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第55話「ギルド長の1日」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第55話「ギルド長の1日」となります。
どうぞ、ご覧ください。
 

 
 彼女―――ギルド長スヴェート・ブリリアンスの朝は、メイド服を着用した黒髪の女性―――生体アンドロイドに起こしてもらうことから始まる。

 「スヴェート様、お目覚めの時間ですよ」

 「ふぁ〜〜……ん、おはよう」

 担当する生体アンドロイド―――メイドは交代制で毎朝、スヴェートを起こしに来る。彼女がベッドから起き上がると長い黒髪のメイドが寝間着を脱がせ、もう1体の黒髪ポニーテールのメイドと共に着替えさせてくれる。生体アンドロイドが誕生して以来から、朝の着替えは自分ですることは無くなったスヴェート。生体アンドロイドが生産された理由は色々とあるが、その内の一つは「世話は是非ともメイドにして貰いたい」である。

 黒髪メイドの後ろには、スラクルと同じ漆黒のユニフォームを着用する生体アンドロイドがいた。タブレット端末を片手に持つ彼女は告げる。

 「本日のご予定ですが――」

 スヴェートは聞く姿勢を執った。いつも朝食の前に今日の予定を聞かせてくれるのだが、殆どの仕事は我が娘のスラクルがやってくれている。つまり、予定らしい予定が無いのだ。一応、基本的には全ての行動に対し最終的な許可が求める為、あるにはある。会社で例えるならば、私の仕事というのは判子を押しているようなもの。けれど、それだけだ。代理ギルド長としての権限もスラクルに与えている為、やる事は非常に少ない。

 この時間は、基本的に報告を受ける時間となっているのだ。

 報告と言っても、我がブリリアンスと管理下にあるアルポ銀河の国家群の運営についての話が大半だ。スラクルには好きにやらせてる為、私が直接関与したことは殆ど無い。経営学や帝王学といった組織のトップに必要とされる知識はあるにはあるが、我が娘に任せている。したがって、ギルド長の立ち位置は「君臨すれど統治せず」である。我が娘は優秀で、実に素晴らしい。いやはや、肩の荷が降りたものだ。正直面倒くさいからな、統治するのは。肩の荷が降りて、よかったよかった。

 それにしても、不思議なものだ。本来スラクルは忠実である筈だが、私に対し異議を立ててきている。確か、クロインなどの国家の管理体制について説明した時もそうだった。「なんで不服なんだ?何か問題があるのか?」と告げる私に対し、「管理体制に問題があります、私に任せていただけますか」とスラクルは強く言っていた為、とりあえず管理を一任させた。
 その結果、かの国家群の幸福度は一気に上昇した。私の時は上昇せず、寧ろマイナス傾向にあったというのに。本当に、不思議なものだ。

 「どうぞ、お掛け下さい」

 朝の報告が終わると食堂に案内されたスヴェートは背もたれ付きの椅子に着席すると、短い黒髪のメイドがワゴンを押してやって来た。そしてスヴェートの前に所狭しと料理を並べ始め、次にナイフとフォーク、最後には牛乳がガラスコップへと注がれた。

 「本日の朝食は、ポーチドサーモンとミントサラダをご用意致しました」

 ポーチドサーモンとは、ハーブなどで香りをつけたお湯でサーモンを軽く茹でたものだ。茹でたサーモンの身はふわりと柔らかく、ナイフがスっと入る。クリームを加えたオランデーズソースも、コクがありながら軽い味わいだ。しつこく無い味わいの為、目覚めたばかりの胃に優しいもの。
 ロメインレタスのサラダも爽やかだ。ミントは刻んでドレッシングに加えているため特有の刺激が前に出ず、食べやすく仕上がっていた。

 短い黒髪のメイドは、付け合わせをどれにするか伺う。

 「付け合わせはトーストスコーンとカンパーニュが焼けておりますが、どれになさいますか?」

 トーストスコーンとは、スコットランド発祥で「バノック」と呼ばれるパンが起源の焼き菓子だ。
 カンパーニュは、しっかりと焼かれた香ばしいクラストと大小ふぞろいの気泡があるしっとりしたクラムが特徴のパンで、出されたこのカンパーニュは一般的な丸型であった。

 「トーストスコーンで」

 「かしこまりました」

 目の前に付け合わせのトーストスコーンが置かれると、スヴェートは朝食を頂いた。

 朝食を全て完食したスヴェートは、本部を出て狩猟を行った。いつも着用している軍服ではなく、それに適した服装で以って。WOSゲームでは異星人の囚人を狩猟していた彼女だが、現実世界に転移して以降は、それはやっていない。
 狩猟を1時間ほど行った後は昼となると、水着姿となり水泳を楽しみボートを漕いで遊んだりをしたスヴェート。その時間、実に2時間。

 午後14時となると、デッキチェアに座るスヴェートはサンドイッチを食べた。その後はデッキチェアに背中を深く預け、サングラスを掛けた彼女はオレンジジュースを飲みながら自然の風景を眺めた。

 午後15時になると、本部に戻りシャワーを浴びた。その後はいつもの軍服を着用し、ふらりとスラクルの仕事場を、スヴェートは後方母親面で見学。
  
 午後16時を過ぎると、スヴェートは本部の地下に存在する渋い光に照らされた大きな空間にいた。パーティーホールほどの大きさはある部屋には、多数の漆黒が基調の棺と用途不明の何かが大量に設置されていた。淡い光を発する、板状の構造物。パイプが何本も飛び出した、金属製の巨大な機械。

 正面には床から天井まであるガラスの壁が存在しているのに対し、左右にはガラスで出来ていると思しき巨大な透明の筒があった。ガラス製の、大型な円筒。両手を回しても、半分にも届かないだろう大きさだ。多数の棺は中央に位置し、ガラス製の透明な円筒は壁面にズラリと並んでいる。液体で満たされたガラス製の透明な円筒は、底から生み出される小さな泡がゆっくりと上がっていった。ズラリと並んでいる中のとある円筒内は、血が漂っていた。

 それを無表情で一瞥したスヴェートは正面へ近づくと、手をつけた。その眼前に広がるのは、数多ものドロイドが造られている光景だった。20分ほど眺めた後、彼女はこの場から立ち去った。

 午後17時頃となり、スヴェートはアフタヌーンティーで焼き菓子カヌレを食した。その後は飲み物を飲み、端末でブリリアンス艦船の設計図を観た。

 午後19時を過ぎ20時になろうとした時、夜食の時間となる。食堂で椅子に座るスヴェートの前には、清潔なクロスの上に水の入ったグラスが一つ置かれていた。

 待っていると、朝と同じメイドがワゴンを押してやってきた。そしてスヴェートの前に、所狭しと料理を並べ始める。籠いっぱいの焼き立てのフカフカな白パン、スパイスソースの香りが湯気から登りたつ分厚いステーキ、酸味の漂う青々とした新鮮なサラダを一気に料理が並べられた。

 置かれたカトラリーには、ナイフとフォークが一本ずつ。それからバターナイフがパン籠の横に添えられている。

 「注がせていただきます」

 赤と白の葡萄酒が、2つのグラスに注がれる。宝石の様な、綺麗な色だ。メイドが説明する。

 「失礼致します、スヴェート様。こちらから──」

 産地、肉の種類、どこにこだわったなどの話がメイドより説明される。スヴェートが品の良い笑顔を浮かべて聞いている中、最後にこう告げた。
 
 「──ごゆっくり、お召し上がりくださいませ」

 蘊蓄説明に、終止符が打たれた。

 「いただきます」

 スヴェートはフォークを手に取り、サラダを突き刺した。サク、と繊維質な音が鳴り、磨き上げられたフォークの先端で青々とした葉野菜がドレッシングを滴らせている。
 
 スヴェートは小さい口に、サラダを迎え入れた。

 「うむ、美味い」

 シャキシャキとした生命力ある歯応え。酸味の効いたドレッシングには果汁の様な爽やかさもある。大釜で熱せられたような灼熱の食欲を、ひとまず落ち着かせる爽やかな清涼感がある。それと同時に、肉料理メインへの期待を煽る助走の様な役割。サラダを食んだスヴェートは薄らと上気し、口角が上がった。目を細め、サラダを楽しんでいるのだ。やはりサラダは、こうでなくては。

 そして、サラダを楽しんだ後はお待ちかねの肉だ。突き刺したフォークと、切り分けるナイフから伝わる肉の感触が柔らかい。繊維がきめ細かく、熱したナイフでバターを切るが如く抵抗が少なかった。断面からじわりと溢れ出る透明な肉汁がソースと混ざりあい、それはもう蠱惑的な香りがスヴェートの鼻腔を刺激する。自身の口に合うよう小さく切り分けると、肉の断面はまるでルビーのような鮮やかな赤色をしていた。

 「……」
 
 ほわほわと湯立つその見た目に、彼女はそれを口の中に運び入れた。―――そして、衝撃が訪れる。

 「美味い!」

 スヴェートの瞳に、爛々と星が瞬いた。舌に触れる脂の質は、甘く滑らかだ。噛めば汁が溢れ、肉の力強い味が主張してくる。そして肉に合うこの香辛料の効いたソースがまた憎い。辛味はあくまでも肉の旨味を引き立たせる一助に過ぎない。スパイスの独特な風味は肉の香りを損なわない程度に抑えられ、しかし舌に絡むこの刺激が食欲を一層に煽ってくる。

 彼女は、少女の様な無垢な笑みを見せた。不純物や添加物の混じらない、満点の笑顔を。

 「美味い」

 控えているメイドは、それを聞いていた。スヴェートは、付け合わせの人参にもフォークを伸ばす。甘い、これも甘くて美味しい。ソースにもよく合う。パンはどうだ、ひと口千切るとまるで綿の様に柔らかい。食むと仄かに甘く、小麦の豊かな香りが広がっていく。

 「……」

 スヴェートは、目頭の奥に熱を帯びていくのを感じていた。こういった美食を食べ慣れているとはいえ、溢れ出る感動を抑えきれないのは仕方がないというもの。彼女は、赤い葡萄酒に手を伸ばした。この渋みとアルコール感は、慣れたものだ。

 ワイングラスを傾けるスヴェートは、その後も品よく食べ続けた。

 ………
 ……
 …

 「ふぅ、今日も美味であったぞ」

 「ありがとうございます、スヴェート様」

 お辞儀するメイド。スヴェートは食後の美酒で口を湿らせると、浅く息を吐いた。今日も美味しすぎた。美味しすぎて、食事の時間は一瞬で終わったように思えてしまった。皿やパン籠の上に食べ残しなど一切ない。彼女は綺麗に平らげて、充足感に身を委ねていた。

 ふと、今日も思うのだ。この幸せを亡き姉にも共有したい、と。

 「まぁ、この世にいない姉がいないのが悪いのだが」

 あり得ない幻影を瞳に映して、スヴェートは細く笑んだ。彼女はごちそうさまと手を合わせ席を立ち、出口へと向かった。

 食堂を後にしたスヴェートは浴場におり、彼女は自身の身体をメイドに洗わせていた。その後はお風呂にしばらく入り、壁面のスクリーンに映し出されている富士山を眺めた。

 お風呂から上がり浴場を出ると、待機していた2体のメイドがスヴェートの髪と身体を拭く。拭いた後はドライヤーで髪を乾かし髪の毛を櫛で梳かした。

 その後、寝間着姿となったスヴェートは寝室へと向かった。

 時刻は22:00。消灯の時間となった彼女はベットに入るや布団を被り、眠りについた。

 これが、ギルド長スヴェートの1日である。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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