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第36話「地球にメッセージを」
前書き
代表05−1です。第36話「地球にメッセージを」となります。
どうぞ、ご覧ください。
〈スヴェートSIDE〉
拝啓 あの世に住む姉様へ。
お久しぶりです。お元気ですか?
私は今、とても楽しく過ごしております。
WOSというゲームの技術ごと現実世界に転移するという非現実的な出来事が発生しましたが、私はそのゲームの技術に助けられています。二度目となりますが、とても楽しく過ごしております。
なので、姉様も元気にあの世での生活を過ごしてくれる事を心から願っています。
……心を落ち着かせようと亡き姉への手紙を書いてみたが、なんか逆に緊張してきてしまった。今更だが、亡き姉に手紙を書く必要は無いな。後で処分しよう。
「ギルド長閣下」
「ん?」
「地球に対しては、何か一報を寄越したほうがよろしいかと思います。私も手伝いますので」
膨大な暇な時間をどう使おうか悩んでいた矢先、我が娘スラクルがこちらに顔を向けてくる。
……あっ、そんなのもあったなぁ。
すっかり忘れていたことを指摘された。私としたことが、気をつけなくては。
「あぁ、確かに一報を入れた方がいいな。そっちの方が、相手からの信頼も得やすいだろうし」
スヴェートはキャプテン・シートからゆっくりと腰を上げ、手に持っていた紅茶入りカップを給仕ドロイドに預ける。
スラクルから言われた通り、電報を書くということは凄く大事なことだ。
社会人でも報連相が必須。それと同じだ。
よくよく考えてみればそうだが、アポ無しで相手の家に凸ったら警戒されてしまうのも当然だ。出来る限り、穏便に済ませたい。
スヴェートの眼前に、投影ディスプレイとキーボードが展開される。
地球に送る一報を入力しようとキーボードに手をかけるが、その手は中々動かない。何を書けばいいんだろうか。出来る限り寄り添った形にしたいのだが、悩むなぁ。
何とか自身の脳を最大限活用して、電報作成に勤しむ。とりあえず、過去の先例を探してきてその真似をしてみる。するとそこそこの物が出来るが、何か違う。出来立ての電報データは削除する。
やってみると分かるのだが、こういう作る系の仕事というのはセンスが問われるのだ。書き終えてや削除するやを繰り返すこと9回。
「問題ないかと思います」
遂に、今回送る電報が完成した。最初は出来るか不安だったが、終わってみれば結構力作を作ることができた。決して天才的な物ではないだろうが、喜んで歓迎することだろう。楽しみだなぁ。
〈ある1人の地球人SIDE〉
西暦2201年。
滅亡に瀕していた地球は、復興の最中だ。あの頃が懐かしい。思い出してしまうが、せっかくだ。振り返ってみよう。
今より10年前、地球は地球外生命体ガミラスと接触。友好関係を結ぶことが出来ず、交戦状態に陥った。国連宇宙海軍と各国艦隊によって編成された連合艦隊は反撃を試みたが、地球を容易に上回る機関と光学兵装を持つガミラスに到底歯が立たなかった。
2193年、地球の絶対防衛線である火星宙域での反攻作戦により、一時的にガミラス艦隊を押し返すことに成功。しかしその勝利は、敵の戦術を転換せしめたに過ぎなかった。
まだ人類が進出していなかった太陽系最果ての準惑星―――冥王星へ進駐したガミラスはテラフォーミングで環境を改造、恒久的に使用可能な前線基地を建設。流星爆弾によるロングレンジ爆撃を、継続的に行うようになる。
流星爆弾は冥王星周辺に遊弋する小惑星を【反射衛星砲】のエネルギーによって加速させ、隕石となって地球へ落下させるガミラス独自の兵器。火星沖で戦力の半分以上を失った地球には、防ぐ術は無かったのだ。ただ、見ていることしか出来ないでいた。
地殻変動や火山の噴火、地震、大地は干上がり大気汚染などを誘発。陸空海その全てにおいて、人類を除く生命は死に絶えた。
除く人類もまた、総人口の三分の二が死亡。加えて、ガミラスの生物の種子や菌が大気中に四散し、発芽した植物からは地球生物にとって毒となる成分が放出された。地球環境は、激変させられたのだ。
人類は地下都市を建設、そこへ避難し暮らすことが余儀なくされた。国際連合の相互交通は分断され、地下ケーブルによる通信とエネルギー共有しか行えなくなった。
各エリアは自給自足の道を模索し、懸命に生存の道を探っている中だ。このままでは人類の滅亡は時間の問題だと考えた極東管区は『イズモ計画』を立案、脱出用大型宇宙船の建造が極秘裏に進行。
『イズモ計画』は移住可能な惑星を探査するというものだが、その実は優秀な遺伝子を持った―――選ばれた者のみが脱出するというのもの。
この計画に、希望を求めていた人類は怒った。当然というべきだろう。
食糧が配給制となり、エネルギー不足による断続的な停電や正体不明の病気が流行するような情勢の最中、「地球滅亡するのも時間の問題だから、脱出するね♪」という真相が漏れ、政府に対するデモや暴動、テロが頻発し、人類は自滅する危機にも直面。
しかし西暦2198年を迎えようとした時、人類に転機が訪れた。ガミラスとは異なる知的生命体―――【イスカンダル】からのメッセージが金髪の美少女と共に届けられた。イスカンダルの使者は、地球人と同じ容姿だったのだ、何だか神々しい肌をしていた。
メッセージは「地球再生システムを供与する」という申し出であり、このシステムを受け取りに来るようにとあった。ガミラスの欺瞞工作ではと極東管区軍務局長―――芹沢虎徹を始めとする疑う声もあったが、それは考えにくかった。戦局は、ガミラスが有利だからだ。当時は極東管区の行政長官―――藤堂平九郎を始め、多くの者はメーセージを信じるほうに傾いた。
メッセージに信憑性があると確信した極東管区は、『イズモ計画』を凍結。芹沢虎徹は年甲斐もなく泣いた。地球再生に望みを掛ける『ヤマト計画』を発動。責任者として当時は国連宇宙局幕僚監部・作戦部九課に所属していた真田志郎を任命。
メッセージには地球の科学水準を遥かに超える次元波動理論に基づく推進機関の設計図も含まれており、真田はその設計図を解析し苦難の末に次元波動機関を1年で完成させる。この機関を『イズモ計画』で準備していた脱出用宇宙船に搭載し、宇宙戦艦ヤマトが誕生した。
残るは、次元波動機関を起動する最後の部品―――【波動コア】。これはイスカンダルにしか作ることが出来ない代物で、使者が届けてくれることになっていた。
しかし、メッセージを受け取ってから1年の間、戦局は更に悪化。太陽系の殆どはガミラスの制宙下。状況が状況だ。敵の偵察網を潜り抜けてイスカンダルの使者が無事到着する可能性は、かなり低いという予測が国連宇宙局幕僚監部から報告。
そこで幕僚監部はイスカンダルの使者を受け入れる為の方策として、国連宇宙軍の第1艦隊と各国艦隊は全力を以って陽動作戦『メ号作戦』を展開、その隙を突いて火星にて会合を行う作戦を立案。
『メ号作戦』は成功し波動コアを獲得、宇宙戦艦ヤマトの内奥に宿す波動機関の起動に成功。しかしそれは、甚大な被害と引き換えであることを忘れてはならない。
最後の希望と呼ばれる宇宙戦艦ヤマトが完成したと同時に、人類滅亡は1年後に迫る。
16万8000光年の彼方―――大マゼラン銀河に位置するイスカンダルより、汚染された地球を浄化するシステム―――【コスモリバースシステム】を受け取り、1年以内に地球に戻る。それが、宇宙戦艦ヤマトに課せられた使命。
こうして、大きな使命と希望を背負った宇宙戦艦ヤマトは旅立ったのだ。
まぁ、つまりだ。
こうしていられるのも、宇宙戦艦ヤマトが帰還し地球は救われたからだ。ガミラスという脅威は無くなり、そのガミラスと同盟を結んだ。
これまた驚いた事に、ガミラスは蒼い肌をしている以外、人類と姿形が同じなのだ。更に、だ。宇宙はヒューマノイドで満たされている為、映画でよく観るような存在はいないという。
やはり、宇宙は広いな。
「―――先輩、テレーゼ先輩!」
回想していたところ、後輩から声を掛けられた。あぁ、そうそう、今更ながら、私の名前はテレーゼ・ドルクマス。彼氏募集中だ。
そして、前世の記憶を持った転生者でもある。他人に言ったら「大丈夫?」と優しい瞳を向けられること間違いなし。したがって、これは家族にも打ち明けていない秘密だ。それにしてもまさか、バナナの皮に転んで死ぬとは思わなかった。
「どうしたんだい、クロノア」
「どうしたんだい、ではありません!何で寝てるんですか!」
何と、私は寝ていたのか。すまないな、クロノア。でも寝たくて寝た訳じゃないんだ。目を閉じていたら寝てしまっただけなんだ。
「結局は寝てたでしょう!何を言っているのですか!」
そう謝罪したのだが、我が後輩クロノアはご立腹だ。怒るところも可愛い。可愛い顔して、クロノアは男なのだ。男の娘は実在していたのだ。結婚したい。
「これを見てください!」
私は、指さされた方向に視線を向ける。
「…WOW」
それを見た私は、間抜けな声を出してしまった。職員達は辺りを右往左往と走り回り、モニターを見つめる者達の額には汗が滲み出ている。また、どこからともなく通信が相次ぎ、対応に追われる。
まさに地獄絵図。宇宙人からメッセージを受け取ったかのようだ。実際そうなのだろう。
「手伝ってください!」
分かってる分かってる。私はそう返事し、仕事に向き合うのだった。NASA最高、と思いつつ。
〈NASA長官SIDE〉
NASA。
地球上のどの国と組織よりも早く宇宙艦隊を創設し、永らく宇宙に関する利権を独占していた。組織されて以来、二度目となる混沌に包まれていた。
職員達は辺りを右往左往と走り回り、ディスプレイを見つめる者達の額には汗が滲み出ている。また、どこからともなく通信が相次ぎ、対応に追われる。
その様子は、側から見たらまるで地獄絵図のようだ。
その光景を見つめていたNASAの長官を務めている黒人の壮年男性は、深い溜息を漏らした。なぜこうなってしまったのか、と。彼は物事に異変が生じ始めた今朝に、思考を巡らせる。
何も変わった事は、無かった筈だ。いつも通り朝のミーティングを開き、本日やるべきことを確認する。そして、それが終わると各自の仕事を始め、NASA長官も仕事に追われていた。
状況が変わったのはそれから二時間後。時計の針が真上に来ようとしている時だった。
「長官、大変です!」
長官室に、慌てた様子の女性職員が入ってくる。
NASA長官は何事かと思い詳細を尋ねると、メガネを掛けた女性職員は荒い息をゆっくりと整えてから言葉を紡ぐ。
「先ほど、宇宙から謎の電波信号をキャッチ致しました。内容は英語で発信されており、要約すると『こちらは、ブリリアンス国。我々は戦いを望んでいない。本邦は貴国と国交関係を結びたい』―――とのことです」
「その発信相手は誰か特定出来ているのか?」
目の前の女性職員はその言葉を聞き、一瞬だけ表情が暗くなった。彼女は一つの資料を机に置いた。紙媒体の資料だ。NASA長官は資料に視線を落とした。
「探りましたが、特定出来ておりません。いえ、特定出来ませんでした」
特定が出来ない。となれば、答えは1つしかない。長官は資料に落としていた視線を彼女に向ける。
「異星人、か」
はい、彼女はゆっくりと頷いた。
NASA長官は頭を抱えた。約半年前ガミラスが接触し、同盟国となった。しかしだ。接触がこれで終わりとは、考えていない。第二第三の異星人が接触して来るかもしれない。それは我が組織は勿論、地球連邦でも予測されていた。
「それで、この事は伝えたのかね?」
誰に、とは言っていない。しかし言っていなくとも彼女には分かった、その相手を。
「はい、既に地球連邦には通達済みです。証拠も送りましたので、誤報ではないと認められました」
喉の渇きを潤すために、机の上にあるコーヒーカップを手に取るNASA長官。つい先程入れた筈だと思っていたコーヒーであるが、湯気はもう姿を消していた。
口に黒い液体を流し込むと、ほろ苦い味が口全体に広がる。
「対応を間違えてはならない。地球連邦も、それは分かっているだろう」
「はい、長官」
「もし交渉を誤った時、我々人類が昔やった事と同じように、この星は植民地となってしまうかもしれない」
かつて、大航海時代に先進国であったヨーロッパ諸国は、その圧倒的な軍事力を駆使し多くの国を植民地支配した。仮にその異星人がそういった思考をしているならば、問答無用でこの惑星での主権を奪われてしまうだろう。
無論軍事力を駆使して支配に対抗はするが、勝つか負けるか、その時になってみないと分からない。宇宙戦艦ヤマトは海底ドックにて”整備”している関係上、出撃は無いだろう。頼りとなるのは、地球連邦防衛軍と地球連邦非加盟の各国艦隊。どちらも波動機関を搭載している。勿論、攻撃はしない。防御の構えを執るだけだ。
我々人類は、対話での解決を目指すのみだ。
「願わくば、明日を生きる子供達が平穏に過ごせますように」
コーヒーを飲み干したNASA長官は、今後の未来安寧を願うのであった。
そんなことがあってから、1時間が経過した頃。
「長官、地球連邦より会議への参加が求められています」
「うむ、会議はいつ始まるのかね」
「長官が来られてから直ぐです。地球連邦初代大統領がお待ちになっています。表に輸送機を用意していますので、どうぞお乗りください」
奥のドアから、SPが現れた。1人2人ではなく、5人以上のSP。NASA長官の周りを囲い、SPは退席を促してくる。
「行こう」
そして、NASA長官は屋上に着陸している輸送機に乗り込んだ。この会議は必ず成功させなければならない、この星―――愛する地球の為に。
決心したNASA長官は、新首都が置かれている日本へ向かうのだった。
後書き
現状公開可能な情報:テレーゼ・ドルクマス
性別:女性
年齢:25
容姿:{IMG107350}
概要
青いセミロングヘアと青い瞳のテレーゼは、前世の記憶を持つ転生者である。前世は何をしていたのか、現状では判明していない。好きな物は後輩クロノア、嫌いな物はバナナ。
「結婚してやる!」という夢を持っているようだ。
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さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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