを終わらせたが」
その後悔と苦悩、自らが招いたこととはいえそれに満ちた人生をというのだ。
「しかしな」
「それでもよね」
「一華もな、人の死に遭って」
「どうするかなのね」
「どう思ってどう考えてな」
「そういうことなのね」
「その人が死んで終わりじゃないんだ」
父は豆腐を醤油で食べてから言った。
「残った人達の思い出にもなるし」
「その人の中で生きるのね」
「存在がな、そしてその存在がずっと心に残るんだ」
その死を見て生きる人のというのだ。
「その死を見て考えてな」
「成長するの?」
「そうだ、その人の死は生きていく人達の心に残ってな」
「糧にもなるのね」
「そうもなるんだ」
「そうなのね」
「先生は自殺したけれどな」
こころのこの登場人物はというのだ。
「糧にもなるんだ」
「終わらせるだけじゃなくて」
「むしろな」
それこそというのだ。
「さらにな」
「糧になって」
「生きている人達を大きくするんだ」
「成長させてくれるのね」
「そうしたものだ」
「死ぬってことは」
「どんな命も死ぬからな」
このことを話すのだった。
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