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第54話「ほほう…」
前書き
ネオ・代表05−1です。第54話「ほほう…」となります。
どうぞ、ご覧ください。
―――グラスドーム。
首都から遠く離れているグラスドームは海底ドックを兼ねており、此処では宇宙戦艦ヤマトの改装作業が継続されていた。グラスドームは〈ヤマト〉の主砲によって天井の一部は破壊されはしたものの、機能自体に支障はなかった。
心配された海水の侵入が極僅かであったのも、主砲から発射された陽電子衝撃砲―――通称ショックカノンによって海水は沸騰し、水蒸気爆発で殆どが蒸発。そして、周囲が防波堤で囲まれていたことと相俟って新たに流れ込む海水は非常に少ない。海底ドックは、乾ドックとなったのだ。
乾ドックと化した海底ドックには雨や雪による漏水を防ぐグラスドームが施され、先の通り改装作業の継続に支障はなかった。
そんなグラスドームに、元〈ヤマト〉のクルー面々が集っていた。皆、バラバラではなく一塊となって。
一人は、南部重工の御曹司である―――南部康雄。年齢は25歳。〈ヤマト〉では砲雷長を務めた。
一人は、相原義一。年齢は26歳。〈ヤマト〉では通信管制を担う通信長を務めた。
一人は、森雪。〈ヤマト〉では船務長を務めた。
一人は、島大介。年齢は24歳。〈ヤマト〉では航海長を務めた彼は、古代の親友でもある。
一人は、太田健二郎。年齢は25歳。〈ヤマト〉では航海長の補佐を務めた彼は食べることが大好きな為、ふくよかな体型である。
一人は、榎本勇。年齢は40歳。〈ヤマト〉では、甲板作業・船外作業全般のオーソリティで掌帆長を務めた。叩き上げのベテランである彼は、古代と島の士官学校時代の訓練教官も務めていた。
一人は、山崎奨。年齢は49歳。〈ヤマト〉では応急長を務めた。
一人は、徳川彦左衛門。年齢は66歳。集う面々の内では最年長であり、〈ヤマト〉では機関長を務めた。
一人は、桐生美影。年齢は22歳。〈ヤマト〉では技術課に所属していた彼女は、言語学が非常に堪能という一面を持つ。
一人は、星名百合亜。旧姓は、岬。年齢は21歳で、幼い容姿で茶系の髪をツインテールにしている女性である。この場に集う面々の内では最年小である彼女は、〈ヤマト〉では船務科員であった。その過程で一人の男性と愛を育み、結ばれたことで姓が星名となった。
彼らが此処に集っているのは、2人の男が来るのを待っている為だった。その待ちは、終わりを迎えた。来ましたよ、と百合亜が仲間達に伝える。近づく足音が聞こえた一同は、その方向へと振り向いた。雪は、古代と真田に労いの言葉を掛けた。明るく、振る舞うように。
「お帰りなさい」
心配を掛けてしまったと、古代が詫びる。
「すまない、連絡もしないで」
そんな彼に、雪は小さく頭を振るう。気にしていないという仕草だ。そんな彼女に、古代は安堵していた。
この場に集う面々は、秘匿され続けていた《プランA》と《時間断層》を目の当たりしている。彼らは、驚きよりも怒りを覚えているのだ。その内の一人、島大介が口を開く。
「とんでもないものを見てきたな」
元〈ヤマト〉クルーである島は、帰還後は輸送艦隊に勤務していた。輸送という文字があるように、物資を輸送する仕事に就いているのだ。そんな彼は、これまで運んでいた物資の内の何割かが消えていることに気づいた。当初は横流しではと疑っていたが、その通りだった。《時間断層》に流れ、飲み込まれていたんだ。
島に対し、古代は頷く。《時間断層》で見た光景が脳裏に浮かび上がってくる。波動砲艦が乾ドッグに並び、建造される波動砲艦。波動砲を搭載しない艦艇は一切無かった。波動砲艦隊計画は、実在していたのだ。
「波動砲艦隊計画、か…」
南部の表情は暗い。彼の実家―――南部重工は、アンドロメダ級の建造計画に関与している。自分の父親が《時間断層》の全容を知っているかは分からないが、仮に知らないとしても違和感くらいは感じる筈だ。いや、知っていたとしても、自分に教えてくれる筈がない。南部は、内心で自嘲する。父との関係は、士官学校時代から良好ではないのだから。
「真田さんは、この情報をいつ知ったんですか?」
暗い表情を浮かべている南部の隣で、相原が男―――真田志郎へ問いかけた。真田は〈ヤマト〉で技術長兼副長を務めていた男だ。英雄―――沖田十三の懐刀でもあり、科学解析・情報分析・開発・工作を統括する他、艦長の沖田が持病の悪化などで艦の指揮を執れなくなった際には、彼に代わって指揮を執っていた。
真田は〈ヤマト〉を見上げると共に、語り始めた。
「―――中央に留まれ、…土方さんは去り際にそう言った。私は、少しでも情報を集める為〈ヤマト〉の再改造を引き受けた」
しかし、と真田は続ける。
「《時間断層》の存在を突き止めたところで、大きな流れを阻止することなど…っ」
土方が更迭され、辺境の第11番惑星への勤務となった。地球連邦政府にとって波動砲艦隊は、既定路線だ。これからの時代は、波動砲艦隊が必要不可欠だから。生き残る為に、政府は選択した。その選択はイスカンダルの愚行にならないとは限らない、真田はそれを危惧しているのだ。徳川や山崎、榎本も同じ想いで、彼と共に行動していた。しかし、大きな流れを阻止することは出来なかった。
「結局、我々は負けたんだ」
それはどういうことなのか、古代が真田に問いかけると彼の代わって徳川が返答した。
「本日付けで、元〈ヤマト〉のクルー全員に配置転換命令が出たんじゃ」
「!?」
古代は絶句し、思わず仲間達の顔を見渡してしまう。俺のせいなのか、と俯きそうになったところを島が気遣う。
「気にするな。お前が噛みついたせいじゃない」
「儂らの気持ちを、上が分かる筈も無い」
徳川は、〈ヤマト〉へと目を転じた。彼に釣られて、他の仲間達も同様に〈ヤマト〉へと目を転じた。地球連邦政府は自分達の気持ちを分かっていたとしても、利益を優先するだろう。
相原がポツリと言う。
「3年前の航海で、地球は救われた筈ですよね」
岬と桐生が口を開く。
「異星の人とも手を取り合える…」
「その可能性を携えて、〈ヤマト〉は帰って来た」
利益を優先するあまり、助けを求める声を無視する地球連邦政府。悲痛な面持ちで、南部が項垂れる。
「今の地球は、これでいいのかよ…!」
古代は、仲間達一人一人を改めて見た。南部のように感情を表に出すことはしないが、裡にはやるせない気持ちがあると一目で分かる。誰もが、今の地球に憤っているのだ。重々しい空気が流れる中、古代は口を開く。
「俺達は、もうこの世に居ない、大切な人から何かを語り掛けられた。大きな災いが宇宙の何処かで起きようとしている。その事を言葉では無く、心で感じ取らされた」
皆、あの日に見た幻を思い出していた。1人の女性―――雪を除いて。俯きそうになるのを我慢して、皆と同様に古代を見ていた。
「今の地球政府は分かろうともしない。彼らに見えるのは、現実の光景だけだ。生きる為に、地球の主権を守る為に…。…でもそれは、間違った未来に突き進むことではないのか?このままでは、…死んでしまった者達へと顔向け出来ない!」
そうだ、と一同は頷いた。古代は、決然と切り出す。
「俺は、〈ヤマト〉でテレザートに向かいたい!皆、力を貸してくれ!」
全員が、古代に見入っていた。幻を見ていない雪でさえ、胸の裡から吐き出す古代に圧倒されていた。
『……』
答えは無い。この場に流れる空気が、一層に重さを増していた。誰もが俄に意思表示が出来る問題ではなかった。
「……」
島は、苦渋の表情を浮かべていた。自分には家族がいる、母さんと弟がいるんだ。そう簡単には、決めることは出来ない。そう思う最中、真田が古代の手を取る。
「行こう」
古代の手を取っている真田は告げる。
「今の地球に、〈ヤマト〉の居場所は無い。だからこそ、真実を突き止めよう。それこそが今、我々がやらねばならないこと。〈ヤマト〉と共に生きた、我々の道なんだ」
2人の手を包むように、徳川の大きな手が置かれる。
「沖田さんがきっと導いてくれる」
真田と徳川の意思表示―――決意が、他の仲間達の背中を押した。
「そうだ、行こう!」
相原が、拳を天へ挙げた。それに続き、島と雪を除く仲間達は決意を挙げる。
「〈ヤマト〉で行こう!」
「頑張ります!」
「俺達は間違ってない!」
「司令部が何だってんだ。負けるもんか!」
古代は、島を見た。盛り上がる彼らを他所に、苦渋の表情を浮かべていた。そうだ、島には家族が―――母親と弟がいる。そう簡単に、決めることは出来ない内容だ。少しでも考えれば分かることだった。助けを求める声よりも、家族が大事なのは当然の事だ。すまなかった、と古代は視線で謝罪した。島も気づいたのだろう。彼のほうを見て、気にするな、と苦笑いを浮かべた。
ふと、古代は気がついた。いつの間にか、森雪がこの場から離れていたことに。古代は、彼女を追った。だが、古代と……彼らは気づいていなかった。
『……』
この一部始終を、”彼女”に見られているとも知らずに…。
―――ブリリアンス・ギルド駐地球大使館。
ここ大使館には、2号ことリンガル・フォーネットがよく使う映画館が存在する。小さいながらも、1人が使うには充分過ぎる程の広さである。映画館は映画を見る為のものだが、2号は映画の他にニュースなどを観る。後は《時間断層》の様子。映画館とはいったい、映画館の意味…。
さて、そんな彼女であるが、今は何を観ているのか言うと…。
「ほほう、女神テレサは星座の形をも変えることが出来るのか。高次元生命体テレサと呼ぶべきか、悩むところだ。さぞや金髪の美女に違いない、女神だから当然か。それにしても、機密事項の筈の《時間断層》の存在がバレるとは。バレる…バレル…ブフゥアハハっ!…笑ってしまうな。いや、それにしても、まさか反乱しちゃうぜの現場を観てしまうとは。3号が実験の為ステルスでこっそり後ろをつけていたのが、反乱しちゃうぜのこれまで観てしまった。よくやった、と褒めるべきだろうか。悩ましいところだ。あ、そうだ。ギルド長―――オリジナル1号に送らねば。いや、それは後でにするとしよう。今はっと―――」
塩味のポップコーンを食べながら、テレサと《時間断層》についての一部始終を観ていた。これをギルド長の娘である宰相―――スラクルが知ったら…果てさて、ギルド長スヴェート以下はどうなることやら。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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