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第71話「ガトランティスの戦の真髄を、その身に刻め」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第71話「ガトランティスの戦の真髄を、その身に刻め」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――ガトランティス軍・ゴーランド艦隊旗艦〈ゴーランド〉。

 旗艦〈ゴーランド〉の、とある一室にて。
 部屋の内装は天井に位置する照明と投影スクリーン、そして一つの椅子のみ。

 その部屋には、2人の男がいた。
 侍従と、艦隊を率いる男の後継者―――ノル。

 少年ノルは侍従に幼生体用の軍服から、元服にして将校用の軍服へと着替えさせている。
 そして現在、侍従より散髪をされていた。整っていた黒髪を現世代―――19代目ゴーランドと同じく、眉間から頭部頂点に掛けて髪が残されている―――スキンヘッドへする為に…。
 
 「……」

 今日この時を以って、幼生体としての時間は終わる。
 ただのノルから「ゴーランド」の名を受け継ぎ、自分は新たな「ゴーランド」となる。

 何代にも渡って繰り返されてきた、ガトランティスの営みだ。
 ガトランティスは、人工的に創生された生命体だ。人間と違い、クローニングによって世代を重ねてきた。

 ゴーランド艦隊旗艦には、《元服の間》なる部屋が設えられている。ノルがいる部屋は、その《元服の間》に該当する。
 旗艦そのものは初代ゴーランド時代より乗り換えられているが、《元服の間》はその意匠を変えることなく引き継がれている。

 「……」

 自分は20代目ゴーランドになるのだと、ノルは改めて思う。一日でも早く、一人前へと成らなければ。失望の眼差しを、向けられない為に…。

 つい先日の、狩りでの出来事が脳裏に過る。
 テレザート星を覆うため牽引された巨大岩盤に巣食う砂竜を討伐すべく、ゴーランドに連れられた砂竜狩りの事をだ。

 ゴーランドと共に砂竜狩りへと赴き、大型ライフルで次々と砂竜を射殺するゴーランドに、ガトランティスとは何であるか、を教え込まれた。
 
 ガトランティスに貢献する為だけに生きていき、愛という感情が無いからこそ完全たる存在でいられることを説き、20代目ゴーランドとするべく、現ゴーランドに指示された私は―――砂竜の母と幼体を射殺した。
 
 感情が無い故にガトランティスは完璧であるとの考えに対し、今こうしてゴーランドから教育を受けている自分らの姿は、「愛」によるものではないかと疑念を抱いたノル。しかし、それはエゴに過ぎない、と言い切られた。

 引き金を引いたその時の私は、何故か泣いていた。無意識的なのだろうが、不思議でしょうがなかった。

 私は、異物なのだろうか。…いや、事実そうなのだろう。

 だが、だ。

 自分が抱く、この感情は怖い。しかし、もっと知りたく思ってしまうのは悪いことなのだろうか。

 「…お前は、抱かれた事はあるか?お前を育てた、先代のお前に」

 複雑な感情が渦巻く中、ノルは侍従の男に己の疑問を静かにぶつけた。
 この男の先代も、こうして「ゴーランドの後継者」の元服を手伝った。初代より「ゴーランドの後継者」を見届ける役目は、今の時代でも変わらない。

 「え?」

 突然の事に、侍従は手を止めた。
 質問の意図に計りかねる表情を浮かべるも、それは直ぐデフォルトである無表情へと戻る。

 「いえ、そのような事はありません」

 ノルは瞑目した。

 「そうか」

 やはり、普通だ。ガトランティスとして、当然の事だ。
 
 我々は、愛に惑わされる愚かな生命体とは違う。
 そう、だから、抱いて欲しいなんていう想いなんぞ間違っているのだ。
 
 心に纏わりつく、馬鹿で愚かな思考を振り払う。その思考は、ガトランティスとしては未熟なのだ。幼生体であるが故の迷い。例え今日、幼生体を卒業したとしても、自分が幼く未熟であるから。

 次々と散髪用のケープに落ちる髪の毛のように、この場で棄てなければならない。

 「完了しました」

 「そうか」

 散髪が終わり、サッと散髪用ケープを取り外す侍従。
 その後すぐ、艦隊司令官ゴーランドと同じ―――黒基調のロングコートを着用させる。

 「いってらっしゃいませ」

 「ゴーランド」となる少年ノルは、艦橋へと歩を進めた。

 

 艦橋の扉を潜り、入室するノル。
 彼の気配を察知した40代後半の武闘派イケオジ男―――19代目ゴーランドは、声高らかに言い放つ。

 「初陣である!」

 ガトランティスの名将の一人、ゴーランドが指揮する艦隊は全てミサイル戦艦で統一されていた。
 火力馬鹿の戦艦であるゴストーク級ミサイル戦艦の装備は、名前の通りミサイルを中心であるため砲塔の数は少なめだ。
 
 この火力馬鹿ミサイル戦艦の艦首には、白色をする巨大なミサイルを引っ提げている。それだけでなく中小のミサイルにおいても、その殆どが剥き出しの状態で搭載されている。

 艦首ミサイル攻撃されたらどうするだい!…という、野暮なツッコミは通じないガトランティスのミサイル戦艦。断じて、そういった事を口にしてはいけない。

 つまりは、だ。
 漢の浪漫(ロマン)仕様を追求し設計され、そして造船されたのが、このゴストーク級ミサイル戦艦なのだ。

 「大帝より、勅命が下った」

 その言葉にノルは身を引き締めると、ゴーランドの一步後ろで直立不動した。
 
 「〈ヤマト〉がこの星に来る。大帝は、我らに〈ヤマト〉を殲滅せよとの御命令だ」

 「〈ヤマト〉…」
 
 メーザー提督の第八機動艦隊を無力化した、地球の戦艦か。

 「ガトランティスの戦の真髄を、その身に刻め」

 ノルは、より背筋を伸ばした。

 「はっ!」

 この時、ゴーランドとノルは知らない。
 〈ヤマト〉より先に、漆黒艦隊を率いる4号―――ダークネス・ブリリアンスがやって来るのを。

 邂逅の時は、刻一刻と近づいて来ている。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ―――ブリリアンス軍・漆黒艦隊旗艦〈ダークネス〉。

 〈ダークネス〉のブリッジ。
 そこでは4号―――ダークネス卿の姿があった。漆黒の装甲服に身を包む彼女は、王座にも似たキャプテン・シートに深く腰掛けていた。

 ダークネス卿と自称する美女は、憎悪が籠もった眼差しを向ける。つい先程ライトセーバーで切断した、哀れな給仕―――奴隷をだ。

 「全く、この私に不味い酒を飲ませるとは」
 
 それに飽き足らず、だ。 
 毒を混ぜていたとは。私に対し毒が効かないとはいえ、その行為―――万死に値する。

 最もそれは、既に終わった事。
 元々、死刑囚であった男だ。遅かれ早かれ、終了処分は決まっていた。

 「おい」

 ダークネス卿は、後ろで控える奴隷に声を掛ける。

 「ひッ!?」

 蒼白な顔で怯える奴隷に、ダークネス卿は告げる。

 「それを片付けておけ、視界に入れたくない」

 「は、はい!やらせていただきます!」

 同僚の奴隷と共に、死んでいる彼を片付ける。
 それを一瞥する彼女は愉しげな色を浮かべ、内心で彼女に感謝した。

 ありがとう、ギルド長スヴェート。
 社会のゴミは、有効活用させてもらっているよ。

 感謝の礼を述べたダークネス卿は、視界を展開する艦隊へ向けると命令を下す。

 「これより我が漆黒艦隊は、作戦行動に入る。全艦隊、前進せよ。殲滅の時間だ。さぁ、殲滅のメロディを奏でよう!」

 まもなく、テレザート宙域は沸騰の時を迎えようとしていた。

 
 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 《ある日のギルド長》

 最近、奴隷が欲しくて堪らないと4号が言っている。欲しい欲しい、と何度も。

 奴隷って、あれだよな。

 人間でありながら人間としての名誉・権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる存在。 所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされる。

 確か、これで合っていた筈。
 
 勘弁してくれ。
 分身体だろう。私の筈だろう。思考回路に趣味嗜好、性格がバラけるっていったい全体どういうことだ。
 
 いや、分身体なのだから当然ではあるだろう。
 しかし、た。4号よ、テメェは駄目だ。

 何故、暗黒卿とか名乗るんだ。
 何故、アルポ銀河以外の銀河を支配しろよと促すんだ。なんなら、そのままの勢いで宇宙征服を促すと来た。

 アルポ銀河以外もそうだが、宇宙征服なんぞ駄目に決まっているだろう。そもそも、この世界はリアルだぞ。

 支配なら、アルポ銀河で充分だ。

 流石に、だ。
 奴隷なんてそんな…………いや、死刑囚なら別に問題ないな。

 それにしても、だ。
 誰よりも慕ってくるその姿勢、悪い気はしないな。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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