現実世界は理不尽に満ちている!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第83話「土星沖海戦」パート4
前書き
ネオ・代表O5−1です。第83話パート4となります。
どうぞ、ご覧ください。
次々と入る友軍艦から悲鳴にも等しい程の通信が、〈アンドロメダ〉へとやって来ている。
態勢を立て直すことが出来ずに、勢い余って僚艦同士で衝突する艦も続出していた。波動砲・スヴェート砲戦を重視したマルチ隊形が、この時ばかりは仇になってしまった。
懸命にも重力傾斜から逃れようにも、波動砲を連射してしまったのだ。エネルギーが不足している。なんとか補助エンジンの力で離脱を試みているが、主機関のエネルギー量が少ない関係もあり、ただ虚しく、次々と呑み込まれてゆく。
その時だった。都市帝国内部にて遊弋待機中であったゴストーク級ミサイル戦艦群の一部から、新兵器である反物質ミサイル…『破滅ミサイル』が、一斉に発射されたのだ。
この『破滅ミサイル』はテレザートを守備していたゴーランド提督率いる守備艦隊にも、旗艦〈ゴーランド〉のみ装備されていた。
命中した物質を粉々に粉砕しつつ分解させ、あまつさえ周辺宙域に激しい乱気流を生じさせる性質を持っている。その破壊力はテレザートを封鎖していた巨大な岩盤をも、だ。
恐ろしや恐ろしや、である。
「敵人工天体内部より、多数のミサイルらしき物体を感知ッ。数は60!」
発射された破滅ミサイルの数は少なけれど、大損害を与えることが可能だ。地球・ブリリアンス艦隊の多くは回頭中だが、それでも各旗艦各艦は迎撃を敢行していた。
第9艦隊旗艦MMMアンドロメダ級〈マリクレール〉では、艦長のコピーアンドロイドが自虐的な笑みを浮かべいた。
「盛大なサービスだな。迎撃しろ」
ブリリアンス艦艇のみで構成された、第9艦隊は迎撃を開始。アクラメータ級からレーザーが斉射される。
ミサイルと魚雷の束は、重力波の流れに対して、半ば乗るようにして破滅ミサイルへと向かった。砲撃による迎撃も行われている。
やがて、集中砲火が功を奏したのか、破滅ミサイルが次々と誤爆した──強力な反物質の渦巻く嵐と衝撃波を伴って。
「衝撃波、来ます!」
「衝撃に備え!」
アンドロメダ級〈アポロノーム〉では重力傾斜の影響で、他のアンドロメダ級よりもやや前方にいた為、その衝撃波を最初に浴びることとなる。
衝撃波に襲われる〈アポロノーム〉であったが幸いにも波動防壁によって守られた。
とはいえ、連続の波動砲発射と宙域脱出の為に機関にエネルギーを回している関係で、波動防壁に回せるエネルギーが残り僅かしか残されていなかった。
そんな時、第二派がやって来た。
その内の一発の破滅ミサイルが〈アポロノーム〉の迎撃を掻い潜り、至近を通過した直後に爆発。機関部に影響が出る程の被害を貰ってしまう。
しかしそんな〈アポロノーム〉よりも最も被害を貰っている艦が1隻いた。
「〈アンドロメダ〉ッ、艦首下部を損失し徐々に重力に引き込まれています!」
アンドロメダ級1番艦〈アンドロメダ〉である。オペレーターは続けて〈アンドロメダ〉大破の報告をする。それに〈アポロノーム〉の艦長である安田は敏感に反応し、〈アンドロメダ〉の姿を画面越しで確認した彼はゴクリと息を飲んだ。
総旗艦〈アンドロメダ〉は、あの堂々たる戦女神の姿を失っていた。波動砲の発射機構がある艦首下部が破損し無くなる程に。
航行不能に陥る一歩手前にあり、その証拠に〈アンドロメダ〉は重力に逆らえずに引き込まれつつあった。
彼を失う訳にはいかない。安田は直ぐに指示を出した。
「機関長、最大出力を維持できる時間は!」
「ワープ出力なら多く見積もっても三〇秒とちょっとであれば……」
「十分だ、航海長!本艦左舷を〈アンドロメダ〉右舷に接舷させろ。そのまま出力最大で〈アンドロメダ〉を押し上げる!」
『──!?』
それはつまり、自分らは犠牲となって〈アンドロメダ〉を助けるという事。誰もが驚く中で副長が安田の命令に率先して頷いた。
一人また一人と安田へと頷き、安田からの命令を復唱し行動に移った。
「…すまない」
安田は誰にも聞こえることはない小さい声音で、感謝の意と謝罪を言葉にした。
波動砲口が大破しエンジン出力が低下傾向となり、最早これまでかと感じ取った山南であったがそんな時、艦首右舷側に衝撃がやって来たのだ。
「〈アポロノーム〉、接触!」
山南が顔を上げたと同時に映像通信が入り、モニタに投影される。
『山南総司令、行ってください!』
「安田、艦長……」
『我が〈アポロノーム〉は残る出力で〈アンドロメダ〉を押し上げます!』
「・・・」
あくまでも、職務を全うする軍人としての顔で、山南に提案する安田。
しかし山南は彼の行動に唖然としていた。何と言葉を発して安田に送ればいいのか分からない。〈アポロノーム〉の…安田が今していることのそれは…。
そんな山南の表情を見た安田は、素で最期の言葉を送る。
『山南総司令……山南、お前は最善を尽くした』
「や、安田…!」
最善を尽くしただなんてやめてくれ。俺は、俺は…! だがその山南の想いを口から出せることが出来ず、ただ彼の…親友の名を呼ぶことしか出来ないでいた。
『健闘を祈る!』
安田は姿勢を正し敬礼した。それが区切りであるかのように映像通信が終わった。
そうして数分もしない内に沈降していた〈アポロノーム〉は10以上もの破滅ミサイルからの攻撃により……爆沈した。
「安田……!」
一部始終を垣間見ていた山南は『シグナル・ロスト』となっている砂嵐状態の映像通信スクリーンから目線を落とし、力なく首を垂れた。
司令官として屈辱的な敗北を喫した事もそうだが一番はやはり、親友の安田を失った喪失感だった。
艦長席の肘掛けに置いていた掌を強く握りしめる山南は、何も声を発する事も出来ず、ただ、ただ、残存艦隊が離脱するのを待つばかりだ。
だがいつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。そう無理やり気持ちを入れ替えた山南。兎も角は機関部の応急修理を行う必要がある。
「機関部の応急修理作業を開始。手の空いている者は、最優先に機関部を修復せよ!」
艦内クルーに機関部の修復を急がせる。〈アンドロメダ〉は被弾の影響があったにせよ、一応は自力で航行が可能な状態だ。
しかし、だ。
ワープが出来ず、あまつさえ戦闘用に使うエネルギーすら余裕が無い状況。現時点では、四基の補助機関からエネルギーを回しており、戦闘不可能にしろ生命維持装置は継続して稼働している事は、安堵の息を漏らす一同であった。
だが、これでは総旗艦として機能することは不可能だ。最悪の場合、〈アンドロメダ〉を乗り捨てる事も可能性としては濃厚気味であったがこの宙域での退艦は望ましくない。退艦途中に狙われたら元も子も無い。
どうするべきか、と頭を悩ませる山南であったが副官から提案を受ける。
内容としては両舷にドレッドノート級を重力アンカーによって接触そして接続し、推進機関代わりとすることで地球圏まで離脱、時間断層にて修理すること。
山南は提案を承諾。副官は復唱した。
この戦いで戦力を大きく削がれた地球・ミドガルド軍。未だ膨大な戦闘艦艇を保有するガトランティスに抗う術は無いだろう。
だが、地球連邦政府は徹底抗戦を選r…いや確実に選ぶ。何故なら負ければ全てを破壊されるのだから。
しばらくすると新たな連絡が〈アンドロメダ〉に入ってきた。
「司令部より緊急電です。我が軍とガミラス軍、ミドガルド軍の増援部隊が急行中!」
「増援……今、ここに来たところで、巻き返せる筈がない」
まずガミラス軍の主力はクリピテラ級、ケルカピア級、デストリア級といった中小艦艇であり、戦艦クラスは少数だ。
戦艦クラスは主に艦隊旗艦として運用する事の方が多い。あのカラクルム級と対抗することを考えるのであれば、ゼルグート級やハイゼラード級、メルトリア級が必要だ。或は、実弾兵器の集中使用ならば、ガイデロール級を旗艦とし快速性に勝る中小艦艇でも対抗の余地ありと考えられる。
ブリリアンス軍であるが…正直なところブリリアンスはかなり謎で、そしてガミラス以上に警戒しなくてはならない存在だ。
アルポ銀河からやって来た存在であり、地球・地球人類を愛し、神聖視していること。技術力・軍事力は大小マゼランの覇者とも名高い、ガミラス以上であり、地球防衛軍の虎の子である、波動砲と同じ原理であろう決戦兵器を保有していること。
後者に関して…軍事力に関してはあくまでも、である。しかし、だ。
土星沖海戦に参加した戦闘艦艇は、ガミラス軍保有隻数と同等の戦力が集結してきたのだ。ガミラス以上の国力を持っていることは、間違いないと見てよいだろう。
しかし、それでもガトランティスの膨大な戦力には届かない。
となれば、彗星を足止めする為の部隊か。そう考えたものの、司令部が考える事に口を差し挟む余裕はない。
「後続の増援に任せるしかあるまい。副長、他の旗艦で無事な艦は?」
「〈アンタレス〉〈ドロットニングホルム〉〈デマヴェンド〉の3隻、残りは中破判定です」
「そうか…〈アンタレス〉、〈ドロットニングホルム〉、〈デマヴェンド〉は、戦闘可能な艦艇群を再編して現宙域に留まり、増援部隊と合流。その後は増援部隊並びに司令部の指示に従う様に。残る艦艇は、修理の為に一時地球へ帰還する」
山南の命を受けた三艦は、残存艦艇1140隻を纏め上げる間に、残る艦艇が次々とワープで離脱を図った。総旗艦である〈アンドロメダ〉は最後まで留まり、全てを見送ってから離脱しようと考えていた──〈ヤマト〉が白色彗星の目前にワープアウトしたのは、まさにこの時だった。
「〈ヤマト〉、白色彗星前方にワープアウト!」
「・・・」
「土方司令より入電。『これより、トランジット波動砲により彗星の破壊試みる』…以上です!」
「土方さん……」
かの上司であり先輩でもある彼が、土方が指揮する〈ヤマト〉。その〈ヤマト〉が、単艦でガトランティス本拠地を…。
今の自分には…自分達には何も出来ない以上、見守るしかない。
山南を含め、この戦場に集う将兵の誰もが固唾を飲んで見守る。
だがこの後、彼らは絶句することとなる。自分達が”それ”を知ることになるのは、数分も経たない後の出来事であった。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
ページ上へ戻る