現実世界は理不尽に満ちている!
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宇宙戦艦ヤマト2202
第40話「”彼女”は祈る」
前書き
ネオ・代表05−1です。2202編、始動です!第40話「彼女は祈る」となります。本話はプロローグのようなものとなります。
どうぞ、ご覧ください。
この宇宙は、様々な生命で満ちている。
死に逝く星。
生まれてくる星。
生命から生命に受け継がれる息吹は、終わることはない。静寂な光に満ちた世界で起きる戦いも、それもまた生命の鼓動。
―――そう、宇宙は生きているのだ。生きて生きて…だから、愛が必要なのだ。
声高に言い放つ男へ、”彼女”は視た。
進路上にある小型の小惑星を吸い込み、ひしゃぎ、粉々に粉砕していく魔の巨大な白色彗星。数多もの文明を滅亡させ生命の営みを断ち切ってきた支配者は、壮麗な王座の間にいた。天頂から木漏れ陽のように降り注ぐ光を、王座に構えて悠然と浴びている。
雪の如く白い髪に緑色の肌をした壮年の男。筋肉は鍛えられており、張りのある肌が輝いている。彼の名前は、大帝ズォーダー。
”彼女”は、ズォーダーを識っている。永きに渡ってこの星の静謐を守った結界を破り、彼らはやって来た。蒼白く輝くガス雲から配下の艦隊が現れ、この星へ降下して来るのを”彼女”は視た。
彼ら―――ガトランティスが何をしてきたのかを、”彼女”は識っている。血と暴力で、彼らの版図に《支配》の文字は無い。【銀河共和国】や【銀河帝国】を始めとする星間国家は、ガトランティス帝国と呼んでいる。
ガトランティス帝国と呼ばれている彼らだが、ズォーダーは己の臣民以外に決して恩寵を与えようとはしなかった。ただ奪い尽くし、ただ殺し尽くし、優秀な科学者のみが《科学奴隷》として生を保証されるばかりだった。
―――誰が大帝陛下に並び得ましょう。誰が偉大なる大帝陛下の力に抗えましょう。
同じ緑色の肌をした臣下達は口を揃えて、大帝ズォーダーの威を讃える。ガトランティスの頂点に君臨する彼が問えば、こう答える。
―――我らはガトランティス。何故ならば、我らは”ひとりではなく軍団”なのだから。
ただただ他の生命を貪り、喰い殺すだけのみ生まれた軍団。それが、ガトランティス。この星の聖域を守る者達にも彼らの到来は認知されていた。結界が破られた今、出来ることは限られている。
戦艦から放たれた白色の巨大ミサイルが聖域の建造物を破壊し、穴を形成し、大地を燃え立たせた。
空母を発した艦載機から次々に軍事兵器―――機械人形が降下していく。溶岩と化した建造物と大地の間を擦り抜けるように飛翔し、特徴的な形状をする大型の機械人形達は、やがて聖域の最奥部に至る道を見つける。
聖域を守る者達は祈りを捧げ心を凝らし、高次元からの力を盾とする。聖域の最奥部へ押し寄せる機械人形の軍勢を防ぎ、自身と逃げ込んできた同胞を守る。…けれども、それは無力だった。
戦闘モードとなった機械人形の軍勢から発射された赤色の大型の針は、守護者達の盾をものともしなかった。守護者達は大型の針に貫かれ、ものいわぬ屍と化した。生命活動の終了を確認完了した機械人形の軍勢は、その屍の上を通り過ぎていく。
ズォーダーは瞑目し、呟いた。
―――虚しい、実に虚しい。彼らの命に、なんの意味があった。その苦痛に報いる、どんな意義が人の生涯にある。
聖域の最奥部は巨大で頑丈な扉で閉ざれていた。機械人形の軍勢は針を打ち出したが、その扉の表面に、ほんの僅かな傷を負わせるだけに終わった。機械人形は突進しての体当たりを繰り返すが、徒労に終わる。
―――死は終わりにあらず!
聖域に立て籠もっている者達―――老齢の男女、若い男女、子供は唱和し続ける。
―――ふっ。
なるほど、と大帝ズォーダーは合点する。異常なまでに頑丈なこの扉は、聖域の最奥部に立て籠もる者達の念で守っているのだ。
―――死は終わりにあらず、か。…なんと無意味。
薄く目を開けた薄く目を開けたズォーダーは、王座の間に巡らされた廻廊へと視線を投ずる。大帝の顔を、臣下の者達が畏敬を込めた瞳で見上げていた。
ズォーダーは自身と同じ肌をする臣下の中で、ただひとりだけ肌の色が異なる女へと目を留めた。透明感のある橙と長い白銀の髪を持つ美女。
―――大帝、全ては御意のままに。
丞相という地位に就き《白銀の巫女》と呼ばれるシファル・サーベラーは、深々と頭を垂れた。他の重臣達を尻目に、彼女は指示の手を上げる。
扉が、いや、聖域の最奥部そのものが揺れる。その揺れを確認した立て籠もっている者達の唱和を鈍らせた。扉に巡らせていた念が緩み、軋み、分厚く頑丈な扉は赤熱化していった。
扉は真っ赤になると同時に融けだし、融解した扉からやって来る紅蓮の炎が最奥部を舐めた。
―――やはり、愛が必要だ。
ゆらりっと王座から立ち上がるズォーダー。居並ぶ臣下達は威儀を正した直後、彼の目の前に三角形の投影モニターが出現し、万華鏡さながらに展開する。モニターには、対峙する星の全容が映し出されていた。
宇宙空間に、青い水の惑星が浮かんでいる。リボン状の光が覆い、惑星全体がぼんやりと渋い。ズォーダーはその青き惑星を観つつ、言葉を紡ぐ。
―――この宇宙から根こそぎ苦痛を取り除く、大いなる愛が必要だ。
フッと嗤ったズォーダーは続ける。
―――そうは思わんか、テレサ?
ズォーダーは、彼女―――テレサが視ているのを知っている。彼だけではない。重臣達もテレサの存在を認識している。
テレサは思う。
私の存在を認識しているのは、彼らの計測機器が多様体として記録しているからだろう。私の存在する次元をこの宇宙の次元として表現した、複雑な折り紙のような図形。それは元の次元へ押し返そうとする力との間で、生命の鼓動のような脈打っている筈だ。
だが、この宇宙に存在する知的生命体―――ヒューマノイドは、私を自らと同じ人として見ている。
―――お、おぉ…!
―――なんと…!
―――これは…!
テレサが顕現する。臣下達が動揺する声が、王座の間を満たす。
―――祈りを捧げる聖女のような…あれが、テレサか。
動揺が少なく比較的冷静な《白銀の巫女》の言葉を聞くや、重臣達は落ち着きを取り戻す。そんな時だ。特徴的なバイザーを顔の上半分に装着している老齢の男が、解説するかのような口調で口を開いた。
―――いわば、この世界に落ちた影。テレサそのものが、この次元に出現した訳ではありませぬ。しかし、テレサそのものを引き摺り出すことが出来れば、その時は…。
続けようとした彼に、ズォーダーは大義そうに手で制した。ズォーダーだけが、動揺も恐怖も無い。笑みを浮かべ、口元を歪めていた。
―――ならば引き摺り出してやろう。大いなる愛を実現する為に。
彼は、玉座に座った。
その様子を視ていたテレサは思う。
星巡る方舟を遺し、宇宙中に自らの遺伝子情報を”種”として送り出した―――アケーリアス文明。彼らは何処からか来て、何処かへと去った。
アケーリアスの子である播かれた種は育ち、花開き、そして朽ちていった。
《救済》の名のもとに統べたイスカンダルが及ぼした影響力は宇宙の覇権を握ったも同然だったが、今となっては遠い過去のものとなり、イスカンダルは本星に籠もっている。
籠もって以降は、治安を管理し制御する勢力均衡を目的とした”彼ら”―――〇〇〇〇がこの宇宙に多大な影響力を持っている。元々〇〇〇〇はイスカンダルと同等の影響力を持っていたが、イスカンダルが籠もって以降はその影響力を更に高めた。
ガトランティス帝国大帝、ズォーダーは今後の宇宙にとって脅威。殺戮、破壊、消滅……全ては定められたこと。”彼ら”―――〇〇〇〇も分かっている。
けれど、それだけではない。
テレサは視たのだ。故に、遠い星の戦士達へ伝えなくてはならない。彼女は、祈り続けるのだった。
後書き
「〇〇〇〇」とはいったい!?
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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