ハドラーちゃんの強くてニューゲーム
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第16話
王子様の隣にはお姫様、なんて誰が決めたのかしら?
凍れる時間の秘法に1年以上も時間を奪われる事態をどうにか回避したハドラーちゃんは、今度こそ異元扉を使って平行世界に旅立ち、大魔王バーンに対抗できる力を手に入れる好機であった。
が、
「ここはぁ……森か?」
「森……の様ですね……」
ガンガディアとバルトスは困惑した。
自分達は修業する為に平行世界に来た筈なのだ。なのに何で森の中に放り出されているのか?
「やはりフレイザードの意見まで入れたのがあかんかったかぁー?」
「ちょ!?何で私のせいになってるのよ!?」
「その前に、フレイザードよ、異元扉に何を願った?」
「それは勿論、百合について語り合える友の存在!」
またしてもフレイザード2号の百合萌えの女性の同性愛に巻き込まれたガンガディアは、不快のあまり眉をヒクヒクさせる。
「貴様……何時になったら真面目になるんだ?」
「何時?私の百合は、いつも真剣そのもの!私が百合の事で不真面目になった事があったかぁー!?」
「笑い事ではない!」
と、こんな感じでガンガディア達が口論している中、ハドラーちゃんは破邪の洞窟の地下200階に匹敵する危険な雰囲気を正しく感じ取っていた。
「いや……ここは兵力増量として使える。この森には、この俺が喉から手が出るほど欲しいモンスターがうようよいる!」
だが、何かを発見したバルトスがそれを否定する。
「では何故あの家は無事なのですか?」
バルトスが指差す方向を視ると、確かに家庭菜園付きの一戸建てが有った。
これは確かにハドラーちゃんの先程の台詞と矛盾する。
破邪の洞窟の地下200階に匹敵する危険の中で、何故この家は原形を留めているのか?
「確かめて来ましょう」
ガンガディアが問題の家に近づくも、柵についている扉に手を触れる直前で停止した。
「ん?どうなされました?」
「結界だ」
「結界?」
「はい。この家には、モンスターの侵入を阻む結界で護られています。恐らく、この家が未だに原形を留めているのもその為」
「ガンガディア!ちょっとどいて!」
フレイザード2号は、ガンガディアの推測が本当かどうかを試す事にした。
「火炎呪文!」
フレイザード2号が放った火炎弾は、柵に触れる直前に砕け散った。まるで強靭な壁にぶつかって砕け散ったかの様に。
「呪文が効かない!?」
「ふーん……なるほどね。この家を護ってる結界は、この家に敵意を持っている者は触れるどころか接近さえ叶わない様ね」
ソレを聞いたハドラーちゃんは、フレイザード2号に意地悪な質問をする。
「貴様の極大消滅呪文と、この家を護る結界、どっちが強い?」
「気持ちは解りますが嫌ですね。家まで吹き飛ばせば、家の中を探索出来なくなるし」
フレイザード2号の反対意見に頷くガンガディア。
「……確かに」
一方のバルトスは難しい顔をする。
「だが、火炎呪文すら効かぬ結界を相手に物理だけと言うのは……」
そこまで言われると試したくなるのが、今のハドラーちゃん。
「なら……今の俺の超魔爆炎覇と、この家を護る結界、どっちが強い?」
そう言いながら右手から覇者の剣を生やすハドラーちゃんだったが、
「止めといた方が良いよ」
「!?」
謎の家を護る頑強な結界の破壊に夢中になっていたとはいえ、こうも簡単に背後を取られた事に驚くガンガディア達。
いたのは2人の人間。
1人は女性で、少し癖のあるセミロングヘアに巨乳が特徴の美少女。
もう1人は男性で、空飛ぶ笊の上に胡坐をかく肥満体であった。
そのどちらも内に秘めた何かがアバンやマトリフに匹敵する事を正しく感じ取るハドラーちゃん。
(できる!こやつら……只者じゃないな?)
ガンガディア達が臨戦態勢をとる中、先に口を開いたのは少女の方だった。
「この家、現在の所有者である私の許可が無いと入れないの。そこの女の子の右手に生えてるチートアイテムを使ったとしても」
その言葉が、ガンガディア達の警戒心を更に刺激する。なにせ、火炎呪文すらはね返されたからだ。
「と言う事は……私達の敵ですね?」
まるでハドラーちゃんを庇う様に立ち位置を変えるガンガディアとバルトス。
その途端……肥満体が少女に文句を垂れた。
「おい!まーたくだらない事に現を抜かし過ぎて、僕様の言いつけをまたサボったな!?」
「……へ?」
肥満体の予想外の台詞に困惑するガンガディア達。
「え、いや、その……今、何て……?」
「あー、やっぱりこの家に拒絶されたと勘違いしたかぁ。クレオのヘマのせいで」
だが、ハドラーちゃんは肥満体の台詞を信じない。
「受け入れる?この俺が何者かを知ってて言っているのか?」
対し、肥満体は即答した。
「君達が暮らす平行世界の地上界を消滅させようとしている大魔王バーンに仇為す獄炎の魔王……ハドラー」
ガンガディアは驚きを隠せない。
「何故それを!?ここは異元扉の力が無ければいけない平行世界の筈!なのになぜ、大魔王バーンの名を口にする!?」
肥満体は、笑いながら答える。
「これ、全部僕様の予知能力に出てきた名前だよ。僕―――」
その時、近くで不穏な唸り声が響いた。
「どうやら、ここで立ち話をしてる余裕は無いな?これはクレオちゃんの家に―――」
が、唸り声の主は既にハドラーちゃんに斬り殺されていた。
「邪魔者は消えた。さあ、話して貰おうか?」
肥満体は、取り敢えずクレオと呼ばれる少女の所有物と化した家にハドラーちゃん達を招き入れた。
「改めまして、僕様の名は『ぶくぶく』。この家のかつての主の弟子をやらせて貰っている者です」
ガンガディアが首を傾げる。
「かつて?では、この者以外の住人は?」
ガンガディアの質問に対し、ぶくぶくは困り顔で説明する。
「話せば長くなるんだけどね……」
ぶくぶくの話によると、元々はぶくぶくの師匠の家だったが、師匠の寿命が残り僅かになってしまったので、どんなモンスターも決して侵入出来ない鉄壁の結界を張った上で、生涯を賭けて回収した様々な神技級の武具や薬草、超常的な野菜や技術などを家ごと『大魔境』と呼ばれる強大なモンスター達の巣窟と化した森の中心に転送した。
ぶくぶくの予想では、師匠は自分以外の人間を試し、お眼鏡に適った者に自分の全てを授ける予定だったのではないかと言う。
勿論ぶくぶくも挑戦はしたが、相手は危険度MAXの大魔境。群れで出現すれば大規模な街が滅ぶレベルのモンスターが当たり前の様に生息している森が相手では魔力がもたず、先ほど言った防御結界は瞬間移動呪文もはね返してしまう。
で、結局、ぶくぶくは師匠の家に辿り着いた英傑の卵を擁護する方向性に移行したのである。
「それは流石に諦めが良過ぎるのでは?」
ガンガディアのツッコミに対し、恥ずかしそうに答えるぶくぶく。
「我ながら、僕様にしては随分後ろ向きな考えだと思いますよ。でも―――」
ハドラーちゃんがトドメの一言を言ってしまう。
「敗けたのか?この森に」
「……そう……だな」
「あの女はこの森に勝ち、この家を手に入れたと言うのにか?」
ぶくぶくは頭をボリボリと掻きながら答える。
「そこなんだけど……」
そこでぶくぶくの言葉は詰まった。
「……どう言う事だ?」
クレオは、ぶくぶくの師匠の家の一室にある黒い渦へと案内した。
「つまり……この穴がこの家とこの娘の家を繋げたのだな?」
「はい……この扉は別の世界に繋がってるの」
「異元扉と同類か?」
「いや……ワイと違って行ける場所は完全に固定やな」
「つまり、この家とこの娘の部屋を行き来する事しか出来ないと?」
「この穴……どうやって手に入れた?」
クレオの話によると、今は亡き祖父は骨董収集が趣味で、秘密裏に家をリフォームして隠し部屋を作る程だった。
そんな隠し部屋をひょんな事から発見してしまい、祖父が集めた骨董の1つである黒い箱に手を触れた途端、ぶくぶくの師匠の家の中に行ける黒い渦が発生。
で、辿り着いた家で、クレオは次々とチート級のスキルやアイテムを入手し、大魔境に巣食う強大な魔物達を討伐し、貧弱だったステータスは凄まじいレベルアップを遂げる。
「ただ……」
「ただ?」
自分の身に起こった出来事を説明するクレオが残念そうに俯く。
が、ガンガディアは直ぐにその理由を聞かなければ良かったと後悔する事になる……
ハドラーちゃんはクレオに問うた。
「まさか……自分の行いを『ズル』と呼んでないか?」
ぶくぶくもガンガディアもその点は気になっていた。
なにせ、クレオは他の者とは違って大魔境に挑む事無くこの家に辿り着いて自分の物にしてしまったからである。
だが、ハドラーちゃんはそれを責めない。
「ならは、寧ろ自分の悪運を誇るべきだ。勝負は時の運と言うしな。だが、俺は不幸すら自らの力でねじ伏せるがな」
でも、クレオの残念そうな俯きは治らない。
「ふー。真面目だな?」
「ですが、ハドラー様の予想は外れの様ですぞ?」
「なるほど……その点は既に通った道か……」
ぶくぶくはハドラーちゃんとバルトスのやり取りにツッコミを入れた。
「あんたらも十分真面目だよ」
一方、フレイザード2号はクレオの俯きに、同類に出逢ったかの様な感覚が走った。
(天啓!)
「クレオさん……って言いましたよね?」
「あ、はい」
フレイザード2号は、自分の両小指を絡ませ合いながらクレオに訊ねる。
「貴女も百合(レズ)かしら?」
クレオの心に衝撃が走った。
何と、クレオの真の悩みに気付いてくれた者がようやく出現したからだ。
だがら、フレイザード2号の質問に対して満足気な笑顔で答えるクレオ。
「いいえ。私は衆道(ホモ)です♪」
そう言いながらサムズアップだけでクロスを作るクレオ。
ソレを聞いたフレイザード2号は、悪魔の様な笑顔を浮かべた。
「お主も悪よのぉ」
「いえいえ、お代官様ほどではございません」
嫌な予感がしたガンガディアは、余裕に見せたい笑みの額に、青筋と冷や汗を滲ませる。
そして……その嫌な予感は的中した。
「つまり、クレオさんはこの家の力で容姿が変わり過ぎて、本当は男性に好かれたくないのに男性に好かれ過ぎてしまったのです!」
「王子様の隣には王子様。それでいいじゃない!それがいいじゃない!」
「じゃあ、お姫様の隣にはお姫様ですねー♪」
「私の名前は合尾クレオパトラ。高校2年生。いわゆる腐女子と言う奴です」
「私はフレイザード2号!ハドラー様の奴隷兼愛人と言う奴です!」
「イケメン同士が仲よくしているのを見ているのが何より大好き大好物。男子同士の熱い絡みを見ては胸を熱くしながらカップリング!絡んでいてもいなくても有り余る妄想力でカップリング!隙あらばカップリング!」
「つまりつまぁーり、男性の隣に居られるのは男性のみだとするなら、女性は女性と絡み合うしかない!と言う訳ですなぁー♪」
クレオとフレイザード2号のふざけ過ぎたやり取りを聴いたハドラーちゃんは、今の様な小娘の様な姿になってしまった事を初めて感謝した。
もしも、1周目の時の姿で2周目に辿り着いたら、クレオは容赦無くハドラーとガンガディアを無理矢理カップリングする事だろう。
想像しただけで体が震えるハドラーちゃん。
(うおーーーーー!何を考えているのだ俺はぁーーーーー!)
「そうなの、たとえイケメンと縁があっても私とじゃ意味が無いの。王子様の隣には王子様。彼らには関わらず、そばでのぞき見するのが私の幸せ。私のポジション……」
だが、そこでクレオがまた残念そうに俯いた。
「……そう……思ってたの……あの日までは……」
そうて……クレオはぶくぶくの師匠の家と自分の部屋を行き来出来る黒い渦を手に入れ、次々とチート級のスキルやアイテムを入手し、大魔境に巣食う強大な魔物達を討伐し、貧弱だったステータスは凄まじいレベルアップを遂げた影響により、肥満体の腐女子だったクレオが痩せて別人のような美少女に変貌してしまい、男同士が仲良くしているのを見て妄想するのが大好きだったクレオは、望んでいなかった「乙女ゲーム」的モテ期(逆ハーレム)到来に苦しんでいたのだ。
とここで、ガンガディアが珍しく吠えた。
「いい加減にしろよぉおお!」
これには吠えられる覚えが無い筈のハドラーちゃんも驚いた。
「キャラ崩壊ぃーーーーー!?」
それもその筈。
ガンガディアはトロル系モンスターに貼られた『樽の様な身体で涎を垂らしながら、原始的な武器を振り回して暴力を振るう事しか能が無い』と言うレッテルに抗うべく、常に自分を鍛え直し続けて理知的な存在を保ち続けてきたのだ。
そんなガンガディアが理性をかなぐり捨てて吠えたのだ。ガンガディアをよく知る者が驚くのも無理は無い。
興奮し過ぎたクレオとフレイザード2号とガンガディアを、どうにか宥めて落ち着かせたハドラーちゃん達。
「申し訳ありません。フレイザードの百合萌えの女性の同性愛が更に悪化すると思うと……恥ずかしながら恐怖に屈してしまいました」
ガンガディアの気持ちが解るバルトス。
「まさか、平行世界の勇者が、女性でありながら衆道萌えの腐女子とは、誰が予想出来ましょうか?」
対して、異元扉は誤魔化す。
「いやぁー、平行世界は広いでぇー」
「広過ぎるよ!」
一方、ハドラーちゃんは自分の性格を疑った。
クレオは異元扉を手に入れるまでは何も接点が無いので全く関係無いが、フレイザード2号はハドラーちゃんが禁呪法を使って作った禁呪法生命体の筈である。
禁呪法生命体は諄い様だが、術者の精神が反映された意思を持つ。1周目の時に作った術者の性格の表に出ていない部分が反映される場合もたまにあるものの、ここまで術者との違いが多い禁呪法生命体は珍しいのだ。
だから、禁呪法を使ってフレイザード2号を作ったハドラーちゃんが自分の性格を疑うのは自然な流れなのだ。
が、ハドラーちゃんには時間が無い。
ハドラーちゃんが越えなくてはならないのは勇者アバンだけではない。自分がこれから支配しなければならない世界を、自分がこれから倒さねばならない好敵手が巣食う世界を、大魔王バーンの魔の手から救う為にこの世界に来たのだ!
なら、今はそんな話をしている場合じゃない!
「そんな事より、クレオやぶくぶくが言う様なチートアイテム、どのくらいの威力なのかを魅せてみろ!」
ハドラーちゃんに急に言われて困惑するクレオ。
「威力って……この私と戦うの!?」
「その為に来た……俺はどんな手を使ってでも大魔王バーンを斃さねばならんのだ!もう直ぐ俺の物なる地上界を護る為にも!」
ソレを聞いたぶくぶくは、優しくツッコんだ。
「真面目だなぁー」
だが、
「どんな理由が有れ、1番最初に僕様の師匠の家に辿り着いたのはクレオちゃんだ。なら……僕様が君がクレオと釣り合う強敵かを試すのも……自然な流れだろ!」
それを合図にガンを飛ばし合うハドラーちゃんとぶくぶく。
とは言え、家の中で戦えば家が壊れてしまうので、庭に出る事にした。
「先程の言葉、本当だろうな?貴様に勝てば……そこにいるクレオと戦わせてくれるんだろうな?」
言われたぶくぶくは既に準備を整えていた。
「君達の世界のメラの最高位はメラゾーマで、ギラの最高位はベギラゴンだろ?」
ぶくぶくの両手には、既に2つの光の玉が有った。
「右手からメラゾーマ、左手からベギラゴン……」
ぶくぶくのこの言葉に、ハドラーちゃん達は驚きを隠せない。
「何!?極大閃熱呪文を……片手で?しかも2つの呪文を同時に?」
「!?」
その間、ぶくぶくは2つの光の玉を融合させようとしていた。
「合体!」
それに対し、ハドラーちゃんは事前に右手から覇者の剣を生やす。
「閃熱大炎!メゾラゴン!」
ぶくぶくが放つ閃光を伴った巨大な火炎がハドラーちゃんを襲う。
「ハドラー様!?」
だが、ハドラーちゃんは右手の覇者の剣で閃光を伴った巨大な火炎を斬ってしまった。
「……や……やるじゃないか。メゾラゴンを斬るだなんて」
一方のハドラーちゃんは涼し気だ。
「何を驚く事が有る?俺に楯突く勇者が使用した技をちょこっと真似ただけだ」
後書き
今度こそ!ようやく!「平行世界で修業編」がスタートです!
んで、正直に白状しますと、ハドラーちゃんが平行世界で出逢う勇者の設定をギリギリまで悩んでいました。
ロトの紋章から拝借するか、勇者アベル伝説から拝借するか、CLAMP作品から拝借するか、本作オリジナルを製作するか……
で、丁度良いタイミングで【異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する】の存在を知った私は、【私がモテてどうすんだ】の『芹沼花依』が【異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する】に登場する賢者の家を手に入れた的な女勇者『合尾クレオパトラ(通称クレオ)』を作成しました。
百合萌えの女性の同性愛であるフレイザード2号と衆道萌えの腐女子であるクレオとの組み合わせは、ガンガディアの胃袋がマッハかもしれませんが、どうか頑張ってついて来てください(笑)。
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