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第77話「テレサとの邂逅・4号―――ダークネス卿との邂逅」
前書き
ネオ・代表05−1です。第77話「テレサとの邂逅、4号―――ダークネス卿との邂逅」となります。
どうぞ、ご覧ください。
この先に高エネルギー反応があると、アナライザーから報告を受ける古代達。
いよいよテレサのいる聖域に辿り着いた。目の前には見上げて首が痛くなってしまうのではと思う程の、高さを持つ巨大な扉があった。
扉の厚さすら尋常ではなく、優に数メートルもある。
どのような手段で以って、この扉を開閉していたのだろうか。
此処は、不思議でいっぱいだ。
そもそも、これほど広大な地下施設を、科学文明を棄てた彼らに作り上げられるのだろうか。扉はおろか、穴を掘り、壁や床、天井を囲うだけで、そう簡単に終わることがない労力が費やされている筈。
最もその扉は、融解されている形で開かれていた。
状況から察するに、ガトランティスによる攻撃であるのは容易に理解出来た。
扉を越えて進むと、足下で灰が舞った。
一行の足は地面を踏む度、靴底からサクサクと乾いた音が発する。ガトランティスによる攻撃前、聖域には植物が生い茂っていたのだろう。床も壁も、草花で満ちていたのだ。
まるで、あの世のようだ。
否、あの世だ。
そう思わせる、光景だからだ。
煤と灰で覆われた聖域は、しん〜っと静まり返っていた。それに何故か此処は、妙に明るい。不可解なほどに、明るかった。
太陽がないのに、どうしてか。
古代と真田、キーマン中尉が疑問の色を浮かべた時だった。斎藤が、”それ”を指差した。
一行の視線は、斎藤が指さしたほうへと集中する。
”それ”は、真っ白な球体であった。直径はおおよそ10メートル、といったところだろうか。壁や地面、天井から石灰柱のようなものが伸び、中空で支えられていた。
球体は古代達の到着を待っていたかのように、ゆっくりながらも高らかに鼓動している。
「この中に、テレサがいるのか…」
その時だった。
古代達は目を見開いた。何故ならば、色とりどりの草花が生えてきているからだ。球体から光が照らされ、恐るべき速度で成長していき、辺り一帯を覆った。
その直後である。
球体を支えていた石灰柱らしき物体が、球体からの光の内部に消えていったのである。
一同の視線が球体に集中すると、球体が開き始めた。花の薔のように解きほぐされ、光の花弁となって広がっていく。幾重の花弁は次々と解きほぐれると、―――そこには”彼女”がいた。
若い女性だ。
輝く、金髪の長髪。閉じられた瞼。どこか、幼さを残した容姿。
絶世の美女であろう。
しかし、”彼女”は断じて人間ではない。
あの神々しい―――否、存在そのものの「格」が違う。
あれは、間違いない。
あの女性は、彼女は―――女神テレサ。ただ一心に祈りを捧げ続ける、女神テレサだ。
その御姿に魅入っていた時だ。
テレサは目を開けて、古代達へ顔を向ける共に自分の名前を告げる。
「初めまして。私の名はテレサ。テレザートのテレサです」
女神は一人一人の顔に視線をやった後、一歩前へ踏み出した男―――古代へ視線を投げる。
「……」
古代は思う。
恐れが無いといえば、嘘になる。しかし女神と向き合うためには、意思を奮い立たせなければならない。なんの為に此処まで来たんだ、古代進。
「我々は貴女のメッセージを受け取り、此処まで来ました。何故、我々だったのですか? 貴女なら、全宇宙の誰にでも呼びかけられる筈です」
「私が選んだのではありません。〈ヤマト〉が来ることは、決まっていました」
決まっていた?
それは、どういうことだろうか…。
女神の言葉に理解が出来ない中、斎藤が問う。
「じゃあ、誰が決めたんだよ?」
彼は詰め寄る勢いだった。
しかしそれを、真田が手で制した。不機嫌そうではあったが、斎藤は口を閉じた。
「テレサ、貴女は我々よりも高位の次元に存在する―――高次元生命体ですね?」
「……」
女神テレサは答えない。
ただジッと、見つめているだけ。
だが、この場にいる誰もが理解する。不機嫌そうではあった斎藤にさえ、だ。―――その瞳が問いかけへの肯定、なのだと。
「貴女の本当の声を聞くため、私達は此処へ来なければならなかった。違いますか?」
それに対し、女神―――高次元生命体テレサは頷く。
「私と同じ次元に存在して、初めて私の声が聞こえる。《テレザリアム》は、そのためのゲートです」
やはり、そうか。そういうことなのか。
ブツブツと口ずさむ真田は、「?」を浮かべる古代達へ説明する。
「伝説の通りだ。肉体を棄て、生きながら天国の扉を潜ったテレザート人―――その精神の集合体たるテレサ。あの世とこの世の狭間にあって、宇宙の始まりから終わりまでを見通す。彼女は時間さえ可視化された、世界に住んでいる。そして我々は、その入り口に立っている。…まぁつまり、だ。我々がいる此処《テレザリアム》は、三途の川の入り口なのだよ」
真田の説明に、古代達は混乱しながらも何とか理解しようとしている。頭を何度も叩いている、斎藤がその例だ。
そんな中、だ。
古代は真剣な眼差しで、テレサに問うた。
「では今後、〈ヤマト〉はどうなると決まっているのですか?」
「……」
数秒の沈黙の後、テレサは告げる。
「あなたがたは、白色彗星をご存知ですね?」
瞬間、視界が暗転した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
無数の星々が、宇宙空間に浮かぶ。
宇宙空間には星々だけでなく、ガトランティスの母星―――白色彗星の姿もあった。
「全ての知的生命体を創造した、古代アケーリアス文明。彼らはこの宇宙に人間の種を蒔く一方で、安全装置を用意していました」
ふと、白色彗星と無数の星々の姿が消える。暗黒のみの空間が広がっていた。
「蒔かれた種が悪しき進化を遂げた時、それらを残らず刈り取るための装置」
闇の中には、赤い瞳があった。
しかしそれは、人のそれではなかった。
左に5個、右に5個。
5が縦列で対と為す。
合計で10。
輝くその瞳は、捕食者のそれであった。意思の疎通そのものを拒む。いや、そもそも意思があるのかすら怪しい。
逃げることを許そうともしない、怪物的存在。
だからこそ―――阻止せねばならない。
何故ならば、これこそが―――マルチバース存続の危機なのだから…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
瞬間、彼らの視界は元通りとなる。
光景は闇ではなく、聖地《テレザリアム》へと戻っていた。
そう。
今の現象はテレサによって引き起こされた、幻視。
「全ての生命の目的は一つ。存続することです。でも、ガトランティスは違う。彼らは滅びを司る方舟を、目覚めさせてしまった。この宇宙に存在する全ての人間を滅ぼすまで、その進撃は止まらないでしょう。あなた方は白色彗星帝国と、対決せねばなりません。地球だけでなく、この宇宙に住まう全ての生命のために」
その時だった。
植物に覆われた《テレザリアム》に、半透明姿の人間が浮かび上がった。《テレザリアム》に来るまでに見た、遺骸と同じ姿だった。綺麗な状態で、だ。
誰の目でも、彼らが見えている。
その中でも特に斎藤は誰よりも驚愕し、キョロキョロと見渡していた。
「私に許されているのは、祈る事だけなのです」
かつて肉体を保持していた半透明姿の人間はテレサの元へ引き寄せられると、彼女の纏う光の中へ溶けるように消えていった。
「全ての知的生命を創造した、神のような文明が残した破壊装置」
古代は身を乗り出した。
「地球の全戦力を結集しても、対抗出来るかどうか分かりません。ヒントを、戦うためのヒントを頂けないでしょうか」
テレサは何も言わない。
その代わり、すっと手を差し出すポーズをした。
再び、視界が暗転する。
先ほどと同じ、自分達は宇宙空間に立っている。無論、呼吸が出来るため幻視であるのは察することが出来た。
「あの彗星を取り巻くガスは、システムの防御装置。それを中和するだけのエネルギーを以って彗星の中心核を狙い撃てば、取り除くことは出来ましょう。ですが、そうした話に大きな意味はありません」
白色彗星の姿が消えると、美しい青い星―――《テレザート》が浮かぶ。
「あなた方は、此処に来た。それはこの私も "縁" によって、あなた方と結ばれたということです」
いつの間にか《テレザート》は、テレサの瞳へと変わっていた。金髪が緩やかに靡き、金砂のような光の粒が古代達の周囲を舞う。
テレサは両の指先を絡め合わせ、祈る。
「ヤマトとは大いなる "和”。"和" とは "縁" によって結ばれた命と命が生み出す、フィールド」
今もそうだが、テレサは音を以って話していない。古代達の翻訳装置が作動している訳でもない。ただ、テレサの意思そのものを、声として認識しているだけに過ぎない。
「"縁" とは、異なる者同士を繋げる力。重力にも似た確かさで事象と事象を結び、次元の壁さえ越えて、作用します」
古代達は、思わず息を飲んだ。
故人の姿が見えるからである。最も親しかった、家族や親友を。
「"縁" の力とは、あらゆる物理法則を超えたもの。それほど巨大な暴力を以てしても、決して覆すことは出来ない」
いつしか故人の姿は区別することが出来なくなり、金色の輝きへと変わっていく。瞬間、テレサと一体化した。
「大いなる "和"。それは、〈ヤマト〉を中心とする "縁" が―――《滅びの方舟》を止めるでしょう」
そう締め括るとテレサは祈りを解き、手のひらで受け皿を形作った。すると、1隻の宇宙戦艦が顕現した。誰もが知る、宇宙戦艦ヤマトの姿であった。
顕現していた〈ヤマト〉は、強い光がテレサによって包まれた。
これが、縁なのか。
いったい、どのような力が生まれるのだろうか。
ただ一つ、わかったことがある。圧倒的な力なのだと、古代達は理解していた時だった。光は強さを増して、テレサをも呑み込む。
古代達の視界は一面、光に覆われ、古代の意識さえも飛ばされかねない強烈なものと化す。
瞬間、古代達は我に返った。光で覆われていた彼らの視界は元通りとなり、聖地《テレザリアム》の光景を映し出していた。
夢を見せられていたかのような、感覚だった。
「彼女も、その一人…」
テレサはその視線を、古代達の背後へと投じた。その言葉に、古代達は振り返る。今し方、潜ってきた扉へと。
足音が聞こえる。
それはゆっくりながらも、近づいて来ている。靴音が、次第に大きくなってきている。
通路の奥の闇が形となる、人間。
やがて、その姿の全貌が現れた。
長い黒髪。
黄金に輝く瞳を持ち、猫のような縦長。
鈍い光沢を放つ漆黒の鎧を身に付け、靡かせる真紅のマントには二丁の大釜を交差させていた。
美女である。
しかし、彼女を見るだけで肌寒くなってしまうのは何故だろう。あれは、何者だ…? 喜悦の色を浮かべる彼女は、口元を歪めていた。
「初めまして、テレサ。それに、〈ヤマト〉の諸君。会えた事、誠に光栄の至りだ」
涼やかな声で、そう告げた。
後書き
https://www.pixiv.net/artworks/121796956、こちらは4号ことダークネス卿の容姿となります。どうぞ、ご覧ください。
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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